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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
3 推しを飾れば、世界が変わる!

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ドッキングシーンあるよ!(※ロボは出ません)

「その武器――ちょっと貸せ」


「断る」


「まだ何も説明してない!」


「その顔を見れば分かる!」


 石畳の上で、アーグは即答した。


 少し離れたところではジルバたちが体勢を立て直している。戦闘は終わっていない。むしろアーグが倒され、オタクミたちも押され始めた今こそ、悠長に遊んでいる場合ではなかった。


 にもかかわらず。


 オタクミは片手にアクスタの台座を握り、もう片方でアーグの武器を指していた。


「いや、見ろって。この幅、この辺の形。それに台座の切れ込み。これ絶対なんかいける!」


『戦場で「なんかいける」で他人の武器を改造しようとすんな!』


「改造じゃない! ドッキングだ!」


「なお悪い!」


 アーグが怒鳴る。


 ジルバが呆れた顔をした。


「……何をしているんです?」


「ちょっと待ってろ!」


「敵に待てと言うな!」


 セラの怒声が飛んだ。


「オタクミ! やるなら早く!」


「おう!」


「本当にやるのか!?」


 アーグが止めるより先に、オタクミは地面へ落ちていた武器を拾った。


 そして台座を柄の根元へ押し当てる。


「合体!!」


 ごつ。


「…………」


「…………」


『…………』


 入らなかった。


「……合体?」


 リアが遠慮がちに聞く。


「待って。今の無し」


「完全に入る流れだったぞ!?」


『俺もそう思った!!』


「規格が違う!」


「当たり前だ! 最初から別の物だぞ!」


 アーグが武器を奪い返そうとする。


「返せ!」


「いや待て待て、もうちょい! ここ削る必要はないな。切れ込みを――」


「戦闘中に工作を始めるな!」


「先生!」


 リアが声を上げる。


「台座の裏側、昨日固定した時に使った留め紐があります!」


「それだ!」


「何でリアまで乗るんだ!?」


 リアが箱から細い留め紐を取り出し、オタクミへ投げる。


 セラも戦いながら横目で見る。


「柄に直接付けるんじゃなくて、鍔の近くに固定したら? 握るとこ邪魔したら終わりでしょ」


「なるほど!」


「お前まで!?」


「文句言ってないで立って。次来る!」


 男が一人、棒を振り上げて突っ込んでくる。


 アーグは舌打ちし、オタクミから武器をひったくった。その間にオタクミが鞘で一撃を受け流し、セラが相手の足を払う。


「今!」


「分かってる!」


 数秒。


 本当に数秒だった。


 台座を武器の根元へ添え、留め紐を通し、ずれない位置へ締める。


 そして最後に――リアが避難させる途中で持っていた一枚のアクスタを、台座へ差し込んだ。


「できた!」


「……おい」


 アーグが固まった。


 自分の武器。


 その根元。


 そこに、人の絵が立っている。


 昨日、自分が長く見ていたものとは別の絵だった。


 戦う姿でもない。


 派手な構図でもない。


 ただ、こちらを見ているような一枚。


「何をしてくれた」


「痛武器化!」


「戻せ!」


「今すぐ!?」


「今すぐだ!」


『わりと似合ってるぞ』


「黙れ!!」


 アーグが武器を振ろうとして――止まった。


 重い。


 いや、武器そのものが重くなったわけではない。


 根元へ台座が付いたことで、感覚が変わっている。


 重心。


 握った時のわずかな抵抗。


 構えた時、視界の端に入る絵。


「最悪だ……」


「どう?」


「振りにくい」


「やっぱり!?」


「だが――」


 アーグはもう一度構えた。


 いつもの位置。


 いつもの角度。


 そうしようとして、視界の隅に絵が入る。


 透明な板の向こう。


 描かれた人物が、そこにいる。


 当然、生きているわけではない。


 声も出さない。


 何かを与えてくれるわけでもない。


 ただの絵だ。


 それなのに。


 呼吸が、少しだけ整った。


「……?」


 自分でも分からなかった。


 さっきまで、ジルバに昔の癖を読まれた瞬間から、身体の奥にまとわりついていた嫌な感覚がある。


 どうせまた読まれる。


 昔と同じだ。


 変わったつもりでも、自分は何も変わっていない。


 そんな考えが、動きを鈍らせていた。


 だが今、武器の根元に付いた絵を見ると。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 肩の力が抜けた。


「アーグ?」


「……何でもない」


 アーグは武器を握り直した。


 妙だった。


 合理的な理由などない。


 武器性能が上がったわけでもない。


 魔力が増えた感覚とも違う。


 それでも、さっきより身体が動く気がした。


 まるで。


 自分一人で構えているのではないような。


「……馬鹿馬鹿しい」


 呟きながら、口元がわずかに上がる。


     ◇


「遊びは終わりましたか?」


 ジルバがゆっくり歩いてくる。


「そんな玩具を武器に付けたところで、何が変わるんです?」


「私もそう思う」


「アーグ!?」


「だが」


 アーグは構える。


「少なくとも、さっきと同じではないらしい」


 ジルバが目を細めた。


 一人の男が先に飛び込む。


 アーグは迎え撃つ。


 踏み込み。


 右肩。


 左足。


 ジルバの視線が動いた。


「右へ来る」


 以前なら、そうだった。


 だがアーグは一瞬だけ武器の根元へ目を落とした。


 絵が見える。


 なぜか。


 もう一歩、踏み込める気がした。


「……こっちだ」


 軌道を変える。


「何?」


 いつもの一撃ではない。


 重心が微妙に変わったせいで、いつもの振り方では扱いにくい。


 ならば、合わせればいい。


 武器に自分を合わせるのではない。


 今の状態に合わせて、自分の動きを組み直す。


 それはアーグが最も得意としてきたことだった。


 状況を見る。


 条件を見る。


 数字を見る。


 最適解を変える。


「そこだ!」


 武器の腹で相手の手を打ち、棒を落とさせる。


 そのまま身体を入れ替え、背後から来たもう一人の進路を塞ぐ。


「セラ!」


「見えてる!」


 セラが横から入り、足を払う。


「オタクミ!」


「こっちも!」


 鞘が鳴る。


 別の男の腕が弾かれた。


「リア、下がってろ!」


「はい!」


 リアは注文品を抱えたまま距離を取る。


 四人の動きが、今までよりわずかに噛み合った。


「……くだらない」


 ジルバが吐き捨てた。


「そんな絵一枚で、強くなった気ですか」


「いや」


 アーグは即答した。


「別に強くなってはいない」


「は?」


「重心は悪い。振りにくい。邪魔だ」


「おい!」


 オタクミが叫ぶ。


「でも外さないんだ?」


 セラが口の端を上げた。


「……今はな」


 アーグの視線が一瞬、武器の根元へ落ちる。


 絵を見る。


 胸の奥に、また小さな熱が生まれた。


 何だ、これは。


 力なのか。


 気のせいなのか。


 そんなことは分からない。


 ただ。


 もう一度立て、と言われているような気がした。


 自分自身に。


「行くぞ」


 アーグが踏み込んだ。


     ◇


 ジルバの表情が変わった。


 右へ誘えば左。


 下がると思えば前へ出る。


 以前のアーグなら選ばなかった軌道。


 だが無茶ではない。


 その場その場で、武器の新しい重心を計り、相手との距離を修正し、合理的に変えている。


「なぜだ……」


「言っただろう」


 アーグは息を整える。


「昔と同じではない」


 ジルバが苛立ったように踏み込んでくる。


 アーグは受ける。


 衝撃。


 腕が痺れる。


 だが倒れない。


 視界の端。


 透明な板。


 描かれた人物。


 目が合った――ように見えた。


「……まだだ」


 無意識に言葉が出る。


 力が湧く。


 そんな馬鹿な、と頭のどこかでは思っている。


 こんなものに肉体を強化する力があるはずがない。


 少なくとも、自分はそんな仕組みを知らない。


 それでも。


 見れば、立てた。


 握れば、もう一度やれると思えた。


 その事実だけは否定できない。


「アーグ!」


 オタクミの声。


「今だ!」


「命令するな!」


「でも行くんだろ!?」


「……当然だ!」


 ジルバの一撃を外へ流す。


 初めて大きく体勢が崩れた。


 アーグは踏み込む。


 武器を返し、ジルバの手元を打つ。


 乾いた音。


 ジルバの武器が石畳へ転がった。


「な――」


「終わりだ」


 刃先は向けない。


 武器の側面を、ジルバの胸元へ突きつける。


「……昔の私なら、ここでどうしただろうな」


 ジルバは答えない。


「だが今の私は、もう戻る気がない」


 その言葉に、ジルバの顔が歪んだ。


「くだらない物に毒されて……」


「くだらないかどうかは」


 アーグは、武器に付いたアクスタを見る。


「今の私が決める」


 ジルバの目が大きく開く。


 少し離れたところでは、残った男たちがセラとオタクミに押し返されていた。


 形勢は逆転している。


「……引くぞ」


 ジルバが低く言った。


「ボス!?」


「今日はここまでだ!」


 部下たちが後退する。


 オタクミは追わなかった。


 セラも客や商品が無事かを先に確認する。


 ジルバは最後にアーグを睨みつけた。


「後悔しますよ」


「その時は、その時考える」


「……本当に変わった」


「そうかもしれんな」


 ジルバたちは、人混みの向こうへ消えていった。


     ◇


「よっしゃああああああ!!」


 戦闘が終わった途端、オタクミが両手を上げた。


「ドッキング成功!!」


『最初失敗してただろ!』


「最終的に付けば成功なんだよ!」


「外せ」


 アーグが即座に言った。


「えっ」


「今すぐ外せ」


「せっかく似合ってるのに!」


「重心がずれた。振りにくい。合理性がない」


「さっきめっちゃ活用してたじゃん!」


「状況に適応しただけだ」


 オタクミが渋々、留め紐へ手を伸ばす。


 その瞬間。


「……待て」


 アーグが止めた。


「ん?」


「……」


 武器の根元を見る。


 透明な板。


 そこに描かれた人物。


 戦闘中、何度か目に入った。


 そのたびに。


 少しだけ身体が動いた。


 少しだけ、前へ出られた。


 理由は分からない。


 力があったと言い切るつもりもない。


 だが、何もなかったとも思えなかった。


「どうした?」


「……しばらく、このままでいい」


 オタクミの顔が輝いた。


「マジで!?」


「勘違いするな」


「何を?」


「重心の変化を検証するだけだ」


「はいはい」


 セラが笑う。


「そういうことにしといてあげる」


「何だその顔は」


 リアも小さく笑っていた。


「アーグさん、さっき、その絵何度も見てましたよね」


「見ていない」


「見てたぞ!」


『めっちゃ見てた』


「お前たちは黙れ!!」


 怒鳴りながらも。


 アーグは、アクスタを外さなかった。


 武器の根元で、その絵は静かに立っている。


 何の価値があるのか。


 いくらで売れるのか。


 どれだけ希少なのか。


 そんなことを、今だけは考えなかった。


 ただ。


 見ていると、もう少しやれそうな気がした。


 それが何なのか。


 アーグはまだ、その名前を知らなかった。


『……主人公より主人公してねえか、こいつ』


「ちょっとゴルドスさん!?」

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