二つの人影
市場の喧騒は、何事もなかったかのように続いていた。
新しいキャラクターの冊子を買った客が、隣の客へ表紙を見せている。
屋台の店員が次の商品を並べる。
誰かが笑い、誰かが値段を聞く。
その中で、オタクミだけが立ち止まっていた。
さっきセラに聞かれた言葉が、まだ胸に残っている。
『言わなくてよかったの?』
答えは出せなかった。
姉を亡くした女性が、大切そうに冊子を抱いていた姿も忘れられない。
「……難しいな」
思わず呟くと、隣にいたアーグが口を開いた。
「一つ、整理しておいた方がいい」
「何を?」
「客が商品を好きになったことと、その商品をどうやって作ったかは、別の話だ」
オタクミは顔を上げた。
「それは……分かってるつもりだ」
「ああ。お前はあの女性の喜びを否定しなかった。そこはいい」
アーグは、まだ人が集まっている屋台へ視線を向けた。
「だが、客が喜んでいるからといって、商売のやり方まで問題がないことにはならん」
「……そうだな」
「問題は、条件だ」
「条件?」
「何を知って選んだのか。何を知らないまま選んだのか、ということだ」
アーグは腕を組んだ。
「俺たちの見立てが正しければ、あの買い取り所では、品物と一緒に持ち主の思い出を集めていた。それを商品作りに使っている可能性が高い」
「うん」
「だが、あの女性がそれを知っていたかは分からない。知らなかったとしても、知った後に同じ商品を好きでいるかもしれん」
オタクミは、女性が去った方向を見た。
「……好きでいるかどうかは、あの人が決めることだよな」
「そうだ」
「俺が勝手に『知らない方が幸せだ』って決めるのも違う。でも、確かめてもいないことを真実みたいに話すのも違う」
「その両方を考えなければならんだろうな」
オタクミは小さく息を吐いた。
簡単だった頃がある。
偽物は悪い。
本物を知ればいい。
正しいものを届ければ、きっと分かってもらえる。
そう思っていた頃が。
けれど、好きなものを大切にしている人を前にすると、そう簡単には言えなくなった。
だからといって、何もしなくていいわけでもない。
「……こういうの、布教にもちょっと似てるんだよな」
オタクミが呟くと、アーグが首を傾げた。
「またお前の世界の話か?」
「そう。好きな作品を誰かに薦める時って、その人の好みを考えるだろ」
「まあ、そうだな」
「熱い展開が好きなら、そういう作品。泣ける話が好きなら、そっち。相手が好きそうなものを探して薦める」
そこまで言って、オタクミはふと黙った。
懐かしい光景が浮かんだからだ。
*
高校時代。
昼休みの教室。
机に突っ伏していたオタクミの前に、漫画が三冊、どさどさと置かれた。
『ほら、これ』
顔を上げると、ケイスケが立っていた。
『……何だよ、この量』
『これ、お前好きそうなんだよ』
『また増やすのかよ。俺の積ん読が死ぬ』
『もう死んでるだろ』
『勝手に死亡判定するな』
ケイスケは笑って、一冊目の表紙を指で叩いた。
『お前、こういう熱い展開好きだろ。主人公が一回ボロ負けするやつ』
『おい、それネタバレじゃね?』
『いや、そこからが本番だから』
『もっとネタバレじゃねえか!』
そんなことを言い合っていた。
ケイスケは、よく作品を持ってきた。
ロボットものが好きだと言えば、別のロボット漫画。
泥臭い主人公が好きだと言えば、傷だらけになって立ち上がる話。
泣ける作品も好きだと分かると、普段のオタクミなら手を伸ばさないような、静かな物語まで薦めてきた。
妙に当たることもあった。
『……これ、めっちゃいいじゃん』
『だろ?』
『お前、よく見つけたな』
『俺も好きだからな』
そう言って、二人で好きな場面を話し続けた。
だが、外れることもあった。
『うーん……俺にはあんま刺さらなかったな』
読み終わった漫画を返すと、ケイスケは少しだけ残念そうな顔をした。
『そっか』
『悪い。嫌いってほどじゃないんだけど』
『いや、合わないもんは合わないだろ』
ケイスケは返された漫画を鞄にしまった。
そして、少し考えたあと、別の一冊を取り出した。
『じゃあ次これ試す?』
『おい、まだあるのかよ!』
『こっちは全然違う話だから』
『俺の積ん読を殺しに来てるだろ、お前』
『もう死んでるって』
二人で笑った。
そんな昼休みだった。
*
「……あいつ、よく当ててたんだよな」
オタクミは、思わず口にした。
「何をだ?」
「俺が好きそうな作品。ケイスケってやつがさ」
アーグは黙って続きを待った。
「俺より俺の好み分かってるんじゃないかって時もあった。でも、外すこともあった」
「それで?」
「別に、何も」
オタクミは少し笑った。
「残念そうにはするけど、怒らなかった。また別のを薦めてきたり、俺が好きだった別の漫画の話をしたり。そこで終わりだった」
アーグは屋台を見た。
「相手の好みに合わせること自体は、珍しくない」
「うん。それはケイスケもカルテルも同じなんだよな」
オタクミは頷いた。
「でも、俺が好きになるかどうかまで、あいつは奪わなかった」
言ってから、少し考えた。
ケイスケはオタクミの好みを知っていた。
けれど、何でも分かるわけではなかった。
気に入らなかったと言えば、それを受け取った。
間違えたら、また別のものを薦めてきた。
オタクミが予想と違うものを好きになっても、そのこと自体を面白がっていた。
「……似てるけど、違うんだよな」
「何が違う?」
「まだ上手く言えない」
オタクミは、冊子を買う客を見た。
「相手の好みを考えるのは、悪いことじゃない。俺だってやる。でも、相手が何を好きになるか、こっちの思ったとおりにしようとするのとは……」
そこまで言って、首を振る。
「いや。カルテルだって、買わない客はいる。無理やり全員に買わせてるわけじゃない」
「その通りだ」
「だから、単純に『選ばせてない』とも言えないんだよな」
アーグは頷いた。
「相手が好きそうな物を用意する商売は、いくらでもある。だが、本人が知らせるつもりのなかった事情まで集めて利用するなら、別の問題が生じる」
「……うん」
「薦められたものを気に入らなければ断れる。それは大事だ。だが、気に入った場合にも、どういう事情で薦められたのか、知りたいと思うかもしれん」
オタクミは考え込んだ。
好きにならなくてもいい。
断ってもいい。
気が変わってもいい。
知らなかったことを知って、もう一度考えてもいい。
「……選び直せる余地、か」
口にすると、少しだけ腑に落ちた。
だが、それですべて説明できたとは思えなかった。
今、商品を買ったあの女性には、その余地があったのだろうか。
もし後から事情を知ったら、どう思うだろう。
それでも好きでいるかもしれない。
怒るかもしれない。
両方かもしれない。
どれを選ぶかは、彼女にしか分からない。
「……まだ答えじゃないな」
オタクミが言うと、アーグは小さく頷いた。
「なら、答えにするには早いんだろう」
市場の屋台では、新しい冊子がまた一冊売れていた。
*
その夜。
王都の別の場所で、ケインは販売報告を読んでいた。
机の上には、何枚もの帳簿が積まれている。
新キャラクター商品の売れ行きは好調だった。
馴染みのないキャラクターを使った商品としては、十分な成果が出ている。
「特に、家族や故郷に関する設定を持つ商品への反応が良好です」
部下が報告書を開いた。
「買い取り所で集めた話を参考にした企画も、今のところ狙いどおりの反応を得ています」
「そうか」
ケインは短く答えた。
「今後の展開については?」
「他都市の支部からも導入の希望が来ています。このまま広げれば、王都以上の規模で販売できる見込みです」
部下の声には、自信があった。
企画は成功している。
売上も伸びている。
次は市場を広げる。
商売としては自然な判断だった。
ケインは帳簿を一枚めくった。
「まだ王都だけでいい」
「……はい?」
「他都市への展開は保留だ」
部下は戸惑った顔をした。
「ですが、現在の売れ行きであれば、十分に――」
「精度が足りない」
ケインは言った。
部下は口を閉じた。
数字だけを見れば、十分な成果に思える。
それでも、ケインは次の展開を認めなかった。
「王都で続けろ。販売と客の反応を、もう少し見る」
「……承知しました」
部下は頭を下げた。
それから、別の紙を差し出す。
「それと、異邦人オタクミに関する報告です」
ケインの指が止まった。
「読め」
「例の女性が商品を購入した際、オタクミも近くにいたそうです」
部下は紙を見下ろした。
「しばらく様子を見ていたものの、女性には声をかけませんでした。その後も、仲間たちと市場に残っていたとのことです」
「……何も?」
「はい。少なくとも、女性本人への接触は確認されていません」
ケインは報告書を受け取った。
女性への接触なし。
しばらく様子を見ていた。
それだけだった。
何を考えていたのかは書かれていない。
何を話したのかも、分からない。
ケインは文字を見つめた。
昔のあいつなら、どうしただろう。
偽物だ。
騙されている。
本物を知るべきだ。
そう言って、迷わず割って入ったかもしれない。
少なくとも、昔のケイン――まだケイスケと呼ばれていた頃の彼は、オタクミにそういう勢いを感じたことがあった。
だが、それは昔の記憶でしかない。
今のオタクミが何を考えて女性を見送ったのか、報告書からは分からなかった。
ケインは紙を置いた。
それなのに、胸の奥がざらつく。
「……今さら考えるのかよ」
声は、ほとんど息のようだった。
「何かおっしゃいましたか?」
「何でもない」
ケインは表情を戻した。
視線の端に、別の記録がある。
大きな眼のキャラクター。
昔の教室。
笑い声。
思い出さなくてもいいはずのものが、勝手に浮かんでくる。
客が喜ぶ。
商品を買う。
また欲しいと思う。
ならば、価値がある。
人に合わせて作られたキャラクターであっても、結果が同じなら価値は同じ。
そう考えればいい。
だが。
昔、自分が好きだったあのキャラクターは、自分のために作られたものではなかった。
誰かが自分の好みを調べたわけでもない。
自分が偶然見つけた。
惹かれた。
好きになった。
それだけのことだった。
そこに違いがあるのか。
違いがあったとして、何が変わるのか。
ケインは、その先を考えるのをやめた。
「他都市への準備は止めておけ」
部下へ改めて命じる。
「王都で続ける」
「……承知しました」
部下は書類をまとめ、部屋を出ていった。
扉が閉まる。
机の上には、二種類の報告書が残った。
一つは、売上の記録。
もう一つは、オタクミの行動記録。
ケインは、後者を手に取った。
そこに書かれた短い文章を、もう一度読んだ。
*
同じ頃。
宿では、リアがスケッチブックを開いていた。
昼間に見た新しいキャラクターたちを、思い出しながら描き写している。
温かい食事を用意して待つ女性。
転んでも笑って立ち上がる少年。
誰にも心を開かず、特定の相手にだけ弱音を見せる少女。
どれも、よくできていた。
短い紹介文だけで、どういう人物なのかが分かる。
絵を見れば、どんな気持ちになってほしいのかも伝わってくる。
リアは、少年の顔を描き終えたところで手を止めた。
「……上手いんですよね」
隣で本を読んでいたシエルが顔を上げる。
「何がですか?」
「今日の絵です。表情も、服も、色の使い方も。見た人が好きになりそうなところを、ちゃんと考えてあるんです」
「リアさんも、いい絵だって言ってましたね」
「はい」
リアは、少女の絵へ目を落とした。
「でも、描いていると、少し分からなくなるんです」
「何がですか?」
「この子たちは、何をしたいんだろうって」
リアはスケッチブックを指で押さえた。
「誰かに待っていてほしい。励ましてほしい。自分だけを見てほしい……そういう気持ちに応えるために作られているのは分かります」
少し考え、言葉を続ける。
「でも、この子たち自身が、誰かのそばにいたいと思うのは、どういう時なんだろうって」
シエルはしばらく黙っていた。
リアは、机に置いた鉛筆を見た。
資料庫で見た、途中で止まった絵のことも思い出す。
あの絵は、完成していなかった。
誰にも届かなかったのかもしれない。
何を描こうとしていたのか、今でも分からない部分がある。
けれど、そこには何かを描きたかった人の手があった。
昼間の商品は違う。
誰に届くのかが、よく考えられている。
そのこと自体を、リアは悪いとは思わなかった。
自分だって、描いたものを誰かに好きになってもらえたら嬉しい。
だからこそ、迷っていた。
「シエルさん」
「はい」
「誰かに好きになってもらうために作るのって、悪いことだと思いますか?」
シエルは少し驚いた顔をした。
それから、ゆっくり首を横に振る。
「悪いとは思いません」
「……そうですか」
「私も、聞いてくれる人がいるから歌いたくなることがあります」
シエルは本を閉じた。
「この歌を聞いたら、笑ってくれるかな、とか。疲れている人が少し元気になってくれるかな、とか。そういうことを考えるのは、楽しいです」
リアは頷いた。
「分かります。絵も、そういう時があります」
「でも」
シエルは少しだけ目を伏せた。
「好きになってもらえなくても、歌う時があります」
リアが顔を上げる。
「誰かに聞いてほしいというより、ただ、その人のそばで歌いたい時があるんです」
「そばで……」
「その人が笑ってくれるか分からなくても。歌を好きになってくれるか分からなくても」
シエルは小さく笑った。
「そこにいたいから、歌いたい。そういう時もあります」
リアは黙って聞いていた。
好きになってもらうために歌う。
好きになってもらえるか分からなくても歌う。
同じ人が、どちらの気持ちも持っている。
それは、少しもおかしなことではない。
「……ありがとうございます」
リアが言うと、シエルは首を傾げた。
「何か、参考になりましたか?」
「はい。でも、まだ上手く言えません」
リアは、開いていたページを閉じた。
そして、新しいページを開く。
真っ白な紙だった。
いつもなら、まず顔を考える。
どんな目をしているか。
髪は長いか、短いか。
どんな服が似合うか。
どんな表情で笑うか。
そういうところから描き始めることが多かった。
けれど、今はどれも決めたくなかった。
リアは鉛筆を置いた。
まず、一本の線を引く。
そこから、人の形を簡単に描いた。
顔はない。
服もない。
ただの人影だった。
少しだけ紙の上に余白ができる。
リアは、そこへもう一人を描いた。
一人。
その隣に、もう一人。
二人とも同じ方向を向いている。
手はつないでいない。
抱きしめてもいない。
話してもいない。
ただ、並んで立っている。
シエルが少し身を寄せた。
「……二人、いるんですね」
「はい」
「誰ですか?」
リアは二つの人影を見つめた。
「分かりません」
「何をしているんですか?」
しばらく考えてから、答えた。
「……一緒にいるだけです」
シエルは、もう一度絵を見た。
「そうですか」
それ以上、何も尋ねなかった。
リアは、鉛筆を持ったまま二人の間の白い部分を見つめていた。
近すぎるだろうか。
遠すぎるだろうか。
どちらが先に立っていたのだろう。
それも、まだ分からない。
けれど。
一人だけでは描けなかったものが、そこにはあった。
*
別の部屋では、オタクミが机に向かっていた。
手元には、以前届いた一枚の絵がある。
眼の大きなキャラクター。
裏には、短い言葉。
『今度は、笑わないんだな』
誰が描いたのか。
誰が送ったのか。
まだ分からない。
オタクミは、絵をそっと机に戻した。
昼間、ケイスケのことを思い出した。
昔の自分は、あいつが薦めてくれる作品を楽しみにしていた。
全部が好きになったわけではない。
けれど、違うと思った時にも、そこで話が終わることはなかった。
『じゃあ次これ試す?』
あの声が、まだ耳に残っている。
当ててもらうのが嬉しかっただけじゃない。
外れた時にも、笑って話を続けられた。
「……理解するって、当てることじゃないのかもな」
オタクミは小さく呟いた。
相手が喜ぶ言葉を、間違えずに選ぶこと。
相手の好みを、全部予測できること。
それができれば、相手を理解したことになるのだろうか。
違うと言われた時。
好きじゃないと言われた時。
予想していなかった答えが返ってきた時。
そこで相手の言葉を聞けることも、必要なのではないか。
「……選び直せる余地、か」
昼間の言葉をもう一度呟く。
それだけで全部が解決するとは思えない。
でも、何か大事なところに触れている気がした。
「考え込んでいるな」
背後から声がした。
振り向くと、アーグが部屋の入口に立っていた。
「まあな」
「その絵か」
「それもある」
オタクミは、机の上の絵を見た。
「……ケイスケのことも考えてた」
アーグは室内へ入ってきた。
「昔の友人だったな」
「ああ」
オタクミは頷いた。
「会いたいと思ってる」
「そうか」
「謝りたいこともある。でも、それだけじゃないんだ」
アーグは黙って続きを待った。
「今のあいつが、何を好きなのか聞きたい」
「昔好きだったものではなく?」
「そう」
オタクミは、絵の端へ目を落とした。
「今は別のものが好きかもしれない。昔好きだった作品を、もう好きじゃないかもしれない」
少しだけ笑う。
「俺の知らないものを薦めてきたら、たぶん驚くだろうな」
「それでも聞きたいのか」
「聞きたい」
答えはすぐに出た。
「もし俺がそれを好きになれなくても、ちゃんと話を聞きたい。今度は、あいつが何を好きなのか、俺の予想だけで決めたくない」
アーグは少しだけ目を細めた。
「昔のことも、今のことも、相手に聞かなければ分からんことはある」
「……ああ」
「会えた時に、確かめればいい」
オタクミは頷いた。
机の上には、大きな眼のキャラクターがいた。
昔なら、変だと笑ってしまったかもしれない絵。
今は、その眼をじっと見ていた。
描いた人は、どんなところが好きだったのだろう。
どんな気持ちで、この表情を描いたのだろう。
そこを、自分はまだ知らない。
*
夜が深くなった。
宿の一室では、シエルが先に眠っていた。
リアだけが、まだ机に向かっている。
スケッチブックには、二つの人影。
どちらも顔がない。
名前もない。
同じ方向を向いて、ただ隣に立っている。
リアは、その二人の周りに何かを描き足そうとした。
けれど、鉛筆が止まった。
背景を描けばいいのだろうか。
表情を付ければいいのだろうか。
手をつなげば、仲がいいことは伝わるかもしれない。
けれど、今はどれも違う気がした。
リアは鉛筆を置き、少し離れて紙を見た。
二つの人影は、何もしていない。
ただ、同じ場所にいる。
それだけなのに、一人を消してみようとは思わなかった。
「……どうしたら、伝わるんだろう」
小さく呟く。
何を伝えたいのか、自分でもまだ分からない。
ただ、二人が隣にいることを、見た人にも感じてほしかった。
リアはページを閉じなかった。
顔を描くことも、名前を付けることもしなかった。
ただ、二つの人影を見つめ続けた。
まだ、どちらも相手の方を向いてはいない。
それでも、同じ紙の上にいた。




