第36話 ジェダの隠し本
▼26.07.08後書き追記
翌朝、眠気眼をこしこしするジェダと学長室へいくと、アンバーボルト教授、アンドロミカ教授、そしてギガゾディア教授が待ってた。それからパールとメネスとそれぞれの主も。
「オーラメイダー……」
僕はメネスが怪我してないか咄嗟に解析したけど無事だった。ちょっと安心だ。
「様をつけろ様を!」
「静かに。あなたは日々の問題行動のペナルティで呼び出されているのですよ。自覚なさいオーラメイダー」
「くっ……」
たかが魔法大学の学長風情がって続けた小さな声は、たぶん皆に聞こえてたね。学長はそれを聞き流してヘパイスの方を見る。
「レグルスが来ていませんが寝坊ですか?」
「あ、いえ、その、レグルスは不参加だそうです。パールがいれば十分だろって……」
まったくもってそのとおりだけど、おどおどしてるヘパイスがちょっと可哀想だ。
「はあ……まあいいでしょう。オーラメイダー以外には使い魔の指定をしませんでしたからね。メリッサ、お願い」
「はい。では本日のペナルティについて説明します――」
アンバーボルト教授の説明によると、今日は五回生の野外訓練に同行するそうで、グリット山にある採石場で石を切り出す班とペネピゾン森林で伐採をする班に別れるらしい。どちらも魔導馬車で二時間くらいの場所で僕たちは森林班だと言われた。
「やった! メネスと同じ班だね!」
「ふぁらぁ~」
「私もいますのよ!」
喜んでいたら固そうな腕輪が飛んできた。僕がキャッチしなきゃメネスにぶつかってたよこれ。
「おい! そんなカス使い魔どもと仲良くするんじゃねぇ! 俺の格が下がるだろうが! 殺すぞこの能無し!」
「ふぁ、ふぁら……」
気付いたらオーラメイダーの顔を殴ってた。仕方ないよね。今のは殺害予告だもん。メネスとパールに止められなかったらあと二百発は殴ってたかもね。
「お、俺は王子だぞ! こんなこと許されるとおもってるのか!」
「僕には関係ないかな。ていうかその言い分だと王子じゃなくなればもっと殴っていいってことだよね。僕がその気になれば君の国なんて五秒もかからず滅ぼせるよ。言葉と態度に気を付けるのはどっちだろうね」
言いながら床に転がって顔をおさえてるオーラメイダーに腕輪をポイってする。
そしたらオーラメイダーは鼻血を飛び散らせながら、憎悪たっぷりの形相で僕を攻撃するようメネスに命令した。
メネスが可愛い単眼に赤い光を宿して僕に突進してくる。ちょっと涙目になってるよ。可哀想に。命令に逆らえないもんね。僕は優しく受け止めて、なでなでしてあげる。
「オーラメイダー、今すぐ止めさせなさい。今のはあなたに非があります。使い魔を殺すなど言語道断ですよ」
「チッ……」
学長に言われたオーラメイダーは、苦々しげに命令を撤回した。元の目に戻ったメネスがごめんごめんと体を擦り付けてくる。
全然平気だよ。連結スキルを使わなかったの、僕ちゃんとわかってるからね。僕らの友情は不滅だよ。
「とはいえイコルアも暴力に訴えるのは感心しませんね。ましてや国を滅ぼすなど宣戦布告と捉えられても文句は言えませんよ。あなた方には罰を追加します」
学長に叱られて、日帰りだったのが二泊することになった。
ジェダが責めるように僕を見てくる。あれかな。二泊も集団生活すると自慰ができなくて困るからかな。ジェダ若いもんね。疲れたとか大変だったって言いながらも毎日こっそり四回はそういう本を読んでるの、僕知ってるよ。
「大丈夫、任せて。あの本棚の裏に隠してる世界の美しい魔書全集とワラビー・ワラルー図鑑なら僕のメモリに画像情報として保存済みだからね」
「な、なんの話だ!?」
あわあわしだしたジェダを宥めてたら、突然アンドロミカ教授がスッと手をあげた。
「やっぱり私は森林班を担当します」
「はあ? あんたグリット山がいいってごねてたじゃないか」
「気が変わりました」
「なんだいそりゃ。でも担当は変わらないよ。全日参加になったんだ。アタイはこの機会にジェダとイコルアをみっちり鍛えるつもりだからね」
え、それは嫌だなぁ。それに絶対ガルルーがつけ狙ってくるでしょ。
「五回生は放ったらかしですか? 今回はあなたの研究室に所属する学生がメインのはずですが?」
「だからなんだってんだい。アタイは絶対に譲らないよ」
「……まあいいでしょう。森林班の五回生は私が面倒をみて差し上げます。ですが目が届かなくてそちらの学生に死者が出ても文句は言いっこなしですよ」
あれ? いつの間にかアンドロミカ教授も森林班になってない? はて……。
「はんっ! アタイの直属を舐めないでもらいたいね。今すぐ戦場に放り出したって死にゃあしないくらいには鍛えてあんだよ」
最悪じゃん。きっと学生たちはジョヌム魔法軍式訓練とかされてるんだ……確かに実力はつくだろうけど御愁傷様だね。
「僕、一緒に来るならアンドロミカ教授がいいかなぁ。マトモそうだもん。優しさはないかもだけど、常識の範囲内でやってくれそうだし……」
「却下だ。アンドロミカなんかに師事したら、それこそマトモじゃいられないよ」
つまりどっちもどっちってことだね。
「そしたらアンバーボルト教授にお願いするね」
「お断りします。私は今日婚活パーティに参加するので同行しません」
うわぁお。秒で断られたよ。
「……じゃあグリット山は誰が担当するんだい」
「ゴルネリ卿でいいんじゃないですか。あの方、休日はお暇でしょうし、なによりグリット山は彼の元領地ですから」
さらっとおじいちゃんハーフエルフに擦り付けたアンバーボルト教授は、よっぽどあのヒトが嫌いなんだね。
「では、エドワーズには私からお願いしておきます。この際ですからプラハたちも全日参加なさい」
「えっ!?」
パールの善意で参加するだけなのに、ヘパイスは学長の言葉にガックリ肩を落とした。
「ですがメリッサ、あなたも婚活パーティが終わり次第グリット山へ行くように。どうせいつもの感じで――」
「ごほん!」
いつも、なんだろう。咳払いで学長の話を遮ったアンバーボルト教授の目がちょっと怖い。それに他の教授二人もアンバーボルト教授に哀れみの目を向けてるし……。
「とにかく! 既に五回生たちの出発準備は整っています。あなた方もすぐに連泊の準備をして裏門へ向かいなさい。五分で!」
アンバーボルト教授に言われて、僕たちは学長室を後にした。
「おい、てめぇ!」
昨夜、臨時で作られた仮設学生寮に向かっていると、オーラメイダーが絡んできた。
「ふぁ、ふぁら……」
メネスが止めてって言ってるのに無視してね。
「無事に帰ってこられると思うなよ! てめぇらなんか初日で暗殺してやる! 王子の権力舐めんなよ!!」
暗殺対象にそんなこと言ったらダメなのでは?
オーラメイダーは馬鹿なんだね。僕は改めてメネスに同情の視線を送る。
「ふぁら……」
メネスも困ってるね。でも大丈夫だよ。この二泊でオーラメイダーをしっかり教育してあげるから。見てろよ、馬鹿王子。
もう一発殴ろうかなって考えてたら、何かを気取ったオーラメイダーは、メネスの尻尾を掴んで走って行っちゃった。
「じゃ、じゃあ後でね」
ヘパイスもパールを連れて行っちゃった。ヘパイスの学生寮は北棟だから無事だもんね。
「……おい」
「なに?」
「何故知っている?」
「何を?」
「あの本に決まっている!」
「え? いや、だって教科書を仕舞う振りして本棚の裏に隠してるのいつも見てるし……」
ジェダが真っ赤な顔で掴みかかってきたけど、準備を急がなきゃだからね。適当にあしらっておいたよ。
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