痛武器爆誕!
「……う、うう……」
ぼんやりと意識が戻る。
(……そうだ、俺、事故って……)
ゆっくりと瞼を開けると、そこは異世界のような広い神殿。天井はやたらと高く、床はピカピカに磨かれた大理石。 大理石の床には、星型の文様が浮かび上がっており、見たこともない三つ目の鳥が天井を旋回していた。
まさに「異世界転生の儀式会場」といった雰囲気だ。
目の前には、金色の鎧をまとったガチムチメガネ男──筋肉神ゴルドスが仁王立ちしていた。
「やあ、オタクミ殿!」
「……ああ、そうだった。お前、オタメガネだったのに実は神で、俺を転生させたんだっけな……」
「その通り! よく覚えていたな!オタクだから理解が早くて助かる!!」
「まあ、ここまでの流れは理解できる。異世界転生モノのテンプレってやつだ。でも一つだけおかしいことが──」
俺は、自分の手を見た。
小さくて、華奢で、指が細い。
なんか、腕とか白くてスベスベしてない?
つーか、視界の端に金色の長い髪が見えるんだけど?
「……ん?」
不安になりつつ、俺は慌てて胸を触った。
……ない。
(あれ……? もっとこう……ボンッ!って……)
再度、胸を触る。
……ない。
「えっ、俺、貧乳美少女になってるぅ!?」
「いや、そこは下の方を確認するところだろ!!」
⸻
「なんでだあああああああ!!??」
思わず絶叫する俺。
「まぁ落ち着け、オタクミ殿よ」
「落ち着けるわけねぇだろ!! 俺、金髪の貧乳美少女になってるじゃねぇか!! どういうことだ!!」
「おぉ、それなら安心しろ!」
「どこに安心できる要素があるんだよ!!?」
「ふむ……では説明しよう!」
ゴルドスは偉そうに頷き、めちゃくちゃ軽いノリで言い放った。
「貴殿を転生させる際、どうせなら見た目をゲームのアバターみたい好きにした方が面白いと思ってな!」
「はぁ!? 面白いってお前……!」
「ほら、異世界転生といえば、無個性な男主人公が基本だろう? そんなの見ててつまらん!」
「いや、俺、別にそんなつもりで転生したわけじゃ……!」
「そこで! 金髪貧乳美少女にしてみた!」
「勝手にお前好みに!!? 」
「うむ!」
「こいつノリで転生させてんじゃねぇか!!!」
⸻
「いやいや、待て待て!! 俺は男だぞ!? どうしてこうなった!?」
「ふむ……安心しろ」
「えっ?」
「下はそのままだ!」
「待て待て待て待て!!???」
思わず耳を疑う。
「いや、ちょっと待て……つまり、俺は今、見た目は完全に美少女で、下はそのまま……?」
「そういうことだ! 貴様の新しい名は『オタクミ・ルミナス』! 輝星のオトコの娘として生まれ変わったのだ!」
「待てやああああ!!! しかも俺の名前、推しアニメのタイトルに引っ張られてない!?」
「おぉ、気づいたか! 『ミスティア・ルミナス』の魂を受け継ぎし者……それが貴殿よ!」
「勝手に推しの魂を継がせるなぁぁぁぁぁ!!!」
⸻
「……で、話は戻るが、俺はなんで転生させられたんだ?」
「ふむ、それについて説明しよう」
ゴルドスは腕を組み、真面目な顔を作る。
「実は、俺は次の正式な神候補者として、この異世界の世直しをする使命を負っているのだ!」
「は? お前、正式な神じゃなかったの?」
「初めに神候補と言ってただろう!まだ見習いのようなものだ!」
「そんなやつが人を転生させていいのか……?」
「まぁ細かいことは気にするな!」
「気にするわ!!!」
「話を続けるぞ! 今この異世界では、転売魔による市場の混乱が深刻な問題になっている!」
「……転売魔?」
「うむ! レア武器、希少素材、魔導書……これらが転売され、正当な冒険者や職人の手に届かなくなっているのだ!」
「……まんま現実世界の転売屋じゃねぇか」
「そう! しかも、その転売組織は貴殿の現実世界とも繋がっているのだ!」
「……は?」
「つまり! 現実世界のレアアイテムが異世界に持ち込まれ、高額で売買されている!」
「なにそれ怖っ!! もはや異世界転生どころの話じゃねぇぞ!?」
「そこで貴殿には、この異世界の転売魔どもを撲滅する手助けをしてもらいたいのだ!」
「ええぇ……なんかめんどくさくなってきた……」
「だがオタクミ、推しの映画が現世で公開されるまでに帰りたいだろう?」
「うっ……まあ、そうだけど?」
現実世界では、数ヶ月後に輝星のルミナスの映画公開が控えていた。一周目の入場特典は、なんと「キャラ別描き下ろしイラストカード(ランダム配布)」。
映画館に通いまくり、ルミナスを自引きするまで帰れない戦争が始まるのである。
「ならば、異世界の転売魔を倒せ! そうすれば元の世界に帰れるぞ!」
「マジかよ……」
「マジだ!」
「はぁ……つまり、異世界で転売魔と戦う羽目になるってわけか……」
「その通り!」
「……俺の異世界ライフ、想像してたのとなんか違う……」
「まぁ、気にするな! ほら、転生特典として最強武器を授けよう!」
「おお!」
「では、貴殿の最強武器を想像するがよい!」
(最強武器……最強武器……)
俺は目を閉じ、真剣に想像を始めた。
(最強の武器……やっぱりまずは、伝説の剣エク○カリバーか!?)
黄金に輝く神秘の剣を想像する。が──
(……待てよ、これって有名すぎて逆に異世界だと通用しないパターンもあるんじゃないか?)
ふと、冷静な考察が頭をよぎる。
(じゃあ……ゲ○ボルグ? 対神特化で貫通力すごいし……)
が、これもまたよぎる懸念。
(……異世界では“呪われた武器”扱いされてる可能性もあるし、そもそも槍の扱い難しそう……)
「おい、早くしろ」
「うるさい! 今ちょっとメタ考察してんだよ!」
と、そこで閃いた。
(いやいや、どうせなら、“見た目も最強”な武器がよくね? 異世界の住人の感性をぶっ壊すくらいに……)
そして俺の脳内に咲いた、最強かつ最高のイメージ。
(そうだ! 推しのイラストを彫った、世界でひとつだけの武器――)
“痛武器”!!!
「できた!!!」
「よし、召喚するぞ!!!」
ゴルドスが天に手をかざすと、突如目の前に眩い光が迸る。
「降臨せよ……『タクミ・ブレイザーVer.01』!!!」
ズドォン!!!!!
爆音と共に召喚された武器は──
全身ピンクの刀身に、フルカラーで描かれた推し魔法少女『ミスティア・ルミナス』のイラスト入りの大剣。
刃の根本には「尊い」「2期待ってます」などの謎の文字が光り、持ち手にはアクリルチャーム風装飾がぶら下がっていた。
ゴルドス「…………」
俺「…………」
「…………なあ」
「うん」
「なんで武器に推しの絵が入ってんの?」
「いや! そこがこだわりポイントなんだって!!!」
「怖ぇよ!! 推しへの愛が重すぎて刃に刻まれてんじゃねーか!!!実戦で使ったら、美少女キャラが血まみれになっちゃうよ!?」
「確かに……。でもこれ、見た目最強でしょ? 気持ちは伝わるでしょ? 推し is justice!」
「justice ってレベルじゃねえぞ!!!」
俺がドヤ顔で武器を構えていると、ゴルドスがため息をついて言った。
「……まあいい。気に入ったのならそれで構わん。
正直俺もいいなと思ったし……」
「おっ、理解あるオタク神で助かるわ」
「ただし、これは街中で持ち歩くな。派手すぎる。」
「えー」
するとゴルドスは手をかざし、次の瞬間、シンプルな木製の鞘が現れた。
「ソレ専用の鞘だ。これは持っておけ」
「なるほど、“表面オタク感を隠すカモフラージュアイテム”ってやつか……」
「世間とのバランスも大事だからな」
こうして、俺の愛と狂気が詰まった最強の“痛武器”は異世界に降臨したのであった。