第34話 感謝
ジンは、いきなり拍手を始めた2Dドット絵で表現されている王を見た。
王は、王冠と長く白い髭、そして透き通るような水色の瞳が特徴だった。
やがて、王はジン達に話を始めた。その声は、おどろおどろしい声だった。
「実に、実に深い話じゃあないか。余は、主らが思考に思い巡らせ、
議論することに感心している。文明人と魔物の差は、そこなのだ。」
ジンは王の言葉に疑問を感じた。文明人・・・つまりミドロワ人のことかと。
続けて、王はジンに向かって質問した。
「問おう。地球から来た者。主は、この星の資本主義をどう思う?」
「・・・・・・めちゃくちゃ問題があるな。地球にも問題があるが、
この国は組織犯罪をビジネスと認めたり、脳を機械化するために
企業ぐるみで犠牲者を出したり、AIによる国を作ろうとする奴を
野放しにしているとかな。ハッキリ言って地球よりも悪化している。」
「然り。余は、資本主義を生んだ地球に感謝している。
そして・・・余は、地球という惑星に好奇心が芽生えた。」
「地球を侵略する気か!! そうはさせねえぞ!! 地球には、
ミドロワよりも強い国が十ヵ国もあるぞ!! 諦めなァ!!」
「それは余の目で、直に確かめる。時間はいくらでもある。」
「・・・なんだとぉ!?」
「余には、時を操る魔女と、余の命令には従順なスパイや無人兵器もいる。
地球人は、もう核融合炉は開発できたのか? 宇宙太陽光発電はどうだ?」
「できらぁ!! 地球をなめんじゃねえ!!」
「地球を侮ったことはない。実に、実に民と知に恵まれた惑星だ。
であれば、余の国も総力を上げて、余の宇宙を平和にせねばならない。」
ジンは、2Dドットの王になぜか胸騒ぎを覚えた。まだ、何かを隠している。
突如、王は指を鳴らすモーションを行い、見たことがない宇宙船を見せた。
宇宙戦艦は雪のように白く、砲塔のような物もいくつか見える。宇宙戦艦は
建造中と思われ、地下で撮られた映像だった。ジンは毅然とした態度で言った。
「なんだそれは?」
「超光速航法を可能にするミドロワ宇宙軍の母船だ。地球に行くためのな。」
「・・・それはどんな武装なんだ!!」
「余が知る限りでは、地球人のレーダー技術では探知できない。」
「・・・ッ!!」
「逆らう地球人は、何が起こったのか分からず、破滅を迎えるだろう。
そして話の分かる地球人と交渉し、地球は余の領土として永続的に繁栄する。
余は、ミドロワが全宇宙の覇者になれるのか、第三文明で終わるのか。
それを生きているうちに知りたいのだ。特に、地球人は我々と似ている。」
「第三文明?」
「まだミドロワは、ヴァドールだけでエネルギー資源を確保できる文明だ。
銀河スケールでエネルギーを確保できなければ全宇宙の覇者にはなれん。」
王以外の2Dドットキャラは、話がよく分からなかった。
ジンも唖然としていた。すると、アミがジンに解説した。
「ご主人様。・・・第三文明は、惑星レベルで全エネルギーを制御できる
科学技術を意味しています。第一文明で、銀河スケールのエネルギーを
制御できる科学技術が手に入るのです。アミは王が本気だと推論します。」
「アミちゃん、ありがとな。そういうことか・・・。」
第一文明を目指している王は、最後にジン達にこう言って、別れを告げた。
「恐れるな、地球人とヴァドールの民よ。不死になった余の治世の下で、
安寧の時を生き続けるのだ。最早、考えることも必要ない・・・。」
そして画面は暗転し、ジン達の目が覚めると、そこは六面相の事務所だった。
ジンの目の前には床に倒れているタイラーと、ぐったりした様子の六面相、
そしてずっとジンを見守っていた柄シャツ姿のギャング達が床に座っていた。
ジンは六面相に話しかけた。異空間とは違い、今の六面相は顔色が悪く見える。
「おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
「あ・・・はい。おいらは、もう平気です。」
「色々としんどいけど、とりあえず約束は守れ。オレはお前に勝った。
だから閉じ込められた人達をすべて解放しろ。そしてオレの会社で
不正利用はやめろ。1000万ダナーは、後日請求する。」
「あ、やっぱりお金を取る気満々なんですね・・・。」
「それが資本主義で生きる掟だ。オレも社員を食わせないと
いけない立場なんだ。赤字が続いて、このままだと倒産だ。」
「そんなに上手くいっていないんですか・・・。」
さっきまで戦った男の顔とは思えないほどに、六面相の顔は青ざめていた。
六面相の唇は紫色に変色しており、呼吸器や循環器に問題があると思った
ジンは、量子通信で救急車を呼ぶことにした。すると、黒桜會の構成員の
一人がタイラーを肩に担ぎ、六面相をソファに寝かせるジンに言った。
「ジン社長、頭は俺らに任せてくれ。医療保険を払ってないんだ。」
「おい、そいつは重症だろ? 病院に行った方が_」
「かかりつけの専門医がいるから大丈夫だ。いちいち正規の病院に
行っていたら、経済的に身が持たねえんだよ。よし、いくぞ。お前ら!!」
黒桜會の4人組は、六面相の事務所から逃げるように出て行った。
ジンは、彼らが適切な治療を受けることすら、経済的に難しい国にいると
学んだ。先ほどの王の振る舞いといい、経政連も福祉政策には関心が
薄いのではないかと思った。前世の、日本とはまるで違う文化圏だった。
ガチャ。
突然、どこからか音がした。ジンは、六面相のソファから音の場所に注目した。
・・・!! 誰か居たのか? まさか、新手の刺客か!?
足音が聞こえてきた。そして、音の正体は判明した。ジンと目が合った。
それは六面相に閉じ込められていた女子高生、キャシー・アリンガムだった。
ピンクのサイドテールの少女は、目の前にいる金髪碧眼のマスク男を見た瞬間、
飛びついた。異空間を彷徨った少女にとって、ジンは現実世界の照明だった。
泣き叫ぶ少女に抱かれるジンは困惑していた。なぜ、ボウリング場で会った
少女が現れたのかと。やがてジンは自分の腕で少女の背中を優しく包み込んだ。
ジンの鋼鉄の胸の中で、泣きじゃくる少女に、ジンはこう言った。
「もう心配ねぇ。」
「・・・?」
「オレがいる。」
「・・・。」
少女は泣くのを止めた。二人の男女の間には、静寂の時間が流れる。
すると、今度はピンク髪の少女の方からジンに話しかけた。
「怖かった・・・うち、もう誰も信用できなくなった・・・。
他人なんて頼るんじゃなかった・・・。」
「大丈夫だ。お前は頑張った。もう休んでいい。」
「・・・でも、でもこのままじゃ・・・アリーが。」
「今は考えなくていい。もうすぐ家に帰れる。」
「でも・・・アリーは病院を・・・。」
「オレが何とかする。だからオレに頼ってくれ。」
数分後、近くの総合病院から駆け付けた救急用グラビランナーが空中で
停止した。ジンは六面相を救急隊員に引き渡すと、24時間無人タクシー
サービスを呼び始めた。わずか2分で、黄色いグラビランナーが現れた。
二人を乗せたグラビランナーが上昇していく。真夜中の高層ビルの間を
器用に通り抜けていく。AIの操縦は障害物を僅差でかわし、最早生物が
運転するよりも判断が速いと、ジンは感じた。これなら運転手になる者が
道理で増えない筈だ。自動化が進み、労働者も狭き門を勝ち抜かないと
いけない。マシュアが言っていたように、資本家だけが歓迎されている。
ジンは、グラビランナーの窓から夜景を眺めながら、こう思った。
六面相は、資本主義が不幸の連鎖を生むんだと言っていた。もしかしたら、
あいつは次の段に上がる度に、あいつの助けを必要とする人々の苦しさに
気づいてしまったのかもしれない。この世界は金を出せる奴が、思い通りに
生きていける。下は機械との競争にさらされ、肉体を改造するしかない。
ジンに寄りかかるキャシーは、目を閉じて深い眠りについていた。
キャシーから聞いた住所を入力したグラビランナーは、目的地に辿り着いた。
彼女の家は周りの家々と同じ構造をしていた。門の向こう側にはバスケット
ボールのゴールが設置されている。それだけが他の家と違った個性に見えた。
インターホンを押すと、ジンは応対した少女の父親に事情を説明した。数分後、
キャシーの母親は行方不明になっていたキャシーを抱き、目の前のジンに感謝の
言葉を述べた。ジンは会釈し、キャシーの家に上がらずに、路上で待たせている
グラビランナーの中へ姿を消した。グラビランナーは、ゆっくりと離陸した。
グラビランナーに乗っていたジンは、キャシーの親友であるアリーのことを
助けるために、救出作戦を練っていた。彼女の入院費は何とか工面できるが、
黒幕のロズノフを倒さない限りは、彼女が目を覚ますことはない。どうやって
彼の元に辿り着くのか。ジンは、彼と会える場所に心当たりがまるでなかった。
ジンは、王の言葉も気になっていた。時を操る魔女とは、ナジュリのことだ。
王は従順なスパイとも言っていた。しかし、初対面の自分にペラペラ話すか?
あれは六面相の魔法生成AIが作った疑似人格で、精神攻撃で六面相を守ろうと
防衛プログラムだったのか。それとも、量子通信網で学習し、王の秘密を知った
AIからのメッセージなのか。いずれにしても、六面相から聞き出す必要がある。
プライドシティ 特務省 地下2階 特別尋問室
一方その頃、ナジュリは捕らえたレックスを調教していた。レックスに麻袋を
被らせ、口や鼻の穴に水を注ぎ込む。水に濡れると縮む麻袋は、どんどん空気を
奪っていく。彼女は一定領域の時を加速させ、連続攻撃のように繰り返した。
レックスが意識を失うと、今度は麻袋を取り、レックスの顔を手で叩いた。
ナジュリは時を加速させる。見る見るうちに、レックスの顔は腫れ上がった。
ナジュリの青い瞳がレックスの瞳に映り込む。彼女の白いブラウスから
湯気が立っている。ナジュリは、手で額の汗を拭き、レックスに尋問した。
「ふむ。ここまで耐えるとは、どうやらお前は、主への忠誠心は高いようだな。」
少し笑っているようなナジュリとは対照的に、レックスは息をしながら答えた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ。王の・・・犬・・・。」
するとナジュリはレックスの髪を掴み、レックスの顔の近くで話し始めた。
「私が陛下と関わりがあると、誰に聞いたんだ?」
「・・・ハァ、ハァ。フッ、誰が・・・言うか。」
「クーロンか? それとも・・・ロズノフか?」
「ク。」
「クーロンか。」
「クソッタレ。王の・・・雌犬。」
次の瞬間、レックスはナジュリによる超高速の連続ビンタを食らう。彼の
返り血が、ナジュリの頬に飛び散る。その後、ナジュリは弱ったレックスの
髪を掴み、まったく動じない態度でレックスに質問した。
「誰の命令で、私を調べていたんだ?」
「・・・・・・我々は、待っていたんだ・・・。」
「何をだ?」
「我々は・・・天と地がひっくり返ることを・・・待っていた・・・。」
「革命か。ふむ。陛下に危害を加える気か?」
「・・・そんな必要はない・・・入れ替わるだけだ・・・。」
「誰と誰が入れ替わるんだ?」
「・・・シュだ。」
「しゅ?」
そう言うと、レックスは失神した。ナジュリはレックスから手を放した。
ポケットから青いハンカチを取り出すと、血で汚れた手を拭き始め、量子通信で
フェイフェンを呼び出し、気絶したレックスを医務室に運ぶように指示した。
そしてプライドシティは朝を迎える。いつものように住民とロボットは職場や
学校に向かうために交差点を渡っていると大型街頭ビジョンに速報が流れた。
そのニュースとは、現在プライドシティ全体で発生している集団昏睡事件の
原因が世界最大のソフトウェア開発企業であるテクジア社が設計・開発した
『Mindow109』の欠陥にあると内部告発者がいることを伝える内容であった。
ニュースキャスターは、プライドシティで企業間の冷戦が始まったと語る。




