第34話 緊急教授会議
▼26.06.26加筆訂正 ▼26.06.27誤字修正
魔法実践授業を初体験した翌朝、僕は緊急教授会に呼び出された。
いや、正しくは「連行された」かな。寝床代わりに使ってた一般ラウンジのハンモックで目を覚ましたら、アンバーボルト教授と他何人ものヒトに囲まれてたんだよね。そりゃあびっくりしたよ。
今はフルマトリローナ魔法大学の全教授と学長の前に立たされてる。隣にはジェダもいて次々飛んでくる詰問に真っ青な顔になって震えてる。
そして僕を心配して就いてきたメネスもいて、何も悪いことしてないのに針のむしろ状態。友情って素晴らしいね。
「貴様、聞いているのか! このフルマトリローナ魔法大学約千五百年歴史で、かような問題行動を起こす使い魔など初めてのことじゃぞ!!」
上司が扱いに困る性格ナンバーワンって感じの古株丸出しハーフエルフのおじいちゃんが僕に怒鳴ってくる。このヒト最初からずっとこんな感じなんだよね。だから話を聞く気にならないっていうか何ていうか……。
「そうなんだぁ~」
ってとりあえず返事だけはしてる。ていうかそれしかしてない。面倒すぎてそういうリピートモードに切り替えてる。
あ~、朝ごはん何かなぁ。
「イコルア、真面目にやれ。怒られてるんだぞ」
「そうなんだぁ~」
ジェダが小声で言ってくるけど、やっちゃったもんはしょうがないじゃん。怒られたって元には戻らないんだから、意味ないと思うんだの時間。そもそもの原因は僕にないわけだしさ。
僕がこの教授会議に呼ばれたのは、破壊行為に故意があったかどうかを確認するため。一つは魔法実践場、もう一つは学生寮だ。
ギガゾディア教授たちと戦った使い魔連携授業のあと、僕、熱暴走になっちゃったんだよね。しかも学生寮で。
精神力と魔力の大量消費で割かし危険な状態になってたジェダを救護室へ連れてってから、さあ僕も一時間寝るぞってジェダの部屋に行った瞬間にぷしゅ~っ。
運悪く今回の熱暴走は大爆発で、男子寮の東棟が木っ端微塵に吹き飛んじゃった。
でもさすが魔法大学を名乗る場所の設備だけあって、学生寮に設置された魔道具くんが危険を察知した瞬間、僕を封じ込めようとした。だけどそれが無理だとわかるや否や、学生や使い魔にガルルー以上のすんごい防御魔法をかけたから怪我人、怪我使い魔共に無し。もちろん死者もゼロだよ。
おまけに他の施設に被害がでないよう、爆発の方向を空に誘導するっていう超できる魔道具くんだった。壊れたのが残念だよ。
「でもさ、大学の規約には【学生及び使い魔の失敗による損害は、それが故意でない場合において最大限の配慮でもってその責任の追及を放棄する】って書いてあるよ」
ちょうど大学の決まり事が書いてある冊子を学長が持ってるのを見付けたから、リピートモードを解除してそれを解析しながら反論してみる。
「それに魔法実践場は【相手がそれに耐えうることが確実ならどんな魔法を使ってもよい】なんでしょ? あそには強力な保護の魔法がかかってるから威力なんて気にしなくていいって。滅茶苦茶になっちゃったのはその魔法が強力じゃなかったらじゃないの? 責任転嫁は止めてもらいたいな」
僕の言葉を聞いたおじいちゃんハーフエルフは、怒りすぎて死んじゃうんじゃないかってくらい喚き始めた。保護の魔法を管理してるのはこのおじいちゃんハーフエルフらしいから、自分の責任になるのが嫌なんだろうね。
「まあまあ、そうカッカしなさんなエドワーズ。未来の学長候補によきパートナーができたってことさね。一安心じゃないか」
「確かに。私も興味があって見ていましたが、最後のあの雷は元々ジェダの魔法なのでしょう? 裏表紙と聞こえましたから。混血のグリモアニアが最終魔法を使えるなど初耳ですよ。快挙じゃないですか」
未だ僕を睨んでくるガルルーを抱っこヒモで拘束しつつ背負ってるギガゾディア教授が庇ってくれる。
あと男の教授も。確かヒーラたちレイス三姉妹の主で、ピト=フーラ・アンドロミカ教授だっけ。
全然わかんなかったけど、どこから見てたんだろう……あ、このヒトも解析をレジストしてくる。名前以外、属性がスーパーレアな月属性ってことと、種族がセレネヴァンパイアってことしかわかんなかった。
ヴァンパイア特有の不健康そうな感じはなくて、バリバリ血色が良い。しかも顔もスタイルもずば抜けてる。さらに絹糸みたいな白髪と月色の瞳がそれを際立たせてて、こりゃあもう魅了系の最上位スキルを持ってるの確定だね。
「裏表紙ですって!!?」
そんなアンドロミカ教授の発言に一番驚いたのは学長だった。
ちなみにこのヒトは純血のグリモアニアだから、ジェダと違って浮遊してる開いたでっかい魔書から上半身が出てる。魔物を書物に封じて使役する魔法に失敗して、魔物が身動き取れなくなってる時に似ててちょっと面白い。
学長室にいたときは大きな机で下半身が隠れてたから見えなかったけどページ数もかなりある。あれは大魔法がいくつも載ってる予感がするよ。ジェダは混血だからか100ページにも満たなかったから、その差には本当に驚いた。
「真実なのですかジェダ!」
「あ、その、私は意識がありませんでしたので……」
一瞬だけ嬉しそうな顔をしていたジェダだけど、何も覚えてないからしょぼんってなってる。廃人まっしぐらで意識消失してたもんね。仕方ないよ。
「本当だよ。面倒な魔力制御とか必要魔力の確保とか色々僕が担いさえすれば、だけどね」
代わりに答えてあげたよ。だってさっさと終わらせて朝ごはん食べたいんだもん。
「ああ……ああ! よくやりましたジェダ。兄弟の中で一番の不出来だったあなたがようやく……」
学長がふわっと浮かんでジェダの前にきて優しく抱きしめた。感動的な雰囲気だ。でも僕はちょっと納得がいかないよ。
「なんでジェダが褒められてる? すごいのは僕じゃない?」
「イコルア……」
ジェダが今そんなこと言うなみたいな顔で見てくる。
「ジェダを褒めるなら僕はもっと褒めてもらわなきゃだよ。影精霊の呪いを無効化してるのも、ジェダの恥ずかしい寝言が寝室の外に漏れないようにしてあげてるのも全部僕なんだからね!」
「は、恥ずかしい寝言だと!?」
ジェダは驚いてるけど、本当、十分に一回は格好いい魔法名とかオレ流世界一難解な呪文とかってむにゃむにゃ言ってるからね。しかも割かし大きな声で。他にも「私の好きな体位と正しいピロートーク」なんてことも言ってた。童貞のくせに何言ってんだって呆れたよね。
「そう、ですね……。認めなくてはなりませんね。未来の息子よ、ジェダを導いてくれてありがとう。あなたに寿命があるのかはわかりませんが、生涯ジェダに添い遂げてやってもらえると母として安心です」
学長が慈しむような目で見てきたかと思うと、遠慮がちに抱きしめられた。
なんでそうなるの!? 僕は褒めてくれって言ったのに!
「添い遂げないよ! 僕とジェダはそういう関係じゃないんだから!」
「ええっ!? ですがジェダとあなたが特別応接室で口づけを交わしていたと……」
学長がアンバーボルト教授の方を見た。そもそもそれが間違いなんだよ。そりゃ僕だってあの時はさっさとロイたちの所に戻ろうと思ってたから、特に否定もしなかったけどさ……。
「ですから違うと言ったではありませんか。あれはあまりの嬉しさでつい……ペットにキスをするような感じだったのです」
「ペットぉぉぉ!?」
「あ、いや、違う。今のは言葉のあやだ。ペットじゃない。イコルアは優秀な使い魔で友達だ」
どうだか。使い魔をペットみたく可愛がるヒトは少なくないって聞くもんね。これからは安易にスキンシップさせないようにしよう。
「ご、ごほん! それでも何かしらの罰は必要かと思います。さすがにお咎めなしとするには破壊の規模が大きすぎます」
「さすがメリッサじゃ! よくわかっておる!! 追放じゃ追放!」
アンバーボルト教授は今、自分の勘違いを誤魔化そうとしたね。僕にはわかるよ。
それにエドワーズって呼ばれてたハーフエルフのおじいちゃんも、賛同者が現れたから息を吹き返しちゃった。でも絶対そんなのが通る空気じゃないよ。
「いえ、そういうことではなく、形式的な罰が必要だと言っているのです。それから私のことはアンバーボルトと呼ぶようにと学生の頃から言ってますよね。同期だからって気安く呼ばないでいただきたいわ。私、あの時のことを許した覚えはありませんよゴルネリ卿」
「っかぁ~、既に貴族でもない儂を卿呼びとは。千年以上も前のことをいつまでもネチネチと……これだから長命種は。未だに独身なのも頷けるわい」
なんだか話が脱線しまくってるね。ていうか、この二人同期なんだ。
「あら、ワタクシも独身でしてよ?」
「ふむ、今のは種族差別ですかな?」
「いやいや、短命種の私からすればゴルネリ教授も十分長命種のお仲間ですよ?」
「そう言うアンバーボルト教授こそ……」
なんか他の教授たちも参戦してきたよ。これは収拾がつかないね。
「長くなるな」
「帰るか」
「……」
「ガルルー、今のあんたはあんな感じだよ。さっさと拗ねるのを止めな」
ああ……たぶん、いつもの教授会議もこんななんだろうね。当たり前のように席を立つヒトや、お茶を淹れ始めたり、隠し持ってたおやつを食べ始めるヒト、床に寝転がるヒトまでいる。
「罰は今日中に知らせます。あなた方は下がりなさい」
学長は大きなため息をついたあとでそう言った。




