第38話 告白
六面相はジョーとオハギの二人に、なぜ人を異空間に閉じ込めるのかを話した。
「おいら、悩み相談のメールを読んでて、何とかしたかったんですよね。」
「ジブン、優しい男やん。」
「yumazaf7974さんは魔法を強化するコードをおいらに渡しました。」
「そいつか。会ったんだろ? どんな奴だ?」
「凄い美人でした。黒髪ロングの女の人です。」
六面相は会社を辞めた後、都市伝説や陰謀論をネタにすることを思いついた。
最初は誰も見なかったが、去年からじわじわと人気が出た。そしてオフ会で、
yumazaf7974と名乗る女は、本気で六面相が都市伝説を信じていないと
見抜いた。まるで心が読めるように、女は六面相の凍りついた心を溶かした。
六面相は、今まで付き合ったことがない異性にハマった。そして、ある日彼女に
渡されたコードを使い、困っている人が第二の人生を歩めるように異空間に
彼らを閉じ込めた。六面相は、ヒトは極限状態ならやり直せると信じていた。
それは黒髪ロングの女も言っていた。謎の女も大学卒業後、マイペースで
やることが出来なくて職場でいじめに遭った。そのおかげで彼女は覚醒したと
聞いた六面相は、ゲームなら救えると考えた。それならマイペースに生きれる。
ゲームのような仮想の空間で、地道にレベルが上がれば強くなれる新世界。
これなら、激しい競争社会の現実世界で、命を絶つことを考える人達は減る。
そういう理由でやりましたと言った六面相に、オハギは冷たく言い放った。
「その女は、君を夢中にさせるために、ただ演技しとったんやで。
戸籍もない女や。会社でいじめに遭った話も、嘘やろうな。」
六面相は、三毛猫の顔をした獣人に現実を突きつけられた。
そして六面相は、何かを悟ったような表情で、語り始めた。
「おいら、富裕層の臓器を作るために生成された人間でした。」
「・・・せやったんやな。」
「ドナーを待っていたら、コスパが悪いと思ったベンチャー企業が
おいらみたいな赤ん坊をバイオテクノロジーで大量生産しました。」
「おいらが物心つく頃には会社が倒産しました。原因は人工臓器の
技術が上がって、生物の臓器はいらなくなったようです。人工身体が
発明された後、お役御免になったおいらは孤児院に売られました。
おいら、悪って何だろうと思ったんですよね。本を読んで勉強しました。」
「・・・・・・」
「思想学の本、全部読んだんですけど、おいらを作った研究員達が
悪なのか、分かりませんでした。その後は高校出て、就職しました。
おいら、他の社員よりも仕事が出来て、昇進も早かったんですよね。」
「才能があったんやな。良かったやんけ。」
「でも、大学出てなかったおいらは、同じ学閥で団結している管理職の
人達とは上手く行かなかったんですよ。なんで学校の延長線上で
仕事を回しているのか分かりませんでしたね。社長と同じ学閥の人しか
社長になれないと分かると、辞めました。もう頑張る意味ないです。」
六面相は、会社を辞めると、ネットライバーの配信を見るようになった。
彼は都市伝説や陰謀論を語るネットライバーで成功を収めた。
「なんでおいらが、都市伝説や陰謀論を取り上げたのか。おいら、
気づいてほしかったんです。陰謀論を調べると話が非論理的に
なることが分かるんですよ。おいら、みんなに賢くなってほしくて、
都市伝説や陰謀論を話しました。そしたら誰も自分で調べない。」
「一般人なんてそんなもんやで。暇つぶしに動画見とるだけなのが多いで。」
「その代わり、おいらを頼る人が集まりました。それでアドバイスを
したんですけど、誰もその後連絡しないんす。ただ感謝するだけで、
解決したのかも教えない。おいら、他人を頼る考え方が好きじゃないです。
おいらは、ずっと一人で成長してきたんで。」
ジョーは、確信した。六面相は、彼を頼る人を閉じ込めることに
罪悪感を感じていない。AIbirthの魔法生成AIは使用者の大脳新皮質から
思考を読み取る機能がある。法律を破る目的で魔法を使った場合、即座に
使用者の権限をはく奪する。六面相は、それが機能しない例外的存在だった。
ジョーは思った。もしかするとシティの住民が受ける定期的な健康診断で、
六面相の特殊性を知ったロズノフが利用したのではないか。健康診断制度は、
パラメディオによって、独占運営されている。パラメディオにはロズノフの
仲間が紛れていると聞く。ロズノフはデータを掌握し、犯行を行っている。
ジョーが考え込んでいると、オハギは六面相に話しかけた。
「最後に、黒髪ロングの女とはいつ会うたんか、覚えてるんか?」
プライドシティ 繁華街 クラブ『レジーナ』
ジンとゼンは、昨日ミシェルの兄のクライドに指定されたナイトクラブ、
『レジーナ』の店の前に居た。時刻は午前10時25分で、クラブは開店前だった。
ジンは、クライドに言われた通りに、クラブの裏口のドアを数回ノックした。
突然扉が開いた。出てきたのは、フルフェイスマスクとタクティカルベストを
着た『ケルベロス』の社員であった。ジン達はクラブの中に入った。
ナイトクラブの中では、銃で武装した集団が、クライドと話していた。
ジンとゼンは、クライドを見た。腕を組んで、作戦内容を聞いている。
クライドは、ジン達に気づき、腕を組んだまま話しかけてきた。
「やぁ。ようこそ、番犬の庭へ。」
「クライド。あんたと組む前に確かめたいことがある。」
「? なんだ、言ってみろ。」
「あんたはオレ達『ワイルドパンク』を利用する気なのか?」
時間が止まったように静かになった。誰も微動だにしていない。
やがてクライドはポケットに手を突っ込むと、ジンに言った。
「未来は行動で確定される。今は御社を利用する気はないよ。」
「要するに今は話せないって訳か。ミシェルからお前のことを聞いた。」
「ソニアか。いずれ、御社も私のことを知るとは思っていたよ。」
「クライド、ミドロワにテロを仕掛けるのか?」
「それは御社とのビジネスとは関係がない。」
「違えェ!! オレが言っているのは、あんたが無関係な他人を巻き込むのかと
聞いているんだよ!! 契約を結んだら、もうオレも関係ねえよなァ!!」
「・・・ソニアが何を伝えたのか、私も完璧には分からない。
だが、これだけは言っておく。転生者の君には関係がないだろう。」
「オレはもうヴァドール人だァ!! 現実を受け入れて前に進む!!」
「なら現実を見るがいい。ミドロワがこの星だけではなく、君の
星も狙い始めている。資本主義に狂った国は、誰かが止めるべきだ。」
「そのために、犠牲者が出ていいって言っているのかァ!!」
「ミドロワは腐った国だ。あの国は世界のために滅ぶべきだ。」
「極論だろうがァ!! 誰もお前の革命を望んでいねぇんだよ!!」
するとクライドを侮辱されたと思った社員が、ジンに銃口を向けた。
空気が一変し、緊張感に包まれた。クライドは社員を制止し、ジンに言った。
「私も若い頃、君と同じように犠牲を出す革命を嫌悪していた。
だが、止めなければ地球が戦争で犠牲になる。ミドロワ人は、
力で地球の資源を奪う気だ。私の父や彼氏も、奪われた。」
「まだミドロワが地球を侵略するとは分からねえだろ!!」
「私も立場上、極秘情報が集まるんだ。公務省が宇宙開発を
進めているAerospaceXとは別に、宇宙戦艦を作っている。」
クライドの発言を聞いたジンは、呆然とした。ジンは六面相の異空間で見た
あの戦艦を思い出した。そうなると、王の話はAIの作り話じゃなかったのか。
ジンは再び、クライドに尋ねた。
「なんで公務省がクーロンの会社とは別に、宇宙船を作らせるんだ?」
「シティとは別の目的があるからさ。君は、ミドロワはなぜ戦争を望むと思う?」
「・・・領土拡大か?」
「違う。新陳代謝だ。資本主義は常に何かを生み出さなければならない。
それは兵器開発でもだ。作られた兵器は実戦で使わなければ意味がない。
国が領土を広げるのも負担が生まれるが、それ以上に経済的な利益を
求める。AIと違って学習しないんだよ、愚かなミドロワ人はな。そして、
私はミドロワ人として、国を滅ぼす。あの国は生まれ変わるべきだ。」
「お前はもう、プライドシティの住民だろうが。ミシェルと共に平和に_」
すると、冷静だったクライドが、ジンに怒鳴り始めた。
「平和の意味も分からないか、貴様は!!」
「なんだと!!」
「平和は自国の安全を最優先にすることだ!!
ミドロワは自国の安全のために敵国を探し、
その国を経済や戦争で潰してきたんだぞ!!」
「ゼルマニアがどうなったのか、知っているか?
あの国はミドロワに実権を握られ、ミドロワの
ために搾取される政治しかできなくなった。
ゼルマニアの若者は国への愛国心もなくなり、
シティやミドロワに出稼ぎに行っている。」
「・・・ゼルマニア人は不満がないのか。」
「もう、あの国は誰も、政治に関心を持たない。ミドロワ人に調教された。
国の運営や安全保障はミドロワ人に任せ、何も考えなくなったよ。
その末路が、シティの企業が作る娯楽に人生を捧げることだ。若い
ゼルマニア人は、祖国よりもミドロワ人の犬になることを選んだ!!」
クライドは、ミドロワ王国が世界中を経済的に支配し、ミドロワの
娯楽に憧れる若者を、科学至上主義のシティに集めていると語る。
その後、クライドは口論を終わらせた。そしてジンとゼンにこう言った。
「御社が私達に会いに来たのは、ミシェルのためか?」
「・・・・・・。」
「社長!? なんで黙っているんすか!!」
「違うだろ。私達とつながりを作り、何か目的を果たしたいんじゃないのか?」
クライドの指摘は、ジンの胸に響いた。ジンはキャシーと約束した。
ブレインデータを盗まれたアリーを助けると。そのためには、
自分の会社よりも大きい『ケルベロス』の情報網が必要だと考えた。
ジンは、どこでロズノフに会えるのか、分からなかった。
そしてパラメディオが所有する孤島に行けば、もしかしたら
会えるかもしれないと、そう思った。ジンは、クライドに話しかける。




