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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
6 創作革命! ラクケット開幕

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ラクケットに向けて その2

「……これは、どういうことだ?」


 カフェ『KIRABOSHI』のテーブルに置かれた紙を見て、俺は首を傾げた。


 紙には、アーグが調べてきた会場候補が書かれている。


 候補その一。


 広い。でも、高い。


 候補その二。


 安い。でも、狭い。


 候補その三。


 広さも値段も、まあまあ。


 ただし、使用条件が厳しい。


「……全部、問題があるじゃん!」


「問題のない会場が、都合よく転がっていると思ったか?」


 アーグが真顔で返した。


「思ってました!」


「そうか」


「そこは否定して!?」


 先日のラクケット準備会議で、俺たちは役割を分担した。


 アーグは会場と費用。


 セラは参加に興味がある人への聞き取り。


 リアは絵を描く人たちの声を集める。


 そして俺は、ラクケットがどんな場所なのか説明できるようにする。


 そんな調査を始めて、数日。


 今日、ようやく具体的な話を持ち寄ることになった。


「まず言っておく」


 アーグが紙を指で叩いた。


「使えそうな場所を調べて、管理している者に条件を聞いてきた。だが、どこも予約や使用許可を得たわけではない」


「……つまり?」


「まだ会場はない」


「現実が厳しい!」


『現実は、最初からそこにあったのだがのう』


「ゴルドス! 分かってるって!」


 俺はもう一度、紙を見つめた。


 広い場所を借りれば、それだけ費用がかかる。


 狭い場所なら、費用は抑えられる。


 でも、たくさんの作り手が参加したいと言ってくれたら、入りきらない。


「……難しいな」


「だから、先に人数を調べる必要がある」


 アーグの言葉に、俺は頷いた。


「じゃあ、セラ!」


「はいはい」


 セラが別の紙を広げた。


「こっちも、なかなか面白いことになってるわよ」


     ◇


「作品を見せたいって人は、いたわ」


「本当か!?」


「ええ。ただし、全員が売りたいわけじゃないの」


 セラは、聞いてきた話を一つずつ教えてくれた。


 刺繍を作っている女性は、ほかの人にも見てもらいたいらしい。


 でも、値段をつけて売るとなると、自信がない。


 木彫りをしている衛兵も、作品を見せることには興味がある。


 ただ、勤務の都合があるし、まだ完成していないものも多い。


「……なるほど」


 俺は腕を組んだ。


 作るのが好き。


 見せるのも、ちょっと楽しそう。


 でも、売るとなると話が変わる。


「ほかにもね」


 セラが続けた。


「家で絵を描いてる人がいたんだけど、その人は『お金をもらえるような絵じゃないから』って」


「……!」


 俺は思わず立ち上がった。


「そんなことないだろ!」


「先生」


 リアが、そっと俺の袖を引いた。


「……気持ちは分かりますけど」


「うっ」


「その人が、まだ見せたくないって思ってるなら……」


 俺は、はっとした。


 そうだ。


 俺は、好きなものを誰かに見てもらう楽しさを知っている。


 でも、だからといって。


 誰もが今すぐ見せたいとは限らない。


「……そうだな」


 俺は椅子に座り直した。


「無理に出てもらうのは違うよな」


「ええ」


 セラが頷いた。


「その人が自分で決められるようにしたいわね」


 俺は大きく息を吸った。


 ……危ない危ない。


 また布教の勢いで、相手の気持ちを置いていくところだった。


『学習したようで、時々忘れるのう』


「思い出したからセーフ!」


『判定が甘すぎるわい』


     ◇


「私も、聞いてきました!」


 リアが手を挙げた。


 その手には、いくつかの覚え書きがある。


「お絵描き教室に来てくれた人たちや、絵を描いている人たちに、お話を聞いたんです」


「おお! どうだった!?」


「……あの」


 リアは少し迷った。


「みなさん、興味はあるみたいなんです。でも……」


「でも?」


「『何を持っていけばいいのか分からない』って」


「……ああ!」


 俺は頷いた。


 そうか。


 俺の頭の中には、前世の同人イベントの景色がある。


 机に本を並べて。


 値札を置いて。


 買いに来た人と話す。


 でも、この世界の人たちにとっては、それが当たり前とは限らない。


「絵を一枚だけ持っていってもいいのか、とか」


「うんうん」


「途中まで描いた絵でもいいのか、とか」


「なるほど!」


「それから……」


 リアは、少しだけ声を落とした。


「自分の作品が、ほかの人の作品より下手だったら、恥ずかしいって」


「……そっか」


 俺は、紙に書かれた言葉を見つめた。


 上手い人しか参加できない。


 売れる作品がなければ、出る意味がない。


 もし、そんなふうに思われているなら。


 俺が考えていたラクケットとは、少し違う。


「……なあ、みんな」


 俺は顔を上げた。


「ラクケットって、絶対に何か売らなきゃいけない場所にする必要、ないよな?」


「……どういう意味だ?」


 アーグが尋ねる。


「売る人は売る。でも、見せたいだけの人は、展示だけでも参加できたらいいんじゃないかって」


「展示だけ?」


「そう!」


 俺は勢いよく頷いた。


「自分の絵を一枚持ってきてもいい! 木彫りを一つだけ置いてもいい! 誰かが見て『いいね』って言ってくれるだけでも、十分楽しいだろ!」


 リアの顔が、ぱっと明るくなった。


「……それ、素敵です!」


 セラも頷く。


「売るのは怖いけど、見せてみたいって人なら参加しやすいかもしれないわね」


 アーグは少し考えた。


「……理念としては理解できる」


「おっ!」


「だが、展示だけでも場所は使う。机も必要だ。費用が消えるわけではない」


「ぐはっ!」


 現実の二撃目!


「それに、展示物が壊れたり、持ち去られたりしないようにする方法も考えなければならん」


「……確かに」


 俺は腕を組んだ。


 見せたい人が安心して参加できる場所。


 そのためには、運営する側にも責任がある。


「じゃあ、展示だけの参加もできるようにしたい。ただし、必要な場所や管理方法を調べてから、正式に決めよう」


 アーグが頷いた。


「それなら検討できる」


「よし!」


 俺は紙に書いた。


『展示だけの参加――検討!』


『また「検討」が増えたのう』


「今はそれでいいんだよ!」


 決めていないことを、決めたふりはできない。


 そのくらいは、俺も分かってきた。


     ◇


「それと、商品についても問題がある」


 アーグが別の紙を取り出した。


「商品?」


「ああ。例えば、お前が話していた同人誌だ」


「おお! 同人誌!」


 俺は思わず身を乗り出した。


「その言葉をアーグの口から聞ける日が来るとは……!」


「話を聞け」


「はい!」


「紙が高い。印刷を頼むにしても、今は以前ほど簡単に数を用意できない」


「……うん」


 俺は頷いた。


 ルミナス通信を印刷する時にも苦労した。


 お絵描き教室の告知だって、少部数に抑えたばかりだ。


「つまり、リアの漫画を本にするにしても……」


「大量には作れないだろうな」


 リアが、少し不安そうに目を伏せた。


「……それなら、やめた方がいいでしょうか」


「いや!」


 俺は首を振った。


「やめなくていい!」


「……先生?」


「最初から何十冊も作らなくていいんだよ」


 俺は、テーブルの上の紙を一枚手に取った。


「例えば、まずは見本を一冊だけ作ってみるとかさ。何ページにするか考えるだけでもいい」


「……一冊だけ」


「そう。そこから、何部なら無理なく作れるか考えればいい」


 リアは、ゆっくり頷いた。


「……はい」


 俺は笑った。


「大事なのは、無理に数を増やすことじゃない。リアが作りたい本を、ちゃんと作れることだと思う」


 その言葉を聞いて、リアは少しだけ微笑んだ。


「……ありがとうございます」


 アーグも、小さく頷いた。


「まず見本を作るだけなら、費用も確認しやすい。正式な印刷は、それから判断しよう」


「よし!」


 俺は拳を握った。


「同人誌計画、第一歩!」


『まだ一冊もできておらぬがな』


「第一歩だからいいんだよ!」


     ◇


 それから俺たちは、作品ごとに必要なものを整理していった。


 絵なら、飾る場所。


 漫画の冊子なら、並べる机。


 木彫りなら、倒れたり落ちたりしない置き方。


 刺繍なら、布を広げて見せられる場所。


「……こうして考えると、全然違うな」


 俺は呟いた。


「同じ『作品』でも、必要なものはそれぞれ違う」


「そうね」


 セラが頷いた。


「布なら畳めるけど、木彫りは形によっては壊れやすいもの」


「絵も、汚れないようにしたいです」


 リアが付け加える。


「それに、誰かが触ってもいい作品と、触らないでほしい作品もありますよね」


「……確かに!」


 俺は目を丸くした。


 創作の楽しさを広めたい。


 でも、そのために作品を傷つけてしまったら意味がない。


「じゃあ、見せ方も、作った人と相談して決めるのがよさそうだな」


「そうだろうな」


 アーグが頷いた。


「運営側が勝手に決めるより、本人に希望を聞いた方がいい」


「……うん!」


 俺は紙に書き足した。


『作品の扱いは、作った人の希望を確認!』


 そして、ふと気づいた。


「……なあ、アーグ」


「何だ?」


「商品を売る場合って、値段も本人が決めるんだよな?」


「基本的にはそうだ。ただし、会場の規則や売買の取り決めは必要になる」


「そっか……」


 俺は、少し考えた。


 自分が好きで作ったもの。


 それをいくらで売るのか。


 そもそも、売るのかどうか。


 そんなことも、作った本人が選べるようにしたい。


「……ラクケット、思ってたより考えることが多いな」


「ようやく理解したか」


「理解しました!」


 アーグが、少しだけ笑った。


     ◇


 夕方。


 KIRABOSHIのテーブルには、何枚もの紙が並んでいた。


 会場候補。


 参加に興味がある人たちの声。


 展示や販売の方法。


 必要な机や道具。


 そして、まだ分からない費用。


 シエルは、紙に書かれた項目を一つずつ眺めていた。


「……絵は、飾る場所。歌は……?」


「歌なら、聞く人が集まれる場所も必要になるな」


 俺が答えると、シエルは小さく頷いた。


「……そっか。みんな、違うんだね」


「そうだな」


「……でも、みんな、大事」


 俺は思わず笑った。


「その通り!」


 歌を披露するかどうかは、まだ決まっていない。


 でも、こうして考えることならできる。


 その時、アーグが全員を見回した。


「ここまで調べて、分かったことがある」


「何だ?」


「ラクケットを開くこと自体は、不可能と決まったわけではない」


「……!」


 俺は顔を上げた。


「本当か!?」


「ただし、今のままでは開催を決定できない」


「……ですよね!」


 アーグは紙を指で叩いた。


「会場候補はある。参加に興味がある人もいる。並べたい作品の種類も見えてきた」


「うん!」


「展示だけの参加を認める案もあるが、必要な場所と管理方法を確認してからだ」


「……分かった!」


「そして、費用と支援が足りない。今の状況では、必要なものをすべて用意できるとは限らん」


 俺は黙って頷いた。


 材料の値段は、まだ高い。


 ギルドの公的な後援も、以前のようには受けられない。


 それに、俺たち自身にも無制限の資金があるわけじゃない。


「……じゃあ、どうする?」


 俺が尋ねると、アーグは少し考えた。


「まず、必要な費用をもっと絞り込む。そのうえで、どこまでなら自分たちで負担できるか確認する」


「うん」


「それでも足りないなら、別の支援方法を考える必要がある」


「……なるほど」


 俺は、会議の紙を見つめた。


 夢だけでは、イベントは開けない。


 でも。


 夢があるから、現実の問題にも向き合える。


「……よし!」


 俺は顔を上げた。


「じゃあ、まだ諦めない!」


 セラが笑った。


「最初から諦めるつもりなんて、なかったでしょ?」


「もちろん!」


 俺は胸を張った。


「だって、まだ見たい景色があるんだよ!」


 リアが、小さく頷く。


「……私も、見てみたいです」


「どんな景色?」


 俺が尋ねると、リアは少し考えた。


「……みんなが、自分の作ったものを並べて……」


 その目が、きらきらと輝く。


「それを見た人が、嬉しそうに笑ってくれる景色です」


「……最高じゃん」


 俺は、思わず笑った。


 ああ。


 そうだ。


 俺が見たいのも、そういう景色だ。


     ◇


「……でも、先生」


 リアが、ふと何かを思い出したように言った。


「ん?」


「みなさんの作品を見ていたら、私も何か描きたくなってきました」


「おお!」


 俺は身を乗り出した。


「ぴーちゃんの新作!?」


「……それも、いいんですけど」


 リアは少し首を傾げた。


「まだ、何を描きたいのか、よく分からなくて」


「……そっか」


 俺は頷いた。


「でも、描きたいって気持ちはあるんだろ?」


「……はい」


「だったら、急がなくてもいいんじゃないか?」


 リアが顔を上げた。


「……急がなくても?」


「そう。何を描くかって、自分で決めることだろ?」


 俺は笑った。


「リアが本当に描きたいものを、リアが見つければいいんだよ」


「……」


 リアは、しばらく黙っていた。


 そして、小さく微笑んだ。


「……はい」


 けれど、その視線はまだ、鞄の中の白い紙へ向けられていた。


 何かを描きたい。


 でも、何を描くのか。


 その答えは、まだ見つかっていないようだった。


 俺は、その横顔を見つめた。


 今は、無理に答えを出さなくてもいい。


 描きたいものを探す時間だって、リア自身のものなんだから。


『……お主も、少しは教え方が変わったようだな』


「え?」


『以前なら、真っ先にミスティアを描けと言っておっただろう』


「……!」


 俺は、思わず口を閉じた。


 ……確かに。


 昔の俺なら、そう言っていたかもしれない。


 でも今は。


「……リアが描きたいものが、一番だろ」


 俺がそう答えると、ゴルドスは小さく笑った。


『ふむ。悪くない』


     ◇


 KIRABOSHIの窓から、夕日が差し込んでいた。


 ラクケットの開催は、まだ決まっていない。


 会場も、費用も、解決していない。


 でも。


 準備会議の時には、ただの夢だったものが。


 少しずつ、現実の形を持ち始めていた。


 参加したい人がいる。


 見せたい作品がある。


 そして、それを実現するために必要なものが、少しずつ分かってきた。


「……アーグ」


「何だ?」


「大変だな、イベントって」


「今さらだな」


「今さらです!」


 俺たちは笑った。


 でも、その笑いは、決して諦めのものじゃなかった。


 まだ見ぬラクケット。


 その会場に並ぶ、誰かの『好き』。


 俺は、その景色を想像した。


 きっと、楽しい。


 きっと、騒がしい。


 そして、きっと。


 俺が想像している以上に、いろんなものが集まる。


「……よし!」


 俺は拳を握った。


「次は、足りないものを何とかする方法を考えよう!」


 アーグが、静かに頷いた。


「まずは、何がどれだけ足りないかを確かめてからだ」


「了解!」


 革命は、一本の線から始まった。


 その線は、今。


 人と人をつなぐ場所へ向かって、少しずつ伸び始めている。


 ラクケット開催への道のりは、まだ遠い。


 けれど。


 俺たちは、確かに前へ進んでいた。

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