第58話 窓からポイ捨て
ユックの嫌味混じりの陰湿なお説教が断罪に変わったのは、シムがロイとオルを連れて宿屋に戻って来たせいだった。
「なにしてんだ?」
僕は正座のまま、床に並べた金貨の枚数を数えさせられてるところで、それが心底謎めいた行為に見えたらしいロイが首を傾げたのがきっかけ。
こんなタイミングで戻ってきたシムを絞殺してやろうかと思ったくらい、最悪の空気になったんだよ。
こんな感じで――
「大金を手に入れるチャンスをみすみす逃しやがったんだ。この馬鹿がな」
「はあ!?」
「ふざけてんのかテメェ!」
不機嫌なユックのチクリに、何もわからないけど大損こいたことだけは瞬時に理解したロイとオルは、その順で僕に心無い視線を向けてきた。
何も察してないシムはオロオロ、キョドキョド。それがムカつく。
「で? ここにはいくらあるんだ?」
「……リローナ金貨が四枚」
瓦礫に埋もれたから、僕は散らばった金貨の争奪戦に出遅れた……本当は瓦礫の下で新しいスピリットデコイズを元々あったデコイズに融合させて使えるようにならないか試してたせいなんだけど、でもさでもさ、金貨が散らばったって気付いたのは、なんだか町中が騒がしいなぁって思った後なんだもん。仕方ないじゃん。
「だよな? そんじゃあ本当はいくら手に入るはずだったかロイたちに教えてやれよ」
ユックは顎をくいっとして既に三倍になった断罪をさらに倍増しようと試みる。
友達に嘘は良くないから、気は進まないけど正直に言うよ。
「リローナ金貨、ごまん、ろくせん、さんびゃく、ななじゅう、ななまい……」
「それと?」
言い淀んだ僕をユックが睨む。
だって僕には違っても皆には大金らしいんだもん。そんな怒る額じゃないのに、なんて言い出さなかっただけ褒めてほしいよ。
「リローナ白金貨、キュウマイ、デス……」
ロイが頭を抱えてしゃがみ込んだ。オルは僕に掴みかかって「何してんだクソボケが」って揺さぶってくる。そしてユックはゲシゲシ蹴りを……。
ああ、なんてことだろう。
真の友情で固く結ばた友達は僕の失敗を嘆き責め立てるのに、ムカつくスカ野郎のシムだけが事情を知らぬも憐れみを持って「失敗は誰にでもあるじゃないか……」と僕を庇ってくれる。
本当はユックじゃなくてシムが神官なんじゃなかろうか。聖職者とは、かくもこうあるべきだと僕は思う。
「シム、君はウンコをお菓子にして売り歩くヤバいテロリストだけど、真の姿は心優しい神官なのかな。さっきは嘘ついたけど、今は本当に友達になりたいと思えてきたよ僕――痛っ!」
シムの手を取った僕の両手をユックが蹴り上げた。
「そういや忘れてたぜ。テメェ、フンコロドルチェだっけか? イイもん食わせてくれたなぁおい!」
シムの胸ぐらを掴んで立たせたユックは、そのままシムを窓際まで押していく。
そしてガシャンと破壊音が聞こえたかと思うやいなや、シムは白い炎に包まれて窓からポイされた。
「ななななななにやってるの!?」
今のは明らかな殺人行為だ。
ユックは友達だから例え無差別連続猟奇殺人犯になろうとも離れる気はないけど、だからって目の前でそんなことをさせるつもりはない。
慌てて窓から飛び降りて、緩慢な動きで左右に転がろりもがき苦しむシムを消火する。ただ、残念なことに今際の際。
奇跡的にネコのときは上手くいったけど、慣れない治癒魔法に頼るより、友達になって自己修復装置に任せた方が、ほぼ焼墜死体のこれには確実だと思った。
「君が紛うことなきスカトロ害虫くそテロリストでも、僕たちにとっては大事な友達だよ。これからよろしくね、シム」
言いながら連結と連結スキルの選択を終わらせて自己修復を促す。
「ふぅ、なんとか間に合ったかな」
ついでに皆との記憶の連結もしておこう。意識のない今ならシムも苦しまないかもだしね……上の方から野太い悲鳴が聞こえたのは気のせいってことによう。
幸いシムの惨劇を目撃した通行人は四人と少ない。口止めしたってきっとどこかで話すだろうから、いっぱい魔力を消費してシムの習得スキルにある封拳で思い出すって行為を封じておいたよ。
少なくとも半年。その後はいつ封印が解けるかわからないし解けないかもだけど、皆知らないヒトだから別にいいよね。
「さ、皆の所へ戻ろう。僕が運んであげる」
シムを担いで壁をよじ登る。戻った部屋ではユックたち三人が険しい顔で頭を押さえてた。
「てんめぇ、またやりやがったな! よりにもよってこんな野郎と!!」
ユックはプンスカしてるけど、心の中では幼馴染みが増えたって喜んでるはずだよ。だって僕たちと出会うまで友達一人もいなかったんだから。よかったねユック。
あとシムも。きっとフンコロドルチェのことは五、六発鳩尾を殴られたら許してもらえるよ。
「ねぇねぇ、ところでメネスは? なんでいないの?」
まだ頭が痛そうなロイに聞いてみた。そしたら大学のどこにもいないって小さく返事がくる。
「オーラメイダーの家にいるのかなぁ」
僕は心配で窓の外を見た。
「目の前で苦しんでる友達がいるってのにお前は酷ぇやつだ」
両手で頭を押さえてるオルが靴を飛ばしてくる。臭い。もしかして水虫が再発したのかと解析してみたら、馬糞を踏んでただけだった。
「仕方ないなぁもう」
本当は触りたくなんかないけど、苦しそうな皆のために馬糞をこねこねしてあげる。
「はい、僕特製の頭痛薬だよ。これで頭痛いの治るから飲んで――へぶっ!?」
な、なんでグーパン!? 酷いよユック!
「テメェがやってんのは、そこのスカトロ虫と同じじゃねぇか、あ゛あ゛ん?」
「頬なんか押さえて被害者面すんじゃねぇ!」
「まったくだぜ、このポンコツゴーレム!」
ユックに続いてロイ、オルの順で僕に詰め寄ってきて、ポコスカ殴ってくる。
「僕はポンコツじゃないもん! 超が何個もつく優秀なゴーレムだもん! 僕の世界一高性能なこねこね機とスカトロスキルは全然違うもん!」
なんて失礼なやつらだ。
こねこね機はまったく違うものに作り変えるんだよ。見た目と味が変わるだけのフンコロドルチェと同列にされちゃたまったもんじゃないやい!
僕らはシムが起きるまで頭痛薬を巡って、すさまじい攻防を繰り広げた。




