第40話 第三勢力
朝にケルベロスと大立ち回りを演じたジンは、部下であるゼンと
一緒にクラブの近くにある店で昼食を食べる。とは言っても、
機械化人間のジンは飲み食いが出来ないので、対面で座るゼンが
マグロやタイのような魚が盛り付けられた丼定食を味わっていた。
ゼンは食べ終わると、食後にコーヒーを頼み、ジンに話しかけた。
「社長、ご馳走でしたァ!!」
「ゼン、ありがとな。お前のおかげでクライドに勝てたよ。」
「何言っているんすかァ!! 社長。俺ァ、どうしても分からないんですよ。」
「? どうした、ゼン。」
「うちの株価が上がる話なんですけど、途中から別の話になりましたよね?
特務長官と契約を結んだって本当ですか!?」
「本当だ。それが足かせになっている。だから、クライドと契約した。」
「!? どういうことッスか?」
「今のオレ達はナジュリの都合の良い駒になっている。この前のVIPルームの
潜入作戦もナジュリが主導していた。おかげで俺は氷の魔法を得意とする
獣人の殺し屋と戦うことになった。今回の六面相の事件も、特務の手柄に
なっている。解決したのはオレでも、オレらがギャングの黒桜會との共闘は
世間に公表できないとナジュリに言われ、結局あいつの口車に乗せられた。」
「そりゃ上場前の会社が反社と協力とか、特務も見過ごせないすよね・・・。」
「それだけじゃない。ナジュリは法の番人である特務省の長なんだ。反社の
支援を遠ざけるだけじゃなく、奴はオレを縛りたい。特務が動けない時に、
オレらを利用するためにな。だからオレはケルベロスを後ろ盾にするんだ。」
「なんで評判悪い傭兵会社と組まないとダメなんすか?」
「保険だ。ニュースでも知ったが、ケルベロスのバックにはAIbirthがいる。」
「あー。なんか番組で言われてましたね。」
「・・・クーロンから直接言われたが、AIbirthの社長はクーロンの仲間だ。」
「!! ま、マジですか? AIbirthが?」
「ああ。オレはクーロンと間接的な関係を作る。
そうすれば、ナジュリも今後オレらをこき使えなくなる。」
「社長。そうなりますかね?」
「ナジュリとクーロンは対立している。オレらは中間に位置することで、
どっちにも肩入れしない。ゼン、重要なのは、バランスなんだ。
もしナジュリとこのままの関係だと、一生奴の意のままになる。」
「つまり、社長はどっちつかずになろうと?」
「ゼン。会社をデカくするには下請けのままじゃダメなんだ。重要なのは、
大手を翻弄できる位置にいることだ。オレらの大切な客は情報を提供し、
それを買ってくれる一般人だ。特務じゃねえ。うちはナジュリの便利屋で
終わる訳にはいかねぇ。そして、ケルベロスがいることで抑止力になる。」
「抑止力ってなんすか?」
「EAMAのAIbirthとケルベロスが背後にいると、ナジュリも面倒ごとは
避けるようになるんだ。一方で、ケルベロスもオレを雑に扱えなくなる。
こんな話がある。ある国が二つの超大国の間に立って経済大国になった。
ある超大国の製造業の下請けをし、もう一つの超大国に安価な製品を売る。」
「・・・すると、どうなるんすか?」
「その国は、受注先の超大国から金を受け取り、取引先の超大国にも金を
もらって発展した。超大国のイデオロギーには染まらず、中立的な立場で
発言権を得たんだ。オレは、その国のやり方で株式会社ワイルドパンクを
第三勢力にする。もし、特務とEAMAが戦争になっても、オレらは中立の
立場を守る。そうすることによって潰されなくなる。独立性を保つのが肝だ。」
「あー・・・何となく分かりやしたァ。」
「ゼン、クライドの話はナジュリには内緒な。」
「何でです?」
「クライドから信頼を勝ち取っていない。まずは味方にしてから話すべきだ。」
「上場したら、あいつが議決権を持つ株主になりますよね? 大丈夫ですかね?」
「むしろそこがオレの狙いだ。クライドも経営に関わることで、ワイルドパンクを
守る理由が生まれるんだ。一蓮托生になればクライドも裏切れなくなる。」
この時、ジンはゼンに嘘をついた。ナジュリにクライドのことを言わないのは、
クーロンが言っていたことが原因である。もしナジュリがMRBのスパイなら、
パラメディオの研究所襲撃を止めようとする。襲撃対象のパラメディオは、
MRBのフロント企業だ。襲えば、彼女が所属している諜報機関の資金源を
潰されることになる。ジンはそう考え、ゼンに口止めを決めたのだった。
ジンとゼンは会計を済ませて、ミシェルが待つマンションに向かった。
一方その頃、ロズノフが部下達を引き連れて、テクジア社を訪れていた。
プライドシティ ビジネス街 ワールド・キャピタル地区 テクジア本社ビル
ロズノフ達は最上階に到着し、エレベーターの扉が開く。ロズノフの周りには
黒騎士ガルフロードと黒髪ロングの女、そして武装したパラメディオの社員が
警護している。ロズノフの近くにいた、黒髪で碧眼の女性が話しかけた。
「トニー。カイザーは私達に協力するかしら?」
「ベルザ。内部告発でテクジアは15兆ダナーの損害を被った。私が経営する会社に
メールを送ったのも、奴の懐事情が物語っている。」
「王と戦う私達に相応しいと思えないのよ。器が小さいからSWSで吠えるのよ。」
「元々、人付き合いよりもコンピュータと接することに人生を過ごした男だ。」
カイザーの部屋に着いたロズノフ達は、部屋の暗証番号を送信し、扉を開けた。
その部屋はバーチャルアイドルのフィギュアとポスターで溢れていた。
様々な髪型や瞳の色を持つ美少女がいる光景にロズノフ達は無反応だった。
テクジアの創業者で、会長のカイザー・ロンは赤茶色の丸いサングラスと
黄色いネクタイが特徴だった。カイザーは立体映像を見ながら仕事をしていた。
ロズノフ達に気づくと、すぐに映像を消した。カイザーは、ロズノフに言う。
「これはこれは。皆さんを待っていましたよ。」
「融資の前に確認したい。君は、同志になる気はあるのかね?」
「もちろんです。安寧と言いつつ、無益な戦争を続けて領土を広げる
王の暗躍には辟易します。立憲君主制と言っておいて、実際は王と
関りがある貴族や世襲議員が、王の命令通りに動いている!!」
「ああ。だからこそ、主の降臨が必要なのだ。」
「あなたから初めて、神という存在を聞いた時、正直震えました。
かく言う僕も、推しのアイドルは、神と呼んでいたんでね。」
「我々が創る主は、下賤で陳腐な物ではない。」
「あ! い、いえ。ごめんなさい。もっと・・・崇高な存在ですよね。」
「人工知能が、ループ量子重力理論を理解した。最早ブラックホールの
向こう側に行くことも夢物語ではなくなった。地球は、実在する。」
「ブラックホールの先に、コンピュータを教えた地球人がいると思うと
僕は興奮します。一体どうしてコンピュータを考えたのかと!!」
カイザーはハイテンションになり、激しく指を動かし始めた。
「君の好奇心に答える星ならいいな。カイザー、これから我々はヘリで
キュメロス島に向かう。そこでだ。君の会社が開発している量子ソフト
ウェア技術がほしい。不安定な量子を制御する必要があるからだ。」
一方、ロズノフは終始冷めた態度でカイザーに注文をつけた。
すると突然、ガルフロードが量子通信から得た情報を話し始めた。
「どうやら蠅の王の下僕が、ここに向かっているようだ。」
「ほぉ。特務が動いたか。」
ロズノフはカイザーを睨んだ。内部告発の件にしては動きが早すぎる。
カイザーがミスをしたのだろうと、勘ぐった。カイザーは言った。
「ま、待ってくださいよ!! あなた達のことは言っていませんよ!!」
カイザーは泣きそうに言い出すが、ロズノフは無視して部下達に指示を出す。
「長居は無用だ。出立の用意をしろ。」
ガルフロードが腕に収納していた片手剣を取り出すと、ロズノフに言った。
「火に群がる蛾。某が因果を断とう。」
「待て。構うな。我々は裏から出るぞ。」
行動を制止されたガルフロードは、不服そうな態度で、ロズノフに話しかける。
「某なら、王に付き添う雌蝿を滅せるが?」
「魔素細菌殺菌装置は殺菌剤の量に限りがある。ナジュリは時空操作魔法で
君の体を劣化させられる。長期戦になったら、ナジュリが勝つだろう。」
ガルフロードは、鎧の隙間から蒸気を放出し、その後ロズノフに言った。
「・・・金属の老朽化を狙うとは、度し難い。」
「腐食速度を操り、金属を腐らせる。君と相性が悪すぎる。」
ロズノフは、隣にいたベルザに幻覚魔法を使うことを指示した。
「無限回廊」
ベルザは手を広げ、見上げながら詠唱した。
部屋の床に赤い魔法陣が出現し、テクジア社のビルの廊下に変化が
起きた。外の廊下が回転し始め、やがて小分けされた廊下の一部が
迷路のようにつながり始めた。カイザーは机のボタンを押すと、壁に
隠していた扉が開き、エレベーターが現れた。ロズノフ達はそれに乗った。
そして、ビルに突入した特務官は突然現れたダンジョンに苦戦していた。
特務官がエレベーターから降りると、廊下が分断されており、そのまま進むと、
分かれ道になっていた。奥に進むと、すべての道が行き止まりになっていた。
この状況に、作戦に参加したベンジャミンは、こう叫んだ。
「やってくれるじゃないかァ!! 僕が大好きな幾何学模様の回廊とはァ!!」
ベンジャミンは、ナジュリから敵の幻覚魔法を解読するように命令された。
彼は奇奇怪怪な謎のダンスを行うと、魔法陣を顕現させ、床にしゃがんだ。
ベンジャミンが敵の暗号式を解読している間、ナジュリは心の中でこう呟いた。
「おそらく、ロズノフの仲間の仕業だろう。奴が私より早く動けるということは、
レックスのような間者が紛れているのか。探し出せねば・・・徹底的に。」
ナジュリに調教されたレックスは、後に意識を取り戻し、医務室から脱走。
屋上から飛び降りて命を絶った。ナジュリは、再び振り出しに戻ってしまった。
ナジュリは、ジンを食事に誘うことを考えた。六面相の件で、ナジュリはジンに
謝りたかった。もしこのまま放置したら、彼に嫌われてしまうと思った。
彼女は、なんだかんだで自分に協力してくれるジンを、好きになり始めていた。




