↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
2 盗賊少女と、守りたいもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/129

対峙

「――お前が……俺の痛武器を盗んだのかッ!!」


 闇オークション会場のど真ん中。無数の視線が注がれる中で、オタクミ・ルミナスの怒声が響き渡った。


 壇上に立つ銀髪の女――セラは、視線も逸らさずに静かに彼を見つめ返す。その手は、つい今しがた壇上から掴み取った《タクミ・ブレイザー》をしっかりと抱えていた。


「なぜだ! 俺の魂である痛武器を……推しの尊みを……なぜ盗んだッ!?」


 オタクミの言葉は熱を帯びていた。


「その刀身に描かれたミスティアは、ただのキャラじゃない! 魂を込めて描かれ、構成され、動いて、歌って……俺の心に生きてる存在なんだ!!」


「……」


 セラは無言のまま、少しだけ目線を落とした。視線の先には、腕の中の痛武器。


 昨日、初めてこの剣を見た時。


 派手で、悪趣味で、冗談みたいな剣だと思った。


 武器屋へ持ち込めば、誰もが笑った。


 飾りだ。玩具だ。値段のつけようがない。


 けれど、笑われるたびに妙に腹が立った。


 刀身には傷一つなく、細部まで異様なほど丁寧に作り込まれている。文字も、絵も、ぶら下がったチャームも、ただ適当に付けたようには見えなかった。


 それに、あの男は。


 自分の剣ですらない、名前も知らなかったキャラクターの絵を踏むことさえ拒んだ。


 そこまでして守ろうとするものが、ただの悪趣味な飾りで終わるのか。


 セラには、それが分からなかった。


 だから確かめたかった。


 誰かが「価値がない」と言ったからではなく、自分の目で見て、自分で決めたかった。


 セラは口を開いた。


「……金のためじゃない」


 オタクミの怒気を孕んだ瞳が、一瞬揺れた。


「え?」


「誰にも、価値がないって言われた。でも……私は、そうは思えなかった」


 会場がざわめく。


「飾りだ、玩具だ、ふざけた見た目だって、みんな笑った。でも、見れば見るほど……ただの冗談で作った物には思えなかった」


 セラは《タクミ・ブレイザー》を少し持ち上げた。


「だから、確かめたかった。この剣に、本当に価値があるのか」


「……」


「誰かに決めてもらうんじゃなくて、私自身で」


 その瞳には、盗人の居直りでも、見栄でもない、確かな好奇心と意地があった。


 オタクミは言葉を失った。


 盗まれた。


 腹は立つ。


 今すぐ返せと言いたい。


 それでも、目の前の女が単に金目当てで盗んだわけではないことだけは、嫌でも分かった。


「……お前」


 何なんだ。


 怒りの中に、別の感情が混ざってくる。


 理解できない。


 でも、ただの盗人だと切り捨てるには、少しだけ何かが引っかかった。


 その時だった。


「――へぇ。随分とご立派な理屈だな、セラ」


 場内の奥から、低い声が響いた。


 緋色のジャケットを羽織った屈強な男が、客席の間を割って前へ出てくる。太い腕と歪んだ笑み。周囲の空気まで重くなるような男だった。


 オークションオーナー、バスレオン。


「何をやってるかと思えば……お前、まさかソレを持って逃げる気だったのか?」


 セラの肩が微かに震える。


「ち、違う」


「違う? じゃあ何だ。価値があると分かった途端、騒ぎに乗じて自分の物にする気か?」


「私は――」


「せっかくの競りを台無しにして、ただで済むと思うなよ」


 バスレオンの声に、冷笑と怒気が混じる。


「その剣は俺が売る。お前は……裏切り者だ」


 次の瞬間、男の掌から赤黒い魔力弾が迸った。


「危ねぇ!」


 オタクミは壇上へ飛び込み、脇に置かれていた鞘をひったくる。


「ゴルドス! 戻って早々悪いけど借りるぞ!」


『状況を説明しろと言いたいところだが――今は後にしろ!』


「久々の鞘神タイムだあああ!!」


『その呼び方を正式名称みたいに使うな!!』


 鞘を振り抜く。


 赤黒い魔力弾が弾かれ、火花を散らして石壁へ突き刺さった。


 だが、同時に放たれていたもう一発がセラの腕をかすめる。


「ッ……!」


 血が弾けた。


 それでもセラは《タクミ・ブレイザー》を放さない。


 オタクミの頭に血が上った。


「なにしやがる!! 貴様ぁあああ!!!」


「無駄な真似はよせ、坊や。これは俺の商売だ。邪魔をするなら、その小娘もろともただじゃおかねぇぞ?」


 バスレオンが再び腕を上げる。


 周囲の警備も動き始めた。


 オタクミは舌打ちする。


 剣は取り返したい。


 ゴルドスも戻った。


 目の前には、自分の剣を盗んだ女。


 普通なら置いて逃げればいい。


 なのに。


「おい!」


「な、何……?」


「逃げるぞ!」


「待っ――!?」


 セラが反応するより早く、オタクミは彼女の身体を抱き上げた。


「えっ、ちょ、な、なにやってんの!?」


「暴れるな! 落とす!」


「なんで私まで連れてくのよ!?」


「ケガ人置いてく方が後味悪いだろうが!!」


「私、あんたの剣盗んだんだけど!?」


「知ってるよ!! 話は逃げてから聞く!」


 腕の中でセラが固まる。


 その横で《タクミ・ブレイザー》を確保し、鞘を手にしたまま、オタクミは壇上から客席へ飛び降りた。


「先生ー!」


 会場の端でリアが手を振っている。


「出口、こっちです!」


「ナイス、リア!」


 怒号と足音が背後から迫る。


 オタクミはセラを抱えたまま走り出した。


「ちょ、ほんとにこのまま!?」


「尊みもケガ人も全力で守るんだよ!!」


「一緒にするなぁぁぁ!!」


『まず俺を落とすなよ!』


「鞘神まで注文多いな!!」


『だから鞘神を定着させるな!!』


 混乱するオークション会場を背に、三人と一振りは地下通路へ駆け込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。