第28話 思惑
ジンがクーロンに捕まっている情報はナジュリの耳にも届いていた。
そのニュースはナジュリにとっても、最悪の状況だった。
ナジュリの執務室には、エドワード・グッドマン1佐も傍にいる。
ジン奪還作戦を二人で話し合っており、選抜隊を考えていた。
ナジュリがエドに向かって、こう話を切り出した。
「奪還作戦には、フェイフェンとジョーを向かわせる。」
「長官。それは意外な組み合わせじゃな。ベンは待機なのか?」
「ベンは大事な私の連絡手段だ。クーロンに奪われては困る。
それにフェイフェンとジョーの魔法なら成功しやすい。」
「・・・これは私の杞憂かもしれないが、焦っていないか?」
「ふむ。エド、ジンの公開処刑を望んでいたクーロンが
悠長にしているとは思えない。最悪のケースも想定し、
フェイフェンの死霊操作魔法も考慮せねばならない。」
「・・・それは見たくないものだな。では、長官。そろそろ
ワシは持ち場に戻るとするよ。部屋で白い髪のお嬢さんや
ボサボサ頭の青年も待たせているからな。」
「ああ、頼んだぞ。」
エドはそう言うと、部屋を出て行った。エドは和やかな表情で
廊下を歩いていた。対照的に、ナジュリは親指を嚙み、苛立った。
プライドシティ 繁華街 オリエント地区
繫華街の路地裏を、一人の人物が歩いていた。フードで顔を隠し、
ポケットに手を入れたまま、謎の人物は移動している。すると、
自分の目線の先に青緑色の軍服を着ている女性がいることを知る。
ボブカットの茶髪で、青緑のベレー帽と赤い眼鏡が特徴だった。
フェイフェン・メリーバロンズ2佐。特務官の上級メンバー、
”エルダーナイツ”の一人。彼女はフードで顔を隠した人物に言った。
「そこで止まれ!! 貴様は完全に包囲されている!!
罪状は共謀共同正犯及び業務上横領罪だ!!
我々を裏切るとは、貴様それでも特務官か!!」
フェイフェンに呼び止められると、きびすを返して逃げようとしたが、
既に背後にはもう一人の特務官の男が立ち塞がっていた。アフロヘアで
青緑色の軍服を着ている男は、フードで顔を隠した人物に対して言った。
「お前にはガッカリしたぜ、真面目な奴だと思っていたからな。レックス。」
アフロヘアの男は、やれやれと思わせるような素振りを見せる。
レックスと呼ばれた男は、フードを取るとアフロヘアの男に言った。
「バレましたか。監察官が私を疑ったんですか? ヤングブラッド2佐。」
「いや、監察部がお前を見つけたんじゃない。長官がお前を見つけたんだ。」
「・・・どういうことですか?」
「お前、議会場の警備していただろ? 長官にとって、お前は初めて見る
新顔だったんだよ。そもそも経政連の警備員の顔を覚えている長官には
お前の存在は違和感だった。そして、お前は『お気をつけ下さい』と
長官に言った。何に気をつけろと? そこからお前は監視されていた。」
「・・・チッ。話過ぎたか。ならばァ!!」
囲まれたレックスは脳内の魔法生成AIにプロントし、垂直に飛ぶ。
「自己飛行!!」
レックスはそう叫ぶと、路地裏から逃げようとする。しかし、空中で止まった。
彼の影が地面から彼の足を掴んでいた。その光景を見たフェイフェンが言った。
「無駄だァ!! 貴様は我が下僕に包囲されていると言っている!!
幻影亡者、その薄汚い男を大地に叩きつけろ!!」
レックスの影からガス状の死霊が大量に出現する。レックスの体にとりつき、
黒い腕が彼の頭を掴んだ瞬間、レックスは再びAIを使って魔法を発動した。
「元素天衣!!」
彼の体は発光し、黒い死霊はうめき声を上げながら、消滅した。
レックスはそのまま次の行動に移そうとするが、既にアフロヘアの
特務官のジョージ・メリフェザー・ヤングブラッドに肩を掴まれた。
空中でジョーはレックスに向かって、一言言った。
「強制睡眠」
ジョーがレックスの肩を離すと、レックスはうつ伏せに倒れた。
赤ん坊のように眠るレックスを見たジョーは、彼にこう言った。
「運が良かったな。俺はピースマインドでな。誰も傷つけたくないんだ。」
ジョーの睡眠操作魔法は、あらゆる生物を眠らせる。命を奪う魔法と違い、
相手を快眠で体力も回復させる彼の魔法は、この世界では大変珍しかった。
魔法生成AIもユーザーが指示を出さない限り、勝手に動けなかった。
熟睡状態のレックスは、魔法を使うことも、逃げることも封じられた。
ジョーの魔法を見たフェイフェンは、赤い眼鏡をくいっと上げ、彼に話す。
「ヤングブラッド2佐。その魔法は敵の体力を回復する副作用があります。
任務遂行の邪魔になるので、どうか別の魔法も習得されますよう__」
「フェイ、悪いがそれは出来ねえんだ。相手を再起不能にするなら、
寝かせることが俺のポリシーなんだ。敵意は起きている時に発動する。」
「・・・チッ。これだから男は・・・。」
「何か文句あるのか? 受け止めるぜ。」
「別にありませんよ。私は組織を円滑にする異議を申しただけです。」
「あるってことじゃねえか。まぁ、いいや。こいつを連れてオフィスに戻るぞ。」
突如、フェイフェンとジョーは量子通信状態に入った。二人はこめかみに
指を当てると、視界の右上に浮かぶナジュリの映像と話し始めた。
「長官!! どうなさいましたか!!」
「よぉ、長官。何があった?」
「二人ともすまない。今からAerospaceXの本社に向かってくれ。」
「は!! 了解!!」
「あそこか・・・警備ロボットはちょっとキツイな・・・。」
ジョーはレックスを担ぐと、早々にグラビランナーに向かった
フェイフェンの後を追った。数分後、車内でナジュリのメールを
読んだ二人は、クーロンからジンを奪還する特殊任務に赴いた。
プライドシティ ワールド・キャピタル地区 AerospaceX本社ビル ?階
一方その頃、宇宙空間のような部屋にいるジンは、クーロンから提案された。
「ビジネスの話だ。俺がお前の会社に10兆ダナーを投資する。
だから俺の仲間になれ。ナジュリの下では危険だぞ。」
「金でオレを手下にする気かよ?」
「手下じゃねえ。お前と俺は対等だよ。俺は、自分が
生きているうちに宇宙の謎を出来るだけ解きたいんだ。」
「お前、なぜそこまで宇宙にこだわる?」
「宇宙は未知で自由だ。この星はほとんど開拓された。
だが、宇宙は色んな星がある。宇宙を研究することは、
知の神髄なんだ。」
「チのシンズイ?」
「俺の星では、地球と違って神という概念がない。
万物の事象は計算で成り立っていると考えている。」
「!? 神が、存在しないのか?」
「ああ。神という言葉は地球人が来るまでなかった。」
ええ・・・。神がいない世界ってマジかよ。仏様もいないのか?
ということは、宗教や神話もないのか。じゃあ何を信じているんだ?
「俺らは、万物とは『数えられる粒の集合体』って認識なんだ。
つまりこの世界や宇宙も、数学や物理学で証明できると思っている。」
「それで、魔法が生まれたって訳か。」
「そうだ。俺らの先祖、厳密には違うが、魔族はコンピュータと同じ
レベルの演算能力がある。計算によって魔法の数式を構築する。」
コンピュータと同じ計算速度だと? 生物の限界を超えているだろ。
あと、地球とはまったく違う物理法則なんだろうな。火を再現する式が
あるとか、そもそも物理演算で事象を書き換えるとか、意味分からん。
「ヴァドール人は、どうやって生物が生まれたと思っているんだ?」
「この星では『開闢の日』と言われる伝説がある。量子爆発だ。
ある日、量子の集合体が耐えきれずに爆発し、量子が分散した。
量子はエネルギー化や生物の形になった。つまり偶然の産物だ。」
「じゃあ、その日を境に自然や生物が誕生したって考えたのか。」
「ああ。そして最初に魔法の数式を発見した魔族の王が、崇拝の
対象となったことで、王の権力は増大した。今でも王が統治する
国家が多い。特にミドロワ王は他国の王とは別格だ。ミドロワは
世界中に軍事基地や諜報活動の拠点を持っているからな。」
すると、突然部屋で映される映像が、宇宙から戦場を駆け巡る兵士の
動画に変わった。クーロンは深刻な表情で、ジンに国際情勢を語った。
「いま、ミドロワ王国は様々な国々と同盟関係を結んでいるが、力関係は
対等じゃない。シティの最新兵器を手に入れられるのはミドロワだけで、
他国は劣化兵器を買わされている。そこをロズノフは狙っている。」
「何を狙っているんだ?」
「AIによる政治体制の国の建国だ。」
「なんだとぉ!! 人工知能が運営する国を作ろうとしているのか!!」
「ああ。AI搭載のヒューマノイドが政治や経済活動に従事し、無人兵器が
安全保障を担う。それが海上都市国家、ロズノアだ。」
「ロズノア・・・ロズノフの国ってことか。」
「ロズノアは核融合炉を搭載した超巨大空母だ。」
「はぁ? 空母が国?」
「外交が必要だからな。他国の政府専用機や王族専用グラビランナーが
着陸できるように設計してある。ロズノフの計画はAIの新興国を作り、
世界中から投資を受けられるようにする。表向きは投資先の確保だが、
奴の目的は二つの超大国による拮抗を実現したい。そして電脳神が
完成した暁には、生物の国ミドロワとの最終戦争で勝ち、地球を目指す。」
ジンは衝撃を受けた。ミドロワは自国による平和を願い、軍事基地を世界中に
置いている。一方でロズノフはミドロワに対抗できる超大国を建国し、更には
量子情報生命体が完成したら世界大戦を引き起こすことも模索しているようだ。
しかし、ジンはそれが陰謀論なのか判断しづらかった。クーロンが自分を
洗脳しようとしている可能性もある。ジンは、クーロンにこう言った。
「お前はオレを仲間にして、何をさせたいんだ?」
「地球侵略を考える王とロズノフを止めてほしい。俺は地球人と一緒に、
宇宙の謎を解明したいだけだ。地球人がヴァドールを拒否するなら、
俺は権力を使ってでもヴァドール人を止める。地球人を尊重する。」
「それはおかしいだろ。お前はさっき生きているうちに謎を解きたいと_」
「地球人と一緒にやれば成功しやすいが、俺らだけでもやれると思っている。
実はAIbirthと共同研究開発しててな。究極知能だ。」
「!? 究極知能だとぉ!!」
「俺の仲間であるアーデルマイト・シャイデマンが開発中のものだ。
量子ナノマシンに究極知能を搭載し、ブラックホールの中で
ホワイトホールが出現する場所と時間を割り出すんだ。もし地球が
見つかったら、量子ナノマシンに地球の要人と交渉させる予定だ。
あと、お前に聞きたいことがある。」
「なんだ?」
「地球には、ミドロワと戦えるような国はいくつあるんだ?」
クーロンは訝しげな視線でジンに質問した。ジンは、静かに答え始めた。




