痛武器爆誕! その1
──金色の天井。やたら高い。
床は磨かれた大理石で、星型の文様が光の加減でちらついている。どこかの儀式場っぽい。
「やあ、オタクミ殿!」
鎧をまとったゴルドス(推しTは鎧の下から主張してくる)が仁王立ちしていた。
「……ここが、転移先か」
起き上がった俺は、まず手を見た。
小さい。華奢。指が細い。肌がつるん、としている。
(なんだ、この……保湿CMみたいな手……)
視界の端で、金色の長い髪がさらりと垂れた。
胸元に手を当て──
「……ない」
もう一度、角度を変えて──
「……ない」
「確認するのはそこじゃないだろうが!」
ゴルドスのツッコミが飛ぶ。
「いやいやいや、だって俺──」
慌てて下のほうも、そっと、確認。
「…………ある」
「だから言ったろう、“外見は美少女、中身はそのまま”だと」
「情報量!!」
神殿に俺の声がむなしく反響する。
鏡代わりに床の反射をのぞきこむと、そこには**金髪の、ちょっとキリッとした目の少女(※中身おれ)**がいた。
肩幅は狭い、腰は細い、全体が“軽い”。視点が少し低い。歩くと髪がやたら主張してくる。
「なぜこうなった!?」
「面白いから」
「動機が軽い!!」
ゴルドスは咳払いして、少し真面目な声になる。
「ここで使っている器は、星象素体。年齢は18、健康体、各種魔力回路は標準。
貴殿の魂と同調しやすいように**“推しの位相”に合わせて容姿を最適化**したら、こうなった。すなわち“金髪クール寄り”」
「ミスティア様リスペクトでチューニングされたってことか……!」
「そう。さらに名前だ。**『オタクミ・ルミナス』**を名乗れ。
理由? 簡単だ。推し像の加護が濃く付く」
「加護!! 名乗るだけで強そう!! いや強くなってくれ!!」
ちょっと胸を張って名乗ってみる。
「お、俺は……オタクミ・ルミナス!」
神殿の空気が、ほんのりと震えた。
刹那、耳の奥で小さな鐘が鳴る。心拍が踊る。
(……今の、なんだ?)
ゴルドスが口の端を上げる。
「貴殿の尊輝が、名前に反応した。
“推しを思う尊さの輝き”だ。ここでは感情が力学に乗る。
のちほど神器を得た際、その尊輝が直に燃料になる」
「燃料って、俺、見つめるだけで強くなる系?」
「そう。拝観すれば溜まり、抜けば散る。観れば満ちる、観賞用戦闘術の土台だな」
「観賞用戦闘術……俺の生き方、戦闘スタイルだった……?」
「だった」
二人でうんうん頷いてしまった。危ない。
俺は裾を整えて、きゅっと息を吸う。
この身体は軽い。視界は広い。
ただ、歩くと髪がふわっと揺れて視界に入り、毎回びくっとする。慣れない。
「で、服は推しT(Sサイズ)短パンだけ? さすがに素体のサイズ変わってるし──」
「荷物は追って送る。例の痛い袋ごとな」
「ジャラジャラ鳴る、あれな」
「うむ。缶が多いほど守りが厚い。この世界の常識だ」
「今、流したよね? 新常識ね?」
ゴルドスは手を鳴らし、神殿の中央に小さな祭壇を呼び出した。
台座には空白の召喚円。淡い光が内側から滲む。
「さて、次は武器だ。
この世界で貴殿が扱うべきは、“推し像を宿す神器”。
想像しろ。貴殿の“最強”とは何か」
喉が鳴った。
最強。
頭の中に、少年の頃に読んだ伝説の剣、槍、神話の武器たちが次々浮かぶ。
でも──
(ありきたりじゃ、つまらないよな。俺が持つ“最強”は……)
ゴルドスが横から付け加える。
「補足。武器の核は尊輝ドライブで動く。
推しを鑑賞し、尊みを摂取して、刃(あるいは象り)に“尊輝”を満たす。
街中では鞘運用が推奨。抜けば尊輝が散るし、なにより危ない」
「街中は鞘。抜くのはここぞという時。了解」
ゴルドスが頷く。
「いずれ俺は、その神器の“鞘”に憑依する。地上でのナビは憑依時のみだ。
気軽に喋るなら抜刀していない時にしてくれ」
「抜刀中は静かな神様、と。了解」
祭壇の光が、少しだけ強くなる。
俺は台座の前に立ち、ゆっくり目を閉じた。
(最強の武器。見ただけで尊みが溢れ、観るほど強くなる、俺だけの象徴──
“推しのイラストを刻んだ、世界でひとつの痛……”)
口角が、勝手に上がる。
(痛武器、だな!!!!)
目を開ける。
ゴルドスが、どや顔の準備運動をしている。
「考えは、まとまったか?」
「……ああ。見た目も中身も最強、いくぞ!」
「よし──次話で召喚だ!」
「引っぱるのかい!」
神殿に笑い声が転がる。
金の埃が舞い、召喚円の縁で星の粒がぱちぱちと跳ねた。




