第41話 おたずね者
▼26.07.05 加筆訂正
冒険者たちの中には教授たちを見ると挨拶しに来るヒトいた。一目見てわかる。シャキッとしてるのがギガゾディア教授の教え子で、ふにゃらけてたり軽い感じのする方がアンドロミカ教授の教え子だ。
「忙しそうだから僕たちは次に行こう」
さっさと目的の樹木を伐採して遊び呆けたいからね。でもジェダは首を横に振った。
「昼食が先だろう」
「さっき食べたじゃん」
「あ、あの生ゴミがか!? 私は飲み込んですらないぞ!」
「いいから。美味しいもの食べたいんだったら、僕が見付けてあげるから」
僕はジェダの手を引いて第三野営地を後にした。
解析の結果、五番目の森より七番目の森の方が色々あるとわかった。
というわけで、七番目の森に到着。そしたらすぐにトビハネユリブドウを見付けたよ。
「見て見て~! ぽよんぽよ~ん!」
トビハネユリブドウは枝の無い三十メートルくらいの葡萄と百合の混合樹果で幹はツルツル。代わりに根っこの一部がトランポリンみたいな膜になってて、それを使って天辺にわんさか実ってる百合の花そっくりの美味しいブドウの実を取るんだよ。
「ななななにをやっている!?」
「ジェダもやろうよ~! 美味しいし楽しいよ~!」
「馬鹿言うんじゃない! その膜の下には強力な溶解液の沼があるんだぞ!」
「知ってるよ~!」
ジェダは慌ててるけど、この膜はそうそう破れたりしない。そもそもトビハネユリブドウの好物は鹿型や兎型の魔物だからね。まあお腹が空いてたらその限りじゃないんだけど、さっきたんまり食べたみたいだから大丈夫だと思うな。
「遊んでないで行くぞ!」
「も~」
トビハネユリブドウにお礼を言ってからズカズカ先に行くジェダを追いかける。この辺りからはCランク以上の魔物もいないわけじゃないからね。弱っちいジェダを一人にはできないよ。
「はい、これジェダのぶん」
隣に並んでトビハネユリブドウをあげる。小さめの花束が作れるくらいね。これは特に甘くて美味しいやつだけを集めたんだよ。
でもジェダは立ち止まったまま実をじっと見つめて、なかなか受け取ろうとしない。
「どしたの?」
「これは本当にヒトが食べて問題ないのだろうな?」
あれ? トビハネユリブドウは学生用の食堂に忍び込んだときもあったと思うけど……ジェダは食べたことないのかな。
「基本的に無毒だし魔物や動物が好む味だと思うけど、ヒトが探索するようになってからは、そういう方向にも味変してると思うよ。植物ってしたたかだからね」
「そういうことを言ってるんじゃない。トビハネユリブドウはそこそこの値段だが普通に一般家庭の食卓にも並ぶ。私が警戒しているのは、イコルアが寄越したものだからだ」
なんてこった。さっきのげろマズ干し肉のせいで僕の信用がガタ落ちしてるよ。ていうかさっきのは僕が渡したわけじゃないのに……。
「嫌なら食べなくてもいいけど本当にいいの? お腹空いてるんでしょ?」
「仮に私が食べないと言った場合、これはどうするのだ?」
「僕が食べるけど?」
ジェダは軽く目を細めるとキョロキョロして何かを探し始めた。
「あれでいいか」
「ねこ……?」
不思議に思ってたらジェダがトビハネユリブドウを一輪ネコに投げ与え――え、ネコにっ!?
「なっ――!!?」
懐っこそうなネコだったのに、嬉しそうにパクッと食べたのに!!
「ふぅ、やはり食用ではなかったか」
「何やってんの!!? ネコにはユリもブドウも猛毒なんだよ!」
引っくり返ってピクピクしてるネコに駆け寄って解析! ユックのお陰で聖火属性の治癒魔法は使えるけど、治癒系の魔法って僕得意じゃないんだよね。でもそんなこと言ってる場合じゃない。
「まだっ、まだ間に合――あっ!」
ネコは動かなくなった……。
「ひ、ひどいよジェダ! このネコが何したって言うのさ!」
振り返ってジェダを責めてやる。メネスには及ばないけど、それなりに可愛いネコだったのにどうしてこんなヒドイことを……。
「何って……」
何でもないような顔でコテンと首を傾げたジェダにサイコパス味を感じてぞわっとした。
「ヒトを食い殺してる、とか?」
「そ、そりゃブラッディデビルキャットは肉食なんだから当たり前じゃん! 何が問題なの!?」
「問題しかないだろ!」
ジェダは言う。ヒトに害なす魔物は駆除されて然るべきだって。
「いやいやいや、そりゃ魔物は理由もなくヒト種に殺意を抱く存在だけど、ダンジョン種と亜人系以外の大半は近寄らなきゃ自制するんだから。ふらふら近付くヒト種の方が弁えてないんだよ」
「……ということはイコルアは殺意の塊なのか?」
「え、僕? 僕はそんなことないよ。殺したくて殺したことは数回しかないもん」
突然ダンジョンに乗り込んできて魔物を虐殺して回ってた自称勇者一向でしょ、あとムカつく態度だった自称転生勇者たち。それからトイレは指定の場所でって看板を無視する冒険者とか、僕のご飯を盗み食いしようとした冒険者とか、それくらいだよ。
でもダンジョンは不滅だからね。寿命以外で死んだ場合は卵になるから、孵化装置を使えば生き返る。そういう意味では誰も殺してない。
「殺したくて? ならそれ以外を含めると何人だ?」
「えっと……」
不慮の事故を含めたらってことだよね。だとすると――
「億……は、いってないかな?」
「億!?」
ジェダが慄いて僕から距離を取った。しかも「大量殺人鬼ではないか」とか「人類の宿敵なのか」って僕を悪く言う。
「違うよ! 熱暴走で亡国発生装置が誤作動しちゃっただけで、僕のせいじゃないよ! あと億はいってないんだって! それ以下だよ!」
「亡国発生装置!!?」
ますますジェダの顔が引きつった。友達になろうって相手に向けて良い顔じゃないよそれ。最近、ちょっとは友達になってもいいかなって思ってたのに、なんかショックだ。
「あのね、僕は他に類をみないほど善良なゴーレムでも、僕の能力はそうじゃないんだよ。こないだも爆発しちゃったでしょ。だから熱暴走しないようにちゃんと一時間寝かせてって言ってたの。そしたら安全なんだから」
「それは安全とは言わない」
「なんで!? 僕はヒト種に対して無差別な殺意を抱くわけじゃないし友好的じゃないか!」
「私は出会ってすぐに顔面を殴られたぞ」
「それはジェダが召喚魔法を使ったのが悪いよ。召喚魔法って誘拐だからね。それこそ出会い頭に殺されたって文句言えないよ? 授業で習わなかった?」
ジェダが「むむっ」て感じで僕を見てくる。
「それに今だってジェダの自尊心を守るだけの、僕に何のメリットもない我が儘に付き合ってるんだよ? これが友好的じゃなかったらなんなの?」
「し、しかし……」
「あ、そう。そんな顔するなら僕もう帰っていいよね。前にも言ったけど友達が待ってるんだから」
僕はパールみたいにプイッてして浮かび上がった。でもここにジェダを放置するのは寝覚めが悪いから、地面に向かって魔導砲をぶっぱなす。
「この穴、第三野営地まで続いてるから。じゃあね」
本当になんなんだジェダのやつ。待ってくれとか悪かったって追いかけてくるけど、もう知らないよ。
僕はすごくイライラしてた。だから気付かなかったんだ。冒険者たちが僕を捕えようと待ち構えていたことに。
「捕まえたぞ!!」
「暴れる前に無力化しろ!!」
気付いたら僕は、対Sランク魔物用のオリハルコンネットで捕獲されちゃってた。




