低体温症は面白くて、熱中症は怖かった
私は低体温症と熱中症のようなものになったことがある。医学的な診断ではないけれど、生き残ったあとに調べてみると、私は低体温症や熱中症を経験してるらしい。
いま思い出しても、それに焦がれてしまうけれど、やっぱり少しだけ怖いよね。
人間の身体って不思議。
◇
低体温症(仮)は20代前半の頃に経験した。
寒い時期に「少し外に出るだけだから」といって、薄着で外に出て帰ってきたら、マンションのオートロックが故障してて、寒い中でずっと管理会社を待ってた。多分、1時間くらい。
寒くて、歯が笑えるくらいガタガタ鳴って、到着した管理会社がオートロックを開けたから急いで部屋に戻った。
部屋はとても暖かい。
暖房器具も私の前で動いてる。
それなのに、震えと歯のガタガタが止まらない。
歯がずっと、「ガチガチガチガチガチガチガチガチ」と鳴ってて、湯船で身体を温めるためにお風呂を沸かした。
湯船に入ったのに不思議と身体が温まらない。
震えも歯の音もまったく止まらない。
温かいはずなのに「寒い」と感じる。
とても不思議な現象だった。
結局、2時間くらい湯船につかり続けていると震えや歯の音は止まった。寒いと感じることも無くなった。けれど、「体は温かいのに、体の中心部分には何も感じない」といった変な感覚が残っていた。
いま思えば、湯船によって体表と内臓の温度が均一になっていたから、体の中にある熱を感じとることができず、その体と内臓の温度の均一さが「中心部に何も感じない」という感覚を生み出したのだと思う。
人間は体表より内臓のほうが温度が高い。
低体温で体の中心(=内臓)が冷え、湯船に浸かったとしても、すぐに内臓は温まらないため、脳は「寒い」と感じる。
2時間浸かったことで体表が温まり、内臓も温められたことで、一時的に体表と内臓の温度が均一になった。
その均一さによって温度の境目を感じられず、「中心部に何も感じない」といった感覚が生まれた。
多分、こんな感じだと思う。
今は元気だけど、当時は自分の体に何が起きているのか分からなかった。
不思議と「死ぬ」とは感じなくて、「歯がガチガチ鳴って面白いな〜」といった、お化け屋敷に入ったときのようなフィクションの恐怖を楽しむ感覚があった。
変だよね。
次は熱中症の話をするよ。
◇
⋯⋯3年前?の8月くらい。
エアコンから水が漏れてきたから、室外機についてるドレンホースの詰まりをポンプで掃除しようとしたら、熱中症になった。
室外機の近くでは蜂が飛んでいたから、帽子にマスクに長袖に⋯⋯と、フル装備で挑んだんだけど、思ったより時間がかかっちゃって、家の玄関に戻った時には、「うわぁ⋯暑かった〜」と呟いてしまった。
そのあと靴を脱いで廊下を歩いていると、急に頭がふらふらし始めた。
始めは目眩だと思ったけれど、片膝をついたときに、頭の中が「ジュル、キュルキュル」と鳴っていて、目眩というよりは熱で頭がどうかしているような印象を受けた。
このときすぐに身内を呼ぼうとしたけれど、こんなときに限って、身内はお腹を壊してずっとトイレにこもってる。
片膝をついて、壁に手をついていたけれど、力が入らなくなって、支えていた体が床に近づいていった。
「(あ、これ熱中症じゃない?)」と気付いたときには、ほとんど体の自由が効かなくなっていた。
――が、私はそのまま気合で風呂場まで這って行き、洋服を着たまま、水のシャワーを浴びた。
すると案外すぐに症状は治まった。
とくにその後に変化もなく、今も問題ない。
もし倒れていたらどうなっていたんだろう⋯⋯。
そう考えると今も怖くなる。
◇
低体温は症状が出ている時間が長かった。
熱中症は症状が出ている時間が短かった。
けれど、「体の自由が効かなくなる」という点から、私は低体温症より、熱中症を「怖い」と思った。
低体温の恐怖はフィクションのような恐怖だった。「面白可笑しい」という感覚だろうか。もしかすると、雪山の低温で頭がおかしくなる人のように、私も頭の状態がおかしくなっていたのかも知れない。
それを加味したとしても、熱中症の体の自由をじわじわと奪われ、自分の行動に『数秒後の自分の命』がかかっているプレッシャーや恐怖に比べると、低体温症はまだ優しい方だと思う。
これから暑くなるけど無理はしないでね。
熱中症になったとき、「周りに人がいない」or「冷たい水が無い」なら、そのまま確定死になっちゃうから。




