痛武器爆誕! その2
「武器の見た目って、どこまで自由なんだ?」
俺がそう聞くと、ゴルドスは少しだけ首を傾げた。
祭壇の上では、淡い光がゆっくりと渦を巻いている。まだ何の形も持たない光の塊なのに、そこから自分専用の神器が生まれると思うだけで妙に落ち着かない。
「ある程度は、貴殿のイメージが反映される」
「ある程度?」
「神器として成立する範囲であれば、形や装飾はかなり自由だ」
「色は?」
「問題ない」
「表面に文字とか」
「それも可能だ」
「絵は?」
ゴルドスが一瞬黙った。
「……絵?」
「そう。絵」
「武器にか?」
「武器に」
「なぜだ?」
その反応を見て、俺は逆に不思議になった。
なぜって。
武器の見た目が自由で、色も文字も入れられるなら、次に考えることなんて決まっているだろう。
「だって、せっかく毎日持つんだぞ?」
「毎日持つからこそ、扱いやすさや性能を優先するのではないのか」
「それも大事だけどさ」
俺は光る祭壇へ視線を戻した。
最強の武器。
さっきからその言葉を何度も頭の中で転がしている。
巨大な剣なら威力がありそうだ。槍なら間合いが取れる。盾と一体になった武器だって便利かもしれない。ゲームなら攻撃力、会心率、属性補正、特殊効果。考え始めれば、強そうな条件はいくらでも浮かぶ。
けれど、どうにも決め手に欠ける。
「強いだけじゃ、なんか違うんだよな」
「違う?」
「だって俺が使うんだろ、これ」
「そうだ」
「だったら、見るたびにテンション上がる方がいいじゃん」
ゴルドスの眉間に少しだけ皺が寄った。
たぶん理解されていない。
だが、俺にとってはかなり重要な問題だった。
性能がどれだけ高くても、持っていて嬉しくないものを「最高」と呼べるのか。
現実世界でもそうだった。
車だって、ただ走ればいいわけじゃなかった。
同じ金を払って、同じように道路を走るなら、俺はミスティアがいる車に乗りたかった。毎朝駐車場へ行った時、ボンネットを見るだけで少し気分が上がる。それだけでも、俺にとっては十分すぎる価値があった。
そこで、ふと事故現場で見た痛車輝の姿が頭をよぎった。
潰れたフロント。
歪んだボンネット。
見る影もなくなったミスティア。
「……あ」
「どうした?」
嫌な記憶ではある。
けれど同時に、一つの発想が浮かんだ。
「車にできるなら」
「む?」
俺は祭壇を指差した。
「武器にもできるよな」
ゴルドスが数秒、完全に黙った。
「何をだ」
「痛くする」
「もう少し詳しく説明せよ」
「見た目をだよ!」
俺は痛バッグを前へ回し、透明な窓越しに並んだミスティアのグッズを見せた。
「こういう感じで、推しを全面に出す!」
「神器に?」
「神器だからだよ!」
自分でも声が大きくなった。
普通の剣ならためらうかもしれない。
けれどこれは、俺専用の神器なのだ。
異世界に来て初めてもらう、自分だけの特別な武器。
そんなものを無難な銀色の剣で終わらせてどうする。
「まず色だな。ピンク」
「ピンク」
「ただのピンクじゃ弱い。メタリック感が欲しい」
「戦闘能力の話をしているのか?」
「デザインの話」
「そうか……」
ゴルドスの声から勢いが消え始めている。
気にせず続ける。
「で、刀身にるみたんを描きたい」
「待て」
「大きく」
「待てと言っておる」
「中途半端は一番ダメなんだよ。やるなら全面。フルカラー」
「神器だぞ?」
「知ってる」
「敵を斬るための武器だぞ?」
「それも知ってる」
そこで、俺は初めて少し引っかかった。
敵を斬る。
当然のことだ。
武器なのだから。
だが、頭の中で完成しかけたイメージに、その言葉を当てはめた瞬間、妙な違和感が走った。
ピンクメタリックの刀身。
そこに大きく描かれたミスティア。
そして、その刀身で敵を斬る。
当然、ぶつかる。
汚れる。
場合によっては傷がつく。
「……え」
想像した。
刀身に描かれたミスティアの顔へ、一本の傷が走る。
血が飛ぶ。
塗装が欠ける。
「嫌なんだけど」
「何がだ」
「傷つくじゃん」
「武器だからな」
「るみたんの顔に?」
「絵をそこへ描くのであれば、可能性はあるだろう」
「無理!」
即答だった。
ゴルドスが頭を抱えた。
「では描かなければよかろう!」
「それも無理!」
「なぜだ!」
「せっかく自由に作れる神器なのに、るみたんを入れない選択肢ないだろ!」
「では傷つく可能性を受け入れよ!」
「それができないから困ってんだよ!」
自分でも面倒なことを言っているのはわかる。
だが、無理なものは無理だ。
推しを武器に描きたい。
でも傷つけたくない。
どちらも譲れない。
「……貴殿は何を作ろうとしているのだ」
「最高の武器」
「今のところ、戦いにくくなる方向へしか進んでおらぬぞ」
「まだ考えてる途中だから!」
俺は祭壇の前で腕を組んだ。
描く場所を変える?
柄だけなら傷つきにくいかもしれない。
いや、それでは面積が足りない。
鞘に描く?
それはそれでアリだが、せっかく神器本体を自由に作れるのに、鞘だけ痛くするのは逃げた感じがする。
両面?
むしろ両面に別イラストを入れた方が満足度は高い。
「……両面っていける?」
「まだ増やす気か」
「表と裏で絵を変えたい」
「戦闘性能の相談はいつ始まるのだ」
「デザイン決まってから」
「順序が逆ではないか?」
「見た目が決まらないと性能考える気にならないんだよ」
「理解できぬ……」
ゴルドスが遠い目をしている。
俺は痛バッグの中からミスティアのアクリルキーホルダーを一つ取り出した。
今日のライブで買ったものとは別の、以前から使っているお気に入りだ。
銀髪をなびかせて笑うミスティア。
やっぱりいい。
「この感じを、もっと大きく」
祭壇の光へかざしてみる。
「周りに星の意匠入れて、名前も入れるか。いや、文字は多すぎると絵の邪魔になるな」
「もう完全にグッズ制作ではないか」
「神器制作だよ」
「本人がそう思っているだけでは」
「神側が否定すんな!」
ふと思いついて、俺はアクリルキーホルダーを揺らした。
「これも付けられる?」
「何を」
「チャームみたいに」
「戦闘中に邪魔ではないか?」
「取り外しできればいい」
「なぜ神器に別の推しグッズを付ける必要がある」
「盛れるから」
「盛るな」
「神器だぞ? 盛れるだけ盛った方がいいだろ」
「神器という言葉への信頼が急速に失われていく……」
俺は笑いながら、もう一度祭壇を見る。
さっきまで「最強の武器」と聞いても、どこか他人事だった。
強い剣を持てと言われても、正直そこまで実感がなかったのだ。
でも今は違う。
少しずつ形が見えてきている。
自分が持ちたいもの。
毎日見たいもの。
持っているだけで気分が上がるもの。
そして、できれば絶対に傷つけたくないもの。
「……決めた」
「何をだ」
「方向性」
俺は痛バッグを肩へ戻した。
「強いだけじゃダメだ。俺が見て最高だと思える武器にする」
「武器は鑑賞物ではないのだが」
「神器なら両立できるだろ」
「なぜそこだけ神器へ全幅の信頼を寄せる」
「だって神の武器なんだろ?」
ゴルドスは何か言い返そうとして、結局諦めたらしい。
深くため息をついた。
「……具体的な形を思い描け。神器は曖昧な願望だけでは形にならぬ」
「よし」
俺は祭壇の前へ立った。
両手をゆっくりとかざす。
光が指先へ集まり始めた。
頭の中に、さっきまで話していたイメージを組み上げていく。
武器としての形。
持ちやすさ。
刀身。
色。
そして、その上に描くミスティア。
まだ完成ではない。
細部も決まっていない。
傷つけたくないという問題も残っている。
それでも、最初に「剣か槍か」で悩んでいた時より、遥かにはっきりしていた。
祭壇の光が強くなる。
淡い金色だったはずの輝きに、少しずつ別の色が混じっていく。
ピンク。
その中心に、細長い武器の輪郭が浮かび上がった。
さらに表面へ何かが走る。
線。
輪郭。
銀色の髪を思わせる形。
「お、おい……」
ゴルドスの声が震えた。
「これ、本当にそのまま――」
「まだ途中!」
俺は目を閉じた。
ここで中途半端にするつもりはない。
せっかく作るなら、妥協はなしだ。
祭壇から強烈な光が溢れ、神殿全体を一瞬だけ白く染め上げた。
何が出来上がるのか。
俺自身にも、まだ全部は見えていない。
けれど一つだけ確信していた。
「絶対に」
光の向こうへ手を伸ばす。
「最高のものが来る!!!!」




