致死性顎粉砕!!(フェイタル・チン・クラッシュ!!)
「我が魂の切っ先……その身に刻めェェッ!!」
レジナルドは、手にした『美学盾』を構え、大地を蹴った。
だが、その構えは「盾」のそれではない。
盾の表面(イケメンの顔)を敵に向けるのではなく、異常に長く伸びた「鋭利なアゴの先端」をドリルや槍のように前方へ突き出し、全体重を乗せて突進したのだ。
ズバァァァン!!
まずは手始めとばかりに、セドラーが放った特大の『価格吊り上げ(インフレーション・ボム)』にアゴの先端が激突する。
一点に極限まで集中した物理的圧力(アゴの切っ先)は、爆発する暇すら与えずにインフレの概念を真っ二つに切り裂き、霧散させた。
「な、なんだとォ!? 俺のボムが、アゴで割られた!?」
セドラーは驚愕に目を見開き、慌てて両手を地面に叩きつけた。
「クソッ、ふざけやがって! ならばこれならどうだ!
『買い占め在庫の絶対障壁』・フル・スタック!!」
ゴゴゴゴゴ……!
森の地面が割れ、先ほどレジナルドの長剣を容易く弾き返した「未開封の限定段ボール箱」が、今度は数十重にも折り重なって出現した。
それは城壁のように高くそびえ立ち、セドラーを守る絶対の防壁となる。
「無駄だ無駄だァ! その違法改造盾で殴ろうが、俺の『未開封美品ウォール』は破れねぇ! 市場の需要が集中した硬度は絶対だ!」
「面で殴るなど、愚か者のすることだ。私の美学は……全てを貫く、この『鋭角』にあり!」
レジナルドの突進の勢いは、微塵も衰えない。
彼は分厚い胸板を逸らし、美学盾を槍のように脇に抱え込んだ。
「我が魂の鋭さ、とくと味わえ!!
奥義! フェイタル・チン・クラッシュ(致死性顎粉砕)!!!」
ドッゴォォォォンッ!!!
レジナルドの全速力の突進と、極限まで研ぎ澄まされたアゴの先端が、最前列の段ボール壁に激突する。
長剣の斬撃(線の攻撃)は弾かれた。
しかし、一点に全ての質量と速度を集中させたアゴの刺突(点の攻撃)は、段ボールの表面にめり込み――
ビリッ!
「ギャアアアア!! やめろォォ!! シュリンク(外装フィルム)が破れるゥゥ!!」
セドラーが、自らの身を切られるような悲痛な絶叫を上げた。
「外箱の角が潰れた! 封印シールが切れた! やめろ! 未開封美品の価値が『箱傷みあり(ジャンク扱い)』に暴落するゥゥ!!俺の……俺の資産があああ!!」
「破邪の切っ先、止まることなし!!」
バリィィィッ! ズドォォォン!!
レジナルドの異常なアゴ盾は、箱の価値(転売屋のアイデンティティ)を次々と暴落させながら、強固な段ボールの城壁をまるで豆腐のように貫通していく。
絶対防壁を紙屑のように粉砕し、土煙の中から飛び出してきた「鋭角の狂気」が、呆然と立ち尽くすセドラーの眼前に迫る。
「ヒッ……! 待て、待っ――」
ズシュゥゥゥッ!!
重い肉の弾ける音。
美学盾の鋭利すぎるアゴの先端が、セドラーの本体(鳩尾)に深々と、容赦なく突き刺さった。
「がはァッ……!!」
セドラーの口から、大量の魔力流体が吐き出される。
彼は信じられないという顔で、自分の腹に刺さっている「イケメンのアゴ」を見下ろした。
「だ、だから……」
セドラーは、全身からヒビ割れるような光を漏らしながら、最期の力を振り絞ってツッコミを入れた。
「盾で……刺してくんな……!
武器のカテゴリが……根本的に間違ってんだろ……ッ!!」
ピカーーーーッ!!
その理不尽すぎる悲鳴を最後に、転売魔人セドラーの巨体は弾け飛び、無数の「半額シール」となって夕闇の森へと散華した。
市場価値至上主義の化身は、一人の不器用な男の「誰にも理解されない(異常な)美学」の前に、完全なる敗北を喫したのである。
⸻
戦いが終わり、森に静寂が戻った。
上空には、冷たい夜の気配を帯びた一番星が輝き始めている。
「……ふぅ。仕留めたか」
レジナルドは荒い息を吐きながら、美学盾を下ろした。
ズブッ、とアゴの先端が地面の土に深く突き刺さる。
「……すげぇ切れ味だったな」
オタクミが、ゆっくりと歩み寄ってきた。
彼の視線の先には、レジナルドが手にしている盾。
イケメンの顔が彫られたその盾は、
異常に長いアゴの先端部分だけが、敵の返り血でベットリと赤く染まっていた。
それは控えめに言っても、猟奇的でホラー映画のような異常な絵面だったが、二人の間に流れる空気はひどく熱く、真剣だった。
「悪かったよ、団長」
オタクミは、血塗れのアゴから目を逸らし、レジナルドの顔を真っ直ぐに見た。
「あんたのそのアゴへの情熱……マジで国を護るレベルの武器だったわ。作画崩壊なんて言って、すまなかった」
レジナルドは、フッと口元を緩めた。
「……気にするな。私も、いささか意固地になりすぎていたようだ」
彼は、夕暮れの空を見上げた。
「貴様の言う、丸みを帯びた絵を尊ぶ心も……悪くはないと、今は思える。価値は、他人の評価や金で決まるものではない。己の内にこそあるのだな」
「ああ。あんたの盾、最高にクールだったぜ!」
夕日をバックに。
血塗れの異常なアゴ盾を持ったまま、オタクミとレジナルドは、男同士のガッチリとした熱い握手を交わした。
二人の間には、解釈違いを乗り越えた強固な絆と、感動的なBGMが流れている(ような空気が漂っていた)。
ガチャリ。
その時、騒ぎが収まったことに気づいたのか、馬車の分厚い扉が開いた。
「まあ、レジナルド。盗賊を撃退したのですね。さすがはわたくしの騎士ですわ……って」
外に出てきたロザリアが、言葉を失って扇を落としそうになる。
彼女の後ろから顔を出したリア、セラ、シエルも、目の前の光景に完全にフリーズしていた。
「な、なんですかあの……異形の盾は……!?」
シエルが震える声で指差す。
夕闇の中、熱い握手を交わす二人の男。
その横には、
「下半分が異常に長く伸び、先端だけが鮮血に染まったイケメンの顔の盾」が、ズブッと地面に刺さって生首のように並んでいるのだ。
「……ねえ」
数秒の沈黙の後、セラが刀の柄に手をかけたまま、極めて冷ややかな、絶対零度の視線を男たちに向けて言い放った。
「感動してるとこ悪いんだけど。早くその盾のアゴの血、拭いてくんない?」
「えっ」
オタクミとレジナルドが、ハッとしてセラの声に振り返る。
「昼間の『生肉の生首弁当』のあとに、夕暮れの森で『血塗れの尖ったアゴ』とか、流石にSAN値がゴリゴリ削れて引くんだけど。完全にホラーだから。早くしまってそれ」
『(……拙者も、ずっとそう思っていたでござる!!)』
セラの容赦のない正論と、ゴルドスの脳内での絶叫が重なる。
二人の男は慌てて「す、すんません!」と血塗れのアゴを布で拭き始め、感動の余韻は跡形もなく吹き飛んだ。
くだらなくも熱い「解釈違いの冷戦」は、こうして、かつてないほどシュールで猟奇的な絵面と共に、ドタバタと幕を閉じるのだった。




