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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
パラメディオ編

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第47話 価値

 キュメロス島にある量子科学技術研究所。所長室で、3人の男達が

 話し合っていた。一人は、世界で有数の投資家アンソニー・ロズノフ。

 もう一人は七大企業セブン・パワーズの一角であるテクジア社のカイザー・ロンCEO。

 最後は研究所所長ゲオルギー・ヌスカである。ヌスカが話し出す。


「ロズノフ様。・・・実験体がブレインデータを吸収し続けた結果、

 重大な問題が発生したのです。それは、大きく三つあります。」

「博士、続けたまえ。」


「コンピュータに例えますと、大量のCPUを搭載した場合、判断処理が

 遅くなり、計算速度が下がりました。ホワイトホールを見つけるには

 最速の量子演算が必要です。情報生命体の計算能力はAI以下です。」


「次に、意識を奪ったデータを同期させますと、意識の優先順位がないと

 指揮系統に遅延が生まれます。前に進むだけで時間が掛かるのです。」


「最後が、意識が量子状態を解除します。量子は観測されることで、

 確定します。意識が中から観測して量子状態を壊してしまうのです。

 しかし意識がなければ、全く制御できません。どうしたものか・・・。」


 ヌスカは、禿げ上がった頭を触りながら悩んでいた。これでは宇宙空間で

 ブラックホールを見つける前に、宇宙を彷徨さまようだけの存在になってしまう。


 突然ロズノフは指を鳴らし、彼の部下であり、ソムリエでもある女性の

 ザッキー・セルウィンを呼んだ。彼女はルーズサイドテールの髪型と執事に

 見える格好が特徴だった。ザッキーは、シャンパンを手に持ち、こう言った。


「ヌスカ様、本日シャンパンをお持ちしました。異世界転生者の生産者ドメーヌ

 メラ様のワイナリーから提供されたものです。是非、ご堪能下さい。」

「いや、私はいま、酒を飲む気が・・・」


「このシャンパンというお酒は、悩む時にこそ、価値を見い出すと言われます。

 かつて、地球で皇帝だった者が、勝利した時に飲むと報酬となり、敗北した

 時はなぐさみになるとおっしゃいました。いかなる時も美酒になるのでございます。」


「はぁ、はぁ・・・。」


 戸惑うヌスカに、ロズノフはザッキーの言っている意味を説明した。


「博士。彼女は、貴方をねぎらっている。シャンパンで脳を休めたまえ。」

「ですが、このままでは計画に支障が・・・?」


「ならば、私以外の意識を計算機にすればいい。GPUと同じ、単純な計算を

 行う演算ユニットとして構築する。博士、私の魔法を知っているよな?」


「!! た、確かにロズノフ様の『力』なら、『観測したら量子じゃなくなる』が

 防ぐことが出来る!! これでイベントホライゾンを超えられますな!!」


「我が『力』ならホワイトホールを観測しても、量子状態を保つことが出来る。」


 それを聞いたヌスカは、安心してシャンパンを飲み始めた。

 隣で聞いていたカイザーが酒を飲むロズノフに質問した。


「あの・・・ロズノフさん。あなたの魔法って、一体何なのです!?」


「なぜ私が、君に教える必要があるのかね?」

「アーッ!! い、いえ。気にしないで!!」


 カイザーは黙り込んだ。それを見たロズノフは話題を切り替えた。


「君は、投資家と実業家の違いが分かるかね?」

「え・・・? ・・・株価を気にするのが、投資家ですか?」

「違う。投資家は鑑定士。実業家は画家だ。」


「? 投資家は鑑定士、とは?」


「君たち実業家は、商品という物を作る。そして物の価値を決めるのは、

 投資家だ。例えば、このシャンパンもそうだ。1本9000万ダナーだが、

 酒が飲めない者や子供からすれば価値はない。だが、値段が存在する。

 それは投資家がその価値を見い出したからだ。もし我々がいなかったら、

 君の商品も、客観的な評価が得られない。君が望む値段では誰も買わん。」


「いや、さすがにそれは言い過ぎですよ? 僕が開発したOSは世界一の

 使いやすさと自負していますよ。それに無料でアップロードも・・・!!」


「オペレーティングシステムは、君の会社以外にあるのではないか。なんなら、

 オープンソースで提供している、ソフトウェア会社もあるぞ。性能も良い。」


「ですからァ!! それは僕の会社のブランドに比べたら無名なんですよ!!」

「君の会社のブランドを高めたのは誰かね?」


「!! そ、それは・・・株主です・・・。」


「君の会社に投資し、株を得た者達が君の会社の価値を決めたのだ。

 君の力ではない。資本主義はそういうものだ。資本を出す者が

 全てを決める。君の会社の株も数パーセントはミドロワ王国の

 国営投資ファンドが握っている。つまり、王の所有物でもある。」


「そ、そんなぁ!! 僕は推しのアイドルに使う時間を惜しんで仕事を

 しているのに!! 僕らの税金を投資で増やすだけの王のモノ!?」


「王が投資していることで、王と仲が良い他国の権力者も安心する。

 それがブランドだ。例えば、娯楽エンタメもそうだな。ある国の、無名の作家が

 体を壊しながら書いた漫画があるとしようか。それを他国の有名な

 作家が盗作しても先に世に出たら商品として、市場に出回る。」


「なん、だと・・・ッ!!」


「その漫画を原作にドラマやアニメが作られる。映像化されたコンテンツが

 世界に浸透し、盗作した作家と出資した連中も利益を得る。君の推しの

 アイドルがその漫画が原作のドラマが好きだとしようか。それで価値は

 増大する。影響力がある存在が認めることで、本物の作者は闇に消える。」


「そ、そんなこと・・・社会が、いやメディアが許さないでしょ!?」

「そのメディアが有名な漫画家のスキャンダルを取り上げることよりも、

 世界中の人々に人気コンテンツとなった作品を伝えることを選んだら?」


「う、ウソ・・・だろ!?」


「資本主義が末期になった証だ。社会正義よりも利益優先になる。

 ちなみに今、売れている作品の作者の8割がAIだと知っているかね?

 名だけ貸して、AIが生成している。君の好きな歌手のピコラか。

 彼女は、シンガーソングライターを名乗るが、作詞は生成AIだよ。

 私が出資する音楽会社の社長が教えてくれた。彼もなげいていたよ。」


「ワァァアアアアアアアアアアアア!!」


 ロズノフが言っていたことは事実だった。この惑星ヴァドールでは、

 地球と違って哲学や倫理学が生まれず、自己の利益優先をとがめることは

 一般的ではなかった。実際に、ヌスカは賄賂で私腹を肥やしていた。


 カイザーは両手で頭を抱え込み、あのピコラが騙しているとは信じなかった。

 配信でも、彼女は歌詞はすべて、自分が一人で考えていると言っていた筈だ。


 そんなカイザーを尻目に、ロズノフが酒を飲みながら言った。


「君は、何が価値を決めていると思うかね?」

「分かりません。ぼ、僕の・・・ピコラが。」


「権威だよ。価値が高い存在が、新たに生まれる価値を決めるのだ。」

「!! 権威って・・・ピコラのこと!?」


 カイザーは、ロズノフが言った権威がピコラにあるとは思わなかった。

 この星では珍しい黒髪黒目のボブヘアで、白い服装が弱々しさを感じた。

 そんな彼女を、権威だと言っているロズノフの言葉が信じられなかった。


 ロズノフは、空になったグラスを見つめながらカイザーに話しかけた。


「ピコラは、権力者だ。彼女が音楽会社の社長に自分はAIで歌詞を書くと

 自分の意思を伝えた。あの音楽会社は、彼女のおかげで莫大な富を築いた。

 分かるかね? 毎日収支報告書を読み、会社の指揮を執る経営者よりも

 たった1曲で数千万枚も売る女性の方が社会的価値が高いんだ。なんなら、

 社長は他の者でも代替できる。だがな、トップアーティストは唯一無二だ。」


 ロズノフは、ザッキーにワインをつがせると、うつむくカイザーに言った。


「世界は権力と数字で動いている。この星の最高権力者は、ミドロワ王だ。

 なぜなら、この星で初めて魔法を作った魔族の王だと、言われている。

 神が存在しないと、王だけが至高の存在として崇拝されてしまうのだ。

 なら、我々が創ればいい。王よりも上位存在が生まれれば、良いのだ。」


「それが・・・神、なんですね。」


 ロズノフの後ろでザッキーがボソッと言った。続けて、ロズノフが話す。


「かつて、私は前世で神を信じていなかった。」

「・・・え!?」


「私は、何事も無気力でね。自分の周りが熱心なことが理解できなかった。

 ある者は学問を学び、ある者は自らを鍛える。勉学やスポーツに、宗教にも

 私は一切、興味を持てなかったよ。その結果、私は学校を辞めてしまったよ。

 路上で薬を売り、自分も薬におぼれた。堕落していたんだよ、全てにな。」


 カイザーは耳を疑った。ロズノフが異世界転生者だと告白したことに、

 彼は理解が追いつかなかった。ロズノフは自ら前世のことを語り始めた。


「ある日、アジア人の少年が現れた。おそらく、観光客だろう・・・。

 私は、少年を撃ち殺した。理由は、特にない。私は手に持った銃で、

 少年の命を奪った。その時、私は初めて命とは無価値だと思った。

 その後、私は生きていることに絶望し、自分で頭を撃って死んだ。」


「・・・・・・」


「そして、この星で第二の人生が始まった。私は魔族の子供として生まれた。

 私は前世の記憶を持っていた。私は決意した。このサイバーファンタジーの

 異世界で本気を出すと。私は最初から努力することにした。まず魔法について

 徹底的に調べ上げ、この世界の資本主義の勝ち方も真剣に考えた。空売りし、

 本当に価値がある会社を安く買い取ると、倍の値段で売って生計を立てていた。

 やがて投資家としての頂点に立つと、この星は限界を迎えていると気づいた。」


 ロズノフは、シャンパンを飲む。カイザーは、ロズノフに質問した。


「なぜ、投資家として成功したら、この星が限界だと思ったんですか?」


「この星には救いがないのだよ。神が住む天国がないからだ。ヴァドール人は、

 唯物論に傾倒けいとうする。だが、寿命はどんな者にもある。いつの日か、彼らが

 集めた財産を抱えたまま最後を迎えるだろう。物に価値があると思うかね?」


「物質には価値がないと言いたいのですか?」


「我々の肉体も、時が進めば朽ちる。君が集めていた人形もな。黄金も

 昔は貴重だったが、今は水銀でも作れることが分かって価値が落ちた。

 それよりも、不可視の存在に価値があるのだ。観測できないからこそ、

 価値をつけることが出来ない。それは何か? 神しか居ないのだよ。」


「神は観測できないから・・・その価値を誰にも決められない!!」


「そうだ、カイザー。神こそが、我々が救われる唯一の解なのだ!!

 我々の神は『シュ』と呼ばれる。万物の救世主、それがシュだ。シュ

 救いにより、我々は地球を見つけられるのだ。奇跡はシュが成す。」


 ロズノフは命を絶った後、異世界転生の原因を探した。彼は神を求めた。

 神は現れなかった。神のいないヴァドールは、彼にとって地獄だった。


 彼は、様々なものに価値をつけ始め、考えた。主観で価値をつけられない

 存在こそが神ではないか。神を求むのではく、神の器を創る。量子力学で、

 量子情報は決して消滅しないと言われている。ロズノフは、不滅の存在が

 神だと思っていた。彼は、ブラックホールにも破壊されない存在を望んだ。


 そして彼の魔法により、彼だけは意思を持って地球を目指すことを決めた。


 4人が所長室で過ごしている間、ジン達は研究所内を探索し始めた。


 白衣を着た職員は、突入してきた謎の侵入者に驚いていた。


 両手を上げ、中には拘束される研究員もいた。コンピュータやファイルが

 置かれている机を見つけ、クライドや電子戦を得意とする社員が端末に

 何かを入力し始めた。研究所のアクセス権限を掌握しようとしていた。


 途中でケルベロスとパラメディオの兵士による銃撃戦が始まった。


 ジンは、ゼン、ジュリア、ナージャの4人で、ブレインデータを保管する

 データ室を探すことになる。やがてジュリアが扉を発見し、こう言った。


「あの扉、絶対何か重要なものを隠しているわ。行くわよ、みんな!!」


 ジンは、嫌な予感がした。扉には『☣』というマークが描かれていた。

 それは、有害な病原菌や生物兵器の保管を示す場所を意味していたからだ。


 だが、ジンが止める前にゼンとジュリアが扉に手をかけ、強引に開けた。


 徐々に開く扉によって部屋の中が見えるようになった。そこには、

 全長10メートルで、藍色の怪物が寝ていた。あちこちに金属の装甲が

 施されて、鋭い牙をむき出しにした口からは、よだれを垂らしていた。


 それは、異世界では「ベヒーモス」という名で呼ばれる、凶悪な魔物だった。

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