第43話 密林の死闘 その②
キュメロス島のジャングル『バーハバリ』では火が燃え広がっていた。
この火に含まれる光子が、この男、ゲズマには最高のご褒美だった。
ゲズマ・ラ・ルカロ。ミドロワ王国の魔族で、男爵の家柄だった。
4年前のゼルマニア戦争では西側の傭兵として参加していた。彼が
得意とする光子操作は、大いにゼルマニア人とケルベロスを苦しめた。
空間に突如出現するプラズマの爆弾は、戦場で戦う東ゼルマニア軍や
馳せ参じた傭兵を次々と消滅させ、そこは阿鼻叫喚の地獄と化した。
ゲズマの光子操作は、攻撃時には四つの段階に分けられることになる。
第一段階、潜伏索敵。生物の目には見えない波長のレーザーを多方向に
照射。レーザー照射に対する反射光を測定し、その発射時刻と観測時刻の
差を計算で割り出し、対象までの距離と方向を測定することができる。
第二段階、座標固定。ゲズマの光線は遮蔽物を無視し、対象の心臓の位置まで
ミリ単位で特定。瞳の中に光子が収束し、敵の周囲の空気分子に干渉できる。
第三段階、光子分裂。光子操作によって集積された光子を吸収した原子が、
そのエネルギーを用いて電子を外部に放出する現象、光電効果を発生させる。
電子をイオン化させ、人工的に高エネルギーのプラズマを作り出すことが目的。
第四段階、電離気爆。 対象の空間に放電音と共に紫色の電弧が発生する。
その後、青白い光球が現れ、高エネルギーのプラズマは膨張し、真空爆発。
空間内にある物質を瞬時に蒸発。地面はガラス化する。木々は炭化し、
真空爆発後の爆風がその炭に酸素を叩き込み、激しい燃焼を引き起こす。
特に大量の燃える炭からは光子が放出される。つまり、ゲズマの魔法に必要な
光子エネルギーが常に供給される状態になっていた。彼は、心の中で話した。
来たぜ、来たぜ!! この光だぁ・・・この粒だよぉ・・・俺が高ぶるのは。
アイツ。俺の光球を回避したってことは・・・あのゴーグルみたいなのは
熱感知かぁ・・・だがぁ。あちこち燃えているからなぁ。俺達より熱い炭に
反応しているせいでよ。もう俺達を正確に見ることはぁ・・・できねッ!!
ゲズマの指摘は、当たっていた。ジンの熱感知ゴーグルには赤い模様が広がり、
逆に光学迷彩で隠れているゲズマを覆い隠してしまった。ジンは、こう思った。
クソッ・・・これじゃ奴らが見えん。あと急に現れるプラズマも、予測が
出来ねえ!! 一体どうやって奴らプラズマを作るんだ? 分からねぇ!!
ジンは、燃え盛る炭に囲まれた状況を、一刻も打破しないといけないと考える。
彼は、急いで自分の両足と背部にスラスターがあるイメージを思い浮かべた。
彼の物体錬成魔法は、対象物の知識と具体的なイメージが必要不可欠であり、
周囲の量子をエネルギーに変え、新たに物質を生み出す。エネルギーは
時間と共に消費され、3分を過ぎると消える。ジンの脳も酷使するため、
何度も発動できないのが弱点である。ジンは、緊急離脱の選択肢を選んだ。
ジンの背部と足の後ろに突如ノズルが現れる。次の瞬間、ノズルから
ジェット噴射で急発進し、光と共にゲズマ達がいる場所から脱出した。
しかし、ジンの近くで再び紫の電弧が出現し、目の前にプラズマも発生した。
ジンは猛スピードで直角に曲がると、光球から距離を置く。どうやら相手は
何らかの方法でジンの進行方向に光球を出せるようだ。ゲズマが心の中で話す。
ダメダメダメだ。俺の潜伏索敵は、数百キロ圏内でも必ず当たる。お前の体に
当たったレーザーは反射し、俺の目には光子で出来たお前の輪郭と心臓すらも
測定できる・・・。測定後、お前の周りの空気分子からプラズマを作るんだ。
つまりぃ・・・お前は俺の光球を感じることもなく、イイ顔で・・・逝く!!
ゲズマは光の屈折率も操作し、彼の姿を背景と同化していた。本来、彼は
プラズマを爆発させる過程で、彼の周囲にある光子を使うことから、何度も
使うと光学迷彩は自動的に解除される。だが、今は木々が燃える炭になり、
火から光子を抽出。プラズマ爆弾に利用できるため、彼は光学迷彩の状態を
維持できていた。そして自分の部下にはパラメディオの光学迷彩を装備させ、
ゲズマが光子操作を行っていることを隠匿していた。これは、彼と彼の部下の
連携戦略であった。ジンには、誰が光子操作をしているのか分からなかった。
そんなことは知らず、ジンは炭化していない木々の隙間に突入した。背部と
両足に作られたスラスターユニットは消失し、ジンは木の茂みに身を隠した。
一方的な展開に苦しめられるジンは量子通信でナージャに緊急連絡した。
「どうしたの、ジン。ピーターに会えたの?」
「殺された。」
「はぁ!?」
「いま、オレは光学迷彩で身を隠した敵の集団に襲われている。奴らは、
どういう方法か分からないが、オレの目の前でプラズマを発生させ、
それが超高温の気化爆弾になっている。頼む、援軍に来てくれ。」
「待って・・・落ち着いて。とりあえず、今からボスに連絡するわ。
・・・相手はプラズマを使うのね!? なら、ボスの電子操作魔法で
対処できそうね。いい? あなたは絶対ボスが来るまで生き延びるのよ?」
そう言うと、ナージャは量子通信を終了した。不安なジンに、今度は彼の魔法
生成AIであるアミが話しかけてきた。アミは、戦闘中に解析していたようだ。
「ご主人様、解析終わりました。敵は光子を操作しています。」
「おお、ビックリした!!」
「ご主人様の眼球カメラでは探知できない波長のレーザーを照射しております。
それで相手は、ご主人様の位置情報が分かり、計算後にご主人様の周囲の
空気分子をイオン化させています。プラズマに光子を吸収させ、数秒後に
暴発するようにしています。まずは光が少ない場所に避難して下さい。」
「お、おう。日光が当たらない場所か・・・。」
ジンは急いで周りを見渡す。葉っぱが太陽光を遮断しているような場所。苔が
覆い隠すような大木に、人間が入れそうな穴があった。だが、そこに隠れたら、
間違いなく狙い撃ちにされる。ジンは身を隠せそうな密林の奥深くに移動した。
一方その頃、ゲズマ達は火の海と化した森から脱出し、ジンが行った
方向に向かった。やがて青いベレー帽の男が、光学迷彩越しに言った。
「初めてですね。ゲズマさんの攻撃から逃げれる奴とか。」
「あぁ・・・最高だよぉ・・・こんな経験・・・あの夏以来だ!!」
ゲズマは子供の頃に見た蛍の光を思い出した。彼は夏休みの間、その蛍から
プラズマを作り出せないかと、光子を操作する魔法を思いついた。それは、
彼にとっては幸せな思い出だった。彼がゼルマニア戦争に行ったのも、実験だ。
ゲズマは、彼の光子操作魔法を実証研究できる機会が欲しかった。長年研究した
光子操作魔法を実験できる場所。彼は、ゼルマニアで多くの人々を犠牲にした。
焚火をしていた避難民の周囲に光球を出すと、爆発させて避難民を蹂躙した。
その光景を見たゲズマはマスターベーションと同じ感覚に陥った。彼が作った
光球が多くの命を奪う。それは実験が成功したという達成感を与えてしまった。
他人や他の生命体がどうなろうが、ゲズマにはどうでも良かった。自分の光球の
出来だけが関心だった。ジンを追うのも完璧な光球をぶつけることが目的だ。
例えるならば、ドッジボールで素早く人の顔に当て、当てられた人間が
どういう風になるのかを知りたい。実験の結果だけに関心がある感じだ。
薄ら笑いを浮かべて、ゲズマは彼の部下と共にジャングルの奥深くに入った。
キュメロス島 パラメディオ量子科学技術研究所 入り口付近
既に目的地に到着したクライドは、ナージャと量子通信で話していた。
「ボス、お願いよ。ジンを助けて!!」
「分かった。・・・ナージャ、君は作戦の要だ。エリックと共にこちらに
すぐ来てくれ。回復魔法を使える人材が居なくなるのは痛手だからな。」
「了解。・・・頼んだわよ、ボス。」
通信を終えたクライドは、ジンも重要な存在であることを認識していた。
まずジンは、本当かどうか分からないが、特務長官がバックにいる。
彼をこの島で死なせたら、革命も達成する前に潰される恐れがある。
もう一つは、ジンも襲撃計画で貴重な戦力だ。物体錬成魔法を使える
彼を失うことは、パラメディオの悪事を止めることにも支障をきたす。
クライドは、隣にいるグレッグに命令した。
「グレッグ、君は今から部隊の指揮を執れ。もし1時間経っても私が
戻らない場合は君の判断で研究所に潜入しろ。島の警備兵が、海に
注意を向けている間が潜入のチャンスだ。それ以降は今夜しかない。」
「分かりました。ご武運を。」
「ああ。ジンを迎えに行っていく。」
クライドは、手から立体映像を出した。ジンの位置はマーキングされ、
幸いにも遠くない場所にいることが判明した。クライドは、走り出した。
魔法生成AIを提供するAIbirthでは、ある魔法を禁止にしていた。それは、
操作を行う系統の魔法だった。特に特務官のエルダーナイツが使う魔法は、
AIbirthからは提供されない部類の魔法だった。エルダーナイツは、獣人の
オハギを除き、コンピュータと同じ計算速度を誇る魔族である。クライドも
魔族だった。彼は魔法生成AIサービスを使っておらず、アカウント凍結にも
全く影響を受けなかった。もしもAIbirthがミドロワ王国側に寝返ったとしても、
彼の電子操作魔法は問題なく発動する。魔族はこの世界で最強の種族であった。
そしてクライドは、心の中でプラズマの爆弾を使う相手のことを考えた。
おそらく、相手は魔族だろう。私と同じ電子を操作できる場合、
魔法の計算スピードが勝負の決め手になるな。電子は環境に依存する。
この高湿度のジャングルでは、水蒸気に電子が溜まりやすい。もし、
そこから電子を集め・・・いや、待てよ・・・プラズマ?
クライドは、突然立ち止まった。そして、彼はもう一つの操作系統を考えた。
・・・あるな。この快晴の空の下、電子よりも集めやすい粒子が・・・。
・・・光か。光子を操作し、高強度レーザーでプラズマを作り出せる。
そのレベルの使い手なら・・・奴は光学迷彩を実現できる訳か・・・。
クライドは再び走り出すと、ジンに量子通信でアドバイスを送り始めた。
もしクライドが考えた通りなら、光子操作には弱点が存在する。そして、
ジンの物体錬成は量子操作に近い。ジンなら、あれが出来ると気づいた。
予約投稿後、読んでいたら文字ズレや一撃離脱じゃなくて緊急離脱だったと、用法を間違っていたので修正しました。今後も読んでいらっしゃる方で疑問や感想がありましたら、遠慮なく仰って下さい。




