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オタクミの企み

ラザリスの宿、朝――

冒険者パーティー《オタクミ》《リア》《セラ》《ゴルドス》の結成から数日が経った。


とはいえ、この部屋の空気は一般的な冒険者パーティーの朝とは程遠いものだった。


「……いいか、リア! このミスティアの瞳の透明感は、ただの光じゃないんだ! 深みと、吸い込まれるような……そう、尊みを感じさせる光なんだよ!」


オタクミの熱量全開の声が響き渡る。


テーブルの上には、スケッチブックと色鉛筆、インク、筆、参考用の推しのイラストが施された痛武器が並べられていた。


「は、はいっ! 先生っ!」


リアは目を輝かせ、真剣な表情で筆を走らせている。

隣にはセラが腕を組み、半ば呆れたように、それでも興味深げに二人のやりとりを見ていた。


「セラ! お前もだ! このミスティアの横顔を見ろ! 計算し尽くされたアホ毛の配置と、どこか憂いを帯びた表情……これが、キャラの『背景』ってもんだ! キャラクターに深みを与える重要な要素なんだぞ!」


「は? ……ただの絵でしょ。いちいちうるさい!」


ぶっきらぼうに返すものの、セラの視線は確かにイラストのアホ毛と表情に吸い寄せられていた。目は真剣だ。


「違う! これはな、キャラクターデザインの神髄なんだよ!

これを理解しなきゃ、この異世界で『推し文化』を布教するなんて夢のまた夢だ!」


「……それが、あんたの『布教活動』とやら?」


セラが呆れた声で問うと、オタクミは自信満々に胸を張った。


「もちろんだ! まずは『推しグッズ』の魅力を異世界人に知ってもらう! その波が広がれば、推し文化はこの世界に根付く! 夢じゃない!!」


腰の鞘から、呆れ声が聞こえた。


『はあぁ……早く転売魔たちを探しに冒険に行けっての!!』


「いやいやゴルドス。俺たちの作ったグッズが流行れば、きっとあのバスレオンみたいな転売魔どもも、金になると思って食いついてくるはずだ!

まさに『おびき寄せ作戦』ってやつだよ!!」


『な、なるほど。たしかに!お前天才か!!?』


とはいえ、膨大な借金という現実は待っている。


「……とはいえ、借金返さなきゃいけないのよね?」


「……グッ」


オタクミは目を逸らしながら、ギルドから受け取った紙束を取り出した。


「渋々だけど、ギルドの依頼も受ける。……実はな、こっそり登録してきたんだ」


「え?」


セラが目を細めた。


「この前は登録失敗したって言ってなかったっけ?」


オタクミは咳払いして、別に何でもない風を装いながら腰の横をポンと叩いた。


「まあな。今回は、“この武器”で登録した」


「……それ、木の枝よね?」


見ると、見た目がやけに鋭利な木の枝が腰に差してある。


「だってギルドの規定、“武器所持”って書いてあっただけだったからな。

これでも十分に戦えるって言い張ったら、なんか通った!」


『それでギルド登録できたのかよ!!』


ゴルドスの全力ツッコミが響き、リアも思わずクスクスと笑った。


「でも、せっかく資格取ったんですし……初心者向けの依頼から始めましょう?」


「うむ!」


オタクミはギルドの掲示板から引っぺがしてきた紙を広げた。


「『近郊の森に現れたスライムの討伐』。これなら、セラもリアちゃんも安全にこなせるだろう!」


「……あそこって、私と最初に会った場所ですよね……?」


リアが不安そうに呟く。


「あ、ああああ! そ、その時の事は忘れてくれぇぇぇ!」


慌てふためくオタクミ。

セラが横目で見て問いかけた。


「……何かあったの?」


『実はな、その時オタクミが――』


「うるさい鞘神!! しゃべるなあああ!!」



快晴の下、3人と1鞘は森へと入っていた。


「慎重に行こうな。痛武器は今日は封印。

推しの顔が汚れたら大変だからな!!」


オタクミは例の木の枝を鞘神に収めて構えていた。


『おい、これで戦うのか!?』


「基本、鞘を鈍器にして殴るだけだしな!!」


「自分で言っちゃうんだ……」


セラはナイフを構え、リアは後方支援のポジションについた。


森の奥では、プルンプルンと音を立てて跳ねるスライムが数体出現。


「よっしゃ、行くぞ!!」


オタクミの鞘殴りアタック、セラの鋭いナイフさばき、リアの魔法補助。

順調にスライムは討伐されていった。



討伐を終え、一行は森の小さな開けた場所で休憩を取っていた。


「はい、先生! 皆さんも!」


リアが手作りのサンドイッチと茶を差し出す。

まさに異世界オカンムーブ全開である。


「ありがてぇ……推しの顔見ながら食う飯は、エリクサーより効くんだよな……」


『毎回言うなそのセリフ』


セラも、静かにサンドイッチをかじっていた。


「……美味しい。」


そんな中、ふとオタクミの目がスライムの残骸に留まる。


「ん? これ……なんだ?」


透明な体液が、日差しに反射して薄い膜のように広がっている。

一部は時間が経って固まり始め、キラリと光っていた。


オタクミは興味津々に指で触れてみる。


「おおっ!? 固まってる……これ……」


「先生知らないんですか? スライムの体液は一定時間が経つと硬化するんです。昔は防水素材に使われていたとか」


リアが解説する。


「……つまり、加工すれば固形の透明な板になる?」


リアはコクリと頷いた。


その瞬間――


ピコーン!


「これだっ!!」


「な、なに!?」


「スライムの体液でアクリルスタンド作れるじゃん!!!!!」

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