第36話 縁
ボサボサ頭、黒い背広と赤いネクタイが特徴のゼン・デ・ロス・サントス。
ゼンはベンチャー企業『ワイルドパンク』に再就職し、これから会社を大きく
させることに希望を抱いていた。そして今回、大手の民間軍事会社である、
『ケルベロス』の社長が会いに来たことを知り、彼はテンションが高かった。
「ついに来たぜェ・・・おやっさん、俺ァ絶対にこの商談を成功させます!!
俺ァ、おやっさんには迷惑かけてばかりで何も社会に貢献できなかったけど、
ジン社長の会社だけは、命を懸けてもデッカくしてみせます!!」
そう言うとゼンは、コーヒー専門店で購入した高級コーヒー豆の袋を開けると、計量スプーンでコーヒー豆を取る。焙煎された豆は、人工食材で溢れたシティではなくて、隣国のカタリアで育てられたオーガニックな地元産コーヒー豆だった。
ゼンは豆をミル付きコーヒーメーカーに入れ、念を込めてボタンを押した。
一仕事を終えたゼンはジン社長の方をチラッと見る。
ジンは、会いに来た『ケルベロス』のクライド社長と話し合っていた。
クライドは、プライドシティがミドロワ王国の衛星国である理由を話す。
「まず、このシティが独立したのは、ミドロワの都合だ。」
「都合?」
「ミドロワは世界中に自国の企業を進出させた。他国はミドロワに壊されたんだ。それまで馬車で移動していた人々が、電気自動車に乗り始めた。やがて馬車は売れなくなった。ミドロワの娯楽が世界を席巻すると、他国の価値観を破壊した。」
「ミドロワの資本主義が世界中に広まり、外国の文化も変えたのか。」
「そうだ。ミドロワ人はやり過ぎたんだ。そこで考えたのがシティの独立だ。」
「どうしてミドロワは、自国の領土を独立させたんだ?」
「世界中の資産を増やす場所を用意したんだ。」
「?」
「シティを各国の王族や貴族、政治家の投資先にすることで、ミドロワ王国は
ヘイトコントロールを行ったんだよ。」
「つまり他国の権力者を懐柔したのか。」
「そうだ。海外メディアも加担した。民衆に国際協調やシティで成り上がることを推進する。資本主義のせいで生活が苦しいのでなく、努力すれば成功者への機会が得られると、メディアを使ってプライドシティを『夢を叶える都市』にした。」
「だからか。この街に様々な種族が多いのは。」
「ミドロワの戦略さ。シティを世界の経済の中心地にさせることで他国の労働力と軍事力を奪っている。まぁ、他の国の権力者がシティから毎年利益を得ているのが一番大きい理由だ。ミドロワのダナー通貨が、シティの公式な通貨なのもある。
実際のシティは主権国家じゃなく、ミドロワの衛星国だ。」
ジンは、前世のネット動画で聞いたことがある話を思い出した。ある国を世界の工場にして、様々な国の権力者や企業がそこに投資し、利益を得ていた。ミドロワ王国は他国の反感を買わないように、自国の産業集積地を独立させて、海外の権力者がシティを利用できるようにした。様々な国はシティに征服されたというより、その恩恵を受けているのだから仕方ないと考えるのか。
クライドは、なぜMRBが暗躍しているのかを話し始めた。
「ミドロワの諜報機関、MRBがパラメディオを使ってシティを監視している。」
「監視? なんでそんなことをするんだ?」
「プライドシティはミドロワ王国以外の国からも出資を受けている。
そうなると、ミドロワ王国に隠れて技術提供や横流しをやりかねない。
だから軍事分野に強いパラメディオにシティの企業を見張らせている。」
「シティの企業に別の企業群を監視させるのか。ただ、パラメディオも莫大な金を
もらったら裏切るんじゃないのか? 金で動く連中が多いだろ、ここ?」
「パラメディオはMRBのフロント企業だ。」
「パラメディオの社員はスパイばかりなのか。」
「だからパラメディオが裏切ることはないんだ。むしろシティで起業した会社は、
常に現役のスパイに監視を受けるようになる。我が社にも産業スパイが来た。」
「闇深いな・・・。あと、特務官のジョーから教わったけど、パラメディオは医療機関を通して得た情報をMRBに売っていると。実は上層部に報告していたのか。」
「なので、量子セキュアクラウドも当然MRBの監視下、だったのだが・・・。」
「? 何か事情が変わったのか?」
「我が社の情報網によると、ブレインデータ強奪事件はMRBも調査中でな。
どうもパラメディオに別の勢力がいるようだ。そこで、我が社と御社の
出番という訳だ。MRBに喧嘩を売るのは、超大国を敵に回すという意味だ。」
クライドは、不敵な笑みを浮かべた。ジンは、慌ててクライドに言った。
「おい、まだオレらはあんたらと組むとは言ってないぜ!?」
「MRBを欺いて、パラメディオに潜伏している敵を倒す。
そうすれば、ミドロワも我々を国家の敵として潰そうとはしない。」
「・・・・・・リスクがありすぎるだろ。」
「御社は、どんな敵にも戦い抜くと聞いたがな。トレバーという部下からね。」
「・・・あいつか。」
「我が社は国家に従属しない軍隊だ。仕事内容や報酬次第でどんな敵でも戦う。」
「あんたらケルベロスは民間人を蹂躙したって聞いたぜ?」
「それはフェイクニュースだ。メディアは我々を嫌っているからな。」
ジンは一瞬目を疑った。ケルベロスは東ゼルマニアで住民を焼いたと
言われている。しかし、フェイクニュースとは信じられなかった。
「どういうことだ?」
「単純な話さ。東ゼルマニア軍が反乱分子を焼き払ったのを、我が社の
せいにされた。奴らは契約社員が居たテントも襲撃してね。ところが
戦争が終わったら世界中のメディアは我が社の悪行にした。まぁ犯罪企業の
出自が問題だった。我が社がAIbirthと提携していたのも拍車をかけた。」
「なんでそれが、あんたらケルベロスを悪くする原因になるんだ?」
「AIbirthの社長はシティの改革を訴えていてね。経政連がミドロワの傀儡なのが、気に入らない。そこで上場を狙っていた我が社と組んだ。それがMRBと七大企業の数社に睨まれたんだ。以来、我が社とAIbirthはネガキャンされている。」
「ミドロワの衛星国から脱却しようとするだけでメディアも敵になるのか。」
ドサッ。
何かが落ちた音がした。ミシェルが買い物袋を落としていた。
後ろを振り向いたジンが、話しかけようとした瞬間、ミシェルから声が出た。
「兄さん・・・ッ!!」
するとサングラスを掛けた女性にしか見えないクライドが言った。
「戻ってきたのか。ソニア。」
今日、クライドが言った名前を聞き、ジンは、ミシェルには別の名前が
あることを、ここで初めて知った。ミシェルは急に怒り出した。
「私を騙したのね!! 今日兄さんが会いたいと言っていたから、
お店でずっと待っていたのに!! ジンくんに会っていたんだ!!」
「ソニア。後でお前にも会おうと考えていたんだよ。」
「だったら数時間も待たせるのはおかしいわ!!
兄さんはジンくんを巻き込むつもりなの!? まだ革命を目指すの!?」
「革命の針は、私の中で一度たりとも、止まったことはない。」
「兄さんのせいで・・・アカイチさんは・・・。お父様のように殺された!!!」
急に始まった兄妹喧嘩。ジンが止めようとした時、ゼンが割り込んできた。
「まぁまぁまぁ!! せっかく、兄妹水入らずの時間なんだ!! ここは俺が
淹れたコーヒーを飲んでよ、和やかに過ごそうじゃねえか!!」
ゼンは、コーヒーが入ったカップが4つ並んだトレイを持って、テーブルの上に
コーヒーカップを並べ始めた。それに対して、ミシェルはクライドに言った。
「帰って。」
「ソニア。私達は今、大切なビジネスの話をしているのだ。」
「帰って、帰って、帰って・・・帰れよ!!」
ミシェルの目は真っ赤だった。涙も出ている。それを見たクライドはソファから
立ち上がり、何が起きたのか分からないジンに対してこう言った。
「また、日を改めて話そう。もう、この世界には時間がない。王も動き出した。」
そう言ってクライドはオフィスを出て行った。ミシェルは、まだ泣いていた。
気まずい雰囲気になったと思ったゼンは、急にジンに話しかけた。
「社長・・・とりあえず、ミシェル姉さんを落ち着かせませんか?」
「ああ・・・。」
ジンはティッシュを探すとミシェルに渡して、ミシェルの隣に座った。
やがて落ち着きを取り戻したミシェルは、なぜクライドが女性の姿で、
過去に何があったのかを話した。ジンとゼンは静かに聞き入った。
キュメロス島 パラメディオ量子科学技術研究所 入り口付近
生い茂る人工植物に囲まれたキュメロス島で、激しい戦闘が起きていた。
犯罪企業の構成員は自動小銃で撃つが、地上を高速で動き回る黒い物体を
止められなかった。やがて黒い影が止まると、その正体が判明していった。
黒く塗装された金属で構成され、剣の斬撃や銃弾を弾く優れた防御力を持つ体。
兜には金の装飾が施され、兜の隙間から青白い目が二つ現れた。元ミドロワの
騎士ガルフロード。彼はパラメディオで、機械化人間の傭兵として働いていた。
ガルフロードは、侵入した犯罪企業の『ヴィジランズ』の男達に言った。
「他愛もない。蚤の如く、這いずり回ることしか出来ぬか。」
「うるせぇ!! こっちはテメエみたいな化物がいるなんて知らねえんだ!!」
「戯言を。貴様らには強者の血を吸う、寄生虫のような強かさも一切見えぬ。
そろそろ、この縁も終いにしよう・・・雅道剣、嵐!!」
「アギャァアアアアアアアア」
「ア゛ァアアアアアアアア」
「ヴァオオオオオオ!!」
次の瞬間、ギャングの男達は網目状に細切れにされ、地面には赤い肉片が
血の池で浮かんだ。ガルフロードは、剣に付く血を振り払うと、こう言った。
「脆弱な者達よ。虚無の海に還るが良い。」
ガルフロードは背部のスラスターからジェット噴射し、研究所に戻っていく。
彼はまだ見ぬ強者を求め、自らの肉体を機械に捧げた。そして魔法を使う者を
弱者と呼び、魔法を封殺するため、魔素細菌を殺菌する装置を積み込んだ。
一方、研究所に来たアンソニー・ロズノフは、禿げ上がった頭が特徴の研究所
所長に対して、異世界の生物を量子情報生命体化にする研究について尋ねた。
色々と誤字脱字が見つかり、修正しました。
毎回読みづらい文章で、本当にごめんなさい。




