第30話 突撃訪問
一方、怪人六面相の異空間によって、正六面体のゲームキャラクターに
変貌したキャシー・アリンガムは、上空に向かって叫んでいた。
「どうしてぇ!! なんでぇ!! うわぁあああああああああん!!」
単純なボクセルアートになったキャシーの目からは、水色のラインが出る。
そんな彼女に対して、天から怪人六面相の声が降ってきた。
「おいら、言いましたよね? 自分に正直な人が一番好きって。」
「!! 六面相さん!? 助けてェ!!」
「キャシーさんは、今の世界が辛いんですよね。おいら分かります。」
「・・・・・・え?」
キャシーは異空間で呆然と立ち尽くした。六面相は笑いながら話した。
「将来が見えないですよね。自分の親友も救えないくらい、貧しい。
物質的な貧しさは、心も貧しくなります。他人の不幸を見ると、
自分もいつかそうなると、考えてしまう。それって不幸ですよね。」
「な、なにを言っているんですか・・・?」
「おいらは、自分に正直に生きる人々が、不幸になるのが一番
許せないんですよね。だったら、努力すれば報われる世界で
本気を出せばいいじゃないですか。だから案内しました。」
六面相の言葉の意味が分からないキャシーは、こう言った。
「ここから出してください!! 一生のお願いです!!
早く親友を助けないと、あたしは____」
「それは、あなたのエゴですよね?」
「!?」
「親友があなたに頼んだんですか?」
「い、いいえ・・・。」
「もっと冷静に見つめてください。今のあなたに必要なのは、
幸福になることです。あなたが居た世界では、あなたは自分を
大切にできません。ここでは、食事や睡眠も必要ありません。
ここでモノを壊せば、レベルが上がります。レベルが上がると、
あなたのステータスも上昇します。あなたは満足できます。」
「そんなこと・・・うちは望んでいない!!」
「最初は皆そう言います。犯罪企業のボスの娘さんもおいらに
言いました。でも、彼女は今、自分を大切にして生きています。」
「い、意味がよく分からない!! いいから出してよぉ!!」
「結局慣れ、なんですよね。思い通りに生きれる世界で、
新しい自分を認めてください。おいら、見守ってます。」
そう言った六面相の声が聞こえなくなると、キャシーは四つん這いになった。
周りの景色は、すべて正六面体のボクセルで構成されている。元居た世界とは
真逆だった。正六面体の羊のような物体が近づいてくる。キャシーは無視した。
やがて、キャシーは何のために来たのか、分からなくなった。
そして彼女は立ち上がり、ボクセルアートの世界を歩き始めた。
ボクセルのキャシーは、もう何もかも、どうでも良くなった。
プライドシティ AerospaceX 本社ビル 1階
銀色のエレベーターの扉が開く。ジンは、見知らぬビルのホールに居た。
ホールは目を閉じたまま、フラフラと歩いているゾンビのような社員で
溢れていた。その異様な光景に、既視感を覚えるジンは、ふと呟いた。
「昔、高校の友達の家で遊んだFPSで、こんな光景があったな・・・。
ゾンビの会社員達が徘徊していて、最初は何とも思わなかったけど、
あとでゲームライターの解説読んだら、あれはメタファーだと知ったな。」
ゲームライター曰く、労働環境の改善を求めたプログラマーが抗議したら、
上司に怒鳴られたので、腹を立てたプログラマー達は、休みをもらえない
人々がゾンビなってしまった世界を舞台にしたゲームを制作したようだ。
プレイヤーが一部のゾンビに話しかけると、当時の上司の悪口が聞けた。
ジンが前世のゲームライターの記事を思い出していると、隣のエレベーターの
扉が開いた。そこに現れたのは、自分を追い詰めた豹顔の機械化人間だった。
豹顔の男はジンと目が合った。ジンは、豹顔の男を見上げながら、こう言った。
「また会えたな。ユキヒョウくん。」
「・・・ロニだ、俺はロニと言う。」
「・・・そうなのか。ロニ、お前はなんでオレを狙った?
お前言ったよな。勝者だけが望みを叶える。オレはお前に勝った。
だからお前はオレに答える義務がある。雇い主は誰だ!?」
「・・・フッ。戦術はなっちゃいねえが、論理だけは一人前のような
素振りを見せやがる。口も実力に見合うといいな。せいぜい精進しな。」
「おい、話を逸らすんじゃねえよ。さっさと答えろ。」
「ゼッカード。調子に乗るな。あの勝負は、誰が見ても引き分けだ。
お前の屁理屈に俺が従う道理はねえ。知りたければ、てめえの情報
ネットオークションで探すんだな。ユーザーがお前を導くだろうよ。」
ジンとロニはお互いに睨みつけた。暴風のジンと氷結のロニは対立した。
夢遊病状態の社員達が彷徨うホールに、何とも言えない緊張感が漂う。
すると、突然ジンの人工耳に量子通信の呼び出し音が鳴った。ジンは指を
自分のこめかみに当てると、視界の右上に見覚えのある顔が浮かんだ。
それは、黒桜會のブライアン一家、若頭のタイラーだった。
タイラーはジンに対し、かなりイライラした様子で話しかけた。
「我!! いつまで待たせるねん!! もう夕方やぞ!! コラァ!!」
「あんたか・・・悪い、捕まっていた。今オレをボコした奴と対峙している。」
「ンなことワシらには関係ないわぁ!! 六面相がまた女を閉じ込めたんや!!」
「なんだと・・・!?」
「さっき六面相から連絡があったんや。また一人救いました、とな。
あいつはヒトを空間に閉じ込めることを救済と思っているんや!!」
「・・・分かった、今から六面相のところへ行く。」
「カチコミかけたら、ワシらが六面相を取り押さえる。あいつも捕まった状態なら
空間創造魔法は使えない筈や。自分も巻き込まれるからな。自分の部屋の一部を
異空間の入り口にしているのは、もう分かった。だからお前は最初に六面相と
同じ部屋で会うんや。あいつに会うまで、牙を隠しておくんや。」
「オーケイ。ありがとうな、タイラー。」
ジンは量子通信を終えると、自分を見つめているロニに話しかけた。
「この勝負はお預けだ。また会おう、ロニ。」
「お前に興味はない。依頼主が興味あるだけだ。」
「その依頼主には御礼参りに行くぜ。」
そう言うと、ジンは勢い良く走り出した。そしてエントランスから出ると、
外は既に夕焼けで、防衛用ヒューマノイドが固まった状態になっていた。
青いグラビランナーに潜伏していたジョーが、ジンがビルから出るのを見た。
ジョーはすぐにフェイフェンに作戦終了を伝えると、ナジュリに連絡を入れた。
それから数秒後、静止していた防衛用ヒューマノイドは再起動し、
クーロンと量子通信状態に入った。目の前を横切るジンを撃つのを
待つ防衛用ヒューマノイドに、クーロンは見逃すように伝えた。
ホールを悠然と歩くロニは、あちこちで寝ている社員を見て、こう言った。
「まるで猫の溜まり場じゃねえか。まったく、今日はどうかしているぜ。」
豹顔の機械化人間、ロニエル・アシュトンは額に手を当てた。
プライドシティ ワールド・キャピタル地区 とある電気自動車の中
停車中の黒いワゴン型の電気自動車に、ジンと黒桜會の連中が乗っていた。
車内で、タイラーは拳銃のような武器をジンに渡すが、ジンはこう言った。
「それは大丈夫だ。オレは物体錬成魔法で、武器を作れる。数分間だけな。」
「なんやそら。バッテリー消費が激しゅうて割に合わへんやろ。」
「逆に武器を常に持っている方が、オレには割が合わないんだよ。銃の
メンテナンスも面倒くさいし、武器を持ち歩いていたら重量が増える。」
「・・・なら、ええわ。よっしゃ、まずワシらが六面相に会いたいと言う、
投資家が来ると伝えてある。ワシらはお前を迎えに行っているちゅう話や。
あいつも用心深いからな。投資家を名乗って有名人に会おうとする奴には、
裏社会のワシらがおもてなしするんや。偽物やったら処理するためにな。」
「逆にお前らが会いに行ったら、それだけで評判落ちる気がするけどな。」
電気自動車の扉が開き、タイラー達と共にジンは六面相が待つビルに向かった。
プライドシティ ビジネス街 ワールド・キャピタル地区 とあるビルの40階
タイラーが六面相の事務所のインターホンを押すと、男の声が聞こえてきた。
「はい。どなたですか?」
「ワシや。あんたに会いたい男やが、調べたら真っ当な投資家やったで。」
「そうでしたか。あ、じゃ入ってもらってください。」
「ところで、今何をしとったんや?」
「撮り溜めた動画を編集していました。」
「そら難儀やな。ワシらも変わってやりたいな。」
ガチャ。
ロックが外れる音が鳴った。オートロックなのはエントランスだけで、扉は
内部から施錠するみたいだ。ジンは周りを見渡すと、天井には監視カメラが
ないことに気づいた。ここで何が起こっても、映像に記録されないようだ。
タイラーが扉を開けると、そこには黄色い野球帽の男が立っていた。
ジンは、ニヤニヤ笑っている六面相に案内され、茶色いソファに座った。
反対側に座る六面相の背後には厳ついギャングの男達が立っていた。
まず、ジンが口火を切る前に、六面相は膝に手を組んで話し始めた。
「あなた・・・ジン・ゼッカード社長ですよね。コレクター事件を解決しましたよね?」
「ああ、そうだ。素性を隠したのは、あんたが警戒すると思ったからな。」
「なぜ、おいらに会おうと思ったんですか?」
「あんたがワイズマンと名乗って、うちのサービスを不正利用していたから
損害賠償を請求しようと思っている。ちなみに賠償総額は1000万ダナーだ。」
「それって証拠あるんですか? 逆に名誉毀損で訴えていいですか?」
すると、突然背後にいたタイラーが六面相を羽交い締めにした。
タイラーは今までの鬱憤を晴らすように、六面相に言った。
「我も終いや。もうええ加減に白を切るんはやめや。」
「・・・なんのことを、言っているんですか?」
「とぼけんなや!! もうワイらはうんざりやねんで。ちゃっちゃと
閉じ込めた人たちを解放しぃ!!」
一瞬の出来事だった。羽交い締めされている六面相は、脳内の魔法生成AIに
プロンプトし、部屋全体に仕掛けられた空間創造魔法が発動した。六面相を
中心に円形の魔法陣が広がっていく。すると、その魔法陣に触れた人々が
消失していくかのように、異空間に転送された。六面相はこう叫んだ。
「遊戯物語」
ジンは、六面相達と共に真っ黒な空間へと移動した。次の瞬間、画面は
明るくなった。すべてがドットで描写された2Dゲームの世界だった。
目の前に黄色い帽子で水色の髪型、黄色いジャケットを着ているドット
キャラが見える。謎の声も聞こえてきた。ジンは、体を動かせなかった。




