ドッキングシーンあるよ!(※ロボは出ません)
「その武器――ちょっと貸せ」
「断る」
「まだ何も説明してない!」
「その顔を見れば分かる!」
石畳の上で、アーグは即答した。
少し離れたところではジルバたちが体勢を立て直している。戦闘は終わっていない。むしろアーグが倒され、オタクミたちも押され始めた今こそ、悠長に遊んでいる場合ではなかった。
にもかかわらず。
オタクミは片手にアクスタの台座を握り、もう片方でアーグの武器を指していた。
「いや、見ろって。この幅、この辺の形。それに台座の切れ込み。これ絶対なんかいける!」
『戦場で「なんかいける」で他人の武器を改造しようとすんな!』
「改造じゃない! ドッキングだ!」
「なお悪い!」
アーグが怒鳴る。
ジルバが呆れた顔をした。
「……何をしているんです?」
「ちょっと待ってろ!」
「敵に待てと言うな!」
セラの怒声が飛んだ。
「オタクミ! やるなら早く!」
「おう!」
「本当にやるのか!?」
アーグが止めるより先に、オタクミは地面へ落ちていた武器を拾った。
そして台座を柄の根元へ押し当てる。
「合体!!」
ごつ。
「…………」
「…………」
『…………』
入らなかった。
「……合体?」
リアが遠慮がちに聞く。
「待って。今の無し」
「完全に入る流れだったぞ!?」
『俺もそう思った!!』
「規格が違う!」
「当たり前だ! 最初から別の物だぞ!」
アーグが武器を奪い返そうとする。
「返せ!」
「いや待て待て、もうちょい! ここ削る必要はないな。切れ込みを――」
「戦闘中に工作を始めるな!」
「先生!」
リアが声を上げる。
「台座の裏側、昨日固定した時に使った留め紐があります!」
「それだ!」
「何でリアまで乗るんだ!?」
リアが箱から細い留め紐を取り出し、オタクミへ投げる。
セラも戦いながら横目で見る。
「柄に直接付けるんじゃなくて、鍔の近くに固定したら? 握るとこ邪魔したら終わりでしょ」
「なるほど!」
「お前まで!?」
「文句言ってないで立って。次来る!」
男が一人、棒を振り上げて突っ込んでくる。
アーグは舌打ちし、オタクミから武器をひったくった。その間にオタクミが鞘で一撃を受け流し、セラが相手の足を払う。
「今!」
「分かってる!」
数秒。
本当に数秒だった。
台座を武器の根元へ添え、留め紐を通し、ずれない位置へ締める。
そして最後に――リアが避難させる途中で持っていた一枚のアクスタを、台座へ差し込んだ。
「できた!」
「……おい」
アーグが固まった。
自分の武器。
その根元。
そこに、人の絵が立っている。
昨日、自分が長く見ていたものとは別の絵だった。
戦う姿でもない。
派手な構図でもない。
ただ、こちらを見ているような一枚。
「何をしてくれた」
「痛武器化!」
「戻せ!」
「今すぐ!?」
「今すぐだ!」
『わりと似合ってるぞ』
「黙れ!!」
アーグが武器を振ろうとして――止まった。
重い。
いや、武器そのものが重くなったわけではない。
根元へ台座が付いたことで、感覚が変わっている。
重心。
握った時のわずかな抵抗。
構えた時、視界の端に入る絵。
「最悪だ……」
「どう?」
「振りにくい」
「やっぱり!?」
「だが――」
アーグはもう一度構えた。
いつもの位置。
いつもの角度。
そうしようとして、視界の隅に絵が入る。
透明な板の向こう。
描かれた人物が、そこにいる。
当然、生きているわけではない。
声も出さない。
何かを与えてくれるわけでもない。
ただの絵だ。
それなのに。
呼吸が、少しだけ整った。
「……?」
自分でも分からなかった。
さっきまで、ジルバに昔の癖を読まれた瞬間から、身体の奥にまとわりついていた嫌な感覚がある。
どうせまた読まれる。
昔と同じだ。
変わったつもりでも、自分は何も変わっていない。
そんな考えが、動きを鈍らせていた。
だが今、武器の根元に付いた絵を見ると。
少しだけ。
本当に少しだけ。
肩の力が抜けた。
「アーグ?」
「……何でもない」
アーグは武器を握り直した。
妙だった。
合理的な理由などない。
武器性能が上がったわけでもない。
魔力が増えた感覚とも違う。
それでも、さっきより身体が動く気がした。
まるで。
自分一人で構えているのではないような。
「……馬鹿馬鹿しい」
呟きながら、口元がわずかに上がる。
◇
「遊びは終わりましたか?」
ジルバがゆっくり歩いてくる。
「そんな玩具を武器に付けたところで、何が変わるんです?」
「私もそう思う」
「アーグ!?」
「だが」
アーグは構える。
「少なくとも、さっきと同じではないらしい」
ジルバが目を細めた。
一人の男が先に飛び込む。
アーグは迎え撃つ。
踏み込み。
右肩。
左足。
ジルバの視線が動いた。
「右へ来る」
以前なら、そうだった。
だがアーグは一瞬だけ武器の根元へ目を落とした。
絵が見える。
なぜか。
もう一歩、踏み込める気がした。
「……こっちだ」
軌道を変える。
「何?」
いつもの一撃ではない。
重心が微妙に変わったせいで、いつもの振り方では扱いにくい。
ならば、合わせればいい。
武器に自分を合わせるのではない。
今の状態に合わせて、自分の動きを組み直す。
それはアーグが最も得意としてきたことだった。
状況を見る。
条件を見る。
数字を見る。
最適解を変える。
「そこだ!」
武器の腹で相手の手を打ち、棒を落とさせる。
そのまま身体を入れ替え、背後から来たもう一人の進路を塞ぐ。
「セラ!」
「見えてる!」
セラが横から入り、足を払う。
「オタクミ!」
「こっちも!」
鞘が鳴る。
別の男の腕が弾かれた。
「リア、下がってろ!」
「はい!」
リアは注文品を抱えたまま距離を取る。
四人の動きが、今までよりわずかに噛み合った。
「……くだらない」
ジルバが吐き捨てた。
「そんな絵一枚で、強くなった気ですか」
「いや」
アーグは即答した。
「別に強くなってはいない」
「は?」
「重心は悪い。振りにくい。邪魔だ」
「おい!」
オタクミが叫ぶ。
「でも外さないんだ?」
セラが口の端を上げた。
「……今はな」
アーグの視線が一瞬、武器の根元へ落ちる。
絵を見る。
胸の奥に、また小さな熱が生まれた。
何だ、これは。
力なのか。
気のせいなのか。
そんなことは分からない。
ただ。
もう一度立て、と言われているような気がした。
自分自身に。
「行くぞ」
アーグが踏み込んだ。
◇
ジルバの表情が変わった。
右へ誘えば左。
下がると思えば前へ出る。
以前のアーグなら選ばなかった軌道。
だが無茶ではない。
その場その場で、武器の新しい重心を計り、相手との距離を修正し、合理的に変えている。
「なぜだ……」
「言っただろう」
アーグは息を整える。
「昔と同じではない」
ジルバが苛立ったように踏み込んでくる。
アーグは受ける。
衝撃。
腕が痺れる。
だが倒れない。
視界の端。
透明な板。
描かれた人物。
目が合った――ように見えた。
「……まだだ」
無意識に言葉が出る。
力が湧く。
そんな馬鹿な、と頭のどこかでは思っている。
こんなものに肉体を強化する力があるはずがない。
少なくとも、自分はそんな仕組みを知らない。
それでも。
見れば、立てた。
握れば、もう一度やれると思えた。
その事実だけは否定できない。
「アーグ!」
オタクミの声。
「今だ!」
「命令するな!」
「でも行くんだろ!?」
「……当然だ!」
ジルバの一撃を外へ流す。
初めて大きく体勢が崩れた。
アーグは踏み込む。
武器を返し、ジルバの手元を打つ。
乾いた音。
ジルバの武器が石畳へ転がった。
「な――」
「終わりだ」
刃先は向けない。
武器の側面を、ジルバの胸元へ突きつける。
「……昔の私なら、ここでどうしただろうな」
ジルバは答えない。
「だが今の私は、もう戻る気がない」
その言葉に、ジルバの顔が歪んだ。
「くだらない物に毒されて……」
「くだらないかどうかは」
アーグは、武器に付いたアクスタを見る。
「今の私が決める」
ジルバの目が大きく開く。
少し離れたところでは、残った男たちがセラとオタクミに押し返されていた。
形勢は逆転している。
「……引くぞ」
ジルバが低く言った。
「ボス!?」
「今日はここまでだ!」
部下たちが後退する。
オタクミは追わなかった。
セラも客や商品が無事かを先に確認する。
ジルバは最後にアーグを睨みつけた。
「後悔しますよ」
「その時は、その時考える」
「……本当に変わった」
「そうかもしれんな」
ジルバたちは、人混みの向こうへ消えていった。
◇
「よっしゃああああああ!!」
戦闘が終わった途端、オタクミが両手を上げた。
「ドッキング成功!!」
『最初失敗してただろ!』
「最終的に付けば成功なんだよ!」
「外せ」
アーグが即座に言った。
「えっ」
「今すぐ外せ」
「せっかく似合ってるのに!」
「重心がずれた。振りにくい。合理性がない」
「さっきめっちゃ活用してたじゃん!」
「状況に適応しただけだ」
オタクミが渋々、留め紐へ手を伸ばす。
その瞬間。
「……待て」
アーグが止めた。
「ん?」
「……」
武器の根元を見る。
透明な板。
そこに描かれた人物。
戦闘中、何度か目に入った。
そのたびに。
少しだけ身体が動いた。
少しだけ、前へ出られた。
理由は分からない。
力があったと言い切るつもりもない。
だが、何もなかったとも思えなかった。
「どうした?」
「……しばらく、このままでいい」
オタクミの顔が輝いた。
「マジで!?」
「勘違いするな」
「何を?」
「重心の変化を検証するだけだ」
「はいはい」
セラが笑う。
「そういうことにしといてあげる」
「何だその顔は」
リアも小さく笑っていた。
「アーグさん、さっき、その絵何度も見てましたよね」
「見ていない」
「見てたぞ!」
『めっちゃ見てた』
「お前たちは黙れ!!」
怒鳴りながらも。
アーグは、アクスタを外さなかった。
武器の根元で、その絵は静かに立っている。
何の価値があるのか。
いくらで売れるのか。
どれだけ希少なのか。
そんなことを、今だけは考えなかった。
ただ。
見ていると、もう少しやれそうな気がした。
それが何なのか。
アーグはまだ、その名前を知らなかった。
『……主人公より主人公してねえか、こいつ』
「ちょっとゴルドスさん!?」




