表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/66

痛武器爆誕! その1

──金色の天井。やたら高い。

床は磨かれた大理石で、星型の文様が光の加減でちらついている。どこかの儀式場っぽい。


「やあ、オタクミ殿!」


鎧をまとったゴルドス(推しTは鎧の下から主張してくる)が仁王立ちしていた。


「……ここが、転移先か」


起き上がった俺は、まず手を見た。

小さい。華奢。指が細い。肌がつるん、としている。


(なんだ、この……保湿CMみたいな手……)


視界の端で、金色の長い髪がさらりと垂れた。

胸元に手を当て──


「……ない」


もう一度、角度を変えて──


「……ない」


「確認するのはそこじゃないだろうが!」

ゴルドスのツッコミが飛ぶ。


「いやいやいや、だって俺──」


慌てて下のほうも、そっと、確認。


「…………ある」


「だから言ったろう、“外見は美少女、中身はそのまま”だと」


「情報量!!」


神殿に俺の声がむなしく反響する。

鏡代わりに床の反射をのぞきこむと、そこには**金髪の、ちょっとキリッとした目の少女(※中身おれ)**がいた。

肩幅は狭い、腰は細い、全体が“軽い”。視点が少し低い。歩くと髪がやたら主張してくる。


「なぜこうなった!?」


「面白いから」


「動機が軽い!!」


ゴルドスは咳払いして、少し真面目な声になる。


「ここで使っている器は、星象素体。年齢は18、健康体、各種魔力回路は標準。

貴殿の魂と同調しやすいように**“推しの位相”に合わせて容姿を最適化**したら、こうなった。すなわち“金髪クール寄り”」


「ミスティア様リスペクトでチューニングされたってことか……!」


「そう。さらに名前だ。**『オタクミ・ルミナス』**を名乗れ。

理由? 簡単だ。推し像の加護が濃く付く」


「加護!! 名乗るだけで強そう!! いや強くなってくれ!!」


ちょっと胸を張って名乗ってみる。


「お、俺は……オタクミ・ルミナス!」


神殿の空気が、ほんのりと震えた。

刹那、耳の奥で小さな鐘が鳴る。心拍が踊る。

(……今の、なんだ?)


ゴルドスが口の端を上げる。


「貴殿の尊輝そんきが、名前に反応した。

“推しを思う尊さの輝き”だ。ここでは感情が力学に乗る。

のちほど神器を得た際、その尊輝が直に燃料になる」


「燃料って、俺、見つめるだけで強くなる系?」


「そう。拝観すれば溜まり、抜けば散る。観れば満ちる、観賞用戦闘術の土台だな」


「観賞用戦闘術……俺の生き方、戦闘スタイルだった……?」


「だった」


二人でうんうん頷いてしまった。危ない。


俺は裾を整えて、きゅっと息を吸う。

この身体は軽い。視界は広い。

ただ、歩くと髪がふわっと揺れて視界に入り、毎回びくっとする。慣れない。


「で、服は推しT(Sサイズ)短パンだけ? さすがに素体のサイズ変わってるし──」


「荷物は追って送る。例の痛い袋ごとな」


「ジャラジャラ鳴る、あれな」


「うむ。缶が多いほど守りが厚い。この世界の常識だ」


「今、流したよね? 新常識ね?」


ゴルドスは手を鳴らし、神殿の中央に小さな祭壇を呼び出した。

台座には空白の召喚円。淡い光が内側から滲む。


「さて、次は武器だ。

この世界で貴殿が扱うべきは、“推し像を宿す神器”。

想像しろ。貴殿の“最強”とは何か」


喉が鳴った。

最強。

頭の中に、少年の頃に読んだ伝説の剣、槍、神話の武器たちが次々浮かぶ。

でも──


(ありきたりじゃ、つまらないよな。俺が持つ“最強”は……)


ゴルドスが横から付け加える。


「補足。武器の核は尊輝ドライブで動く。

推しを鑑賞し、尊みを摂取して、刃(あるいは象り)に“尊輝”を満たす。

街中では鞘運用が推奨。抜けば尊輝が散るし、なにより危ない」


「街中は鞘。抜くのはここぞという時。了解」


ゴルドスが頷く。


「いずれ俺は、その神器の“鞘”に憑依する。地上でのナビは憑依時のみだ。

気軽に喋るなら抜刀していない時にしてくれ」


「抜刀中は静かな神様、と。了解」


祭壇の光が、少しだけ強くなる。

俺は台座の前に立ち、ゆっくり目を閉じた。


(最強の武器。見ただけで尊みが溢れ、観るほど強くなる、俺だけの象徴──

“推しのイラストを刻んだ、世界でひとつの痛……”)


口角が、勝手に上がる。


(痛武器、だな!!!!)


目を開ける。

ゴルドスが、どや顔の準備運動をしている。


「考えは、まとまったか?」


「……ああ。見た目も中身も最強、いくぞ!」


「よし──次話で召喚だ!」


「引っぱるのかい!」


神殿に笑い声が転がる。

金の埃が舞い、召喚円の縁で星の粒がぱちぱちと跳ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ