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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
35/67

31話:喧騒前夜

光となって消えていったウルドが残した物が意味するものとは__?


そして、暗闇に浮かぶ星から想いを固めた姫乃達にも新たな出会いが__!


起承転結、その ”転” に位置する喧騒の序章__第31話、START!!!


「それで。これからどうするかって事なんだけど…」


「……」


「……」


「あの〜… 2人とも、聞いてる?」



視界を埋め尽くす光が消え去った後、鏡の前に立ち尽くしたままの3人の前には、古びた手帳らしきものが残されていた。



「まあ待てって。急がば回れって言うだろ?」


「君の口からそのことわざを聞くとは思いもしなかったよ…」



そして。その手帳を拾い上げた3人は各々にページを開き、その中身を確認していた。

早々に巻末までたどり着いた逢里は、自身の端末に送り付けられた健慈からのメッセージを確認し、これからの行動を共有しようと、残る2人に声を変えたのだが…。



「んー…やっぱ白紙なんだよな、この手帳。綾音、お前のは?」


「…今のところ、真っ白」


「お前は?」


「同じく、だよ。…てゆうかさ、場違いすぎない? なんでお風呂場でメモ帳広げてんのさ、3人揃って」


「…そこに手帳があるからさ?」


「部屋に行ってからにしようよ…」



健慈の連絡によれば、”女神様との話が終わったらキャンプ場近くの宿舎に行け。ルームナンバーは__”



「はい、読み終わった? じゃあ行こう。キャンプ場は…西の方みたいだね」


「何? 野宿すんの俺ら」


「キャンプ場の近くに部屋が準備されてるんだってさ。異進種の捜索該当地域が近くの森林だから近いでしょっていう」


「なるへそ」



今日日聞かないセリフと共に立ち上がった彼方を背で引くように、逢里が歩き出す。綾音も手帳を鞄にしまい込み、それに続く。



「そんじゃま、怪獣退治に行きますか」


「厳密には、活動は明日からだけどね」


「そんな細かいこと良いんだよ」


「そだねー」



青い暖簾をくぐり抜け、すっかり”いつもの”雰囲気に包まれた3人は歩き出すのであった。





**********





「…居ない? どういう事だ?」


「お手洗いかな? それにしても起きてる子が多いね」


「五月蝿い訳だ。全く…」



そう呆れたように呟く藍色の髪の少年と、その少年の隣で薄暗闇に張られた数々のテントを楽しそうに数える桃色の髪の少女。


キャンプ場横に隣接する広場のベンチに腰掛け、肩を並べて寄り添い合う姿は、傍から見れば至って普通の学生カップルである。…こんな”異質”なやり取りさえ、耳にしなければ。



「そう言えばさ、大きなクマさんが出るのってこの辺りの森なんでしょ? こんな平和なコト、してて大丈夫なのかな?」


「出たら殺せばいいだけだ。お前がな」


「え〜? か弱い女の子には無理だよぅ〜」


「…死ね」



腕を掴みうねうねと揺れる少女に、少年が眉間にシワを刻みながら呟く。


…そんな彼らの傍らには、黒光りする鞘に納められた日本刀と、布袋の被せられた薪割り用のそれを、二回りほど巨大化させた斧が立て掛けられている。



「……」


「……」



…と。そんな2人の影を息を潜めて見つめる、これまた2つの影。



「なななななっ!? なんであの2人が見張りなんてしてるのっ!?」


「私に聞かれても…」



方や、暗闇でも僅かな光を拾い反射せしめる銀色の髪を持つ少女。そしてもう1人はオレンジに僅かな白をブレンドしたような、薄橙色の髪を持つ少女。



「でも…あの二人は本当に見張り番なんでしょうか…? こんな夜更けに__」


「でも他に先生は居ないし… まあ、デートしているだけとも思えなくもないけど」



寄り添いベンチに腰掛ける2人を見て、結は言う。



「どうする? 2人が居なくなるまで隠れてる? それとも__」



同じく身を寄せ合い茂みに身を潜める2人の少女は、忍び寄る冬の寒さに身を縮めながら策を考える。



「そうだ! ちょうどあのベンチから死角になるテントの陰に隠れながら移動しよう! それなら見つからずに__」



それだ! …と、姫乃が頷きかけた__その時。



「ペキッ!」



結の方へと一歩近づこうと踏み出した先にあった小枝を、姫乃がいい音を立てて踏んずけてしまう。


それに、あっ…と思う間もなく。低木の隙間から見える少年がこちらを向き、懐疑の視線を送ってくる。

…と、それだけならまだしも。



「…誰か、居るのか?」


「えっ? まさか例の異進種? きゃ〜!こわ〜い!」


「お前は黙っていろ」


「きゃんっ!」



この期に乗じて少年に絡みつこうと擦り寄る少女を振りほどき、傍にあった武器を片手にこちらへとやってくるではないか。



「!!!!!」



互いに身を寄せ、呼吸の音すら出すまいと丸まる結と姫乃に刻一刻と迫る、闇夜と同化する藍色の髪を揺らす少年__ 天城アマシロ二葉フタバ


サクッサクッと足音が近づく度に、寒さではなく。迫って来る者が放つ圧倒的な存在感と威圧感に恐怖を感じ震える少女達。


そして、密集した低木の植え込みをひとつ置いたその向こうまで足音が迫り。やがて、止まる。



「「………」」



風に揺れる草木の音すら消え、自分の荒ぶる脈動だけが耳に響く。

生きた心地がしない、なんて比喩は今この時のために存在するのではないかと思うほどの緊張。


…そして。


数秒か、それとも数分か。


空白の時間が過ぎ去り、静寂の中、ただ一つの声が少女達の耳に届く。



「…良い気配の消し方だな。”音”を出さなければ、俺でも気付かなかった事だろう」


「「…!」」



少女達が、茂みの向こう側__声の方へ視線を向ける。


そこには、冷たく、それでいてどこか慈しみを感じさせる瞳をこちらへ向ける、二葉の姿があった。





**********





「あ゛〜〜〜〜〜…………」



間延びした唸りをあげるのは、黒い髪の少年__佐倉彼方。


健慈、ウルド。そして逢里、綾音と別れ、今日の宿である第53区のSkuld直轄宿舎へとやってきたのだが、一連の話とここまでの移動、そして健慈からの任務内容の再確認、身支度etc.....。

気付いてみれば、既に日付が変わり一時間ほどが過ぎていた。



「………」



割り振られたルームナンバーを見た時から何となく勘づいてはいたが、彼方が25であるのに対し綾音は373。そして逢里に至っては建物自体が別で、謎の1090。

学園の部屋も近い訳では無いためあまり支障のないように思えるが、つい先程まで一緒に行動していたのが急に一人になると、やはし少しばかりの寂しさが込み上げてくる。



(準備は終わっちまったし…この時間じゃ売店も閉まってるし……やる事がねー…)



挙句の果てにゴロゴロしていても眠くならないのだからどうしようも無い。

明日からの任務に備え体力を使うようなことは控えるとして、何時もの楽しみであるアイスクリームも入手手段がないものだからやっていられない。



「……」



そんな行き場のない感情をどうにか出来ないものかと模索するうちに、顔を埋めた枕の麓に硬質な物体を発見する。

曰く、携帯端末である。



「…!」



手に取ったそれの画面を操作し、メッセージアプリを起動する。もちろん、ある人に悪戯な言葉をかけるために。



「……」



…が。当のチャット欄を開くと、そこには明日以降に備えての真面目なやり取りが履歴として残っており。それを見ると、どうしてかふざけた内容のメッセージを送る気にはならなかった。



(なんか変な感じだな…… まあ色々あったから…頭ん中ぐちゃぐちゃになってんのかもな…)



そう思い、静かにチャット画面を閉じる。そして、一つ前の画面に戻ると、”逢里”の下、そこには”綾音”の名前がある。流石にこの方との軽はずみな会話は控えた方が良さそうだ…と、アプリを閉じ___



「チャララン♪チャララン♪」


「ぬごっ!?」



マルチタスク画面からアプリを終了しようと動作を開始したその瞬間、アラーム用に音量を”大”に設定していた端末から恐ろしいほどの着信音が発せられる。


仰向けで端末を操作していたこともあり、驚きで手を滑らし重力に引かれた鉄の塊は、彼方の顔面目がけ真っ逆さまに落ちて行った。

無論その直撃を受けて無事なわけがなく。悲鳴と共に鼻先を押さえ込む彼方。



「いってえ… なんだいきなり…」



苦悶の表情を浮かべたまま、拾い上げた端末の画面をのぞき込む。そこに表示された名前は__



「あっ、綾音…!?」



避けて通ったその人の名前が、まるで避けては通れぬ鬼門の如く、浮かび上がっていたのであった。


さてさて、一章完結まで残り3話となりました!


怒涛の展開、そして怒涛の年末更新の第一歩である31話、お楽しみいただけたでしょうか。


ここまでために貯め、長らく一章完結をお待たせして申し訳ありませんでした。

期待を裏切らないよう精一杯執筆させて頂きますので、一章完結まであと少し__そして物語全体のの完結まで、どうかお付き合い、応援の程宜しくお願い致します。


それでは次のエピソードでお会いしましょう!


良いイブをお過ごしください!

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