第16話 不穏
ジン達の目の前に現れた『ケルベロス』の社員達は武装を施していた。
ヘルメットとフルフェイスマスクを装着し、タクティカルベストには
弾倉やナイフなどが入っている。黒い戦闘服に身を包んだ男達の手には
自動小銃が握られていた。銃の外観は、M4カービンに酷似している。
前世でプレイしたFPSに出てくるデザインを彷彿させる。ジンは、
あとで自分の武器にしようと、男達が握っている銃を凝視した。
その様子に気づいたトレバーと名乗る男が、ジンに話しかけた。
「お? あんた、ガンマニアなのか? こいつは見た目より軽くてな、
制御しやすいんだ。ただフルオートで撃ち続けると銃口速度が
低下し、有効射程が短くなっちまうのが玉に瑕だな。」
トレバーは自分が持つ銃に関する薀蓄を語った。
使用頻度で射程距離が短くなることを知ったジンは、
詳しい内部構造をトレバーに聞いておこうと思った。
そんな中、ジュリアはしゃがみ込んで考え込んだ。
ああ~!! なんでこうなった。どうしてあたしは、こんな男に
いちいち感情を揺さぶられるんだよ。男なんて、肉欲の塊じゃん。
だんだん付き合うのが億劫になったら、別の女に行くんだよ!!
冷静になれ、期待するな、あたし。すべて俯瞰で男と接しろ。
しばらくすると、ジュリアは突然立ち上がった。そしてジンの方に
自分の体を向けると、冷めた態度でジンに向かって話し始めた。
「偵察よ。地下街で会った奴が、どんなところに住んでいるか気になった。」
「それは誰かの命令でやっているのか?」
「違う。あたしの独断よ。最初は依頼代行サービスに頼んだけど、
まさか殺人事件に巻き込まれたとは思わなかった。それであんたが
もしかして彼を殺したのかと思った。だから余計に尾行したくなった。」
「マシュアのことか。オレはてっきり、あんたが光学迷彩を着て、
マシュア殺しをオレに擦り付けたと思ったぜ。」
「・・・お互い認識がズレていたのね。マシュア社長には
あんたの素性を調べてもらっただけ。光学迷彩って何?」
「コレクターは光学迷彩で姿を消し、殺人を行っている。」
「ふぅーん・・・どうしてあんたはそう思うの?」
「窓の外でヒトの形をした透明な物体を見た。オレは昔、
そういう技術があることをゲームで知っただけだ。」
「それは変ね。ゲームで光学迷彩なんて出てこないけど?
あんたの口からそういう言葉が出てくるのが不思議だわ。」
徐々に二人の様子がおかしいと気づいたトレバーは、話題を変えた。
「よし、雑談は終わりだ。ここからは作戦会議だ。手順を説明する。」
「・・・そうね、トレバー。ジン、あなたを詮索したことは謝るわ。」
「・・・こっちも疑って悪かった。トレバー、話を続けてくれ。」
「今回の任務はヒロヤ会長の身辺警護だ。まず、3人1組のチームを編成する。
次に巡回訪問を決めよう。その時間が過ぎたら別の3人に持ち場を交代する。
そうやって会長がこの場を離れるまで俺達は警備をする。もしコレクターと
接触したら、そのチームはすぐ全員に量子通信で連絡する。戦闘では3人で
弾幕を張りながら離脱する。コレクターの光学迷彩にダメージを与えつつ、
戦力を温存するんだ。コレクターをこの場所に誘導し、全員で戦うんだ。」
トレバーはそう言うと、地図のような立体映像を掌から出し、人差し指で
広い空間を指差した。この屋敷にある80畳程の大広間だ。ジンが質問した。
「待ってくれ。もしコレクターが追跡せずに脱出しようとしたらどうするんだ?
オレなら戦闘を継続せずに逃げる。多勢に無勢で割に合わない。」
「それなら大丈夫だ。この屋敷の外は俺たち『ケルベロス』が包囲している。
そして脱出するには大広間を抜けた先の中庭にある地下水路だけだ。地下に
下りるには大広間を突破しないといけない。コレクターも必ずここを通る。」
「・・・屋根の上を歩いて中庭には行けないのか?」
「そこも問題ない。上空はうちのドローンが見張っている。ドローンは
量子重力センサーが搭載されている。僅かな重力の変化に気づける。
熱や光を隠す光学迷彩でも質量は誤魔化せないからな、特定できる。」
「なるほど。廊下を通って大広間に行くしかないのか。・・・最後に質問だ。」
「まだ、あるのか?」
「もしもヒロヤ会長が殺害されたら、オレたちは警護対象を失う。
どうやって彼を逃がすんだ? 彼を抱えて地下水路を目指すのか?」
「それも既に手を打ってある。それは____」
プライドシティ オリエント地区 不夜荘 不死鳥の間
畳が敷き詰められ、漆仕上げのテーブルの上には料理が置かれている。
食材はヴァドールで採れた季節ものを厳選していた。しかし、座布団に
座る二人の男達は料理に手をつけず、業界の未来について語っていた。
眼鏡を掛けたスーツ姿の男が、対面にいる緑髪で髭の生えた男性に話す。
「クラモトさん。我が社は宇宙空間を航行できるグラビランナーを開発中です。
AerospaceXは、妨害してくると思いますかな?」
ヒロヤ・ヨシロ。七大企業の一角、ヨシロ自動車の6代目会長兼CEO。
ミドロワ王立大学を卒業後、プライドシティにある本社で働き始める。
「会長。その可能性は否定できないでしょうな。クーロンは小回りの利く宇宙
ポッドの量産化を考えています。そこに宇宙も飛べるグラビランナーが出たら、
汎用性でグラビランナーに軍配が上がります。彼ならやりかねません。」
ヒューズ・クラモト。七大企業の一角、マキモン・ブラザーズ社のCEO。
マキモン・ブラザーズは、創業百年の老舗銀行。様々な企業に融資する。
クラモトは顎に手を添え、その後ヒロヤに向かって話し始めた。
「アンダーレッドやフェルメスが亡くなり、CEO代行に就任した連中は皆、
ロズノフやパラメディオのCEOギュスターと関係を持っています。これは
偶然と思いませんな。やはり、彼らが事件の黒幕だと言えますね。」
「ロズノフ・・・ですか。シティ・トゥデイの対談を見ました。彼はAIの
国づくりを考えているようです。AIが運営する国家に投資するべきだと
主張しておりました。彼は常軌を逸しているとしか思えませんな。」
「まったく、品のない富豪が増えましたな。」
すると、不死鳥と波しぶきが描かれた襖がゆっくりと開いた。
目を閉じた茶髪の仲居が徳利と盃を運んできた。二人は仲居を見つめた。
座ったままの仲居は深々と頭を下げ、二人の男達に入室の許可を求めてきた。
部屋に入った仲居はお盆を持ち上げ、ゆっくりとクラモトに近づいていった。
テーブルの上に徳利と盃が置かれ始めた。仲居は微笑んでヒロヤに言った。
「本日はお越しいただき、ありがとうございました。」
「ああ、どうも。」
ヒロヤは素っ気ない態度で、仲居に接した。
クラモトがヒロヤに話しかけようとしたら、先に仲居が喋った。
「お二方、・・・辞世の句は、おありですか?」
「!?」
一瞬の出来事だった。ヒロヤとクラモトが仲居の言葉を聞いた後、
二人の額には極細ワイヤーのようなものが巻き付いていた。そして、
仲居の袖の中のワイヤーが超スピードで彼らの頭を締め付けた。
ヒロヤとクラモトの額に巻き付いたワイヤーは、仲居の袖の中に
戻ろうとしている。このままでは、輪切りにされると思われたが、
突然ヒロヤとクラモトの額から火花が散り、更に両者の顔が割れた。
眼球カメラが動いており、顔は電子回路がむき出しになっていた。
機械仕掛けの二体の人形は口を開けると、ケラケラと笑い出した。
予想外の出来事に目を開けた仲居は、物凄い速さで、その場を離れた。
金色の瞳と茶髪の仲居は、笑う機械仕掛けの人形達にこう言った。
「高性能偽体だとォ!! クソッたれがァ!!」
すると、声に反応した『ケルベロス』の三人組が部屋に突入した。
有無を言わさず、部屋中に弾丸の雨を降らす。仲居の服はビリビリに
破れ、赤く塗装されたパワードスーツに変わった。弾丸で火花が散り、
謎の仲居は両腕で顔をガードする。やがて発砲音が鳴り止むと、髪も
青い色に変色した仲居は銃口を向ける覆面の男達と目が合った。
騒ぎを聞きつけ、ジン達もヒロヤが居た部屋に入ってきた。
そこには青いショートヘアで、赤いパワードスーツを着た
謎の女が仁王立ちしているのが見えた。ジンは言った。
「こいつがコレクターか!! ゼン、行くぞォオラァ!!」
「分かりましたァ、社長!! おやっさんの仇、覚悟しろやァ!!!!」
「お、おい!? 作戦忘れていないか、お前ら!!」
両手にレーザーブレードを握っているジンと、握りこぶしをつくったゼンが
コレクターに向かって、一斉に突撃した。次の瞬間、コレクターは姿を消した。
ジン達が辺りを見回すと、量子通信でミシェルから連絡が入った。
「ジンくん。ドローンの量子重力センサーに反応があった。今、トレバーが
大広間にコレクターを誘導しているから、ジンくんも手伝って!!」
「オーケイ、ミシェル。よし、行くぞお前ら!!」
「了解!!」
大広間に逃げ込んだコレクターは、まっすぐ中庭を目指していた。
しかし、目を閉じた赤い髪の女が中庭への入口をふさいでいた。
「聖炎!!」
突然女は叫び、目を開けて両手に出した炎を天井にぶつけた。
天井にぶつかった炎は勢いよく燃え広がり、天井に配置してある
スプリンクラーが作動した。大量の水が放出され、光学迷彩に水が
当たる。光学迷彩からノイズが発生し、光学迷彩は破壊された。
次の瞬間、赤いメッシュの入った青い髪と真っ赤なパワードスーツが
ジュリアの前に現れた。コレクターに向かって、ジュリアは言った。
「あんたが噂のコレクターか。へぇ・・・まさか女だったとはね・・・。」
ジュリアの言葉を聞いた謎の女は、水で濡れた髪をかきあげた。




