第44話 教授会議再び
▼26.07.09誤字修正 ▼26.07.10加筆訂正
ペナルティ実習は即日中止になった。やったね!
でもその代わりにまた教授会に呼び出されちゃった。今度は冒険者代表としてリヴィア、そして冒険者ギルドのマスターもいる。さらにこの国の偉い大臣も同席してて、結構な大事になってた。
議題はもちろんダンジョンについて。いや、正確にはダンジョンの強制発生について、かな。
「ではイコルア、お主は我々にダンジョン強制発生の方法を教えるつもりはないのだな」
大臣がまた同じ質問をしてきた。磔台みたいな体で十字の瞳が特徴的なこの処刑台族のお兄さんは理解力が皆無なのかな。
見てよ。この場にいる大半がうんざりした表情になってるじゃん。特に冒険者ギルドのマスターは、うんざりを通り越して大臣に対する殺気を隠そうともしてないよ。両目に眼帯をしてる蒼黒色の長い髪が綺麗なひょろひょろ体型のお姉さんだけど、きっと誰かがゴーサイン出したら一瞬で殺っちゃうと思う。大臣は命が惜しくないのかな。
「僕、ずっと教えてるよね?」
一緒に呼び出されたジェダも含めて、教授たちが隠すと良いことないって言うから包み隠さず伝えようとしてるのに、途中で話を止めてずっとこの調子なんだよね。僕もうんざりだよ。殴って黙らせてもいいかな。
「魔核を魔物に与えてこのような簡易な魔法陣を描きダンジョンになれと念じる。馬鹿にしているのか?」
僕が魔法円を描いてあげた紙をぴらぴらしたかと思うと、大臣はダンって紙を机に叩き付けた。
魔法陣と魔法円の違いもわからないんだったら、この場にいない方がいいと思うなぁ。
「馬鹿にはしてないけど、無知なんだなぁとは思ってるよ。ねぇ、どうやって大臣になったの? 賄賂? あ、色仕掛けか。ふ~ん」
解析によると国王様は磔フェチなんだって。王城の最上階のテラスで城下町を見下ろしながら夜な夜な処刑台族の体に縛り付けられて、後ろから言葉攻め……。
う~ん、この情報って今必要なか。何をどうしろと……大臣が大声で何か言ってるけどもう無視だ。変な想像がチラつくのも嫌だし。
とりあえず学長の方を向いて話を進めよう。
「えっと、続きなんだけど、そこの王様の愛人大臣は魔法円のこと簡易なって言ってたけど、全然そんなことなくて――」
だって線に見えてる部分は、ぜ~んぶ極小の古代魔神文字とかで書かれた呪文だからね。文字数は全部で七千阿僧祇。とてもじゃないけど、ヒト種がササッと書き連ねられる量じゃないと思う。
「……イコルアはそれを正確に記憶していると?」
学長もうんざり仲間だから僕の態度を注意せずに、大臣を無視して話を進めてくれた。
「まあそんなとこかな。知りたいなら大きな文字で書くよ」
と言っても、この魔法円を起動させられるのはアルファドとアドイードみたいなダンジョンの外に出られるダンジョンか、僕みたいなダンジョンの管理を長年代行した経験のあるゴーレムだけ。
「「「「なんだと!?」」」
怠そうにしていた教授たちの顔色が変わった。ギラついた目であれこと質問をぶつけてくる。逆に喚き続けてた大臣は、あのおじいちゃんハーフエルフのゴルネリ教授に腹パンと猿轡をされて静かになった。
「えっと、全部の質問に答えるの面倒臭いから、一番気になってるだろうことだけ言うね。教授たちが使える可能性はゼロだよ。研究したいならすればいいと思うけど……」
皆ガックリ肩を落としちゃった。でも研究する価値はあるって呟いてるヒトもいるね。
「私は研究すらお勧めしませんね。呪文の確認だけで途方もない年月がかかりますし、そもそもそれは我々ヒト種には絶対行使できない魔法なのです」
「アタイもアンドロミカに賛成だね。ジョヌム魔法軍があのクランバイアと数千年共同研究しても、効率の悪い小規模な擬似ダンジョンを作ることしかできなかったんだ。止めときな」
それはクランバイアにしてやられたんじゃないかな。あの国って魔法を独占するためならなんだってやるらしいから。それに最初のグリモアニアもいるしね。
にしてもアンドロミカ教授とギガゾディア教授って他の教授たちより冷静だね。それになんか旧知の仲だけじゃない感じもする。ううう、解析してみたいなぁ。
「呪文の一部転用なども難しいのですか?」
お、学長は研究賛成派かぁ。例え失敗してなんかよくわかんないものができても、それはそれで活用する気なんだろうね。
「言っといてなんだけど、僕もお勧めはしないかな」
よく考えたらさ、研究するってなったら僕も手伝わされそうだ。きっちり諦めてもらおう。
「そんなに無意味なのか?」
ジェダが聞いてくる。
「数十万年ずっと同じ研究したいなら止めないけど、別のことした方が有意義だと思うよ」
僕の言葉で諦めの空気が漂い始めた。よしよし、良い感じ。
「では校内に敷地を用意しますので、イコルアはそこにダンジョンを作るように。報酬は支払います」
「えっ……?」
僕は耳を疑ったよ。だって諦めるながれだったじゃん。しかもさ――
「――ほ、報酬?」
「ええ。イコルアは以前、学長室の杖を欲しがっていましたね。報酬としてあれを差し上げます」
聞き間違えじゃなかった。学長、はっきりくっきり報酬って言ったよ。
「あ、あの杖は初代フルマトリナローナの秘宝ではないですか!!」
アンバーボルト教授が絶対に駄目だと騒ぎ始めた。他の教授たちもだ。
でも僕はそんなことどうでもよかった。脈打つはずのない僕のコアがドクンと跳ねて、全身からとんでもない量の汗が出てくる。僕、ゴーレムなのに。そんな機能無いのに。身体中が誤作動を起こして、魔力オイルに乗って警報が駆け巡ってる気がする。
「ほ、ほうしゅう、しごと、ほうしゅほうしゅ、ししししししごと」
震えが止まらない。震えすぎて床が粉砕されてってるよ。
「イコルアどうした!?」
様子のおかしくなった僕の顔をジェダが覗き込んでくる。
「ハ、ハタラク、ホホホホホホウシュウ、オオオオオオオオオオオオオキュウリョッ、ハハハハハハタッ、ハタラクッ――」
「イコルア!? おい、しっかりしろ!!」
肩を揺さぶられても、ぺちぺち頬っぺをビンタされても、誤作動は解消されない。
「ハタラク、イヤ、ハタラク、ハ、ハタッ、、、、、、、アッーーーーーーーーー!!!!!」
目の中でたくさんの火花がバチバチしたかと思うと、突然ぷつんっと目の前が真っ暗になった。
「イコルア!!」
たぶんひっくり返って床に頭をぶつけた。ジェダの声がものすごく遠い。でも痛みは無い。ただ、震えはずっと収まらなくて僕は、僕は――そのまま大爆発した。




