第61話 試験等のお知らせ
▼26.11.04加筆修正
ジェダを解析すると方々を走り回って僕を探してたとわかった。
「うるせぇ……」
ユックは頭を押さえて何故か僕に殺意ビンビンの視線を送ってくる。これぞ理不尽。あと一回でもジェダが大声出そうもんなら、えげつない攻撃魔法が飛んでくるに違いない。正しく理不尽。
だから平和を愛する僕は、どんな手を使ってでも一刻も早くジェダを排除すべきだと判断した。
「皆、体調が悪いんだ。外行こうか」
小声で言いながら、とりあえず背中に隠した拳をさらにぎゅっと握って腹パンする準備をしておく。
「丁度いい、では急ごう」
「はぇ?」
ジェダは僕の手を取ってすたすた歩き始めた。
てっきりジェダのことだから、その場で僕につっかかってくると思ってたのに意外だ。
まあ腹パンして意識を刈り取る必要がなかったから良しよしようか。
でもさ――
「ねぇ、どこまで行くの?」
宿を出て大きな噴水のある広場まで来てもジェダは止まらなかった。
手を繋いでる僕らを見た女のヒトたちが、興味津々
な様子でひそひそしてる。あのヒトたちはすっごく見覚えがある。焼きキノコ屋で僕がユックと痴話喧嘩的なやり取りをしたとき、僕に同情的な視線を送ってくれたヒトたちだ。
「一昨日と昨日、二日連続で大事件があったのは知ってるな? おい、聞いているのか?」
「へ? あぁ……知らない」
ていうかジェダってよく質問に質問で返すよね。直した方がいいと思うなぁ。いつか異世界の連続殺人犯みたいなヒトの癇に障って、カスも残らず爆破されても知らないよ、僕。
「……イコルアはもっと周囲に気を配った方がいい」
「ジェダよりは気にしてるよ」
「なら知ってるはずだ」
どうせフラテリス教の違法奴隷店が爆発しちゃったことでしょ。
「まず、一昨日に領主暗殺騒ぎがあった」
全然違った。
ほぁ……そうかぁ。あの程度じゃ大事件になんないのか。そこはアルコルトルアと同じんなんだね。
「そして昨日、というより今朝方にこの町のすべての金貸し屋が襲撃されて、店舗がハチャメチャに破壊されたうえに放火までされたんだぞ」
はて? 前者はともかく、後者は数日前にすっご〜く似たよなことがあったね……まさか犯人は酔っ払ったユック?
「ふ〜ん。その領主や金貸しが悪しき権力者の非道を暴くようなことしたの? それとも領主たち悪者だったの?」
とりあえず話を聞こう。真剣に。万が一ユックがやらかしてたら全力で揉み消さなくちゃだからね。一番お兄さんの僕は皆の行動に責任を持たなくちゃだもん。
「何を言っている。領主様はとても良い御方ではないか」
いやいや、僕領主のことまったく知らないけど。
「お客人が研究室を破壊し、あまつさえ放火までして逃走したことをご自分の実験の失敗だと言って庇ったのだぞ。私にはイコルアの主として厳重注意する必要があると真実を話してくださったが……」
「え、それって……」
「なんだ? 周囲にきちんと気を配れる優秀なイコルアともあろう者が知らなかったのか?」
棘のある言い方だな。走り疲れて苛ついてるの?
「アンバーボルト教授はこの国の伯爵であり、ここワーデール地方の領主でもあるのだぞ」
なんとまあびっくり。
日記にはそんなこと全然書いてなかったし、解析でも出てこなかった。あのときは優先度が低かったのかな。いやでもかなり重要な情報だと思うけど……。
「もしかして婚活に熱心なのは跡継ぎ関係だったりするの?」
「ばっ、そのことは禁句だ。もし教授に聞かれでもしたら半殺しにされかねない」
「大袈裟だなぁ」
僕の反応にジェダはやっと立ち止まった。
くるっと振り返って真剣な様子で僕にぐぐっと顔を近付けて、もう一回「禁句だ」って念押ししてくる。
女の人たちから小さく黄色い声が聞こえてるのにジェダは気づいてない。周りが見えてないのはジェダの方じゃないか。
「それで? そんな大騒ぎの中でどうして僕の所に来たの?」
「イコルアが必要だからに決まっているだろ」
わぁ、まただ。
女の人たちから「元カレかしら」とか「きっと駆け落ちした相手を追いかけてきたのよ」なんて聞こえてくる。
どういう情報網を駆使してるのか分からないけど、あっという間に女のヒトが集まってきて、皆が皆さり気なく僕らをチラ見してはひそひそする。
「僕が必要ってなんで?」
「事件捜査の影響で後期試験が前倒しになったからだ」
本当なら今日からアンドロミカ教授とギガゾディア教授の使い魔と戦闘訓練だったのに、とジェダは残念そう。
僕としては嬉しい限りだけどね。だってガルルーやリースが相手でしょ。面倒臭いよ。
あとゴースト三姉妹とか……ん?
何か大事なことを忘れてるような気がする。何だっけ。え〜っと……?
「後期試験は王族も見学に来る一大イベントなのだぞ。おい、聞いているのか!?」
あとちょっとで、記憶をサーチし終えそうだったのに、肩を揺さぶられて中断されちゃった。だって両手に魔力を込めて揺さぶるんだよ。
「ふぇ? ああ、えと後期試験って何するの? それって本当に僕が必要? まだロイたちと遊びたいんだけど――」
「実技試験があるんだ、必要に決まってるだろ!」
「はわぁ……だるっ」
「おいっ!!」
すごく小さな声で言ったのに、ジェダはぷんすこ怒って「約束しただろ」とか「友達候補になんて態度だ」なんて責めてくる。
正直、ジェダが友達候補とか忘れてた。それを言うと怒るだろうから黙ってよう。
「試験はいつあるの? 皆の体調が良くなるまで一緒にいてあげたいんだけど」
「明日から一ヶ月間だ」
「え、一ヶ月? 長くない?」
「今回から実技試験に二週間のダンジョン探索が追加されたからな」
なんだって!?
それは聞き捨てならない。巨人の聖杯と小人の呪壺どっちに行くにしても、しっかりたっぷり準備しなくちゃだ。
「どっち?」
「ぬ?」
「だから、ダンジョン探索は巨人の聖杯と小人の呪壺、どっちでやるの?」
「イコルアは馬鹿か? 学生にあんな危険極まりないダンジョンを探索する許可が下りるわけないだろう」
なんか今日のジェダはずっと感じが悪い。
「僕、馬鹿じゃないよ」
「そうであることを願うばかりだ」
これはあれかな。喧嘩売られてるのかな。
「探索するのはペネピゾン森林だ。誰かさんのせいで森の大部分が未開の地に戻ってしまったからな。低層のマッピングも兼ねているらしい」
「ふ〜ん……」
あそこなら特に準備はいらないかな。
アルファドとアドイードが先輩風吹かしに来たかだけ確認すれば問題なしだ。
「じゃあ今日は何もないんだよね?」
「それはそうだが、私はもう試験が終わるまでイコルアから離れるつもりはないぞ。バックレようったってそうはさせないからな」
「そんなことしないよ。僕はちゃんと約束を守るゴーレムだよ。例えそれがどんななに面倒臭いことでもね」
試験が終わって少しすれば約束の半年が終わる。そしたらジェダから解放されて、ロイたちと遊び放題だ。
「め、面倒臭い……」
なんかしょぼくれちゃったジェダだけど、ペネピゾン森林へ行くよって言ったらパッと明るい顔になった。




