銀影の決意と涙
夜が明ける少し前のラザリス。
闇オークションの騒動も収まり、街には静けさが戻っていた。
打ち捨てられた廃墟の一角。
そこで、銀髪の少女――セラは、焚き火のそばに座っていた。
目の前には、戦いを終えたばかりの美少女姿の青年――オタクミ・ルミナスが、痛武器を膝に抱えていた。
「……本当に、あんたって変な奴」
セラがポツリと呟く。
「命がけで、こんなもんのために戦って……」
「“こんなもん”じゃないって、何度言わせるんだよ!」
オタクミは苦笑しながら、刀身を撫でた。
「でも、今日はありがとうな、セラ。おかげであのクソ転売ヤローに勝てたよ」
セラは少しだけ頬を赤らめて視線をそらす。
「……別に。勝手に手伝っただけだし」
しばらくの沈黙のあと――
セラは、小さく深呼吸してから言った。
「……ねえ」
「ん?」
「……その剣、返さなくていい。今さら私が持ってても、意味ないし」
オタクミの動きが止まった。
「……違うよ、セラ」
「え?」
オタクミは真剣な眼差しでセラを見つめた。
「まだ終わってねぇ。お前がいた盗賊団――そいつらとの決着が、まだだろ?」
セラの目が驚きに見開かれる。
「それに、あいつら……オークションでこの剣の価値を見ちまった」
「……!」
「きっと、また狙ってくる。放っておいたら、巻き込まれるかもしれない」
オタクミは立ち上がり、痛武器を背負った。
「だったら……俺がケリをつけてやる。尊みと仲間を狙う奴らは、全部“推し断罪”だ!」
『成敗だァァァ! 転売屋は地獄に落ちろォォォ!』
ゴルドスの思念が、妙に気合いの入った声で響いた。
セラは、呆れ半分・嬉しさ半分のような顔でため息をついた。
「……ほんっと、どうかしてる」
だが、次の瞬間には立ち上がり、オタクミの隣に並んでいた。
「でも……行こう。ケリをつけたいのは……私も同じだから」
二人は、セラが所属していた盗賊団のアジトへ向かった。
⸻
古びた砦のような建物の前に立つ二人。
オタクミが扉を蹴破って入ると、内部では団員たちがどよめいた。
「な、なんだお前ら!?」
「あの剣……オークションで話題になってたやつじゃないか!? 一点モノでウン十万もするっていう――!」
「セラ、裏切ったな!? その武器、俺たちが預かる!」
オタクミの眉がピクリと動いた。
「お前ら……また“値札”つけようとしてんのかよ」
「オークションで高く売れるってわかった以上、それは俺たちの資産だ!」
バッ!!
複数の盗賊たちが刃を抜く。
「オタクミ、下がって――!」
セラが構えた瞬間、
「いや……ここは、俺が行く。推しに傷をつけようとするやつらは……!」
《シャキィィィィン》
「全員まとめて、反・転・売・成・敗(リバース・アンチ・リセール・ジャッジメント)!!!!」
『いけぇぇぇぇええええええええええ!!!!』
オタクミが暴れた。
痛武器を鞘に納めたままの“鈍器”スタイルで盗賊たちを薙ぎ倒し、盾形態で魔法を跳ね返し、
最後には、鞘から抜いて推しイラストを背にして全身発光――
\ ルミナス・パトリオット・ブレイカー! /
ズドオオォォォォン!!!!
砦の一角が吹き飛んだ。
「わあああああ!?!?!?!?」
盗賊たちは泣きながら崩れ落ちた。
その隙に、セラはかつての盗賊団ボスのドゥルガに向き合う。
「もう、終わりにする」
「セラ……!? お前、あれだけ俺たちに世話に――」
「私は……盗みじゃない生き方をしたい。
私は、あの剣を“金”じゃなくて、“大事なもの”として見た。
だから……これ以上、私の目の前でそれを汚さないで」
言葉に、迷いはなかった。
沈黙のあと、ドゥルガは舌打ちをして背を向けた。
「……勝手にしろ。」
その背に、静かに告げた。
⸻
砦を後にしたオタクミとセラ。
朝日が昇る街道。
金色の光が、二人の影を長く伸ばしていた。
セラは、何も言わずに歩いていたが――
ふと、立ち止まり、痛武器のイラストを見つめた。
その表情が少しだけ歪む。
「……あんたって、本当にバカみたいに騒がしくて、暑苦しくて、でも……」
声が震えていた。
「私なんかのために……バカみたいに、真っ直ぐで……」
ボロ、と涙が頬を伝った。
「……ありがとう。助けてくれて、ありがとう……」
その言葉を聞いて、オタクミは少し照れながら笑った。
「……ま、俺は“尊み”と、その“尊み”を分かち合える仲間のためなら、いつでも全力で突っ込む主義だからな。セラ、お前ももう、大事な仲間だ」
『泣かせるねぇ〜オタクミ。セラ、お前今めっちゃいい“表情”してるぞ!』
「は?何 この鞘キモっ」
朝日は完全に昇りきり、世界は新しい光に満ちていた。




