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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
6 創作革命! ラクケット開幕

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革命は一本の線から始まる その3

 革命が始まった。


 ……いや、正確には。


「先生! 見てください!」


「おおっ!?」


 カフェ『KIRABOSHI』へ駆け込んできたリアが、俺の目の前に一枚の紙を広げた。


 そこに描かれていたのは、ちょっと不格好なドラゴン。


 大きな翼。


 短い足。


 そして、口から勢いよく飛び出す炎!


「これ、あの子が描いたドラゴンじゃないか!」


「はい! でも、よく見てください!」


 リアが紙の端を指さす。


 そこには、もう一匹のドラゴンがいた。


 こっちは、さらに不格好だ。


 翼らしきものが三枚もある。


「……ドラゴンが増えてる?」


「この前の教室に来てくれた子が、お友達と一緒に描いた絵を見せに来てくれたんです! 先生にも見てほしいって!」


「……!」


 俺は、思わず息を呑んだ。


 数日前。


 初めて開催したお絵描き教室には、三人しか来なかった。


 でも、その三人は、自分の絵を大切そうに持ち帰ってくれた。


 そして今。


 そのうちの一人が、友達と一緒に新しい絵を描いている。


「……すごいじゃん」


 俺は紙を見つめた。


 綺麗な絵じゃない。


 立派な作品でもない。


 でも。


 そこには、確かに二人分の『好き』があった。


『ふむ。一人が描けば、別の者も描きたくなるか』


「そうなんだよ、ゴルドス!」


 俺は勢いよく頷いた。


「これだ! これこそ俺が見たかった革命の第一歩!」


「先生、まだ続きがあるんです!」


「何っ!?」


 リアが嬉しそうに笑った。


「最近、街のあちこちで、自分でも何か作ってみようって人が増えてるみたいなんです!」


 ……なんだって?


     ◇


 俺たちは、その話を確かめるために街へ出た。


 最初に見つけたのは、市場の片隅。


 子供たちが地面にしゃがみ込み、何やら夢中になっている。


「……何してるんだ?」


 近づいてみると、地面にはいくつもの絵が描かれていた。


 ドラゴン。


 花。


 鳥。


 そして――。


「ミスティア様ぁぁぁ!?」


 俺は思わず叫んだ。


 そこには、見覚えのある髪型をした女の子が描かれていた。


 ちょっと頭が大きい。


 手も短い。


 でも、その髪型は!


「それ、ミスティア様だよな!?」


「え? うん!」


 子供の一人が頷いた。


「お店の紙に描いてあった人!」


「おおおおっ!」


 俺は膝をついた。


「ついに……ついに、ミスティア様が子供たちの心に……!」


「先生、落ち着いてください!」


 リアに袖を引かれる。


「でも見ろよ! あの尊い髪型を、ちゃんと覚えてるんだぞ!」


「先生が描いた方に似てますけど……」


「……え?」


 改めて見た。


 丸い顔。


 短い手足。


 そして、髪。


 ……確かに。


 あれは。


 俺が描いた、じゃがいもミスティア様だった。


「…………」


『お主の絵も、無駄ではなかったようだな』


「ゴルドスぅぅぅ!」


 しかし、子供たちは楽しそうだった。


 一人が線を引く。


 別の子が続きを描く。


 さらに別の子が、横に鳥を描き足す。


「これ、ぴーちゃん!」


「あっ! それ、私も知ってる!」


 リアが嬉しそうに顔を上げた。


 シエルも、小さく微笑んでいる。


「……ぴーちゃん、人気者」


「ぴっ!」


 本人……いや、本鳥も、どこか得意げだった。


 俺はその光景を見つめた。


 誰かに頼まれたわけじゃない。


 お金をもらえるわけでもない。


 ただ、描きたいから描いている。


 ああ。


 これだ。


 俺が『輝星のルミナス』第十八話で見た、あの景色に少し似ていた。


     ◇


 だが、驚きはそれだけではなかった。


「……それ、何ですか?」


 次に俺たちが足を止めたのは、街の見回りをしている衛兵のそばだった。


 衛兵は休憩中らしく、小さな木片を手にしていた。


「ん? ああ、これか」


 少し恥ずかしそうに笑う。


「木を削ってるんだ」


「木彫りですか?」


 リアが目を輝かせた。


「ああ。最近、子供たちが楽しそうに絵を描いてるだろ? それを見てたら、昔ちょっとやってたことを思い出してな」


 衛兵は木片を見せてくれた。


 そこには、小さな鳥の姿が彫られかけている。


「……おお!」


 俺は感嘆の声を上げた。


「ぴーちゃん!?」


「いや、特に名前はないんだが……」


「ぴーちゃんに似てる!」


 シエルも小さく頷いた。


「……ちょっと、似てる」


「そうかい?」


 衛兵が照れくさそうに笑った。


「まだ途中なんだけどな。こういうの、作ってると時間を忘れる」


 俺は、衛兵の手元を見つめた。


 絵じゃない。


 紙でもない。


 木を削って、好きな形を作る。


「……なあ、リア」


「はい?」


「創作って、絵だけじゃないんだな」


「……はい!」


 リアが嬉しそうに頷いた。


「作ってみたいって気持ちがあれば、いろんな形になるんだと思います!」


 なるほど。


 一本の線から始まった革命は、いつの間にか一本の彫刻刀にまで広がっていたらしい。


『そのうち、街中が何かを作り始めるかもしれぬな』


「それ、最高じゃないか!」


     ◇


 さらに歩いていると、今度は広場の近くで女性たちが集まっていた。


 手にしているのは、布と針。


「……刺繍?」


 セラが足を止める。


「そうよ。最近、また始めたの」


 女性の一人が笑った。


「子供が絵を描いてるのを見てね。私たちも昔は、好きな模様を布に縫って遊んでたなって」


「へえ……」


 俺は身を乗り出した。


「何を作ってるんですか?」


「花の模様よ。こっちは鳥。こっちの人は、お菓子を刺繍してるの」


「お菓子!?」


 セラが目を輝かせる。


「食べられないのが残念ね」


「セラ!? そこ!?」


「だって、美味しそうじゃない」


 女性たちが笑った。


 その隣で、一人が小さく呟く。


「こういうの、誰かに見せるのは初めてなのよ」


「え?」


「家で作って、自分で使うだけだったから」


 女性は刺繍を見つめた。


「でも、こうして見せ合うと楽しいのね」


 俺は、その言葉を聞いて胸が熱くなった。


 描く。


 彫る。


 縫う。


 みんな違うことをしている。


 でも、そこにある気持ちは同じだ。


 自分の好きなものを、形にしたい。


 誰かに見てもらいたい。


 そして、できれば一緒に楽しみたい。


「……すごいな」


 俺は呟いた。


 セラがこちらを見る。


「何が?」


「俺たちが何も言わなくても、みんな自分で始めてる」


「そうね」


 セラが微笑む。


「誰かがやってるのを見ると、自分もやりたくなるものよ」


 リアは、女性たちの刺繍をじっと見つめていた。


「……私も、やってみたいです」


「リアも!?」


「はい! 絵とは違うけど、色を重ねるところが面白そうで……」


 女性たちが嬉しそうに笑った。


「今度、教えてあげるわよ」


「本当ですか!?」


「もちろん」


 リアの顔が、ぱっと輝く。


 今度はリアが、誰かに教わる側だ。


 それもまた、いい。


     ◇


 夕方。


 『KIRABOSHI』へ戻った俺たちは、今日見たものを話し合っていた。


「……子供たちの絵、衛兵の木彫り、女性たちの刺繍か」


 アーグが腕を組む。


「思っていたより、広がっているな」


「だろ!?」


 俺は勢いよく頷いた。


「しかも、みんな自分で楽しんでるんだ!」


『……興味深いのう』


 ゴルドスが、低い声で呟いた。


「何が?」


『人は、他者が何かを生み出す姿を見ると、自らも作りたくなるらしい』


「そうだな!」


『一つの楽しみが、別の楽しみを呼ぶ。街の空気まで、少し変わったように感じるわい』


 俺は窓の外を見た。


 いつもと同じラザリスの街。


 だけど、今日見た景色は少し違っていた。


 誰かが作ったものを、誰かが楽しそうに見ている。


 そして、自分もやってみようとする。


「……これが、創作の力なのかな」


 俺が呟くと、ゴルドスが小さく笑った。


『かもしれぬな』


 ただ、問題が全部解決したわけではない。


 材料の値段は高いまま。


 ギルドの公的な協力も、まだ制限されている。


 それに、ロザリア女王との市場勝負は、正式な条件さえ決まっていない。


 でも。


 今日見たものは、確かに本物だった。


     ◇


 一方、その頃。


 王都では、一通の報告書がロザリアのもとへ届けられていた。


「……ラザリスで、創作活動が広がっている?」


 女王ロザリアは、報告書へ目を落とした。


 子供たちの絵。


 衛兵の木彫り。


 女性たちの刺繍。


 そして、それらのきっかけとなった小さなお絵描き教室。


「なるほど……」


 ロザリアは、ゆっくりと微笑んだ。


「材料の供給が不安定になっても、彼らは別の形で活動を続けているのですね」


 側近が頷く。


「はい。まだ小規模ですが、街の人々の関心は確実に高まっております」


「……小規模、ですか」


 ロザリアは、報告書の一枚を指でなぞった。


「一人が作れば、別の一人も作りたくなる。そうして、作り手が増えていく……」


 その紫色の瞳が、わずかに細められる。


「作り手が増えれば、それを欲しがる人間も増えるでしょう」


「……商機があると?」


「ええ」


 ロザリアは静かに答えた。


「ただし、作りたい人が増えることと、商品として売れることは別です」


 彼女は報告書を閉じた。


「彼らが、その違いをどこまで理解しているか……興味がありますね」


 側近は、別の書類を差し出した。


「それと、例のアクスタの模倣についてですが」


「……進んでいるのですか?」


「製法の再現を試みている者がおります。安価な代替品を流通させられないかと」


 ロザリアは書類を受け取った。


 そこには、透明な板に絵を封じ込める試作品の報告が記されていた。


「……ふむ」


 ロザリアは、しばらく黙っていた。


「見た目を似せるだけなら、難しくはないのでしょうね」


 その声は、どこか冷ややかだった。


「ですが、同じように見えるものが、同じ価値を持つとは限りません」


「……では、中止させますか?」


「いいえ」


 ロザリアは微笑んだ。


「製法の研究は続けなさい。製造費と流通費も調べておくように」


「承知しました」


「ただし、一つ条件があります」


 側近が顔を上げた。


「……条件、ですか?」


「研究と、偽装は別の話です」


 ロザリアは書類を机に置いた。


「彼らの店の正規品だと偽って販売することは認めません。研究を続ける者たちにも、そう伝えなさい」


「……かしこまりました」


 側近が深く頭を下げる。


 ロザリアは、もう一度報告書に目を落とした。


「他者の作品に似たものを作れたからといって、その作品を生み出した者の想いまで手に入れたことにはなりませんからね」


 静かな声だった。


 だが、そこには譲らない響きがあった。


 やがて、ロザリアは窓の外へ目を向けた。


「……さて」


 小さく呟く。


「あなたたちは、その『好き』を、どこまで守れるのでしょうね」


     ◇


「……なあ、みんな」


 『KIRABOSHI』で、俺は一つの考えを口にした。


「今日、いろんな人の作品を見たよな?」


「はい!」


 リアが頷く。


「みんな、楽しそうでした!」


「だよな!」


 俺は立ち上がった。


「でもさ。ああいう作品って、作った本人と、その周りの人しか見られないことも多いだろ?」


「……そうね」


 セラが頷く。


「家の中で作って、そのまましまっておく人もいるでしょうね」


「それ、もったいなくない!?」


 俺は拳を握った。


「せっかく好きなものを作ったなら、もっといろんな人に見てもらえたらいいと思うんだ!」


 アーグが眉を上げた。


「……また何か思いついたのか?」


「もちろん!」


 俺は胸を張った。


「作ったものを、作った人が、自分の手で誰かに届ける場所を作るんだよ!」


「……届ける場所?」


 リアが首を傾げる。


「そう! 絵でも、木彫りでも、刺繍でも、何でもいい!」


 俺は両手を広げた。


「自分の作品を持ち寄って、見せ合って、気に入ったら買ってもらったり、交換したりできる場所!」


「……市場みたいなもの?」


 セラが尋ねる。


「そう!」


 俺は勢いよく頷いた。


「でも、普通の市場とはちょっと違う!」


 頭の中に浮かぶのは、前世で知っていた同人イベント。


 自分の好きなものを、自分で作る。


 それを机に並べる。


 そして、同じものを好きな誰かと出会う。


 あの熱気。


 あの楽しさ。


 あの、財布の紐が消し飛ぶ危険な空間!


『最後だけ不穏であるな』


「最高なんだよ、ゴルドス!」


 俺はテーブルを叩いた。


「名付けて!」


 全員の視線が集まる。


「第一回! ラザリス・クリエイターズ・マーケット!」


 一拍の沈黙。


「……長いわね」


 セラが言った。


「だから略して!」


 俺は人差し指を天へ突き上げた。


「ラクケット!!」


「……ラクケット?」


 リアが繰り返す。


「そう! ラザリスで、作り手が集まる市場! ラクケット!」


 シエルが小さく首を傾げた。


「……絵も、歌も?」


「もちろん! 歌だって、披露できる場所があるかもしれない!」


「……そっか」


 シエルが微笑んだ。


 アーグは、しばらく黙っていた。


 そして。


「……発想は面白い」


「だろ!?」


「だが、問題は山ほどある」


「……ですよね!」


 アーグは指を折り始めた。


「開催場所。費用。出展する人間。作品の管理。売買するなら、その取り決めも必要だ」


「うっ」


「それに、ギルドの公的な後援は今までどおりには受けられん。広場を使うとしても、許可が必要だろう」


「ううっ」


「何より、開催するだけで赤字になっては意味がない」


「ぐはっ!」


 俺は胸を押さえた。


「アーグ! 夢を数字で殴るのはやめて!」


「夢を実現するために数字が必要なんだ」


「正論!」


 セラが笑う。


「でも、悪くないと思うわ」


「……セラ?」


「今日見た人たち、楽しそうだったじゃない。あの人たちが、自分の作品をもっと見せられる場所があったら……きっと面白いわよ」


 リアも頷いた。


「私も……参加したいです!」


「リア!」


「絵を描くだけじゃなくて、いろんな人の作品を見てみたいです!」


 その目は、きらきらと輝いていた。


 俺は嬉しくなった。


 最初のお絵描き教室で、あんなに不安そうだったリア。


 今は、自分から新しい場所へ飛び込もうとしている。


「……よし!」


 俺は拳を握った。


「じゃあ、やろう! ……って言いたいけど、まずはできるか調べるところからだな!」


 アーグが一瞬、目を丸くした。


「……珍しいな。お前の口から、それが出るとは」


「俺だって成長してるんだって!」


『明日は雪かもしれぬのう』


「ゴルドス!?」


 アーグは小さく笑った。


「なら、まずは会場や費用を調べよう。実現できると分かってから、開催を決める」


「了解!」


 まだ、会場もない。


 開催日も決まっていない。


 参加してくれる人が何人いるかも分からない。


 でも。


 俺たちには、見せたいものがあった。


 誰かが描いた、一本の線。


 誰かが彫った、小さな木片。


 誰かが縫った、好きな模様。


 そういうものが集まったら、どんな景色になるんだろう。


『……また大きなことを考え始めたのう』


「当然だろ、ゴルドス!」


 俺は笑った。


「だって、好きなものが集まる場所だぞ?」


 窓の外では、ラザリスの街に夕日が差し込んでいた。


 誰かが描いた絵。


 誰かが作った小さな作品。


 その一つひとつは、まだ小さな光だ。


 でも、集まれば。


 きっと、今まで見たことのない景色になる。


「……ラクケット」


 俺は、もう一度その名前を呟いた。


 革命は、一本の線から始まった。


 そして今。


 その線は、少しずつ、誰かの線とつながり始めていた。

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