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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
2 盗賊少女と、守りたいもの

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萌えを守る盾

 廃屋の外で、何かが爆ぜた。


 壁の隙間から砂埃が落ち、リアが反射的に身をすくめる。オタクミは《タクミ・ブレイザー》を握り直し、セラは割れた窓の脇へ身を寄せた。


「来る」


 セラの声が低くなる。


「一人じゃないのか?」


「たぶん何人かいる。でも――」


 彼女は外を一度だけ覗き、すぐに頭を引っ込めた。


「……バスレオンもいる」


「本人直々かよ!」


『そりゃ競りをぶっ壊して商品持って逃げたからな』


「商品じゃねぇ! 俺の推しだ!」


『そういうとこだけ元気だなお前!』


 次の瞬間、廃屋の正面扉が轟音とともに吹き飛んだ。


 夜気の向こうから、緋色の服をまとった大男が姿を現す。


 バスレオン。


 その手には、黒鉄の異様な魔導具が握られていた。太い筒をいくつも束ねたような形状を見て、オタクミの顔が引きつる。


「……待て。あれ、見覚えあるぞ」


「知ってるの?」


「俺の世界に、ああいう撃ち方する兵器がある」


「強い?」


「めちゃくちゃ撃ってくるタイプ!」


「説明が雑!」


 バスレオンが口元を吊り上げる。


「随分と楽しそうじゃねぇか、セラ」


 その声を聞いた瞬間、セラの肩がわずかに固まった。


 オタクミは横目でそれを見る。


「帰ってこい。今ならまだ、余計なことをした分だけで済ませてやる」


「……」


「その剣も置いていけ。どうせお前には価値なんざ決められねぇ」


 セラの指先が動いた。


 だが、その足は下がらなかった。


「それ、あんたが決めることじゃない」


「あ?」


 セラ自身も、言ってから少し驚いたようだった。


 それでも言い直さない。


 バスレオンの笑みが消えた。


「なら、まとめて潰す」


 足元に魔法陣が広がった。


「伏せて!」


 セラが叫ぶ。


 直後、黒鉄の魔導具が唸りを上げた。


 光の弾が一斉に吐き出される。


「うおおおおおお!?」


 オタクミは鞘で一発を弾き、次を身体ごと避ける。壁が砕け、床板が弾けた。


 一本、二本ならどうにかなる。


 だがこれは数が違う。


『多すぎる! 全部鞘で弾く気か!?』


「無茶言うな! 俺の動体視力はアニメの作画班じゃねぇ!」


「先生、こっちです!」


 リアが倒れた壁の陰へ身を寄せる。


 オタクミも飛び込もうとした。


 その瞬間だった。


「危ない!」


 セラの声。


 横から一発、軌道の逸れた魔弾が飛んでくる。


 避ければいい。


 だが、その先にはリアがいた。


「くっ!」


 オタクミは反射的に《タクミ・ブレイザー》を前へ出しかけ――止まった。


 刀身に描かれたミスティアが視界に入る。


「無理ぃぃぃぃぃ!!」


 身体をひねり、自分の肩でリアを庇う。


 魔弾が脇の柱をえぐった。


「先生!?」


「今のは危なかった……主にミスティアが!」


「先生もです!」


『優先順位!!』


 さらに弾幕が迫る。


「くそっ、このままじゃ近づけねぇ……!」


 オタクミが歯噛みした、その時。


 手の中の《タクミ・ブレイザー》が震えた。


「……ん?」


『おい、なんか光ってるぞ』


 ピンク色の光が刀身から広がり、鍔の辺りまで包み込む。


「ゴルドス、何これ!?」


『俺に聞くな! 神器が勝手に――』


 金属音が連続して響いた。


 刀身が折れた――ように見えて、違った。


 いくつもの部位が滑るように位置を変え、幅を広げていく。


「え、ちょ、待っ――」


 数秒後。


 オタクミの手にあったのは、剣ではなかった。


 大きな盾だった。


「…………」


「…………」


 リアもセラも固まる。


 オタクミは盾を見た。


「盾になったぁぁぁぁぁ!?」


『俺も初めて見たわ!!』


「なんで神器の付属機能を付属神が知らないんだよ!」


『誰が付属神だ!!』


「今そこじゃない!」


 セラが怒鳴る。


「撃ってくる!」


「そうだった!」


 オタクミは反射的に盾を構えた。


 その瞬間。


「…………」


 動きが止まる。


 盾の内側。


 つまり、持ち手のすぐ向こう側に。


 ミスティアがいた。


 凛々しく剣を構えた姿で、こちらへ微笑んでいる。


 近い。


 めちゃくちゃ近い。


「……………………無理」


「何が!?」


「ミスティアが近い!!」


「前見なさい!!」


「だって盾構えるたびに至近距離で目が合うんだぞ!? こんなの戦闘用じゃない! ご褒美用だ!!」


『防御機能としては何一つ困ってねぇだろ!!』


「精神面に致命的な欠陥がある!」


「いいから構えて!!」


 セラに怒鳴られ、オタクミは半泣きで盾を前へ出した。


 直後、魔弾の雨が襲いかかる。


 ガガガガガガガッ!


「うおおおおおお!!」


 衝撃が腕を震わせる。


 だが、盾は耐えた。


 外側へ弾痕が刻まれる。


 オタクミは恐る恐る内側を見る。


 ミスティアは無傷。


「……完璧だ」


『何がだよ』


「外側だけ傷つく! ミスティアには一発も当たらない!」


「そこ!?」


「そこだよ!!」


 弾幕の向こうで、バスレオンが舌打ちした。


「くだらねぇ真似を!」


 再び魔導具が唸る。


 セラが窓際から動きを見ていた。


 視線は銃口ではなく、バスレオンの肩、肘、足元。


「……先生」


「先生!?」


「今さらそこ拾う!?」


「撃つ直前、右肩が上がる」


 セラの声から冗談が消える。


「それから連射のあと、一瞬だけ腕が下がる。重いのよ、あの武器」


「つまり?」


「そこなら近づける」


 オタクミは盾越しにバスレオンを見る。


「どれくらい一瞬?」


「かなり一瞬」


「ざっくり!」


「自分で見なさい!」


「厳しい!」


 また弾幕。


 オタクミは盾で受ける。


 衝撃。


 連射。


 そして――止まる。


「今!」


 セラが飛び出した。


 ナイフが二本、一直線に飛ぶ。


 バスレオンが顔をかばい、銃口がわずかに逸れた。


「オタクミ!」


「行く!」


 盾を構えたまま前へ出る。


 バスレオンが再び引き金を引いた。


 数発が盾へ叩き込まれる。


「チッ!」


 さらに近づく。


 セラが横から石を蹴り上げた。


 視線が逸れる。


「今よ!」


「任せろ!」


 オタクミが盾を手放す――寸前、変形が解けた。


 再び《タクミ・ブレイザー》の姿へ戻る。


「おおっ!」


『感動してる場合か!』


「分かってる!」


 鞘から刀身を抜く。


 バスレオンが目を見開いた。


「斬る気か!」


「違う!」


 オタクミは一瞬だけ、刀身を横へ向けた。


 夜の中で、ミスティアが輝く。


「見るだけだ!!」


「は?」


「そして戻す!」


 即座に納刀。


『何のために抜いた!?』


「戦闘中でも推しは見たい!」


「ほんっとに何なのよあんた!」


 セラの怒鳴り声と同時に、オタクミは踏み込んだ。


 狙うのはバスレオンではない。


 黒鉄の魔導具。


「せぇぇぇのっ!!」


 鞘を振り抜く。


 鈍い衝撃音。


 魔導具がバスレオンの手から弾き飛ばされ、地面を転がった。


「なっ――」


 オタクミはそのまま一歩前へ出る。


 バスレオンとの間に立った。


「そんな剣一本に、そこまでするか」


「一本じゃねぇよ」


 オタクミは《タクミ・ブレイザー》を抱えるように持ち直した。


「俺が大事だと思ってるものだ」


「価値なんざ、値段が決める」


「値段をつけるのは勝手だ!」


 オタクミは言い返す。


「高いと思う奴も、いらないと思う奴もいる。それは好きにすりゃいい!」


 その後ろで、セラが静かに顔を上げた。


「でも、それで誰の物かまで勝手に決めんな!」


 バスレオンの顔が歪む。


「黙れ!」


 男が拳を振り上げる。


 その腕の前へ、一本のナイフが突き刺さった。


 服だけを壁へ縫い止める。


「……セラ」


「勘違いしないで」


 セラがオタクミの隣へ立つ。


「そいつを助けたわけじゃない」


「え、俺?」


「私が今、そっちに立ちたかっただけ」


 オタクミは一瞬、目を丸くする。


 それから笑った。


「それで十分!」


「そういうの、いちいち大声で言わないで」


 背後からリアも駆け寄ってくる。


 バスレオンは壁から服を引き裂き、二人を睨みつけた。


 まだ終わっていない。


 それでも、さっきまでとは違った。


 オタクミは推しを守るために盾を構えた。


 そして今度は、その横に、自分から残った誰かが立っている。


『……なんかいい感じにまとまってるところ悪いんだけど』


「何だよ」


『盾の内側、もう一回見なくていいのか?』


「見る!!」


「戦闘中でしょ!!」


 セラの怒声が、夜の廃屋跡に響いた。

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