あなたを知っている人
市場の一角にできた人だかりを見つけた時、オタクミは最初、またカルテルが新しい商品でも出したのだと思った。
昨日、新しいキャラクターの冊子を売っていた辺りだ。
今度は何だ。
限定版か。
特典付きか。
それとも、また別の角度から客の心を狙ってくるのか。
そんなことを考えながら人混みを覗き込んで、オタクミは足を止めた。
「……おお?」
そこにあったのは、商品棚ではなかった。
一人の女性が立っていた。
淡い色の衣装。
柔らかく流した髪。
胸元には、小さな飾り。
昨日、冊子で見たキャラクターとほとんど同じ姿だった。
疲れて帰ってきた相手を、温かい食事で迎えてくれる女性。
そのキャラクターが、絵から抜け出してきたように見えた。
もちろん、本当に抜け出したわけではない。
人間が演じているのだ。
「おかえりなさい。今日は少し疲れているみたいですね」
演者が、目の前の客に微笑みかける。
客の女性は目を丸くした。
「本当にいる……」
周囲からも、似たような声が上がった。
「すごい、そっくりだ」
「喋り方まで同じ!」
「こっちを見てくれた!」
オタクミは思わず感心した。
「そこまでやるか」
セラが横を見る。
「驚いてないの?」
「いや、再現度には驚いた。でも、こういう発想自体は知ってる」
「そうなの?」
「俺のいた世界でも、絵のキャラを人が演じて、会えるようにするイベントはあったんだよ」
オタクミは演者を見た。
髪型も衣装も、細かいところまで作り込まれている。
立ち方も、手の添え方も、それらしい。
キャラクターが本当にそこにいると思いたくなる気持ちは、分からなくもなかった。
「……よくできてるな」
そう呟いた直後だった。
次の客が、係員に促されて前へ出た。
演者は手元の小さな紙へ一瞬目を落とし、それから女性を見た。
柔らかな笑顔が、少しだけ寂しそうなものに変わる。
「今日は、あの髪飾りをしていないんですね」
女性の表情が変わった。
「……え?」
胸の前で手を握る。
「覚えてくれてたの?」
演者は静かに頷くような仕草をした。
女性は嬉しそうに笑った。
オタクミは、そこで眉を寄せた。
「……あの人」
アーグも気づいたらしい。
「ああ。買い取り所に来ていた女性だな」
母親からもらった髪飾りを売った人だった。
オタクミたちは、査定員へ思い出を話しているところを見ている。
だから、分かった。
だが、今目の前にいる演者はどうだ。
初めて会ったはずの相手へ、どうしてそんな言葉をかけられる。
少し離れた場所でも、別の演者が客に話しかけていた。
「お兄さんとの約束、まだ守ってるんでしょう?」
青年が驚いた顔をする。
「……何で知ってるんだ?」
そのあと、照れたように笑った。
別の客には、故郷の季節の料理について話している。
どれも、思い出買い取り所で聞き取られていた話と重なっていた。
「私のこと、知ってるんだ」
そんな声が、客の中から聞こえた。
オタクミは、人だかりの向こうを見つめた。
「……なるほどな」
感心していた気持ちが、少しずつ別のものへ変わっていく。
「何が分かったの?」
セラが尋ねる。
「これ、単にキャラへ会いに来るイベントじゃない」
「どういうこと?」
「客がキャラを知るより先に、向こうが客のことを知ってるんだよ」
オタクミは演者の手元を見た。
小さな紙。
客を案内する係員。
そして、客が驚くような言葉。
昨日までの商品の仕組みを考えれば、想像はつく。
思い出買い取り所で集めた話。
どんな品物を大切にしていたのか。
何を失ったのか。
何を懐かしんでいるのか。
そうした情報を演者へ渡せば、キャラクター本人が相手を覚えているように振る舞える。
「……そこまでやるか、カルテル」
さっきと同じ言葉だった。
けれど、今度は感心だけではなかった。
*
「私は嫌ね」
セラが腕を組んだ。
「初対面の人に、自分しか知らないようなことを言われたら、怖いわ」
「俺も、普通ならそう思う」
オタクミは頷いた。
「でも、その相手が自分の好きなキャラだったら?」
「……それは」
セラは演者を見た。
髪飾りのことを言われた女性は、今も嬉しそうに話している。
目の前にいる人が、ずっと好きだったキャラクターに見える。
その相手が、自分を覚えてくれている。
「嬉しい人もいるでしょうね」
セラは、少し複雑そうに言った。
「実際、みんな嬉しそうだし」
「そうなんだよな」
オタクミは小さく息を吐いた。
昨日も、似たようなことを考えた。
商品がどう作られたかに疑問があっても、それを好きになった人の気持ちまで偽物とは言えない。
今度は、その商品が人の姿をして、目の前に立っている。
しかも、こちらのことを知っている。
それは、きっと嬉しい。
だが、何を根拠に知っているのか。
そこは、別の話だった。
「……自分を見てくれた、って思うんでしょうね」
シエルが静かに言った。
オタクミが振り向く。
「見てくれた?」
「はい。こんなにたくさん人がいるのに、自分のことを覚えていてくれた。自分へ話しかけてくれた。そう感じたら、嬉しいと思います」
シエルは、客の女性を見つめた。
「歌っている時も、客席にいる人と目が合うだけで、喜んでもらえることがありますから」
「……ああ、なるほど」
「でも」
シエルは少し困ったように続けた。
「最初から紙に書いてあっただけなら、その人のことを本当に知っているわけではないんですよね」
オタクミは答えるまで少し考えた。
「……最初の言葉は、そうだろうな」
「最初の?」
「うん。髪飾りのことを知ってたのは、資料があったからかもしれない。でも、今ここで客の顔を見て話してるのは、本物の人間だろ」
オタクミは演者を見た。
「その人が何を感じてるかまでは、台本だけじゃ決まらない気がする」
それを聞いて、リアが顔を上げた。
リアは、演者の衣装ではなく、その動きを見ていた。
年配の客が話しかけると、演者は少し腰を屈めて目線を合わせる。
客が言葉に詰まると、すぐには次の台詞を言わない。
泣きそうになった女性へ手を伸ばしかけて、いったん止める。
相手がこちらを見てから、そっと近づく。
小さな動きだった。
冊子の絵にも、紹介文にも書かれていない。
「……増えてます」
リアが呟いた。
「何が?」
オタクミが尋ねる。
「この人が演じることで、元の絵にはなかったものが増えてます」
その隣で、レジナルドが腕を組んだ。
「ふむ。同じ型でも、使う人間が違えば癖は出るものだ」
「型、ですか?」
「剣でも道具でもそうだ。設計図が同じだからといって、誰が使っても同じ動きになるわけではない」
レジナルドは演者を眺めた。
「作った者の思惑どおりに、すべてが収まるとは限らん」
リアは黙って頷いた。
その時だった。
一人の男が、列の前へ出た。
*
四十代ほどの男だった。
痩せた頬。
目の下には濃い隈。
肩を少し丸めて立っている。
男の前にいたのは、無口な少女のキャラクターを演じる若い女性だった。
誰にも心を開かない。
けれど、ある一人の相手にだけ弱音を見せる。
昨日、オタクミたちが見た冊子にあった設定だ。
演者は、係員から渡された紙へ目を落とした。
それから、男を見る。
「最近、眠れてないんでしょう?」
男は驚いたように笑った。
「……何で分かったんだ」
オタクミは、紙を見た。
そこに何が書かれているかまでは読めない。
ただ、今の言葉は、演者が男を見る前から用意されていたように聞こえた。
男は少し笑ったあと、すぐに表情を戻した。
立っているだけでも疲れるのか、体重を何度か左右の足へ移している。
演者は男へ向き直り、何かを言いかけた。
脇では係員が、次に案内する商品を手に取っている。
演者も、そちらへ一瞬目をやった。
そこで、止まった。
もう一度、男を見る。
男はさっきより俯いていた。
演者は手元の紙へ視線を落としたあと、それを下げた。
「……今日は」
言葉が途切れる。
横にいた係員が、少しだけ顔を上げた。
演者は、今度は紙を見なかった。
「何も買わなくていいから、少し休んでいって」
男が動きを止めた。
「……え?」
「顔色、本当に悪いです。あそこ、座れますから」
演者は近くの椅子を指した。
「今は、無理して立ってなくていいと思います」
男はしばらく黙っていた。
何かを言おうとして、うまく言葉にならない様子だった。
係員は手に持っていた商品を下ろし、演者を見た。
演者も係員を見たが、言葉を変えなかった。
やがて男は、力の抜けたような笑い方をした。
「……ありがとう」
短い言葉だった。
演者は小さく頷き、男が椅子へ向かうのを見送った。
男は商品を買わなかった。
演者も、買うようには勧めなかった。
係員が次の客を案内し、列はまた動き始めた。
ほんの短い出来事だった。
だが、オタクミはその場から目を離せなかった。
「……今の」
アーグが振り向く。
「どうした?」
「予定どおりじゃないだろ」
「なぜそう思う?」
「係員、商品を出そうとしてた。あそこから買い物へつなげるつもりだったんじゃないか」
オタクミは、椅子に座った男を見る。
「でも、あの人、売らなかった」
演者はもう次の客へ話しかけていた。
さっきの男とのやり取りを、わざわざ周囲へ説明することもない。
ただ、目の前の人の様子を見て、言葉を変えた。
オタクミには、そう見えた。
「……あの人、今初めて見たんだと思います」
リアが言った。
「最初から見てただろ?」
オタクミが尋ねる。
リアは首を横に振った。
「知ってたんじゃなくて。今、見たんです」
「……どういう意味だ?」
「最初は、紙に書かれたことを知ってたんだと思います。でも、あの人が本当に疲れてる顔をしてることは、今ここで見ないと分からなかったんじゃないかなって」
リアは言葉を探しながら続けた。
「だから、何を言うか変わったんだと思います」
オタクミは、もう一度演者を見た。
事前に用意された情報。
目の前にいる人間。
どちらも、同じ客についてのものだった。
けれど、同じではなかった。
レジナルドが何か言おうとした時、アーグが先に口を開いた。
「ただし、一つ忘れるな」
「何だ?」
「一人の演者が善意で動いたからといって、仕組み全体が安全になったわけではない」
オタクミはアーグを見る。
「むしろ、こういう行動まで商売に利用される可能性がある」
「……善意まで?」
「ああ。売り込まなかったことで客から信用を得られるなら、それ自体が次の売り方になるかもしれん」
アーグは演者の方角を見た。
「今の演者が、そこまで考えていたとは限らん。だが、カルテルが後から利用しない保証もない」
「……そうか」
オタクミは苦い顔をした。
目の前の人間を心配した。
その行動は、演者自身のものだったかもしれない。
けれど、その結果を商売に使おうとする者もいる。
それでは、善意は意味がないのか。
そう考えかけて、オタクミは椅子の方を見た。
男はまだ座っていた。
少し俯いている。
だが、立っていた時より肩の力が抜けているように見えた。
「……いや」
オタクミは小さく呟いた。
「意味がなくなったわけじゃないよな」
アーグは答えなかった。
オタクミも、それ以上は言わなかった。
*
その夜。
カルテルの商館では、昼間の出来事が報告書になっていた。
「規定外の対応が一件あります」
部下が紙を差し出した。
ケインは受け取り、目を通した。
演者が、接客中に商品の購入を促さなかった。
客を椅子へ案内し、休ませた。
その場での販売は成立していない。
「交代させますか?」
部下が尋ねた。
「購入案内へ進む予定だった場面で、演者が独自の判断をしたようです。同様のことが続くようなら――」
「残せ」
ケインは、報告書から目を上げずに言った。
部下が少し驚く。
「……よろしいのですか?」
「ああ」
「ですが、規定から外れています」
「客はまた来るかもしれない」
ケインは紙を机へ置いた。
「売らない対応が信用につながるなら、長い目では利益になる。すぐに交代させる理由にはならん」
部下は考えるように黙った。
たしかに、理屈は通る。
客が安心できる場所だと思えば、次に足を運ぶ可能性はある。
そうした見方も、商売としては間違っていない。
「……承知しました。では、当面は継続させます」
「反応も見ておけ」
「はい」
部下が去る。
扉が閉まると、ケインはもう一度報告書へ目を落とした。
客へ商品を勧めなかった。
代わりに休息を促した。
売上はゼロ。
だが、客は礼を言った。
それだけのことだ。
けれど、ケインは紙を伏せなかった。
オタクミなら、これをどう見る。
そんな考えが浮かんだ。
自分でも、少し苛立った。
報告書の端を指で押さえる。
売らない対応が、次の売上につながることはある。
規定から外れた行動をすぐ排除せず、結果を確かめることにも意味はある。
商売としては、それで説明がつく。
なのに、報告書の一文から目が離れなかった。
演者は、目の前の客を見て対応を変えた。
あらかじめ決めていた流れではなかった。
ケインは椅子へ背を預けた。
ふと、昔の教室が浮かんだ。
*
『……そこなの?』
思わず、声が出た。
高校時代。
ケイスケがオタクミへ薦めた漫画の話をしていた時だ。
その作品には、ケイスケが特に好きなキャラクターがいた。
熱い場面もある。
印象的な台詞もある。
きっとオタクミも気に入る。
そう思って薦めた。
ところが、オタクミが真っ先に話し始めたのは、別の人物だった。
『いや、こいつ格好よくね?』
『そこ行く?』
『何でだよ。いいだろ、この脇役』
『いや、悪くないけどさ』
ケイスケは笑った。
『絶対、別のやつ好きになると思ってたわ』
『知らん。俺はこいつが好き』
『いや、だから、そこなの?』
二人で笑った。
オタクミがどのキャラクターを好きになるか。
その予想は外れた。
けれど、嫌な記憶ではなかった。
むしろ、あの時の会話は楽しかった。
なぜ、あんなに笑ったのだろう。
ケインは眉を寄せた。
「……だから何だ」
誰に聞かせるでもなく呟いた。
予想が外れた。
ただ、それだけだ。
相手の好みを完全に読めなかったからといって、商売の価値が否定されるわけではない。
そう考え、報告書を伏せた。
だが、昔の笑い声だけは、すぐには消えなかった。
*
同じ頃。
宿へ戻ったオタクミも、似たようなことを思い出していた。
机の上には、例の大きな眼のキャラクターの絵が置かれている。
その絵を見ながら、ふと、昔の漫画の話が浮かんだ。
『お前、絶対こっち好きだと思ったのに』
『知らん。俺はこいつが好き』
『そこ行く?』
あのやり取り。
何がそんなに面白かったのか、今になって思い返すと少し不思議だった。
ただ、楽しかったことだけは覚えている。
「……推すって、答え当てることじゃなかったんだな」
オタクミは小さく笑った。
薦めた相手が、自分の予想とは違うところを好きになる。
そこから、また話が始まる。
予想が外れたから失敗、というわけではない。
むしろ、外れたから面白いこともある。
「……あいつ、何を好きになってんのかな、今は」
呟いて、オタクミは絵を見た。
目の大きなキャラクターが、こちらを見ている。
この絵を描いたのが誰であれ。
何を好きになって、何を描きたかったのか。
それを、自分はまだ知らない。
しばらくして、扉が軽く叩かれた。
「オタクミさん、起きてますか?」
リアの声だった。
「ああ。どうした?」
「少し、見てもらいたいものがあって」
「お、何か描いた?」
扉を開けると、リアがスケッチブックを抱えていた。
その後ろには、シエルもいる。
「昨日の絵なんですけど……」
「昨日?」
リアがページを開いた。
そこには、二つの人影が描かれていた。
*
その少し前。
リアは、前日に描いたスケッチを開いていた。
二人の人影。
顔も名前もない。
同じ方向を向いて、ただ隣に立っている。
昨日は、それだけでよかった。
誰かの隣にいること。
その関係を、まず描いてみたかった。
だが、今日の市場で見たものが、頭から離れなかった。
演者が、手元の紙を見た。
目の前の男を見た。
もう一度、紙を見てから、男を見た。
そして、言葉を変えた。
あの時、何が変わったのだろう。
リアは鉛筆を持った。
二つの人影を見つめる。
昨日のままでも、隣にはいる。
けれど、二人とも同じ方向を向いているだけだった。
そこに相手がいると、気づいているのだろうか。
「……こっち、かな」
リアは、一人の顔の向きをほんの少し変えた。
隣の人影へ。
それから、もう一人もわずかにそちらへ向ける。
完全に向き合ってはいない。
ただ、互いがそこにいることを、少しだけ確かめたような形になった。
「……あ」
リアは鉛筆を止めた。
同じ二人なのに、さっきとは違って見えた。
そこへ、シエルがやってきた。
「昨日と違いますね」
「……はい」
「どこが変わったんですか?」
リアは、二人の顔の向きを指した。
「ここです」
「少し、向きが変わってますね」
「昨日は、隣に置いただけだったから」
「今日は?」
リアは少し考えた。
「……見てもらった、のかな」
「この人に?」
「はい。たぶん」
自分でも、まだ上手く説明できない。
ただ、二人は昨日と同じ場所に立っているのに、昨日より少し違う関係に見えた。
「オタクミさんにも、見てもらおうかな」
リアが言うと、シエルは頷いた。
*
「……二人いるな」
スケッチを見たオタクミは、まずそう言った。
リアは少し笑った。
「はい」
「……で、昨日とどこが違うんだ?」
「ここです」
リアが、二人の顔の向きを指した。
オタクミは顔を近づける。
「……ああ」
最初は分からなかった。
けれど、よく見ると、二人ともわずかに横を向いている。
互いの方へ。
「……見てる?」
「たぶん」
リアは頷いた。
「昨日は、ただ隣にいたんです。でも今日は、この人がここにいるって、もう一人が気づいたみたいに見えるんです」
オタクミは絵を見つめた。
二人は何もしていない。
手もつないでいない。
名前もない。
表情さえ描かれていない。
それなのに、昨日とは違って見える。
ほんの少し向きを変えただけで。
「……知ってるのと、見るのは違うのか」
オタクミが呟いた。
昼間の演者を思い出す。
資料には、客のことが書かれていた。
何を好み、何に疲れ、どんな言葉を求めているのか。
けれど、目の前にいた男の顔を見て、演者は用意された言葉とは違うものを選んだ。
知らなかったことが、目の前にあった。
だからこそ、言葉が変わったのかもしれない。
「……なるほどな」
オタクミは小さく頷いた。
リアは首を傾げる。
「何か分かったんですか?」
「いや。まだ、ちゃんとは分からない」
オタクミは笑った。
「でも、こっちの方が、ちょっと話が始まりそうな感じがする」
リアは、もう一度絵を見た。
「……そうですね」
シエルも、二人の肩越しにスケッチを覗き込んでいる。
名前もない二つの人影。
昨日より、ほんの少しだけ互いへ向いている。
どちらが先に相手を見たのか。
相手が向いてくれたことに、気づいているのか。
それも、まだ分からない。
リアはページを閉じなかった。
そこには、昨日と同じ二人がいた。
ただ隣に立っていただけの二人が、今は少しだけ、互いの存在を確かめようとしているように見えた。




