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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
パラメディオ編

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第39話 妥協

 ジンとゼンは、ナイトクラブ『レジーナ』で、大企業である民間軍事会社

『ケルベロス』の創業者クライドと武装した彼の部下に囲まれていた。


 本来なら、コレクター事件で共闘した『ケルベロス』の大口おおくちの取引に

 応じようとするジンだが、彼は仕事内容が気に入らなかった。


 諜報機関のフロント企業『パラメディオ』に、ベンチャー企業の自分達が

 乗り込んだ場合、失敗したらシティでの業務に支障をきたすと考えていた。


 ジンは脳内で、ケルベロスは自分達を捨て駒にできる立場にあると感じていた。


 オレ達はコレクター事件を解決し、名は売れたとはいえ、向こうは、戦争で

 名を上げた奴らだ。株主からの信頼も話にならないほど高い。おまけに悪名が

 弱点じゃなく、武器だ。奴らがパラメディオを襲っても、世間は納得しちまう。


 だが、オレ達がパラメディオに喧嘩を売れば、大きな後ろ盾がないオレ達は

 消し炭にされるだろう。ケルベロスは、最悪、オレ達のせいにしてもいい訳だ。


 どこの馬の骨とも分からないベンチャーが功に焦って大企業の施設を襲撃した。


 メディアはテロ組織としてオレ達を報道する。そうなればキャシーとの約束が

 守れないどころじゃなくミシェルやゼンの命も危ない。ただでさえ、オレは

 Meroメロ社のCEOキャサリン殺しの犯人にされたことがある。今は世間で疑いが

 晴れたとはいえ、社会的な信用ではまだ低い。どうする。オレは、謝るべきか?


 ジンの中で、二つの選択肢がよぎった。一つはクライドに土下座して、今後も

 ケルベロスと良好な関係で、ロズノフのことを探る。もう一つは、謝罪した後で

 ケルベロスの取引を丁重に断ること。臆病おくびょうと思われても、社員の身を守るべき。


 ジンに残された時間は、わずかだった。


 クライドは機械化人間サイボーグで、表情は変わらない。だが、明らかにジン達に

 対する印象は悪くなっていた。クライドの部下達も、ジンをにらんでいる。


 圧倒的不利。


 時価総額でも、組織力でも、ジンはクライドに勝ち目はなかった。


 黙っているジン。隣にいるゼンも焦り始める。彼は心の声で喋った。


「やべぇ・・・社長がァ・・・あの・・・いつも空気を読まない、

 いきなり絶叫する、ジン社長が・・・踏みとどまっているッ!!

 ど、どうすりゃ・・・どすりゃいんだァ!!」


 ゼンの中では、ジンはどんな相手にも噛みつく狂犬のイメージがあった。


 その一方で、他人の面倒を見ようする優しさが見え、ゼンは尊敬していた。


 電車の中ではギャングのボスを殺害したことを悔やみ、悪党だと自覚する。


 ゼンは生まれて初めて、この男に、命を懸けることを決めたのだった。


 そして、ゼンは心の中で決めた。自分が土下座して、クライドに許しをう。

 このままケルベロスと商談が終わった後には、自分達の会社が襲われるだろう。

 相手は戦争屋と呼ばれる、シティ最凶の連中。最悪、自分が犠牲になればいい。


 ゼンが腰を曲げようとした、次の瞬間。ジンがクライドに言った。


商談ディール。」


 ジンは、絶対に謝ってはいけないと考えた。


 ゼンは、大きく目を見開いた。


 ジンの不遜ふそんな態度に、ケルベロスの社員達も、怒鳴り始めた。


「ふざけんなァ!! 今から取引なんて出来る訳ねぇだろ!!」

「詫びろ!! お前らの処分は俺達ケルベロスが決める!!」


 一斉にケルベロスの社員はジンに銃口を向け、クライドも無言だった。


 ジンは、この世界で学んだことがある。


 それはいかにエゴを押し通すのかだった。


 前世では教師という権威に対し、素直に従って学ぶ方が最適解と考えていた。

 しかし、それでは何も状況が変わらなかった。担任の先生の提案に対して、

 生き方を教えたのは母親だった。母は、物語の主人公になれとジンに言った。


 それまで母親に対し、ジンは自分の世話をしてくれる人と、冷めた見方で

 距離を置いた。小さい頃は母を頼っていたが、やがて学校の教師や先輩を

 頼った方が簡単に評価が上がると知る。それが間違いだと気づき、彼は母の

 言葉から勇気を得て、海外に行った。その後、異世界でクーロンから学んだ。


 オレはあいつと出会って、この世界では、を通せる奴が全てを得ると知った。

 今まで対峙した敵もそうだった。主導権を握るために、主張を押し通してくる。

 なら、オレもこの世界の思想で戦ってやるよ。オレはもう、地球人じゃない。


 ジンは、堂々とした態度でクライドに向かって言った。


「パラメディオの研究所の襲撃には、協力する。ただし、

 あんたに『ワイルドパンク』の名前を宣伝してほしい。」

「・・・なぜだ?」

「オレ達は未上場の会社だ。あんたからすれば、オレらを使って汚い仕事を

 ケルベロスの代わりにやれると考えるだろう。上場しているあんた達は、

 常に株主とメディアの厳しい監視に置かれる。下手に動けない筈だ。」


「それと御社おんしゃの宣伝と何が関係ある?」

「ケルベロスが、今後ワイルドパンクの後ろ盾にならないなら、

 オレはあんたとは、一切取引しない。」


 ジンの発言を聞いたクライドは考え込んだが、すぐ返答した。 


「後ろ盾になったら、うちのメリットとは何だとお前は考えている?」

「あんたはノーリスクで将来必ず上がる有望株を手に入れる。」

「・・・御社の株だけか?」

「うちは情報発信者を集める会社だ。あんたは、革命を望んでいる。

 そのためには、民衆の支持が必要だ。オレらの後ろ盾になったら、

 あんたはワイルドパンクのユーザーを、味方にすることができる。」


 するとクライドの隣にいたケルベロスの社員がクライドに警告した。


「社長!! 騙されてはいけませんよ。コイツの会社の株主になったところで、

 大衆が支持するとは限りません。まして株価が上がる根拠がありません。」

「グレッグ、確かにお前の言う通りだな。さて、どう反論する?」


 ジンは、クライド達にケルベロスのメリットを具体的に説明した。


「うちの株価は絶対上がる。まずパラメディオの悪事が表沙汰になったら、

 あんたの会社の評判は上がる。集団昏睡事件しゅうだんこんすいじけんの原因は、パラメディオの

 研究所が出所だと分かったらネットユーザーは社会正義を行ったと考える。

 メディアが叩いても、うちのネットユーザーは企業の闇を暴いたと信じる。」


「パラメディオの闇だと?」

「ミドロワのスパイが経営するパラメディオが、世界中の人々のブレインデータを

 犯罪行為で集めていた。それを知った一般人は不信感を得る。コレクター事件を

 解決したオレらも味方という事実が、あんたの支持を集めることになる。」


「・・・当社が大衆のために行動したと思わせるのか?」

「思わせるじゃない。信じるしかないんだ。医療業界を牛耳る大企業に、

 悪名高いケルベロスが立ち上がった。番犬が、巨悪に嚙みついた。これで、

 世界中の人々がミドロワに管理される社会に、一石を投じることになる。」


「当社とパラメディオは対立している。一般人は小競り合いと思うだけさ。」

「いいや、違うね。戦争屋と言われるケルベロスだけなら、そうなる。

 だが『ワイルドパンク』も関わっているなら、話が変わってくる。

 オレは特務長官のナジュリと個人契約を結んでいる。ネットの噂では、

 オレは特務官ジャッジナイトと仲が良いと思われている。」


「なに? 君は特務官ジャッジナイトと関係があるのか!?」

「あのコレクターをハメる作戦を立案したのは、特務省ジャッジ・オフィスだ。あんたらは、

 ヨシロ自動車の依頼と思っているけど、オレがナジュリと関係が深いから

 経政連の議員も動かせたんだ。オレはあんたが考えるほど、弱くねえぞ。」


 クライドは、自分の情報網にはなかったことを知って驚いた。ジンがナジュリと

 契約をした事実は、当初信じられなかったが、七大企業セブン・パワーズでミドロワ陣営じゃない

 ヒロヤ会長が、突然ケルベロスに仕事を頼んだことがクライドを納得させた。


「・・・確かにコレクターの討伐作戦は、全ての手際が良すぎた。高性能偽体ディープフェイカー

 どうやって手に入れたのか、会長は話してくれなかった。だが、裏で特務が

 関わっているなら合点が行く。それなら会長もクラモトCEOも安心するな。」

「あんたが思うほど、オレは小物じゃないんだ。あんたがこの話を飲めないなら、

 ナジュリの仕事をやるだけだ。あんたは新参のオレらを誘って、テロによって

 世界を変える手駒を増やすつもりでも、悪いがオレは選べる状況にあるんだ。」


 ジンの発言を聞いたクライドと、ケルベロスの社員達は黙った。


 ジンの言う通り、当初クライドの思惑は目立ち始めたワイルドパンクを利用し、

 ミドロワ王国の国家転覆に加担させようとしていた。しかし、ジンの後ろ盾には

 特務長官がいるのは予想外だった。もしジンを裏切れば、逆に自分達が危ない。


 ハメられたのは、ケルベロスの方だったと気がついたクライドは、こう言った。


「ハハッ・・・なるほど、御社と話しているのは経政連の議員が運営する会社の

 重要施設を襲う計画だ。君をないがしろにすれば、ここで話されていたことを

 暴露するつもりだったのか。まさか録音されているとは思わなかったよ。」


 それはクライドの思い違いだった。彼とジンは機械化人間サイボーグだったので、

 クライドは録音機能があると思った。ジンに、そんな機能は一切なかった。


 だがジンはクライドの勘違いに便乗して、嘘をついた。


「当たり前だ。何の準備もしないで、あんたらに会う訳ないだろ。で? 

 どうするんだ、オレと組むなら後ろ盾になってもらうぞ。ただし、

 対等な立場だ。あんたは今後、オレらの仕事に協力する。あんたも

 オレらに依頼できる。革命には、参加しねえ。オレらはビジネス上の

 関係だ。もしも本気でテロを行うなら、オレはナジュリと一緒にあんたを

 捕まえるぞ。あんたの世話には一切ならねえ。オレの道はオレが決める。」


 ジンの啖呵たんかに、クライドは考え込んだ。やがてクライドはジンに言った。


「いいだろう。君の自信が噓なのかは、これから見極めようじゃないか。」


 こうしてジン達『ワイルドパンク』と株式会社『ケルベロス』は提携を結んだ。

 クライドは、ジンの会社が上場したあかつきには、優先株が手に入ることを契約した。


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