ラザリス秋葉原化計画
カフェ『KIRABOSHI』の会議室、いや、もとい――
新たなる「尊み創世」の戦略会議室にて、オタクミは情熱の噴火口だった。
「つまりだ、今までは“カフェ”や“アクスタ”で文化を広めてたが、それはあくまで入門編だった! 俺たちが本当にやらなきゃならないのは――」
バンッ!
オタクミは勢いよくテーブルを叩き、全員を見渡した。
「――アイドルを作ることだッ!!」
(……しーん)
会議室に沈黙が広がる。
セラが目を細めて眉をひそめた。
「……は?」
アーグが紅茶を吹き出しそうになりながら咳き込み、
「そ、それは……歌う戦士の部族か? 武力ではなく、声で戦う民族か?」
リアはペンを構えたまま小首を傾げ、
「アイ……ドル? 新しい調味料の名前、ですか?」
『違うわ!!』
鞘神ゴルドスがツッコんだ。
その鞘から“パカッ”と現れた口の形が、見事にへの字になっていた。
『やれやれ、これだから異世界人は困る。オタクミ殿、説明を頼む!』
「任せろ! このために生きてきたようなもんだからな!!」
オタクミは、ポーズもキメながら堂々と語り始めた。
「アイドルってのはな! この世界の“物語”を、歌とダンスと衣装で体現する尊みの権化だ!」
「……尊みの、権化……?」
リアは神妙な顔でメモを取り始める。
「いや、ちょっと待て」アーグが手を挙げた。「仮にその存在が人々の感情を揺さぶるとして、それがなぜこの世界の“エネルギー”に繋がるんだ?」
「良い質問だアーグ! 答えは簡単! 創生エネルギー、つまりこの世界の“感情ベースの魔力”を増やすには、より多くの人の心を震わせる必要がある。
それに最も適しているのが――ライブだ!!」
『ふむ、補足しよう』
ゴルドスが神妙な声で続けた。
『感情とは、光のようなもの。拡散させれば消えるが、一極集中させれば、世界をも焼き尽くすほどの力を持つ。
ライブとは、そのエネルギーを一瞬にして最大化する、まさに“創生の爆心地”なのだ!』
「爆心地て……」
セラが眉間を揉む。
「つまり!」
オタクミが立ち上がり、全身で情熱を示す。
「俺たちはただの“キャラクター”じゃなく、“生きて動くアイドル”を生み出して、そのステージを通じて人々の魂を燃え上がらせ、尊みエネルギーで世界をアップデートするんだ!!」
「世界を、アップデート……」
アーグが小声で繰り返すと、リアが手を挙げた。
「その……アイドルって、どこで学べるんですか? 魔法学校では聞いたことなくて……」
「ふふふ……任せろリア!」
オタクミは自信満々に指を天に突き上げた。
「すべては、アキバ(秋葉原)にあった!」
「……秋の、原?」
リアとセラが同時に首を傾げる。
『よし来た、このくだりは俺も楽しみだ』
鞘が腕組みをして宙に浮きながら待機する。
オタクミは、意味もなく袖をまくりながら語り始めた。
「秋葉原――通称アキバ。それはかつて、このオタクミという男を育てた、聖地にして沼!
“推し文化”のあらゆる源流が交差し、あらゆる属性が出会い、崇められ、戦い、爆死し、復活する場所!
2次元も3次元も、生も死も、虚構と現実すらも交わる超次元文化の戦場ッ!!」
「そんな危険な場所で育ったの……?」
セラの言葉に、アーグがぼそっと呟く。
「まさか、かの“都市伝説”で聞いた、電波で洗脳された戦士たちが集う聖域……?」
「それ、事実です」
オタクミが頷いた。誰より真剣な顔で。
「秋葉原に集う者たちは、自らを“プロデューサー”と呼び、己の魂と財布を削りながら、
一人のアイドル(推し)を“トップ”へと押し上げるために人生を賭ける! そこにあるのは、血と汗と尊みの結晶!」
「こ、こわい文化です……!」
リアがペンをぷるぷる震わせる。
「でも、そこには希望があった!」
オタクミは拳を握る。
「誰もが誰かの“最初のファン”になれる!
無名の少女が、一人の誰かに見出され、世界に羽ばたく!
その過程こそが、最も“推せる物語”だったんだ!!」
「なるほど……」
アーグが頷く。
「つまり、我々がやるべきことは、ラザリスをこの世界の秋葉原に変えること――」
「そう!」
「アイドル創生×ラザリス秋葉原化計画――プロジェクト・ユグドラLIVE、始動だ!!」
天を仰いだオタクミの言葉に、ゴルドスが静かに語る。
『……そしてその第一歩として、“歌って踊れるミスティア様”の衣装と楽曲を揃えねばならぬ。
オタP殿、準備はいいか? この先は、並大抵の苦労ではすまぬぞ』
「ふふふ……わかってるさ。アイドルの道に、安寧などいらん!」
オタクミの目に宿った光は、これまでの“推し活”とは桁違いの濃度で燃えていた。
「――この世界“最初のアイドル”に俺はなる!!」
そして新たなる“尊みの舞台”が、今、幕を開ける。




