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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
1 痛武器勇者爆誕編

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リアの秘めたる才能

森を抜けると、遠くに大きな城壁が見えてきた。ようやく人の住む場所まで来たらしい。


その手前に小さな水場があり、俺とリアはそこで足を止めた。さっきまでスライム相手に走り回っていたせいで、手や服には泥や飛沫が残っている。リアもローブの袖口を見下ろし、少し困ったような顔をしていた。


「街に入る前に洗っとこう。さすがにこのままは嫌だろ」


「はい。ありがとうございます」


水は冷たかったが、森を歩き続けた後にはむしろ気持ちいい。俺が手を洗っている横で、リアも袖についた汚れを落としていた。


ひと通りきれいになったところで、リアの視線が俺の背中へ向く。


正確には、《タクミ・ブレイザー》へ。


「さっき見せてもらった絵なんですけど……もう一度見てもいいですか?」


「るみたん?」


「はい。その、ミスティア・ルミナスさん」


名前を覚えていたことにちょっと感動した。


「もちろん」


周囲を確認してから、《タクミ・ブレイザー》を慎重に抜く。ピンクメタリックの刀身に、大きく描かれたミスティアが現れる。


リアはすぐには何も言わなかった。


ただ、じっと見ている。


顔。


髪。


服。


ポーズ。


俺が見慣れている絵を、初めて見るものとして一つずつ確かめるように目で追っていた。


「そんなに気になる?」


「はい」


返事はすぐだった。


「こういう絵、見たことがなくて。でも……すごく目を引きます」


「だろ? るみたんだからな」


「それは関係あるんですか?」


「あるに決まってる」


リアが少し笑った。


俺は《タクミ・ブレイザー》を持ったまま、痛バッグからミスティアのアクリルキーホルダーを取り出した。これなら刀身ほど大きくないし、近くで見るにも扱いやすい。


「こっちも見る?」


「同じ人ですか?」


「同じ。ミスティア・ルミナス」


リアはアクリルキーホルダーと刀身を交互に見比べた。


しばらくして、首を傾げる。


「同じ人なのに、少し違って見えます」


「違う?」


「こっちは、もっと近くにいる感じがします。剣の方は、強そうで……遠くからでも目に入る感じです」


俺は二つを見比べた。


当然、絵柄も大きさも見せ方も違う。


でも、俺にとってはどっちもミスティアだ。どちらが正しいとか、片方が偽物だとか、そんな感覚はない。


「よく見てるな」


「絵を見るの、好きなので」


リアはそう言ってから、少し照れたように視線を落とした。


その言葉を聞いて、俺は森で抱えていた紙のことを思い出した。


「リアも描くんだよな?」


「はい。でも、そんなに上手じゃないです」


「見たい」


「えっ」


「絵、見たい」


「い、今ですか?」


「今」


リアが明らかに困った顔をした。


「初対面の人間に描いたもの見せるの、結構ハードル高い?」


「少し……」


「じゃあ無理には見ない」


そう言うと、リアは意外そうに俺を見た。


俺としては普通のつもりだった。


好きなものを無理やり見せろと言われても嫌だろうし、絵だって同じだ。


けれどリアは少し考えたあと、抱えていた紙の束へ手を伸ばした。


「……描くところなら、見てもらってもいいです」


「マジで?」


「はい」


俺は思わず身を乗り出しかけて、止まる。


「近すぎたら言って」


「ふふ。はい」


リアは水場の石縁へ腰を下ろし、紙を膝の上へ置いた。


そして、《タクミ・ブレイザー》を見る。


次に、俺が持っているアクリルキーホルダーを見る。


何度か二つの間を行き来したあと、筆記具を持った。


俺は横から眺めながら待つ。


最初に引かれた線は、俺の知っているミスティアの輪郭とは少し違っていた。


「ん?」


思わず声が出る。


リアの手が止まった。


「変ですか?」


「いや。続けて」


「はい」


また線が走る。


髪。


顔。


身体。


少しずつ形ができていく。


俺は途中から黙って見ていた。


写しているようで、写していない。


刀身に描かれたミスティアとも、アクリルキーホルダーのミスティアとも違う。


それでも、誰を描いているかはわかる。


ミスティアだ。


リアの描いたミスティアは、俺の知っているものより少し柔らかい表情をしていた。


「……なんか違うな」


その言葉に、リアの顔が固まった。


「す、すみません」


「いや、悪い意味じゃない」


俺は慌てて手を振る。


「むしろ面白い。俺が見せたるみたんと違うのに、ちゃんとるみたんに見える」


リアは紙へ視線を戻した。


「私には、こう見えたので……」


「こう?」


「うまく言えないんですけど」


リアは少し悩んだ。


「剣に描いてある時は強そうだったんです。でも、先生が話している時は、もっと大切な人みたいに聞こえて」


「大切な人ではある」


「だから、その両方を描こうとしたら……こうなりました」


リア自身も、うまく説明できないらしい。


けれど、その曖昧さが逆にしっくりきた。


俺が「ミスティアはこういうキャラだ」と全部説明したわけじゃない。


リアは見せられた絵と、俺の反応と、森での出来事から、自分なりに何かを受け取った。


そして、それを紙へ出した。


「これ、真似しただけじゃないんだな」


「真似した方がよかったですか?」


「いや、逆」


俺は絵を見る。


知っているミスティア。


知らないミスティア。


その両方が同時にそこにいた。


「これ、リアが見たるみたんなんだろ?」


「……たぶん」


「じゃあ、それがいい」


「いいんですか?」


「いいに決まってる」


即答すると、リアが目を丸くした。


「同じもの見ても、みんな同じところ好きになるわけじゃないし。同じキャラ見ても、印象が違うのは普通だろ」


言いながら、自分でも少し納得する。


俺にとってのミスティアと、リアが今見つけたミスティアは同じじゃない。


でも、それでいい。


むしろ、そこが面白い。


「俺が知ってるるみたんを、そのまま正解にしなくていいよ」


リアはしばらく何も言わなかった。


それから、描いた絵を見下ろして、小さく笑った。


「……もう少し描いてみてもいいですか?」


「もちろん」


「違う顔も描いてみたいです」


「いいね!」


俺の声が思ったより大きくなり、リアがびくっと肩を揺らした。


「ごめん。テンション上がった」


「分かります」


「分かるの?」


「少しだけ」


さっきまで自分の絵を見せるのをためらっていたのに、リアはもう次の紙へ手を伸ばしている。


その姿を見ているだけで楽しくなってきた。


「神絵師の芽を感じる」


「かみえし?」


「めちゃくちゃ絵が上手い人」


「私、まだ全然です」


「じゃあ将来候補」


「勝手に候補にしないでください」


困ったように言いながら、リアは笑っていた。


俺も笑う。


城壁の向こうには、これから入る街がある。どんな場所なのかも、どうやって暮らしていくのかも、まだわからないことだらけだ。


それでも、この世界で最初に出会った少女が、俺の推しを見て、自分の絵を描いた。


それだけで、少し先が楽しみになった。


俺は《タクミ・ブレイザー》を鞘へ戻し、痛バッグを肩へかけ直した。


「そろそろ行こうか」


「はい、先生」


数歩進んでから、俺は止まった。


「……先生?」


リアも止まる。


「いろいろ教えてもらったので」


「いや、俺、絵は描けないぞ?」


「でも、ルミナスさんのことを教えてくれました」


「それなら無限に教えられる」


「じゃあ先生です」


なぜか押し切られた。


まあ、いいか。


リアは自分の描いた絵を大事そうに抱え、俺と一緒に城壁の方へ歩き出した。

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