第46話 ユックとバラバラのイコルア
俺とロイの呼びかけでイコルアは元に戻った。それはもうあっさりと。
「お前は働かなくていいぞ。安心しろ、一生養ってやる。ユックが」
「そうだ。一生遊んで好きなことだけでしてればいい。すべての面倒をみてやる。ロイが」
俺とロイの間にバチッとした空気が漂ったが、こんな感じで声をかけたら、白眼を剥いていたイコルアの生首に生気が戻った。いつもの……というほど一緒に過ごしてはいないが、こいつとは記憶の連結のせいで幼馴染みのような感覚で、とにかく人外レベルで容姿は整っているのにアホダダ漏れの残念顔になった。
そして俺たちを見て目をキラキラさせた満面の笑顔。これでホッとするのだから強制連結とは恐ろしいスキルだ。
「わ、わ、ロイとユックがいる。ついでにオルも」
空中で舞っていた両手が牢のミスリル格子の隙間からギュンッっと飛んできて、俺とロイの首に巻き付いたのにはドキリとした。ヤバい魔物に捕まってしまったような感覚に襲われたのだ。
それはロイも同じだったらしい。俺同様、わずかに冷汗をかいていた。が、次にイコルアが発した言葉でそれもすぐに引っ込んだ。
「ねぇ、本当に働かなくていいの? ウソじゃないよね? 僕、もう絶対働きたくないんだ……」
情緒が狂っているイコルアはさっきと違って涙目だ。これに対する返事を間違えてはいけない。絶対に。
しかし俺が言葉を発する前にロイが鳩尾を殴ってきた。そしてすかさずイコルアの面倒をみるのは俺だなんて言いやがった。さすが元ゴロツキ。こういうときの判断の速さは敵わない。
バラバラだったイコルアはあっという間に元に戻って俺に抱き着いてきた。頑丈なはずのミスリル格子を薙ぎ払って……。
何故大学のお偉方は報酬から連想される反対のことを言わなかったのか。イコルアに関する知識がなくとも、こんな簡単なことに気付かないとは、頭でっかちが過ぎるだろ。
正直、この後にやるだろうイコルアの押し付け合いの方がよほど大変に思う。
「ねぇ聞いてよぉ。学長がね、僕を働かせようとしたんだ。怖かったよぉ~」
「いや、怖かったのは学長の方だろ。聞いたぞ、とんでもない大爆発で反抗したらしいじゃないか」
黙って頷いとけばいいものを、ロイが余計なことを言う。そんなこと言うと「違うよ」とか言い出して長くなるだろうが。
「違うよ。あれは勝手に爆発したんだ。僕の意思じゃないもん。それにさ――」
ほら見ろ。うだうだといかに自分が悪くないか語り始めたじゃないか。
イコルアは根は純粋な良いヤツだが、問題なのはお人好しのくせに世間知らずで常識もないうえにクソ自分勝手なヤツってところだ。あと微妙に狂ってる。狂ってるがゆえにそれらが成立してると俺は思っている。
「その話はもう終わりでいいだろ。さっさと事情聴取を終わらせて、裁判沙汰になる前に無罪をもぎ取るぞ」
「やっぱりユックは頼りになるね。僕、友達になれて本当によかったよ。もちろんロイもね」
くそっ、本当は怒鳴りつけてやるつもりだったのに、そんな嬉しそうな顔をされたら何も言えなくなっちまう。それどころか庇護欲というかなんといか、そんな感情が湧いてくる。役に立ってやりたいとかも思うんだ。
ここに来るまでに人生初の友達ってやつの心地良さをロイに思い知らされたせいで、イコルアにもそれを味わわせてやりたいし俺も味わいたい……つくづく恐ろしいぜ強制連結。
「なあユック兄、誰か来たぜ」
オルに言われて階段の方を見ると、バカでかい本を持ったムキムキのデカいババアがいた。絶対に逆ってはいけない。そんなオーラを纏ったババアだ。
「あんたがイコルアの主たちかい?」
「主じゃないよ。友達だよ。とびっきり仲の良い親友」
ババアは俺たちに質問したのに誰よりも早くイコルアが答えた。
「おや? アタイはイコルアの主がゴーレムを盗まれたと主張していると聞いたんだがねぇ」
「それはそうかもね。あいつらならそう言うだろうね。狡賢いもん。ていうか、僕の居場所バレちゃったんだ……」
噛み合ってない返答にババアが「ん?」と表情を曇らせた。
「あいつらにはバレちゃいねぇよ。今回は俺とロイが主ってことで手続きしてやったんだ。野良ゴーレムとか討伐対象だろ」
「あ、そうなの? よかった〜。僕とあいつらが戦ったら、きっとこの大陸蒸発しちゃうからね。一安心だよ」
一安心なのはこっちだ。物騒すぎるだろ。
何か言いたそうなババアの相手をロイが買って出た。
俺とロイはイコルアが不滅のアルコルトルア生まれだってことをできる限り伏せておきたいのだ。儲けは独占が基本だからな。
「始めまして。俺はロイです――」
どちらかといえば物静かなタイプのロイだが、こういうときは元ゴロツキの本領を発揮してよく喋る。黙々と石拾いをしてたとか嘘だろってくらい、こいつは詐欺師の才能に満ちている。清潔を心がけるようになってから、爽やかな見た目もしっかり武器にすることを覚えたしな。
「でもそうなってもロイとユックはちゃんと守ってあげるからね」
「オルのことも忘れるな」
「へ? ああ、そだね……」
イコルアはチラっとオルを見てしゃがんだ。何をしでかすのか心配していると、おもむろにミスリル格子の破片を掴んでオルに投げやがった。
「痛てぇ! 何しやがんだ、このポンコツ!」
投げ返された破片を避けてたイコルアは「僕ポンコツじゃないよ」とか言いながらオルを四回蹴飛ばす。
突然の虐待行為に俺とロイ以外の全員がギョッとなった。
「これで対等だね。仕方ないからオルとも友達になってあげる。ロイの弟分だからね。特別だよ」
「上から目線がうぜぇ」
オルは舌打ちをしているが、実はイコルアと友達になりたいと思っている。
主に連結スキル目当てだが、俺とロイを見て幼馴染み感てやつにも憧れを抱いたらしい。きっと心の中ではガッツポーズをしてるだろうさ。
「はやぁ……じゃあ止めとく?」
「っ!?」
オルは真っ赤になった。
「オルは天邪鬼なんだよ。いいからさっさとやれ」
記憶の連結もだ。と小声で付け加える。
「え、いいの?」
「互いを深く知るためには必要だと理解してる。但し、すぐに記憶の連結はカットしてやれ」
俺がそう言うとイコルアは嬉しそうにオルと連結した。オルはあの強烈な頭痛に耐えられれず失神。案内してくれた兵士におぶられて医務室へ運ばれていった。
▼26.07.21 エピソードタイトル変更




