萌えを守る盾
夜のラザリス郊外――
空には重たい雲がかかり、廃教会跡地を包む空気がぴんと張りつめている。
そこに立つのは、緋のスーツを纏った大男――バスレオン。
そして、彼の正面に向かい合うのは、ピンクの輝きを帯びた剣を携えた一人の美少女(※中身オタク男子)――オタクミ・ルミナス。
隣には、銀髪を風に揺らす女シーフ――セラ。
彼らの視線が交錯する瞬間、バスレオンがニヤリと笑った。
「戻ってきたか……その剣が目的か?」
「当然だろ……これは俺の魂なんだよ!!」
「魂がどうした?」
バスレオンは懐から、黒鉄の銃器を取り出した。
――ドクン、とオタクミの心が跳ねた。
(あれは……見た目こそ違うが、完全にガトリング銃だ!)
「さぁ、見せてみろ。お前の“魂”が、俺の火力に耐えられるかどうか!!」
バスレオンの足元の魔法陣が発光する。
「来るぞ!」
セラが低く声を発した直後――
「火力全開!!」
無数の魔弾が光を撒き散らしながら飛来する!
「くそっ……こっちは近づくことすらできねぇ!! 銃さえ……銃さえ防げれば……!」
弾幕は壁を砕き、地面を焼き焦がす。
セラが木陰に身を隠す中、オタクミは地を這いながら必死にやりすごすが、距離は詰められない。
「……だめだ、このままじゃ……!!」
そのときだった。
――ふっと、脳内に流れ込んできたあるシーン。
『輝星のルミナス』第24話。
絶体絶命のルミナスが、魔法の“光の盾”を反射させ、敵の呪弾を跳ね返したエピソード。
(そうだ……あのとき、ルミナスは“魔力の特性”を“鏡”に変えた……!)
オタクミが、そっと《タクミ・ブレイザー》の刀身を見つめたそのとき――
ズオオオオオオオオッ……!!
剣が、光を放った。
「な、なんだ!?」
『うおっ!? 眩しい!? って、あれ!? おい、それ変形始まってるぞ!?』
「まさか……!」
眩い輝きの中で、剣がググッと回転し――
刀身が折れ、構造がスライドし、まるで“魔導工芸品”のように変形していく!
バシュッ!!
その姿は、“盾”になった。
金属と魔法が融合したような構造。
正面には、ミスティア・ルミナスの新イラストが描かれている。
まるで“変身後”のバトルフォームのような凛々しい姿!
「き、きた……新規イラスト……!!
しかも、“魔法反射シーン”の再現版……!!」
さらに、盾の取っ手部分には謎のボタン。
「おっ、なんだこれ?ポチッとな」
『躊躇なく押しちゃうの!!?』
ポチッ
\♪ Twinkle☆Revolution ~目覚めよ心の光~ /
アニメのオープニングテーマが、空間を震わせるように流れ出した!
「ッッッッッしゃああああああああああ!!!!!!」
盾を構えるオタクミ。
だが次の瞬間、彼の目にミスティアの笑顔が見えた。
(……このイラストに、弾痕つけるわけにはいかねぇ)
「うおおおおお!!」
オタクミはとっさに、盾を裏返して構える!
『おい!? 持ち手側を前に出してどうすんだよ!?!?』
「大丈夫だ! 推しの顔を守れるなら、背中でだって受ける!!」
「それ盾の意味ある!!?」
だが次の瞬間――
ガガガガガガガガガガガガ!!!!
バスレオンのガトリング魔銃が唸る。
襲いかかる魔弾の嵐!
しかし――
裏返された《タクミ・ブレイザーVer.2》が全反射!!
「な、なにィィィ!?!?」
弾が弾かれ、放射線状に散っていく!
周囲の地面に着弾した火花が、まるでステージの演出のように照らし出す。
(……あぁ……これ……完璧だ……)
『今、戦場が“ライブ会場”に見えてるだろお前!?』
バスレオンが距離を取る。
「チッ! 反射できるなら、接近させねぇだけだ!!」
「させるかよ……!」
オタクミが叫ぶ!
「セラ! 援護を!」
「了解!」
セラが物陰から飛び出し、投擲ナイフを連続で放つ!
バスレオンが防御に回ったその一瞬――!
「推しのためのッッ……!」
盾が剣に戻る。再変形完了!
「ルミナス・エターナル・クロスブレイザー!!」
飛翔するような踏み込み。
放たれた剣閃は虹色の軌道を描き、ミスティアのウインクと共に――
ズバアアアアアアアアン!!!!
ガガガガン! とバスレオンの銃が砕け、彼は膝をついた。
「ぐ……ぅぅ……」
「言ったろ……これは俺の魂だって。
魂に、値札なんか……つけさせない!!」
オタクミの一喝が、夜空に響き渡った。




