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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
パラメディオ編

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54/63

第53話 それぞれの決意を胸に抱いて

 視界のすべてが、心臓の鼓動に合わせるように毒々しい赤に明滅していた。

 天井の非常灯が、狂ったように回転している。円筒形のコンピュータの頭上を

 飛び交う無数の黒い立体映像も消失していた。ジン達は脱出路を探し始めた。


 ジンは、ナージャの死体を担ぐと、ジュリアを背負うゼンに言った。


「ここにナージャを置いていけねぇよな。・・・いくぞ、ゼン!!」

「分かりやしたァ!! 社長ォ、エレベーターが見えます!!」


 円筒形のコンピュータの奥に、うっすらと鉄の扉と下に降りるボタンが

 ジン達の視界に飛び込んできた。二人はうなずき、その扉を目指して走った。






 キュメロス島 密林地帯 バーハバリ 北西部 輸送ヘリ着陸地点






 一方その頃、クライドは電子操作魔法で、民間軍事会社『ケルベロス』に連絡。

 同社が保有するヘリを呼び集めた。局地制圧用攻撃機『マレブランケ』では、

 着陸が難しい地形であることから、ヘリ6機で島から脱出することを判断した。


 クライドがサングラスを外す。ルビーのような色の眼球カメラが輝きを放つ。

 密林の開けた場所に、着陸した黒いヘリが数台ある。クライドはこう思った。


「・・・途中で邪魔が入って、研究所から悪事の証拠を持ち出せなかった。

 まさか公共工事で、祖国が魔物を利用して立ち退きを行うとはな・・・。

 急がねば・・・。このまま王による都市計画を放置すれば多くの人々が

 住む場所を奪われ、『働きバチ計画』による強制労働の対象になるだろう。」


 クライドは王を暗殺する決意を固めた。もはや悠長に政治工作をやっていても

 民衆の蜂起は、成し遂げられない。そう思った矢先、部下から連絡があった。


「・・・そうか。ジン達が無事脱出したんだな。よし、収容したら離脱開始。」


 ジャングルの狭い開けた場所に着陸したヘリにジン達4人が駆け込んだ。

 頭上から叩きつけられる風に、生い茂る植物が地面にへばりつくように

 のけ反った。二基の巨大なタンデムローターが湿ったジャングルの空気を

 猛烈な勢いで切り刻んだ。耳を保護するヘッドセットを装着した社員が

 拳を握ってパイロットへ合図を送る。密林から輸送ヘリが離陸していく。


 ジン達が機内の壁に並んだベンチシートに腰を下ろすと、兵士が手際よく

 ハッチを閉じる。外が遮断されるにつれ、耳をつんざくローターの機動音は

 低くこもった唸りへと変わる。数トンの鉄塊が重力を振り払い、垂直に

 上昇を始める。一度左右に揺れて姿勢を整え、操縦士はヘリの機首を

 わずかに下げて加速に移った。窓の外で白亜の研究所から火が見えた。


 ゼンが、ナージャを入れる遺体袋を探すジンに向かって言った。


「社長!! あれを見てください・・・ッ!!」


 ジンが窓の外を見る。爆発音は聞こえないが、研究所が燃え盛る炎に包まれ、

 もはや「火葬場」のように、多くのケルベロス社員とガルフロードの遺体が

 灰に消えていく。ジンとゼンは研究所で起きた出来事を思い出していた。


 ジンはナージャを遺体袋に収めた。ロズノフの銀の拳銃から発射された弾丸は、

 ミドロワの諜報員としての彼女の人生を唐突に終わらせた。ジッパーが閉まる

 乾いた音とともに、ナージャと話したことも、どうして彼女がケルベロスに

 潜伏したかも、全てが黒いビニールの闇の中に消えてしまった。ジンは言う。


「一体・・・公務省はロズノフのことをどこまで知っていたんだ・・・。」


 ジンは、ロズノフのことが引っかかっていた。全ての存在は、株の銘柄だと

 主張し、時空操作の魔法ではないと分かった。だが死を超越するロズノフの

 秘密は解き明かされなかった。ジンは誰がロズノフに詳しいのか、思索した。


「ナジュリが一番詳しそうだな。だが、アイツはロズノフが資金洗浄したとしか

 言ってなかった。次は、クーロンだ。世界一の大富豪で、ナジュリの秘密や

 王やロズノフの野望にも詳しかったな。・・・どちらかに相談するしかない。」


 ジンは、ロズノフの魔法について、ある仮説を立てた。無意識で魔法が発動。

 それは魔法生成AIの予約設定ではないか。蘇生魔法を条件付きで発動させる。


 人工知能が計算しているなら、本人が死んでも魔法が発動すると考察した。

 だとすれば、AIbirthエーアイバースと繋がりがあるクーロンが何か知っているかもしれない。

 明日、何とかクーロンに会えないだろうかと、ジンは後ろに手を組んで考える。


 ジン達を乗せた数機のヘリは、島の空域を離脱した。爆発を起こす研究所を

 飲み込んでしまう緑の魔境が、あっという間に遠く、小さくなっていった。


 こうして、パラメディオが有する量子科学研究所で起きた戦いは幕を閉じた。






 プライドシティ ワールドキャピタル地区 特務省ジャッジ・オフィス 特務長官室






 ジン達がパラメディオの研究所にて死闘を繰り広げる間、ナジュリは机の上に

 浮かんだ立体映像を凝視していた。そこには、テクジア社に突入した職員の

 個人情報が記載されていた。ナジュリは、このリストの中にロズノフの仲間が

 紛れこんでいると疑っていた。テクジア社への突入作戦は極秘に行われていた。


 それなのにロズノフ達は作戦展開中に気づき、ナジュリ達から逃げおおせた。

 つまり作戦の実行メンバーの中に、裏切り者がいると。ナジュリは、つぶやいた。


「私達がビルの空域を包囲する前に伝えたとしか思えないな。だが、誰が

 ロズノフのスパイかは、皆目かいもく見当がつかない。一体、どうしたものか。」


 すると突然、ナジュリの脳インプラントに組み込まれた量子通信機能に、

 謎の人物から連絡が入った。『情報未登録』と表示され、通信相手が

 高度な技術を使ってコンタクトを試みたことに気づく。ナジュリは自分の

 指をこめかみに当てて、強引な手段で連絡した人物と話すことを決めた。


「・・・誰だ?」

「よぉ。会議室以来だな。俺だ。クーロンだ。」


「・・・詐欺か? 私の量子暗号鍵パーソナルナンバーをなぜ貴様が知っている?」


「おいおい!! なぜ俺がお前から金取る必要があるんだよ!!

 俺はもう、世界一の大金持ちだぜ。むしろ法の番人とは距離を

 置きたいと思うのが普通だ。脱税容疑とか勘弁してほしいぜ。」


「・・・私にこうやって接触したということは、急いでいるのか?」

「話が早くて助かるぜ。いいか。明日あす俺の会社にジンと二人だけで来てくれ。

 部下とMRBに知られずにな。あんたの魔法でそれは不可能じゃない筈だぜ?」


「MRB? それは対外諜報機関だ。国内の治安機関である我々は監視対象外だ。」

「もう素直になろうぜ。俺は、権力者だ。お前がMRBのエージェントなのは既に

 知っている。組織で使われるコードネームは、『夕闇ゆうやみ』だったな。そうだろ?」


「どこでそれを知った? 答えろクーロン!!」

「お前がいくら情報を秘匿ひとくしようとも、金で動くヴァドール人全てを抑えるのは

 不可能だぜ。それはいい。今後、お前の人生が変わる出来事が起こるだろう。」


「ふむ。預言者のようなことを言うのだな。」

「じゃあな。詳しいことは会ってから話そうぜ、夕闇。」


 一方的に、クーロンから量子通信を切られた。ナジュリは心の中で喋った。


 罠か。いや、それならば危険を冒してまで私に直接言ってこない筈だ。

 私は長い間、MRBの任務で特務省と経政連を監視していた。クーロンなら、

 陛下の息がかかった七大企業セブン・パワーズによる傀儡政治に反旗を翻すと上は判断した。


 だが、いくら調べてもクーロンは「宇宙の謎を解く」ことしか出てこない。

 経政連の改革を訴えたシャイデマンでさえも、あくまで民主主義による

 平和的解決を志し、革命や暗殺を企てた痕跡はなかった。キャサリンも、

 ゴドリアスもミドロワ王国に干渉しなかった。四大企業は、ミドロワに

 害をなす行動を起こしていない。なら、連中はロズノフとは関係ない?


 ナジュリは、クーロンの誘いに乗るべきかと、迷っていた。彼女は上層部に

 報告して、クーロンを反逆罪で有罪に持ち込むべきか。それともジンと共に

 クーロンに会いに行くべきなのか。ナジュリはどっちを選ぶべきか悩んだ。


 ナジュリは言葉の真意を知るために『行動』を起こすことを決意した。

 ここでリストから裏切り者を見つけるよりも、クーロンから情報を得て、

 クーロンが危険人物ならば全力で排除すると、ナジュリは固く誓った。


 ナジュリが覚悟を決めていた同じ頃、ジン達はケルベロス社の社屋に到着した。






 プライドシティ 郊外 デウスハイム ケルベロス本社兼秘密基地






 見渡す限りの赤茶けた大地。点々と散る魔物の白骨だけが、この荒野の

 過酷さを物語っている。不毛な大地の只中に、ケルベロスの基地がある。


 乾いた風が砂を巻き上げ、装甲化された外壁を叩く。周囲には幾つもの巨大な

 電波塔が天を仰ぎ、不気味なほど静まり返っている。広大な舗装エリアでは、

 二つの巨大なローターを備えた重輸送ヘリが、翼を休める怪鳥のように並ぶ。

 そのかたわらでは鋼鉄の無人戦闘機が、管制塔から指示を受け、飛び立っていた。


 ジンは乾いた大地に降り立つと、作戦終わりの熱気が鉄の体に染み渡る。

 冷却オイルも残りわずかだったので、容赦なく降り注ぐ陽光がジンには

 辛かった。長時間日差しで熱を帯びた自動車の気持ちが分かるほどだった。


 ジンは担架で運ばれるジュリアを見つけると、声をかけた。


「ありがとう。ジュリア。お前が居なかったら、オレ達は死んでいた。」


 ジュリアは、毒親である母に感謝されたことを思い出した。それとは真反対の

 彼の感謝に、人を信じて良かったという感情が芽生える。ジンの一言により、

 それまで母を含む人間に絶望していた彼女は、少しだけ。ほんの少しだけ。

 自分が他人に必要とされた喜びに満ちていた。ジュリアは微笑みながら言う。


「あたし、ジンと一緒に過ごすことが、こんなに嬉しいと思わなかった。」

「大げさだな。お前やっぱ面白い女だな。」


「ウソじゃないよ。本気なんだよ、ジン。」


「・・・分かった。元気になったらオレに会いに来いよ。

 もう寂しくねえよな。お前が不満を持ったら、オレに言え。

 オレを頼れ。お前の本音をぶつけてこい!!」


 ジンとジュリアの間に、特別な絆が生まれた。特にジュリアは、ジンからの

「お前の本音をぶつけてこい」という言葉を重く受け止めた。ジュリアは体が

 治ったら彼に告白することを決心した。様々な者が覚悟を決めて、前に進む。

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