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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
1 痛武器勇者爆誕編

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魔導書製作所

ラザリスへ入ってしばらくして、俺とリアは魔導書製作所へ向かった。


名前だけ聞いた時は、魔法陣が光って本が勝手に空中を飛び回るような場所を想像していたのだが、実際に中へ入ってみると印象はかなり違った。


紙の匂い。


インクの匂い。


机へ向かう職人たち。


壁際には分厚い本が並び、開かれた頁には細かな文字だけではなく、紋様や図、植物や魔物らしき絵も描かれている。


「おお……ちゃんと工房だ」


「魔導書を作る場所ですから」


「いや、もっと魔法でバーン、光ってドーンみたいなの想像してた」


「先生の想像する魔法って、だいたい派手ですね」


リアに笑われた。


俺は近くに置かれていた魔導書を覗き込む。


表紙には幾何学的な模様があり、その周囲を細い線が何重にも囲んでいる。別の本には、葉や蔓を思わせる装飾が入っていた。


絵がないわけじゃない。


むしろ、かなり描かれている。


ただ、俺の知っているアニメやゲームのキャラクターイラストとは、使われ方が違う。


「こういう絵は普通にあるんだな」


「ありますよ?」


リアが不思議そうに俺を見る。


「魔導書にも使いますし、看板や飾りにもあります」


「なるほど」


俺は少しだけ勘違いしていたらしい。


この世界に絵を描く文化がないんじゃない。


リアがミスティアを描いた時、俺の知っているキャラクターイラストとは違うものが出てきたから、勝手に距離があると思っていた。


でも違う。


こっちにはこっちの絵がある。


描く技術も、使う場所もある。


その上で、リアが描いたミスティアは少し違って見えた。


「リア」


「はい?」


「あのるみたんの絵、持ってる?」


「あります」


リアは大事そうに紙を取り出した。


描かれているのは、俺が知っているミスティアと少し違うミスティア。


その絵と、目の前にある魔導書の装飾を見比べる。


やっぱり違う。


上手い下手の話じゃない。


目的が違う。


魔導書に描かれている絵や模様は、本の内容を伝えたり、飾ったりするために使われているように見える。


リアのミスティアは、それとは別の方向を向いている。


その人そのものを見たくなる。


表情を見たくなる。


「……面白いな」


「何がですか?」


「同じ“絵”なのに、全然違う」


リアも俺の見ていた魔導書へ目を向ける。


「そうでしょうか」


「うん。こっちもすごい。でも、リアのるみたんは、なんかこう……本人を見せたい感じがする」


「本人?」


「キャラを見てほしいっていうか」


うまく説明できない。


俺だって絵師じゃない。


ただ、グッズやアニメ絵を散々見てきただけだ。


それでも、魔導書の装飾とリアのミスティアを並べると、同じ「絵」という言葉だけでまとめるには違いがあることくらいは分かった。


リアは自分の絵を見下ろした。


「私は、ルミナスさんを描きたかったので」


「うん。それ」


「それ?」


「そのまんまだけど、それが違うんだと思う」


俺は笑った。


「本を飾るためにるみたんを描いたんじゃなくて、るみたんを描きたいから描いたんだろ?」


リアは少し考えてから頷いた。


「はい」


「じゃあ、やっぱり面白い」


「先生はすぐ面白いって言いますね」


「面白いもの見たら言うだろ」


「そういうものですか?」


「そういうものです」


少なくとも俺はそうだ。


好きな作品を見つけた時。


知らなかったキャラに刺された時。


新しいグッズの絵柄が発表された時。


最初に出る言葉なんて、大体そんなものだ。


俺たちは製作所の中を見て回った。


職人の手元では、文字の周囲へ細い装飾が加えられていく。別の場所では表紙へ模様を入れている。


リアはその一つ一つを熱心に見ていた。


俺は俺で、作業台の上に並ぶ道具や完成した本を眺める。


異世界には異世界の積み重ねがある。


俺が何かを一から持ち込むわけじゃない。


こっちにすでにあるものへ、俺の知っているものが混ざったらどうなるのか。


その方が、たぶん面白い。


「リア」


「はい」


「また描いてみれば?」


「ルミナスさんをですか?」


「るみたんでもいいし、別のでもいい」


リアは少し驚いた顔をした。


「ここにある絵を見たあとで描いたら、また違うの出てくるかもしれないだろ」


「……そうでしょうか」


「知らん」


「先生」


「だから見たい」


リアは困ったように笑った。


それから、もう一度製作所の中へ目を向ける。


今までとは少し違う目で見ている気がした。


「描いてみます」


「よし」


「でも、先生」


「ん?」


「ずっと見ないでくださいね」


「何で!?」


「近いです」


言われてみれば、俺はいつの間にかリアの手元を覗き込める距離まで寄っていた。


「神絵師の制作過程は見たいだろ!」


「まだ神絵師じゃありません!」


「将来候補!」


「昨日から増えてません!」


製作所の中に、リアの笑い声が響いた。


俺は少し離れた場所へ移動しながら、もう一度壁際の魔導書を見る。


この世界には、すでに絵を作る人たちがいる。


リアも絵を描く。


ただ、その二つは今のところ少し違う場所にある。


だったら、その違いがこれからどう混ざっていくのか。


俺はそれを見てみたくなった。

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