第45話 道
キュメロス島の密林地帯『バーハバリ』にて、ジンと対峙したゲズマ達は
急性酸素中毒によって倒された。一部の兵士は痙攣を引き起こしていた。
灰色のショートヘアで、サングラスと戦闘服が特徴の女性に見える
機械化人間のクライドが、ジンの前に現れた。クライドは言った。
「よくやった。まさか到着する前に終わるとは、思わなかったよ。」
「酸素中毒にした。連中は、しばらく戦うことは出来ないだろうな。」
「・・・そうか。ジン、早速だがナージャと合流してくれ。彼女はもう、
研究所の近くで待機している。君のことを心配していたぞ。」
「本当か。クライド。・・・お前の部下が・・・殺された。」
「・・・。彼も無念だろう。革命を志し、私にも共感してくれた。
彼の清濁併せ呑む精神は、柔軟な思考を組織にもたらした。」
「・・・それだけか? 最後どうなったのかを、オレに聞かないのか?」
「残念だか、悠長に話している時間はない。海に向かった敵も戻ってくる。
ジン、まずは研究所を目指すんだ。君の任務は研究所への強襲の筈だ。」
ジンは、ピーターが殺されたことに全く感情が動かないクライドに対し、
違和感を感じたが、今は作戦遂行中もあって、ナージャが待つ量子科学技術
研究所に向かおうとした。ジンは、クライドを背に向けて走り出す、その時。
激しい雷光と轟音が、ジンの後ろで発生した。何事かととっさに振り向いた。
クライドはジンが倒したパラメディオの兵士に向かって、雷撃を行った。
ジャングルの中では、湿気に含まれる水分子と魔素細菌が漂っていた。
まずクライドは、手から微弱な電磁波を放ち、水分子に付着している電子と
魔素細菌を集め、クライドの右手に吸い付いた電子と細菌は青白く輝き始めた。
ジャングルの重苦しい湿気が、巨大な蓄電器のようにクライドの指先に電気を
供給し始める。放電音が鳴り、空気中の電子と魔素細菌が一直線に整列し、
目に見えない導電性の道が、地面に倒れている兵士が発する電磁波に直結した。
次の瞬間、クライドは手を地面に向ける。地上めがけて振り下ろされた放電が
地を這い、電流は扇状に広がって電磁波を出す兵士に向かっていく。避雷針が
雷を呼び寄せるように、導電化した兵士は自ら雷撃を招き入れる格好となった。
光学迷彩装置を身に着けていたパラメディオの兵士は直撃を受け、彼らの体が
燃え上がった。ある者の体は黒く変色し、ある者は無数の火花を散らしていた。
兵士達の服の素材は、燃えやすい合成繊維で、光学迷彩装置の電子部品や
リチウム電池の発火によって、火が燃え移っていた。やがて服の一部が爆発し、
密林の落ち葉に引火した。クライドの目の前に周囲が燃え盛る光景が映った。
クライドの一連の行動を目撃したジンはすぐにクライドの胸倉を掴んだ。
ジンに掴まれたクライドは彼を見つめていた。ジンは怒りに震えながら叫んだ。
「何やっているんだァ、テメェは!!」
「障害を取り除いただけだが?」
「ハァ? あいつら動けなかっただろ!!」
「・・・酸素中毒では、戦場に復帰する。なら今、トドメを刺すべきだ。」
「なんだそれ・・・オレはなァ、わざと生かしておいたんだ!!
オレ達の目的は人を殺すことじゃねえ!!」
ジンには、一つのルールを課していた。それは相手を行動不能にすること。
光学迷彩装置を発動させた敵兵を銃撃したが、足を狙っていた。酸素中毒も
彼なりの配慮があった。全てはハンクを殺したトラウマからきていた。
「ここをどこだと思っているんだ、君は。」
「ああ!?」
「私達はパラメディオの施設を襲っているんだ。分かるか?
これは軍事行動だ。・・・生存者も攻撃対象になる!!」
「違ぇだろォ!! オレ達は軍人じゃねえ!!
単なる虐殺だ!! お前は狂っている!!」
「いい加減にしろ・・・大人になれ!!」
「坊やはお前だろうがァ!! それをお前は_」
ジンが話していたその刹那、何かが身体を貫通したような気がした。
それは胸倉を掴まれているクライドも感じた。二人は同時に見た。
彼らの胸元には直径10㎝の穴が開いていた。えぐられた箇所からバチバチと
火花が散っている。二人は機械化人間なので、穴が開いても致命傷にならない。
痛覚はなかったが、何かに攻撃を受けた感覚が芽生えた。そして声が聞こえた。
「もう一人も・・・機械なのかよ。じゃあ・・・こいつでどうだァー!!」
ゲズマだった。光子操作魔法を使い、ゲズマはクライドの雷撃を自動で防げる
電磁波の障壁を張っていたおかげで生き延び、脳内にある医療用ナノマシンも
起動した。パラメディオは、医療機器及び兵器メーカーである。ナノマシンも
開発しており、コレクターの正体である機械生命体のエスカも彼らが開発した。
酸素中毒から回復するには、活性酸素を抗酸化酵素によって分解する必要が
あった。ゲズマの毛細血管に待機していたナノマシンが、脳波の異常を感知。
ナノマシンは抗酸化酵素を、一斉に放出した。同時に、微量の鎮静物質も
散布し、急速にゲズマの脳を治した。ゲズマが目覚めると、クライドの
雷撃によって火災が発生したことが、安定した光子供給源を誕生させた。
ゲズマは、自分の近くに転がる部下の死体から光子を抽出し、高強度の
レーザービームを照射した。心臓を狙ったが、効果がないことを知る。
するとゲズマはジン達の体に極小のプラズマを発生させ、こう叫んだ。
「荒波爆激!!」
連鎖爆発による攻撃を受けたジン達は、よろめいた。ジンはクライドに言う。
「話は後だァ!! こいつを仕留めるぞ!!」
「仕留め損なったのは君だ。・・・来るぞ!!」
体中から煙を吐きながら、ジンとクライドは、散開した。
ジンは、右の手から光の粒を放出し、全長30㎝の金属製の柄を生成した。
ジンがゲズマの方に突っ込むと鍔から尖形状の光の刃を出現させる。ジンは、
距離を詰めて戦うスタイルを選んだ。ゲズマは光子操作で光刃を無効化するが、
その度に、ゲズマは集中力と光子エネルギーを失っていくことに気づかない。
一方、ゲズマの反対側に回り込んだクライドは電子操作で機械化された両足の
金属部分と地面の磁場を反発させ、高速移動でゲズマから放たれたレーザーを
回避した。一定の距離まで詰めるとクライドはこう言いながら玉を指で弾く。
「鉄指弾」
金属製の玉は、クライドがゲズマに向けて生成した導電路に沿って進み、着弾と
同時にゲズマの肉を削り取った。ゲズマは顔を歪ませ、クライドにこう言った。
「この女ァ・・・俺の光球よりも不細工のクセによォ!!」
ゲズマは周囲の光子を全て集めると、全方位のレーザー攻撃を試みた。
全身から発せられる、高強度のレーザーを四方八方に撃つ。ゲズマは玉による
ダメージと、しつこいジンの剣撃に、精神的な余裕を失い、叫びながら言った。
「死ねよ・・・侵入者どもォオオ!! 暴光円!!」
だが、それがジンにとっては最大のチャンスになった。ジンは、ゲズマの体から
照射されたレーザーを見て、何も持っていない左の手をゲズマの前にかざした。
ジンの物体錬成魔法は、量子操作とほぼ同じ。ゲズマが放出したレーザーを
全部左手に吸い込ませると、そのエネルギーによって左手を巨大化させた。
ゲズマは突然現れた鋼鉄の拳が目に浮かんだ。その拳はゲズマの体を飲み込み、
ゆっくりと彼に向かっていく。逃げようにも、それはあまりにも大きかった。
「巨神拳!!」
ジンは、ゲズマに左ストレートを食らわせた。ゲズマはジンが巨大化させた
拳に激突し、勢い良く吹っ飛ばされた。ジャングルの木々を粉砕し、ゲズマの
肉体は最後にぶつかった巨木の前に止まった。ゲズマは完全に行動不能に陥る。
ゲズマをぶっ倒したジンは、自分の左手を元のサイズに戻しながら言った。
「オレはオレの道を行く。命は奪わねえ!!」
ジンの言葉を聞いたクライドは、ジンに悪意のこもった一言を浴びせた。
「自分を正当化する者が世界を壊すんだ。」
クライドは、過去に一度だけ、ミドロワの王と謁見したことを思い出した。
政治家である父に連れられ、社交パーティーに参加した。世界中から貴族や
大富豪が王と話していた。その頃のクライドは幼かった。彼は王に、質問した。
「王様、正義って何ですか?」
クライドは勇者が魔王と戦うアニメを見たが、疑問に感じた。勇者は世界を
魔王の手から救うと大義名分を掲げているが、魔物の国を滅ぼしたりしている。
そのアニメは、ミドロワ王国のプロパガンダであった。勇者は国の王であり、
ミドロワをモチーフにしていた。悪が支配する国を次々と領土にする話だ。
回が進むたびに、悪人が勇者を崇拝し、勇者の配下になる者も出る作品だった。
まだ小さかったクライドに王はかがんで、こうクライドに持論を述べた。
「余は、正義である。正義とは、覇道を歩む者。余の歩いた道は、正しい。」
黄金に輝く王冠と白い髭に、水色のような瞳が特徴の王は、なぜミドロワが
世界中の戦争に介入しているのか、あどけないクライドに説明し始めた。
「正義を行えるのは、世界を従える資格を持つ、余の国だけだ。世界の平和は
覇王である余の宿願。平和をもたらすのは、覇道によって成就する。」
そんな王の発言をクライドは急に思い出した。王は覇者の道を行くと言い、
ジンは自分の道を行くと言い出した。それが、彼の中でジンを危険と判断した。
クライドは、殺意が宿っていた。今すぐジンを消すべきだとクライドは思った。
突然、ジン達に量子通信を通じて、ナージャが話しかけてきた。
「ジン、ボス!? いまどこなの!?」
ナージャの声を聞いたクライドは我に返ると、冷静な態度で話した。
「今ジンと二人きりだ。敵も排除した。そちらに向かう。」
「急いで!! 研究所の屋上に見かけないヘリが着陸したわ。急に
外の警備も厳重になったよ。きっと重要な奴が来たのよ!!」
ナージャの予感は、当たった。テクジア社から脱出したロズノフ達が
キュメロス島にある研究所に逃げ込んだのだ。パラメディオ内部には、
ロズノフの思想に共感した者がミドロワ王国を裏切り、ある計画のために
暗躍していた。ジンとクライドは、ナージャの元へ走り出していた・・・。




