第37話 ペネピゾン森林の第一野営地
ペネピゾン森林は横にも縦にもなっが~~~い森だった。アンドロミカ教授によると、正三角形の森が上下に向きを変えながら、六芒星が何重にもなるように積み重なってるらしい。
昔、この大陸に植物の大精霊と大地の大精霊が揃って顕現したときに、遊び半分で森と土を積み重ねて作ったって伝承があるんだって。
ここには地元民以外にも多くのヒトが仕事しに来るみたいで、森の入り口近くに設けられた第一野営地にはたくさんテントが張られてる。特に多いのは冒険者かな。
「いいかいお前たち! この森は暗いうえに根を伝って上方向からも魔物が襲いかかってくる! 油断するんじゃないよ!!」
「イエス、マム!!!」
ギガゾディア教授が学生たちに檄を飛ばしてる。ガルルーと同じ返事をしたのが、直属って言われてた学生なんだろうね。
「フルマトリローナとイコルア! こっちに来な!」
うへぇ~、呼ばれちゃったよ。僕は行きたくないけど、ジェダはちょっと嬉しそうに背筋をシャキッとして走って行く。
「行ってくるね……」
メネスとパールにそう言ってから僕もジェダの後を追う。
「お前たちも知ってのとおり、先日フルマトリローナが使い魔と契約した! 二人とも自己紹介しな!」
肩に手を置かれそうになったのを避けて、五回生たちを見る。
目付きがヤバい学生が五人とそうでないのが五人。前者がギガゾディア教授の直属で、後者がアンドロミカ教授の直属ってやつだね。
あ、特に目付きのヤバい女の子の隣にホーリアがいる。あの特級ラウンジのドラゴン。無表情だけどその心中は殺意が漲ってる……ような気がする。こわっ。
それからアンドロミカ教授の方にもあの二角獣がいるね。主は小瓶小人か。便利なスキル持ちが多い背丈が指二本分くらい種族だけど……あの背負ってる小瓶、よくないなぁ。近付きたくないや。
「おいっ」
先に自己紹介を終えたジェダに肘打ちされた。
「えっと、僕はイコルアだよ。超が何個も付く優秀なゴーレムのイコルア。よろしくね」
「はんっ、自分で言ってやがるぜ」
うわっ、早速小瓶小人が反応しちゃった。これは絶対ちょっかいかけられそうだ。後が怖いけど、一発ぶちかましといた方がいいかな。
「そりゃあ自分で言うよ。だって僕、そこのホーリアと一騎討ちして圧勝したからね。秒で――っ!?」
うわぁ、ホーリアの眉毛がピクついてる。わかってたけど、ぶちギレなんだろうなぁ。あとで謝っとこ。
「吹かしてんじゃねぇぞ新入り~」
結構なリスクをとったのに小瓶小人は信じてくれない。なんてことだ。怒らせ損じゃないか。
「それは初耳だねぇ。本当なのかいミクロスローザ」
ギガゾディア教授が目を細めてホーリアの主を見た。すげ怖だよ……。
「本当であります! 霧になって瓶に封じられたホーリアを元に戻すのにセダムたちと協力しても、まる二日かかりました!」
「それでここのとこホーリアを見なかったのか」
「そのとおりであります!」
「にしても霧か。アタイも左腕をやられたよ。あれは回避方法が皆目見当もつかないさね。ホーリアは何かわかったかい?」
「いいえ」
ギガゾディア教授たちのやり取りで学生たちがざわめいた。主にアンドロミカ組の学生がだけど。
ギガゾディア組の学生は驚きはしてるけど一言も発しない。対してアンドロミカ組は「嘘だろ」とか「やべぇな」とか途中から結構な大きさの声で喋ってたよ。教育方針の違いをひしひしと感じるね。
「静かに!! いいかい! お前たちイコルアを舐めない方がいいよ! ジェダとタッグを組んでたとはいえ、本気のガルルーと戦って引き分けた強者だからね!」
そういえばガルルーの姿が見当たらないな。僕に絡むと判断して連れて来なかったのかも。だとしたら嬉しい。
「今日はイコルア・フルマトリローナの他に、メネス・オーラメイダーとパール・プラハも参加する。前者二組はペナルティによる参加だが、後者は善意の協力者だ。手助けはパール・プラハにのみ許可する」
熱いギガゾディア教授とは反対に、アンドロミカ教授は落ち着いた声で喋る。
「それからギガゾディア教授は今回イコルア・フルマトリローナの教育に専念されるそうだ。他は私が面倒を見るよう仰せつかったが、なにぶんオーラメイダーの監視もある。皆、死なぬよう十分気を引き締めるように」
うわ……ギガゾディア組の学生が一斉に僕たちを見てきた。しかもかなりキレ気味で。
「えっと、文句があるならギガゾディア教授に言って欲しいかな。僕だってマンツーマンとか最悪だと思ってるんだよ?」
「お、おいイコルア何を――うっ!」
あ、あれ? ギガゾディア組からホーリア以上の殺意が放たれてる。あらら、ジェダがたじろいじゃってるよ。この程度でそうなっちゃうなんて、やっぱりジェダはお坊っちゃんなんだなぁ。
「あっはははは! 逃がしゃしないから覚悟しておきな!」
とりあえずこの場はギガゾディア教授の豪快な笑い声で何とかなったっぽい。けど確実にギガゾディア組からは嫌われたね。ま、いいけど。
「では三十分後に行動を開始する! 各自に入念に準備をしておきな! 解散!」
ギガゾディア教授の解散宣言と同時に、ジェダはギガゾディア組の皆に視線で殺されながら、アンドロミカ組の皆から質問攻めにあった。僕は一目散にメネスとパールの所へ走って帰ったよ。だって巻き込まれたくないもん。
「ねぇ聞いてよ~。皆、すごく怖かったんだよ」
「ふぁら、ふぁらら……」
「当たり前ですわ。何を言っているのよ……」
慰めて欲しかったのに、逆にちょっと叱られちゃった。ふふっ、でもなんかいいねこういうの。知らないけど青春って感じがする。うん、全然知らないけどね、青春とか全然。
「あ、そうだ。メネスにこれ渡しとくね」
「ふぁらぁ?」
ポケットから取り出したのは細い糸。ギガゾディア教授がくれた武器を壊して、こねこねして作ったメネス専用の武器だよ。
あれ本当にいらなかったから、頑張って壊したんだよね。頑丈過ぎて手が折れるかと思った。ちなみに、使いきらなかった残りはあそこに埋めておいたよ。
「これね、シュッてしたらシパパパパパッてなって、上手くいけばドガガガ~ンってなるよ」
「ふぁっ! ふぁらふぁらぁ~ぉふぁ!」
喜んでくれてよかった。
メネスは四角錐の天辺をかぽっと開いて、どろどろの本体で糸を掴むとしゅぽっと中にしまった。
「可愛いなぁ……」
「え? 今の説明でわかり合えましたの?」
「そりゃそうだよ。僕とメネスは友達だからね!」
「だとしても、ちょっと怖いですわ」
引いてるパールは置いといて、僕はメネスと糸を使う練習をすることにした。




