表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/66

創刊!ルミナス通信 その1

クリスタル・ゴーレムとの激戦を終え、シエルの覚醒という大きな一歩を踏み出した一行。彼女が本当の意味で「先生」になるためのレッスンは始まったばかりだが、プロデューサーであるオタクミの思考は、すでに遥か未来へと飛んでいた。


カフェ『KIRABOSHI』の作戦会議室いつものテーブルに、彼は仲間たちを緊急招集した。

「勝利の余韻に浸っている暇はない! 鉄は熱いうちに打て、推しは熱いうちに布教しろだ! アイドル計画を成功させ、そして『ラザリス秋葉原化計画』を加速させるため、我々は最強の武器を手に入れる!」

オタクミがテーブルにバンと叩きつけたのは、一枚の企画書だった。

そこに書かれていたのは――フリーペーパー『ラザリス・ルミナス通信』創刊計画。

「武力で世界は救えない! だが、文化ペンは剣よりも強し! 俺たちはこのフリーペーパーで、ラザリスの民の脳に、直接『尊み』を刻み込むのだ!」

自らを「編集長」に任命したオタクミは、有無を言わさぬ勢いで、創刊号の記事企画を発表し始めた。その瞳は、もはや世界の命運を背負った編集者のそれだった。


「まず巻頭特集だ!」オタクミが羊皮紙を広げる。「この世界の民に、我らが『輝星のルミナス』の尊さを知らしめる必要がある! 俺が筆を取り、ミスティア様の魅力を、その生い立ちから紐解く5000文字の論文を寄稿する! テーマは『クーデレの定義と、そこから見えるキャラクター性の深淵について』だ!」

「編集長、却下だ」

アーグが、こめかみを揉みながら即座に制止した。「誰もそんな長文は読まん。キャラクターの要点を3つに絞り、箇条書きで簡潔にまとめろ!」

「俺の愛の結晶が…箇条書きに…!」

オタクミは血の涙を流しながらも、アーグの現実的な修正案を受け入れた。

「次に、我々の主力商品であるアクリルスタンド、通称『アクスタ』の紹介記事だ! ただの紹介ではない、具体的な『使用例』を提案し、民衆の生活にアクスタを根付かせるのだ!」

オタクミが仲間たちに意見を求めると、三者三様の答えが返ってきた。

「窓辺に飾れば、ミスティア様と一緒に朝日を浴びられます!」と、純粋なリア。

「…まあ、小さいナイフを研ぐ時の、砥石といし代わりにはなるんじゃない」と、実用的すぎるセラ。

「重要な契約書の上に置けば、文鎮になる。相手への威圧効果も期待できるな」と、ビジネス的なアーグ。

「お前たちは分かっていない!」

オタクミは立ち上がり、オタクならではのリアルな(?)使用法を熱弁した。


「まず一つ目! 【旅するアクスタ】だ!」

オタクミは拳を突き上げる。

「推しと一緒にお出かけして、思い出を切り取る使い方! これは王道にして最強! カフェで推しと一休みして『ぬい撮り』したり、旅行先の絶景と一緒に撮影したり――まるで推しと北海道旅行してる気分になれるんだ!」

リアが両手を胸の前で組み、目を輝かせる。

「わあっ…! 私、絶対やってみたいです! ぴーちゃんと一緒に噴水前で写真撮りたいです!」


「次! 【魅せるアクスタ】! インテリアとして飾るんだ!」

オタクミは空中に大きく四角を描くジェスチャーをしながら続ける。

「透明なケースにテーマカラーの小物を入れて祭壇を作ったり、ミニチュア家具と組み合わせてジオラマ風にしたり、壁掛けの棚に缶バッジと一緒に並べたり――お部屋全体を尊み空間に変えられる!」

セラは半眼で聞き流しつつも、心の奥では「ちょっと楽しそうかも」と思っていた。


「そして最後! 【創作するアクスタ】だ!」

オタクミの声が最高潮に達する。

「コマ撮りアニメの主役にしたり、お出かけ用ポーチのモデルにしたり! さらにファン同士で並べて記念撮影――そうすれば『推しは世界を繋ぐ架け橋』になる! これはもはや、ただのグッズじゃない! 未来を紡ぐ神器なんだ!」

アーグはため息をつき、額を押さえた。

「……記事にするのは構わんが、分量は厳守だ。熱意を語りすぎると巻頭論文の二の舞になるぞ」

「うぐっ…」

痛いところを突かれたオタクミは、涙目で羊皮紙に「簡潔に!」と赤字でメモを書き込んだ。


「そして、最後のページで重大発表だ! アイドルのデビューライブ開催を、ここで告知する!」

アーグがカレンダーを取り出し、「会場の確保、宣伝、レッスン期間を考えると、最低でも3ヶ月は必要だな」と助言する。

こうして、紙面には「伝説の夜は、今から3ヶ月後の『双月の夜』に!」という、具体的な日程が記されることになった。

その他、リアの4コマ漫画『はしれ!ぴーちゃん』、シエルのポエムコーナー「今週の絶望」、セラの(嫌々書かされた)グルメコラムなども盛り込まれ、異世界初のオタクメディアの紙面は、カオスな熱気に満ちていて、製作は、困難を極めた。


その日の深夜。徹夜作業の合間、カフェの片隅では、静かな時間が流れていた。

オタクミは、己の特集記事の推敲に燃え尽き、机に突っ伏して眠っている。アーグは少し離れた席で、ドワーフの版画工房から届いた、法外な請求書とにらめっこしていた。

リアとセラが、二人きりでお茶を飲んで、束の間の休憩を取っている。

その時だった。

セラが、周囲を警戒しながら、リアにだけ聞こえる声で耳打ちした。

「…ねえ、リア。例のあの絵…『新作』、あるかしら?」

その言葉に、リアのいつもの純粋な笑顔が、ふっと裏社会の商人のような不敵な笑みに変わった。彼女は人差し指を口に当て、悪戯っぽく囁き返す。

「ふふっふひふへへ…。もちろん、ありますぜ姉御あねご…。とびっきりの“ブツ”が、仕上がってます…!」

リアは、公式の仕事で使っているスケッチブックとは別の、棚の奥から隠し持っていた「裏スケッチブック」を取り出した。

その中身は、以前よりもさらにパワーアップした「男体化ミスティア×男体化オタクミ」のイラストだった。雨に濡れて一つのマントに身を寄せ合う二人、背中合わせで敵と戦う二人、そして、桜の木の下で、意味深に見つめ合う二人…。

セラは、クールな表情を必死に保っているが、その耳は真っ赤に染まり、食い入るようにページをめくっている。

離れた席にいたアーグの耳が、そのひそひそ話の断片(『姉御』『ブツ』『取引』)を拾ってしまった。

元転売魔の幹部である彼の脳裏に、長年の経験から導き出された、最悪のシナリオが浮かび上がる。

(なんだと…!? 『姉御』…『ブツ』…!? まさか、この小娘たち、このカフェを隠れ蓑にして、裏で何かの違法な取引をしているというのか!? 違法なポーションか、あるいは禁制品の魔道具か…! いかん、オタクミ殿の純粋な夢が、彼女たちの闇のビジネスに汚されてしまう!)

組織の風紀を守るという、壮大な勘違いをしたアーグが、正義感に燃えて二人の元へ詰め寄る。

「小娘たち! この神聖な場所で、いかがわしい取引とは感心せんな! その『ブツ』とやらを、私に見せてもらおうか!」

彼がテーブルの上の「裏スケッチブック」を覗き込んだ瞬間、そこに描かれていた「男体化ミスティアが、男体化オタクミに壁ドンしているイラスト」が、目に飛び込んできた。

ちょうど飲んでいた、紅茶を、アーグは盛大に噴き出した。

「ぶふぉっ!?」

むせ返り、顔を真っ赤にして固まるアーグ。

秘密の趣味がバレてパニックになるリアとセラ。

カオスな状況。

その完璧なタイミングで、眠っていたオタクミが「んん…」と目を覚ました。

彼は、目の前の光景を全く理解できないまま、寝ぼけ眼で言った。

「どうしたんだ、みんな!? まさか、俺が書き上げた特集記事の『尊み』の波動に当てられて、感動でむせび泣いていたのか!? 分かる、分かるぞその気持ち!」

秘密の腐女子クラブが結成されたことに全く気づかず、一人だけポジティブな勘違いを続けるオタクミ。

その背後で、リアとセラとアーグが、必死にアイコンタクトで「どう言い訳するか」を相談しているのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ