第48話 美味しい草を集めたい
ロイたちと合流できたのに皆揃って大学へ戻ってきたのは、僕が半年間ジェダの使い魔の振りをする約束を果たすためだ。約束破りは厳罰だからね。
ユックは反対したよ。でも大学生活を見てみたいロイと、初めてゼルカトから離れて何でも経験してみたいオルの勢いに勝てなかった。ユックの機嫌が悪かったのはこのせいらしい。
大学はケチで皆の部屋を用意してくれなかった。というわけで、僕らは一般ラウンジにテントを張って生活してる。今日で三日目。
上のラウンジに行かないのは、下級の個室は狭くて、中級には例のアルラウネたちがいるし、上級にはレグルスがいるから。それに一般ラウンジの使い魔は皆フレンドリーだからね。楽しい方がいいに決まってるもん……今のとこ様子見されてるけどね。
ただ、まだメネスに会えてない。この三日、大学のどこにもいなかったんだ。早く皆に紹介したいな。
それから、ロイもユックも不滅のアルコルトルアのことは誰にも話すなって言うんだ。ちょっとジェダにかまけて忘れてたけど、僕は拡散しまくるつもりだったのになぁ。けど、二人がそう言うならそうした方がいいのかなって思ってる。
「ふんふふ〜ん♪ 草だよ〜、草はいいよねぇ〜♪」
そして僕は今、朝から一般ラウンジで美味しい草を摘んでるよ。皆にも草の美味しさを教えてあげたいんだ。ユックにもここへ来たメリットを感じてほしいしね。
そんなユックも一緒に草摘み中。
最初は勾留期間の遅れを取り戻そうと意気込むジェダと一緒にロイとオルを誘って授業の見学に行ったんだけど、根が真面目なロイたちと違って根っからの不良のユックはすぐ戻ってきったんだ。自分から誘ったくせに「草摘み手伝った方が百倍ましだぜ」とかぶー垂れてたよ。
でもさ「これは嫌いだ」とか「馬の食いもんだろ」とか言って、カゴからポイポイ捨てていくんだよね。自分は一つも摘まないくせに。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます♪」
「何だそのおかしな歌は」
また美味しい草を捨てながらユックが聞いてきた。
「これはね、異世界の契約魔法なんだよ。呪い歌の一種で、約束破ったら一万回殴って針も千本飲ますからねって意味らしいよ」
「ほ〜ん」
自分から聞いてきたくせにユックは適当な返事をして、どんどん草を捨てていく。
「これさ、串刺し十万♪ 鞭打ち百万♪ 脳みそこねこね一千万♪ 足りない足りない、七代先まで繰り返す〜♪ って続きがあるんだよ」
「へぇ」
全然興味ないなら聞かなくてよかったんじゃないかな。なんて思っている間もユックの手は止まらない。このままじゃせっかく集めた草が全部捨てられちゃうよ。
「しかも異世界人って、お母さんのお手伝いとかそんな軽い約束でこの歌を歌うんだって」
「異世界やべぇな」
「だからさ――」
僕はユックの腕をガシッと掴んだ。
「何だよ」
「ユックさ、僕を手伝うって言ったよね?」
「……言ったな」
「なのに何で邪魔ばっかりするの? 見てよこれ、もうテトロドトキシンビジウムしか残ってないじゃんか」
「お、これもダメなやつだ」
僕が怒ってるのにユックは涼しい顔で美味しい草を捨てた。
「もうもう! どういうつもりなの!? せっかく皆にも味わってもらいたかったのに、これ以上邪魔するならさっきの歌を実行するよ!」
「どういうつもりなのはお前だイコルア。ご馳走を振舞ってあげるとか言って雑草や毒草ばっかり集めやがって」
ユックは言いながら僕からカゴをふんだくった。
「ふぁ? どくそう……?」
「それにだ、俺は愚痴っただけで約束はしてない。むしろ美味いもん食わせてやるって約束したのはイコルアだろ。七代先までボコられるのはそっちだ」
「僕、繁殖できないから七代先までってのは無理だと思うよ」
ユックは僕を一蹴りして周囲を見ると「ここに美味い草は無い!」ってカゴを遠くに放り投げた。
「そ、そんな……」
確かに魔物が好むものはヒトにとって害のあることが多い。でもだからって……ユックが馬の食いもんだって捨てた草はスノーホースの馬刺しみたいな味がする絶品だったのに。
「じゃあ、アンバーボルト教授のところへ行くよ。教授は美味しい草を差し入れしてくれるからね」
「草以外ねぇのかよ」
ぶつくさ言いながらもユックはついて来てくれる。
途中、遠巻きに僕らを見てたシャノンたちに声をかけられた。捨てた草をもらってもいいかってね。もちろんいいよって返事したよ。
「見なよ。皆嬉しそうに食べてるじゃん」
「お前には俺がウサギやトカゲに見えてんのか? だとしたらその目ん玉は壊れてんぞ」
「僕のボディパーツが壊れるわけないでしょ。片目だけでも色んなダンジョンの魔核を十万個以上使ってるんだから」
「知らねぇよ」
こんな感じでわちゃわちゃ話しながら使い魔の塔から出て庭園のトイレに行くと、純白の便器を前にしたユックが微妙な顔になった。
「どしたの?」
「いや、野郎二人でこういう場所に来るってのがちょっとな……」
一瞬、何がって聞こうとしたけど、空気を読んで黙っておいた。
司祭なのに不良で貞操観念もポイ捨てしてるユックは、こういう所でもナニをなにしてたからね。わざわざ蹴られるようなことは言わないよ。僕、優秀なゴーレムだもん。
「んじゃユック、僕の膝に座って」
便器に座って膝をポンポンしたら足を蹴られた。
「同時に行く必要あんのかよ。先に行け馬鹿」
「僕――」
馬鹿じゃないよって言おうとしたのに、それより先に景色がぐにゃあっとしてアンバーボルト教授の研究室に飛ばされた。




