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脱走ゴーレムは働きたくない!  作者: 173号機


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第39話 第三野営地と噂の屋台

▼26.07.01加筆訂正 ▼26.07.07誤字修正

 第三野営地に着くと、そこにもテントがたくさんあった。ただ、第一野営地と違ってそのほとんどが空。きっと皆四時間後までに戻ってきて、それ以降は学生に譲るようギガゾディア教授が手配してるんだろうね。


「イコルア! 森に火を放つなど許されることではないぞ!」


 運んでたときからジェダはず~っと似たようなことを言って怒ってる。

 森を燃やしたって言っても全体的にみたら千分の一にも満たない範囲だよ。ちょっと大袈裟じゃないかな。それにこの僕が燃やしっぱなしにするわけないでしょ。ダンジョン(アルコルトルア)で約三万年そういう後始末をしてきたんだもん……あ、ジェダには言ってなかったかも。まあいっか。


「大丈夫だって。僕は超が何個もつく優秀なゴーレムなんだよ。ちゃんと先の先まで抜かりなく見通してるんだから」

「だとしても――」


 ジェダの言葉を右から左で僕は目的のものを探す。遠足と決めたからからには楽しまなきゃだ。こういう場所で出会えるって聞いたんだよね……あ、いたいた。


「ねぇジェダ。僕あれ欲しい」

「真面目に聞け! ここは保護区に指定されてる場所もあるんだぞ!」


 とは言いつつ、僕が指差した屋台で買い物してくれる。そこまで危険じゃない野営地には必ずいるっていう、憧れのぼったくり干し肉屋さんで。


「あ、はい、え、小銀貨二枚!?」


 相場の八倍以上する干し肉の切り落としにジェダが驚いてる。ジェダは知らないのかな。それなら本当に驚くのはこれからだよ。


「高級な干し肉だな……ほら、ご所望のものだ」

「ありがとう。僕、これ一回でいいから食べてみたかったんだよね」

「いいか、まだ話しはまだ終わっていない。これを食べたら――」

「はいはい。わかったよ」


 この屋台ってダンジョン(アルコルトルア)にはいなかったから、外からきた冒険者とか魔物が話してるのを聞いて気になってたんだ。絶対に一回はあの味を経験するべきだって、すごく楽しそうだったんだもん。


「いっただっきま~す……うぐっ!? げほっげほっげほっ!!」


 うぅぅ、想像を絶する臭みが頭蓋の中を駆け巡って逃げていかない。口に入れても無臭なのに、二、三噛みしたとたん凄まじいことになる……ゴブリンの脇の下だってこんな臭くないよ。

 涙どころか鼻汁と涎まで、もしかしたら胃液も混ざってだっぱだぱだ。体が全力で中に入れまいとしてる。

 こりゃ聞きしに勝る不味さだよ。

 素材を殺すにしたって度が過ぎるでしょ。抜群の保存性だけどクソ不味いで有名なワキルンガの肉が、そもそも素材として死んでるも同然の味なのに、それをよくもまあここまで……この店主、実はネクロマンサーなのかな。だってもうこれゾンビ肉の域に片足突っ込んでるよ。命無き肉片をゾンビ仕様にできるなんて恐ろしいね。


「気管にでも入ったか? ちょっと待ってろ」


 ジェダが背中を擦ってくれる。もしかすると初めてジェダの心根の優しさを感じたかもしれない。


「ジュースを買った。これを飲むといい」


 但し、差し出されたのが、同じ屋台で買った飲みものでさえなければ。なぜならこれも激マズと評されていたやつだからだ。

 ワキルンガの糞の絞り汁をうっすい聖水で無毒化した保存水に、果汁や香草で申し訳程度の香り付けしただけ。ジュースと言うのも烏滸(おこ)がましい液体だよ。小さめの薪一本に十リットルい以上染み込ませられるから冒険者たちや旅人に重宝されてるって話だけど、さすがにこれは飲みたくない。


「げほっげほっ……気管に入ったわけじゃないから大丈夫。僕のことはいいから、ジェダも食べなよ。ジュースも飲んでいいよ」


 早くこの不味さを共有して楽しく盛り上がりたい。ジュースについては、聞くだけでいいけどね。


「そうか? では私も――んぐっ!? げふっ!!」


 干し肉を噛るとジェダは一瞬で汗まみれになった。慌ててジュースを飲んで、今度はすべてを吹き出した。今は紫がかった顔色でのたうち回ってる。


「あははははは! 面白いけど、さすがにそれはオーバーでしょ!」


 屋台の店主もジェダを見て笑ってる。

 この干し肉もジュースも不味いのは確定なんだけど屋台ごとで味付けが違うらしいから、見かける度にトライしてみるのも話のネタになっていいかもね。

 ケラケラ笑う僕に掴みかかってきたジェダの口臭がヤバい。それがまた面白くて笑いが止まらなかった。

 ちなみに、僕はウルトラ清潔機構が備わってるから、口臭なんか一瞬で消えてるけどね。


「よくもまあそんな、はしゃげるもんだね」


 声がした方を見ると、呆れ顔のギガゾディア教授が立ってた。ガルルーとその仲間の生き人形の生首(パーピーフェイス)と一緒にね。


「ギガゾディア教授!」


 ジェダは驚いてるけど、ギガゾディア教授の到着は概ね思った通りの時間差だったよ。


「なんだか大変だねったっぽいね。お疲れ様、ギガゾディア教授。あ、ガルルーはこないだぶり。僕、歯肉炎に効く歯磨き粉知ってるから、入手できたら教えたげるね」

「可愛くないのは根っからなのかねぇ」


 ギガゾディア教授が自分棚上げで失礼なことを言う。あんな騙し討ちみたいなことしなきゃ、僕だって放火なんてやらなかったよ~だ。


「ガルルー、歯みがき、キライ、オマエ、同じ」


 その言い方だと僕も歯磨き嫌いの仲間みたいだな。まあウルトラ清潔機構のお陰で、僕は常時自動で全身が清潔になり続けてるから歯磨きしないのは事実だけど。その代わりヒトでいう免疫ってのが無いから不便っちゃ不便なんだよね。


「それから初めましてかな。それともお久しぶり? 美人なお姉さん」

「私たちのことよく御存じなのね素敵な騎士様。でも残念。初めましてよ」

「ちょっと前に裏切られるまではリリカシリーズが素体のゴーレムと親友だったからね。生き人形についてはそれなりに。僕はイコルアだよ。超が何個もつく優秀なゴーレムのイコルア」

「あら、興味深い。ワタシはリース、パーピー・リース。リースって呼んで」


 そう言ってリースはニコッと笑った。自分の個体名に執着がありそうな雰囲気だ。由来とかは地雷かも。リリカ7号(OSカスゴーレム)の劣化版スキルのせいで、生き人形との会話はちょっと緊張しちゃう。


「リ、リース先生……」


 ジェダはリースのことが苦手みたいだね。こそっと怖いのって聞いてみた。


「幼い頃、姉上が可愛がっていたパーピー人形が動き出して……それ以来、生き人形は苦手なんだ」

「そうなんだ」


 きっと酷い目にあったんだね。わかるよ。生き人形って性格歪んでるの多いもんね。

 特に童顔美人町娘系の『リリカシリーズ』、シゴデキ艶やか商人系の『パーピーシリーズ』、没落貴族令嬢系の『シエニーシリーズ』の三種は、九割以上の個体がものすごく性格が悪いし仲も悪い。世界中で害悪シリーズって言われてるくらいヒト種に迷惑をかけてる……いや、魔物にもか。

 ちなみにリースみたいなどこかのパーツがない害悪シリーズは、そほとんどが生き人形同士の争いで爆誕する。その分、よりヤバい性格になってるのが多い印象があるんだよね。


「こないだに続いてやってくれるよ。あんたのお陰でアタイの信用がた落ちさね」

「そうなんだ。でも仕方ないよ。ギガゾディア教授とガルルーは参謀向きじゃなさそうだもん」

「マム! コイツ、壊そう! ガルルー、我慢、ムリ!!」


 表情を変えなかったギガゾディア教授及びリースと違って、ガルルーは少し焦げた尻尾の毛を逆立ながら、小さな牙を剥き出しにして威嚇してくる。


「ガルルーは怒りんぼさんだね。撫で撫でしてあげるから落ち着いて」


 リースが髪の毛を手の形にしてガルルーを撫でる。


「リース、ガルルー、子ども、違う」


 ぬはっ!!?

 リースを解析して衝撃事実がわかったよ。リースとガルルーは夫婦。しかも二体のあいだには子ども一体がいる。生き人形が連れ子のいる男と結婚……企みを疑わずにはいられないね。

 それにしても子どもは胴体の無いリースが産んだのか、何らかの方法でガルルーが産んだのか……まだまだ外には知らないことがいっぱいありそうだなぁ。

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