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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
5 女王様と推しの経済戦争

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創刊!ルミナス通信 その1

 ラザリスのカフェ『KIRABOSHI』に、オタクミの声が響いた。


「諸君! 我々は今、歴史の転換点に立っている!」


「座って」


「まだ始まったばっかりだろ!?」


「店だから」


 セラに睨まれ、オタクミは渋々椅子へ戻った。テーブルには、大きな文字で題名を書いた羊皮紙がある。


「以前ぶち上げた『ラザリス秋葉原化計画』、覚えてるだろ!」


「忘れるわけないでしょ。街を変えるって騒いだやつね」


「作る人、選ぶ人、語る人が出会える街だ! でも最近気づいた。リアの絵もアクスタも、知らない人には届かない。シエルたちが歌の練習を始めたことだって、俺たちしか知らない!」


「まだ練習を始めたばかりだけどね」


「だからこそだよ! 今、誰かが何かを始めてる。その面白さを伝える場所が欲しい!」


 オタクミは羊皮紙を広げた。


「そこで! 無料で配る読み物――フリーペーパー『ラザリス・ルミナス通信』を作る!」


「無料?」


 アーグの目が鋭くなった。


「紙代は?」


「愛!」


「印刷代は?」


「情熱!」


「配布費用は?」


「根性!」


「却下だ」


「早い!!」


 オタクミは抗議しかけたが、紙の端に『制作費を考える』と書き足した。


『珍しく素直だな』


「俺だって成長するんだよ!」


「毎回自分で言わないで」


 リアが笑った。その横で、シエルが小さく首を傾げる。


「……それ、何を書くの?」


「この街の面白いもの! 作った人の話! 読んだ人が『ちょっと気になる』と思えるもの!」


「……好きにならなくても?」


「もちろん。読んで、自分には違うと思ってもいい。知らなかったものに出会えたら、それだけで一歩だろ?」


 シエルは考えてから頷いた。


「……私、読んでみたい」


「読者第一号確保!」


「まだ一文字も完成してないわよ」


     ◇


「では創刊号の企画会議! 巻頭特集はミスティア様の魅力を語る五千文字論文!」


「長い」


「まだ内容言ってない!」


「題名は?」


「『クーデレの定義とキャラクター性の深淵について』!」


「題名も長い」


「名作の香りしかしないだろ!」


 リアがおずおずと手を上げた。


「先生。初めてミスティア様を知る人には、少し難しいかもしれません。それより、先生がどうして好きになったのか、読んでみたいです」


 オタクミは言葉を止めた。


 ミスティアの美点はいくらでも語れる。だが、自分が好きになった理由を言葉にするのは、まだ難しい。


「……じゃあ、好きなところを三つ。あとは俺が惹かれた時の話を書く」


「いいですね!」


「残り四千文字は?」


「削れ」


「俺の愛がぁぁぁ!」


『編集長も楽ではないな』


「今なら分かる……!」


「まだ一つ目よ」


 セラに呆れられながら、次の企画へ移る。


「アクスタの楽しみ方だ! リア、何かある?」


「窓辺に飾るのが好きです。光で絵の見え方が変わるので」


「朝日のミスティア様! 夕日のミスティア様! 曇っても最高!」


「結局いつでもいいのね」


「当然!」


 セラは少し考えた。


「旅先の景色と並べて眺めるのは?」


「『旅するアクスタ』! 採用!」


「すぐ名前つけるわね」


 シエルもアクスタを見つめる。


「……ぴーちゃんと一緒に置くのも、楽しそう」


「お前は本物の鳥だろ!」


「でも、知らない人が見たら、どうして一緒にいるのか気になると思う」


 リアが頷いた。


「そこから自分でお話を考える人もいそうですね」


 オタクミは紙に一行を加えた。


『あなたなら、どう飾りますか?』


 自分の正解を並べるだけではなく、読む人に続きを渡す。


 それも悪くなかった。


     ◇


「次は漫画!」


「描いてみたいです!」


 リアは早速、丸い鳥が走る四コマを描いた。転びかけ、羽を広げ、最後には得意げな顔をしている。


「『はしれ!ぴーちゃん』です」


「かわいい! 連載決定!」


「先生、まだ一作目です!」


「……続き、描きたい?」


「はい!」


「なら連載候補!」


「妙に慎重になったわね」


「学習の成果!」


 セラが絵を覗く。


「最後は転んだ方が面白くない?」


「でも、ぴーちゃんは飛べますよ?」


「飛べるのに走ってるから面白いんでしょ」


「あ、なるほど!」


 二人は顔を寄せ、結末を考え始めた。


 オタクミはその様子を眺めて微笑む。自分が何も言わなくても、新しいものが生まれている。


「セラにはグルメコラムを頼みたい!」


「何で私?」


「食べ物の感想に遠慮がないから!」


「……自分でおいしいと思った店なら、書いてもいいけど」


「『セラの胃袋は嘘をつかない』!」


「嫌」


「『食え! ラザリス!』!」


「もっと嫌」


「じゃあ何がいいんだよ!」


「『ラザリスごはん案内』でいいでしょ」


「普通! でも採用!」


 オタクミはシエルへ向き直った。


「歌の話も載せたいけど……シエルはどう思う?」


「……まだ、分からない」


「なら保留。載せたくなったら教えて」


「……いいの?」


「当然。誰かの前で歌うかどうかも、シエルが決めることだからな」


 シエルの顔が少し緩んだ。


「でも、いつかライブをやりたいって思ったら、俺は全力で手伝う!」


「それは分かってる」


「分かってます」


「疑いようがない」


『まず静かに応援する方法を覚えるべきだな』


「全員して何だよ!?」


 シエルが小さく笑った。


「他には街の話も欲しいな」


「あの吟遊詩人さんはどうでしょう?」


 リアの提案に、オタクミは夜の広場を思い出す。


 帰る場所を守るために立った、名もない騎士の物語。


「あの話、俺も気になる!」


「載せるなら本人に許可を取れ。ほかの記事と同じだ」


「了解! まず話を聞きに行こう」


 紙には『街の物語紹介――取材・掲載確認待ち』と書かれた。


     ◇


「……で、これを全部どう収める?」


 アーグが企画書を見て言った。


「ページを増やす!」


「費用も増える」


「ぐっ!」


「最初は小さく作れ。部数も、印刷できる紙面も工房に確認する。無料だからといって無尽蔵に配れるわけではない」


 オタクミは紙面を見下ろした。


 仲間が考えた企画を、できれば全部載せたい。だが、無理をすれば次が作れなくなる。


「……まず一号をちゃんと作る。それから考えるか」


「その方がいい」


「アーグに褒められた!」


「褒めてはいない」


 アーグは工房へ相談に出かけ、夕方には紙の大きさと費用の目安を持ち帰った。


 正式発注は原稿が揃ってから。そこだけはオタクミも素直に頷いた。


 夜になっても『KIRABOSHI』の一角では作業が続いていた。


「……削れねえ」


「削れ」


「ミスティア様の魅力は削るほど新しい魅力が湧くんだよ!」


「紙面は増えないぞ」


「無慈悲!」


 やがてオタクミは原稿を抱えたまま突っ伏し、あっという間に寝息を立て始めた。シエルもぴーちゃんと先に休んでいる。


 セラは周囲を見回し、リアへそっと顔を寄せた。


「……例の絵。新作ある?」


「ありますよ。とびっきりのが」


 リアが荷物の奥から、別のスケッチブックを取り出す。


「……姉御、例のブツが仕上がってますぜ」


「……よくやったわ」


 二人は笑いをこらえてページを開いた。


 男の姿になったミスティアと、同じく男の姿になったオタクミ。雨の中で身を寄せ合い、桜の下で見つめ合う二人が描かれている。


「ちょっとリア! 前より距離が近くない!?」


「セラさんのご意見を参考にしました!」


「言ったけど……!」


 次のページでは、片方が壁に手をつき、もう片方へ顔を寄せていた。


「こ、これは……!」


「静かに! 先生が起きちゃいます!」


 その時、背後から低い声がした。


「……何をしている」


 アーグだった。


「姉御、ブツ、取引。聞き覚えのある言葉ばかりだな」


「違うの!」


「何が違う?」


 アーグがスケッチブックを覗き込み、固まった。


「…………これは」


「絵です!」


「見れば分かる! なぜこの二人が、こんな距離で……!」


「解釈です!」


「何の!?」


 手元の茶を飲もうとしたアーグが、盛大に噴き出した。


「ぶふぉっ!?」


 騒ぎにオタクミが目を覚ます。


「……んあ? 何だ?」


 真っ赤な顔のリアとセラ。茶を噴き出したアーグ。


 オタクミは寝ぼけたまま考え、にやりと笑った。


「分かった! 俺のミスティア様特集に感動して、尊みでむせび泣いたんだな!」


「違う!」


「分かるぞ! ミスティア様の魅力は文字にすればさらに――」


「寝て!」


「なんで!?」


 リアは必死にスケッチブックを閉じ、アーグは深いため息をついた。オタクミだけが満足そうに頷く。


「……よし。ルミナス通信、これはいけるな!」


「何を根拠に!?」


「人の心をこんなに動かせるんだぞ!」


 テーブルの上には、まだ完成していない紙面が広がっていた。


 絵。物語。食べ物。誰かの好きなもの。そして編集長の知らないところで生まれた、秘密の創作。


 『ルミナス通信』が街へ届くのは、まだ少し先のこと。


 けれどその夜も、ラザリスでは誰かの「好き」から、新しい物語が生まれていた。

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