第32話 魔法の実技授業~お触り禁止だよ!~
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お手本を見せてくれるっていうレグルスたちは凄かった。何が凄いかっていうと、あの程度の防御魔法にヒビを入れるのに十五分もかかったことだ。
確かに驚くような魔法ではあったけど、それは魔帽子小型犬妖精が使うにしては、だよ。後でこの国のお手本が僕の知ってるお手本と同じか確認しなくちゃだね。
「やっぱりパールの方が高性能なのかぁ」
レグルスもパールも基本的に魔導砲をメインにズガンバゴンだったけど、それでも性能差が如実に現れてた。
レグルスは「精霊のように舞いドラゴンのように噛む」とか言いながらマナブレードでビシバシ切りつけたりしてた。本当に無意味な行為だったよ。
対してパールはきちんと戦闘を意識してたようで、自分用のマナローブって装備をヘパイスに纏わせて守りつつ、時にはポーションを渡して補助したりしてた。スキルの低品質フェアリアルパウダーやウィンドボムでガルルーの防御魔法を中和してたのも好印象だったよ。
まあ僕なら同じ装備やスキルで、もっと早くできるけどね。レグルスたちは狙いどころを見誤ってる。戦闘経験の差かなぁ。ま、数多の魔物の縄張り争いを収めてきた僕と比べたら可哀想か。
「私もああなれるだろうか……」
「え、ああなりたいの?」
ジェダは志が低いね。仮にも僕を使い魔にしたいって思ってるなら、SSランクの魔物を素っ裸で鼻ほじしながら倒せるくらいの強さを目指して欲しいもんだ。
「ふうっ、良い汗をかいた」
レグルスがパールとヘパイスを引き連れて戻ってきた。
「なかなかの連携だったじゃないか。まだまだ魔力の無駄遣い、連携や攻撃の荒さはあるものの、よく精進している。皆も見習うように!」
出迎えたギガゾディア教授はかなりふわっとした褒め方をする。きっと言いたいことは山ほどあるんだろうけど、下級生がいるから花を持たせたんだね。
レグルスはそんなこと気付きもせずに鼻高々だ。パールは複雑そうにしてたけど、僕と目が合うとまたフンッて感じで顔を背けた。
「見てたか木偶の坊。次は君たちだ。せいぜい頑張りたまえ」
レグルスは通りしなにそう囁くとニヤッとして、空色のローブを着た学生たちの所へ戻っていく。
「ほ、本当にごめんね。根は良い子なん――」
「ヘパイス! 早く来い!」
「う、うん……じゃあ、君たちも頑張ってね」
また自分が主かのようにヘパイスを呼びつけたレグルスは、同期たちに自分のあの攻撃が決め手だったとか、見習うようにとか言ってる。恥ずかしいね。
「さ、次はフルマトリローナとイコルアだ。しっかりやりな!」
「はいっ――ぬ、どうしたイコルア?」
「ものすごく緊張してるみたいだったからね。リラックスのおまじないだよ。肩腰ゆるゆる、肩腰ゆるゆる~」
「ふはっ、変なおまじないだ」
ギガゾディア教授に背中を叩かれそうになったジェダを抱き寄せて正解だね。ジェダに触れなかったギガゾディア教授の眉が、僕じゃなきゃ気付かないほどわずかにピクついてたもん。
そもそもあのジョヌム魔法軍に所属してて生き残ってる魔法使いがマトモなわけないんだから、軽々しく触らせちゃダメだと思うんだ。
おまけにダンジョン産のネックレス型隠蔽系魔道具の助けを借りてるとはいえ、僕のしっかりめの解析を軽々レジストしちゃうんだ。ギガゾディア教授はヤバいおばさんだよ。ジェダは警戒心が足りなさすぎる。
ああでも、もどかしい。ステータスを見てみたい。もっと魔力があればできるのに……。
足りないとわかってても、無意味にとっ散らかってるレグルスたちとガルルーの魔力カスをこねこねする。
昨日みたく大きな動きじゃなくて誰にもバレないようにこっそり小さくね。奇行とか言われたくないもん。
「お盛んなだけだって、ずいぶん打ち解けてるじゃないか」
「ん? ああ、まあね。ジェダは超がたくさんつく優秀なゴーレムが側に立つに相応しい相手だから」
「イ、イコルア……」
あ、しまった。でまかせなのにジェダが感激しちゃった。あとで違うよって訂正しとかなきゃ。
ちなみにジェダが緊張してたのは本当だよ。
見た感じこの授業の目的は、主から流れてくる魔力を介して命令を聞いたり、能力値の増幅なんかをすることだ。状況に応じてその反対も。本格的な戦闘訓練の前段階かな。パールみたいに実際の戦闘を意識しながらだと、なお良しってとこなんだろうね。
まあ僕とジェダは使い魔契約してないから、主の魔力を介して、とかはできないんだけどそれっぽく見せればいいだけの話だもん。別に死ぬわけじゃないし、気楽にやればいいのにね。
方法はいつくかあるよ。でもギガゾディア教授は魔力の流れとかも見えてるっぽいからなぁ……。気は進まないけどジェダとも連結するのが手っ取り早いかな。
でもロイたちとした仮連結じゃないよ。病気を除いて、僕だけにメリットがあるとっても理不尽で不平等な本連結。本当はこっちが強制連結の正しい使い方なんだよね。だから本連結っていうんだし……。
「そいじゃあ優秀なゴーレムさんが、ガルルー相手にどこまでできるかお手並み拝見といこうか――おっと?」
ギガゾディア教授が今度は生意気な奴めってな風に、僕の肩を両手でガシッと掴もうとした。もちろん避けた。
「僕、ジェダ以外に触られるのはちょっと……気を悪くしたらごめんね」
「……ふむ。ま、そんな忠誠の示し方も珍しかないわな。よし、じゃあ行ってきな!」
ギガゾディア教授が言い終わると同時に、僕は素早くジェダの手を引いて歩きだした。そしてステージに向かいながら耳打ちする。
「ギガゾディア教授に触られないように気を付けて。絶対良いことないから」
「なんだ? マッチョな女性に偏見でもあるのか?」
「真面目な話しなんだよ。もし触られたら、僕その時点でサヨナラするから」
「なっ!?」
「ジェダは早急に魔法使いがどんな仕事をするのか勉強した方がいいね。例えばジョヌム公国の魔法軍とかさ」
釈然としない感じだったけど、僕の真剣な顔を見たジェダは頷いてくれた。
「それから授業だけど、ジェダは適当にそれっぽい呪文唱えてて。そしたら僕がぱぱっと防御魔法を壊すから」
「凄い自信だな」
「そりゃそうだよ。なんたって僕は超が――」
「何個も付くゴーレム、だろ?」
「違うよ。優秀なゴーレム、だよ」
「ふっ、そうだったな」
なんだか仲良しみたいな会話だ。あくまでも「みたい」だけどね。
「あとさ、どんなに驚くことが起きても絶対狼狽えないで呪文唱え続けてね。約束だよ」
「わかった」
ステージに上がりガルルーの正面に立つとギガゾディア教授が大きな声を出した。
「準備はいいね? ガルルー! やっちまいな!」
「イエス、マム!!」
どわっ!!? 全力出す気じゃん!
まだ魔法を発動してないのに、ガルルーから発せられる濃い土の魔力のせいで空間が歪んでる。
あ~あ、魔力圧に耐えられなかった学生が吹っ飛ばされてるじゃん。
うわ、しかも防御魔法にカウンターを仕込む気だ。
ったく、背中ポンッと肩ガシッを避けただけでそこまでさせるかな普通……あ、元ジョヌム魔法軍人だから普通じゃないのか。
「始め!!」
ギガゾディア教授の合図と同時に、僕はジェダの種族スキル小さき書物を発動。シュッと空中に出現した手の平サイズの魔書に魔力を流しつつ、マリオネットを真似てジェダの唱える呪文に操られる振りをしながらふわりと浮かぶ。
「46ページ」
そう呟きながら、僕はギガゾディア教授に視線を向けた。




