第42話 密林の死闘 その①
巨大戦闘機『マレブランケ』の貨物室。緑色の酸素マスクとパラシュートを
放出する装置を背負った男女が集結していた。ゼンも緑色の戦闘服に着替え、
民間軍事会社『ケルベロス』の武装兵士と同じ格好になった。ヘルメットと
酸素マスク、パラシュートを着けているゼンはケルベロス兵に見える姿だった。
マスク越しにゼンは、ジンに話しかけてきた。
「いよいよッスね、社長!! あれ? 社長スラスター付けないんすか?」
「ああ、オレは物体錬成でスラスターユニットを作れるからな。
他の奴らはケルベロス社製のスラスターを使うみたいだ。」
「気になったんですけど、社長の魔法って何でも作れるんですか?」
「オレの記憶にあるもの、もしくは物体の構造が理解できていないとダメだ。
あとはオレの魔法生成AI、アミちゃんの演算で再現できるものだけだ。」
「俺ァ、手にある魔法生成AIで戦うんですけど、そろそろ素手だけで
戦うの厳しいかなと思っています。飛び道具がないんですよ。」
「オレも飛び道具作っても数分で消えるけどな。エネルギー消費が激しい。
その代わり余計な荷物にならない。臨機応変にものづくりが出来る。」
ジン達が話していると、エメラルドグリーンの瞳をした女性戦闘員が
やってきた。胸ポケットには『ケルベロス』のワッペンが付いてあった。
女性戦闘員はマスク越しにジンに言ってきた。
「ハァーイ♡ あなた達が、ワイルドパンクってホント?」
「・・・そうだが? あんたは?」
「アタシは、ナージャ・キャッシュマン。今回、Cチームの隊長に選ばれたわ。
戦場では未経験のあなた達をリードするよう、ボスから言われているのよ。」
軽薄な声だが、よく見ると頬に傷跡が見える。どうやらナージャは
ジュリアと同じく、相当の戦闘経験の持ち主のようだ。バストも大きく、
ジュリアのようにスタイル抜群だった。彼女は灰色の戦闘服が特徴で、
クライドは黒い戦闘服。ジュリアと他の社員は緑色で統一されている。
ジンは、何故そうなのかをナージャに尋ねた。
「ナージャ。どうしてクライドとお前は他の奴と違うんだ?」
「まずボスは、潜入部隊の最高指揮官だからね。アタシはボスと反対の色を
選べる立場。・・・ウソ♡ アタシは回復魔法専門の衛生兵だからね。戦場じゃ
ロンドーニア条約で衛生兵に対する攻撃は基本許されないの。敵もそうよ。」
ロンドーニア条約。戦時国際法としての負傷者及び捕虜の待遇改善のための
国際条約だ。巨大な大陸国のミドロワ王国は、120年前に資源を巡って島国の
クロムウェル王国と戦争をしていた。その際に締結された条約の名残である。
ナージャはジン達に他のメンバーを紹介した。
「アタシの隣にいるのが、エリック。ピーター。この5人で、研究所近くの
ジャングルに潜入する。降下後、数秒間はスラスターユニットで接地を
回避する。だから量子通信で、ボスから許可が下りるまでケツを浮かせて。」
エリックは眼帯をつけており、ピーターはタレ目が特徴だった。二人とも
目出し帽を被っており、目元が目立っていた。ジンがナージャに言った。
「降下後に合流を目指すけど、それもクライドの指示待ちか?」
「指示と座標は、アタシが出すわ。ジャングルで落ち合いましょう。」
突如貨物室の照明が落とされた。アナウンスの声が聞こえてくる。
『降下5分前。機内減圧完了。降下準備急げ。』
貨物室にある赤い点滅灯が点灯した。ジン達は列に並び、待機状態に入る。
『降下2分前。後部ハッチ開放。Aチーム、前進せよ。』
スピーカーから流れた声に、クライド率いるAチームが最前列に立つ。
クライドは後方で待機するジン達にこう言ってきた。
「我々が先行する!! 後に続け!!」
ゆっくりと飛行機の後部ハッチが開いていく。眩しい光が機内に侵入した。
機内に風も入ってきた。クライド達の戦闘服が風に当たり、ヒラヒラ舞う。
『降下5秒前。3、2、・・・降下開始。』
次の瞬間、クライド達は足をくの字に曲げて、飛んだ。空中では手足を広げ、
まるでXの字のような姿勢で、顔は地面の方に向けている。
その後、ジンを含む各チームは、クライド達と同じような飛び方を真似た。
空飛ぶ鋼鉄の悪魔から、無数の兵士達が地上に向けて飛び立った。
パラシュート使用時間まで、手足でバランスを取りながら、降下する。
ジンは飛び立つ前に、背部に手製のスラスターユニットを生成していた。
パラシュートが開いて、接地寸前になったら、背中を地面に向け、ジェット
噴射で接地時間を稼ぐ。その間に、クライドが電子操作魔法で敵のセンサーを
ハッキングし、位置情報を書き換える。敵は、侵入者を見失うという算段だ。
一方、キュメロス島の森では、パラメディオの社員がパトロール中だった。
キュメロス島 密林地帯 バーハバリ 北部
密林の中をパラメディオの兵士が歩いていた。9人の武装兵士は銃を構え、
森林地帯を3人1組で散開していた。シティで中々見れない光景が広がる。
木々にとまる鳥のさえずりが聞こえた。やがて一人の兵士が話し始めた。
「ゲズマさん。そろそろ、帰りませんか? 誰も来ないですよ。」
青いベレー帽を被る男は、隣の黒いベレー帽とタイガーストライプの
迷彩服、ちょび髭が特徴の男に言う。男の名はゲズマ。パラメディオの
警備部隊の隊長である。他の者が銃を持つ中、彼は手ぶらで歩いていた。
ゲズマは青いベレー帽を被った部下に、けだるそうに答えた。
「そうだな、帰るか。何もなさそうだしなぁ。」
ゲズマはあくびしながら、上を見上げた。空に黒い点々が見えた。
明らかに鳥よりも大きい。そう感じたゲズマは目の色を変えて言った。
「あれぇ・・・これはぁ・・・俺でないと・・・対処できない、ねぇ。」
ゲズマは久しぶりの戦闘になると感じた。他の兵士に量子通信で伝えると、
黒い粒々が落ちる場所に向かって走り出した。ゲズマは心の中でこう思った。
いいね・・・いいね・・・。退屈な時間を吹き飛ばしてくれそうだ・・・。
この前も、機械化人間のに全部持っていかれたからな・・・。
俺よりも強い奴らであってくれよ。ああ・・・出るッ!!
ニヤケが止まらないゲズマの後を、彼の部下も追いかけ始めた。
キュメロス島 密林地帯 バーハバリ 南東部
パラシュートを開いたジンは、重力に引かれてゆっくりと森林に近づいていく。
そして、パラシュートが木々に挟まった瞬間、後背のスラスターを発動させた。
ノズルから勢いよく、高圧ガスが噴き出して、ジンはフワフワと浮かび始めた。
突然ジンの視界の右上に、クライドが映った。クライドはジンに言った。
「センサーをハックした。私達の現在位置を海に移す。あと数秒待て。」
クライドは着地地点を海に書き換えることで、パラメディオの警備兵を海に
向かわせることを考えていた。海の中にいると誤解した敵は、ボートを使い、
侵入者を探す。クライドは、警備を薄くさせ、自分達を侵入しやすくした。
クライドのハッキングが終わり、ジンは地面に着陸した。パラシュートを
固定したワイヤーを切断して、ジンは木の陰に隠れた。敵の姿は見えない。
ジンが辺りを警戒していると、ナージャが量子通信を通じて、呼びかけてきた。
「ジン。聞こえる? ナージャよ。」
「ああ、聞こえるぜ。敵は見当たらないな。」
「警戒は怠らないで。いま、そっちにピーターが向かっている。
合流したらアタシが送信した場所に向かって。エリックにも
連絡したわ。5人揃ったら、研究所の近くまで移動しましょう。」
「了解。」
ジンがこめかみから指を離した後、向こうから見覚えのある顔が近づいてきた。
ピーターだ。銃を持ちながら、こっちに走ってくる。
ジンが走るピーターを注視していた。その時、不思議なことが起こった。
パシィ!!
いきなり大きな音がした。ジンは、ピーターが木の枝を踏んだと思った。
だが、ジンはピーターの近くで、異常なことが起きていることに気づいた。
空間にバリバリと紫色の電弧が走る。それは、青白い光球に近かった。
その光球は急激に膨張し、音を置き去りにして弾ける。爆心地が真空と
化した刹那、ピーターの肉体が、内側から弾け飛ぶように消失した。熱で
ガラス化した地面には、ピーターの二本の足首だけが取り残された。
ジンは周囲を見回す。敵は見えない。そして、ジンはあることを思い出す。
もしかして・・・敵はコレクターと同じ、光学迷彩を使っているのか!?
ジンは指で目元を触った。そして魔法生成AIのアミに熱感知ゴーグルの
設計図を量子通信網から探すように指示した。ジンは、物体錬成魔法を
発動し、目をゴーグルに変異させようとする。目元がゴーグルに変わった。
即席の熱感知ゴーグルで周囲を見ると、数人の人影がジンの視界に入る。
一人、三人、六人と敵がモニターの中で動く。生物の放射熱を視覚化する
熱感知ゴーグルのおかげで、青紫の空間を赤い人影が近づくのが分かった。
ジンは、左腕を右手で触り始めた。徐々に腕は変異し、自動小銃のM4カービンの
形に変貌した。ジンは、近くにいた赤い人影に向けて発砲した。音が響き渡る。
ジャングルで射撃音が大きく明瞭に聞こえた。何もない空間で敵兵の赤い血が
噴き出した。ドサッと何かが落ちた。空気中にパチパチとしたノイズが走ると、
背景に溶け込んだ兵士の姿が露になる。ジンは敵の一人を仕留め、木に隠れた。
すると後ろから口笛が聞こえてきた。ジンは、すぐに振り向いた。その瞬間、
ジンの右肩の近くで、紫色の電弧が出現した。マズイと思ったジンは、前方に
飛び込む。青白い光球が膨れ上がり、弾けると辺り一面が火の海になった。
ジンはその光球が何なのか、直感で分かった。あれはプラズマだ。
どういう理屈なのか分からないが、プラズマが爆弾になっている。
敵は、光学迷彩で姿を隠し、プラズマを爆弾にする魔法の使い手。
ジンは、量子通信でアミに相談した。分析で、何か分からないか尋ねた。
「もしもし、アミちゃん? 敵がどんな魔法か、推論できる?」
「はい。ご主人様。申し訳ありません。50%の確率ですが、
電子操作か光子操作の可能性があります。その魔法は禁呪魔法です。」
アミは、敵が魔法生成AIを使用せずに、自分で計算しているとジンに伝えた。
それは機械と同じ計算速度を誇る種族、魔族にしかできない芸当であった。




