第45話 ロイの旅路と揺れるイコルアのイモムシ
▼26.07.12 誤字修正
イコルアが召喚魔法とやらで姿を消してすぐ、俺たちはガルルイユ港を目指した。
到着するとユックが冒険者ギルドへ行くと言い出して聞かなかった。なんでもイコルアの捜索依頼をするらしい。
急いでいるのにユックはケチだった。冒険者が依頼を出すと依頼料が割引きになるからと冒険者登録をすると聞かなったのだ。
そしてついでだから俺にも登録をしろと強要してきた。結果、割引狙いの短期で冒険者登録を抹消するヤカラだと警戒され、ギルド職員に言われて実力確認試験を受ける羽目になった。
オルも冒険者になりたがったが、年齢制限のためあと二年は無理とのことだった。
思いの他、試験結果は良かった。イコルアと連結していたお陰で特別昇格制度とやらの対象になれてユックはDランク、俺はFランクからのスタート。ユックのドヤ顔には少しムカついたものの、ギルドマスターに期待していると肩を叩かれたのは気分がよかった。
その後、捜索依頼を発注し、イコルアの言っていたアルフトラズマ大陸へ抜かう中型客船の雑用依頼を受注して出発。
オルは初めての船旅に大はしゃぎしていたが、揉め事だらけの船旅に数日もしないうちにうんざり顔が張り付くようになった。
ユックは聖職者のくせに短気過ぎるし、風紀を乱すしで俺も散々な目に合ったのだ。まあ風紀については俺も人のことをとやかく言えないのだが……。
あと数日で着港するという時にイコルア発見の報せが届いた。あんなに切羽詰まった感を出していたくせに、ずいぶん楽しくやってるじゃないかと呆れていた矢先、要人殺害未遂で投獄されたと追加の報せが届く。大爆発を起こして全員まとめて消し去そうとしたというのだ。
幸いその場にいた大学の教授や学長が爆発を封じ込めて被害はイコルアだけで済んだそうだが、この国の大臣がやたらと騒いでいるらしい。
それも大学側が全力で庇い、なんとか即日処刑は免れたものの、それ以来イコルアの様子ずっとがおかしいままで事情聴取も何もできず、このままでは永遠に投獄されたままだろうとのことだった。
様子がおかしいのは平常運転なのではと俺は思っていた。だが、いざ到着してみれば本当に様子がおかしかった。次元が違う。
「あばばばばばば」
王都の外れにある牢獄の最下層に案内された瞬間から、イコルアの壊れたような声が聞こえていた。牢の前に来ると実際にイコルアはぶっ壊れていたのだと理解した。
先ず体がバラバラだ。爆発で四散したらしき四肢が、空中で奇妙な舞を舞っている。
その下では何重もの立体的な魔法陣に囲まれた、目と口のついた得体の知れないデカい宝石が「あばばばばばば」と叫び、赤い液体を吐き出している。
そして頭部は白目を剥いたまま魔法陣の周りをコロコロと転がり続け、吐き出された透明な赤い液体をペロペロ舐め取っているのだ。時々、ピタッと止まって宝石と同じように「あばばばばばばば」と叫ぶのだが、それの気味が悪いことといったらない。
これを様子がおかしいで片付けられたイコルアは、大学でどういう扱いだったのだろう。
ただ、何が面白いのかユックとオルはそれらを見て爆笑。涙まで流している。
「静かにしろよ」
他の牢にいる連中が「うるせぇ!」と怒鳴ってくるのだ。
「つか何がそんな可笑しいんだ」
「いや、ちゃんと見ろよ。生首があばばばばばばって言うと、それに合わせて股間が動くんだぜ」
「そうだよ兄貴。あんなの笑うなって方が無理だ」
オルが指差したのは天井に張りつた胴体だった……フハッ、なんだあれ。
確かに小刻みに揺れたり水車みたいにくるくる回ったりしてやがる。しかも無駄にデカい。おまけに、次のときは先っちょもパクパク動いて何か喋り始めた。
耳をすませば「しっかり磨いてください」とか「イモムシじゃないぞ」とか聞こえてきた。
いったいどういうつもりで付けた機能なんだ。イコルアの記憶で見た元ご主人とやらの顔を思い出すと同時に「千回擦っても出ませ〜ん!」と聞こえてきてもう無理だった。
「「「だはははははは!!」」」
俺も笑いが止まらなくなった。案内してくれた兵士たちは平静を装っているものの、口角がピクついている。それがまたおかしかった。
「あ、あの……楽しそうなところ申し訳ないのだが、あなた方がイコルアの言っていた友達、なのだろうか?」
隣の牢にいた、やたらハンサムな若い男が声をかけてきた。こいつがイコルアを召喚した学生らしい。確か名前は……ジェダだ。
「ははは……はあ。苦しい」
笑いを堪えて一呼吸したユックが、スッとに真顔になってジェダを見る。
「そうだ。イコルアは使い魔だが俺たちの友達、いや、親友であり仲間だ。さらに言えば家族同然と言ってもいい。お前に誘拐されて本当に迷惑していた」
相手を犯罪者にして金をふんだくろうと言い出したのはユックだ。ただ、イコルアの召喚は事故で、イコルア本人もそれを認めたらしい。ユックは儲け損ねたと苛ついているのだ。ジェダを嫌な気持ちにさせてスッキリしたいのだろう。性格が悪い。
「本当なら今頃、私欲にまみれた悪の聖職者たちを一掃して子どもたちを救い出していたはずなのです。なのにあなたのせいで今この瞬間も、哀れな子どもたちがあの悪党どもの餌食になっている。事故とはいえ私はあなたを許しませんよ」
都合のいい時だけ聖職者ぶるユックこそ、俺は悪党だと思う。ただまあ、記憶の連結とここまでの旅路で、こいつとはもう幼馴染みのような感覚だ。
それはイコルアも同じ。爆笑はしたが、早く元に戻してやりたい。
「そこまでにしとけ。今はイコルアをどうにかするべきだ」
ユックを止めて、何故イコルアがこうなったのかをジェダに聞く。
「報酬、という言葉がきっかけだと思う。それを聞いた直後、急に様子がおかしくなったのだ」
俺はユックと顔を見合わせた。
イコルアが心底働きたくないと思っているの思い出したからだ。
「案外、簡単に戻せそうだな」
「しかしリスクが……」
ユックの言うとおりリスクはある。一生厄介払いできないお荷物を抱え込んでしまうリスクが。
「まあ、やりようはあるだろ」
「頭が焼き切れるような思いをしたのも、無駄じゃなかったってことか」
ユックと軽く頷き合い、未だ笑い続けるオルを静かにさせてから、俺たちはイコルアに声をかけた。




