第29話 早朝のお茶会、狩人つき
▼26.06.21誤字修正 ▼26.06.27誤字修正
召喚されて三日目。
今日も早朝からジェダに叩き起こされた。昨日よりずっと早い。睡眠時間は十分。どういうつもりなんだ。勘弁して欲しいよ。昨日は一分の睡眠不足でさえ昨大変だったんだからね。
初めて睡眠を邪魔されてわかったんだけど、僕、一時間きっかり連続して睡眠状態にならなきゃダメみたいなんだ。一秒でも足りないとボディがカッカしてくる。
だから昨日、朝ごはんのあとでメネスと二度寝したんだ。そしたら二体揃ってお昼ごはんを食べ損ねる悲劇。
ムカついたから寮の寝室にあった魔石を全部食べてやったよ。
でも小粒ばっかで逆に腹が立ったから、僕が必要な授業ってのに行かなかった。ジェダは何で来なかったんだって泣き付いてきたけど、睡眠を邪魔したからだっての。
「昨日も言ったけどさ――」
「また私がイビキをかいていたのか!? 明け方まで眠れなかったのか!?」
いや、一時間寝かせろって話だよ。あ~、無性に腹が立つ。
「……イビキ以外にも歯軋りしてたし寝っ屁も凄い回数してたね。寝言も煩いしさ、極めつけは寝歌を歌いながら窓から放尿、からの寝オ◯ニー。最低すぎて将来の結婚相手が憐れでならないよ」
「そ、そんな!? どうすればいい!?」
寝言以外は全部嘘だ。あわあわするジェダを見てすっきりした。ほんの少しだけね。
「知らない。じゃあお休み」
ジェダのせいで貴重な十分をドブに捨てさせられた。これから一時間も寝なきゃだ。起きたときにまだ朝ごはん残ってるかな。
「寝るなイコルア。今日は自主練前に皆とモーニングティーをするんだ!」
「行かない」
「そんなツレないことを言うな。皆、イコルアを怖がっている。話をしてヤバいやつじゃないと証明してくれ」
「……僕が、ヤバい?」
ちょっと意味がわからなくてムクッと体を起こしたら、脇の下に腕を突っ込まれて、そのまま立たされた。そして拘束する体勢になったジェダが僕を抱えて運ぼうとする。
それに抵抗しながら「ヤバいってなに?」って聞くと、召喚初日で研究室に出頭させられたうえ、昨日、自主練場でいきなり大きな声で自分を褒めだしたかと思うと、何もない空中をこねこねと言いながら揉みしだく奇行。皆が引いているんだと教えてくれた。
「ジェダが説明してよ。それ僕じゃなくてもいいじゃんか」
「いいやイコルアでないと駄目だ。そのどこぞの王族みたいな凄まじく整った見た目なのに、良い意味で頭の悪そうな雰囲気はイコルア本人でないと伝わらない」
こ、こいつ……頭が悪いに良い意味なんてあるわけないだろ! やっぱジェダは性格に問題ありだよ!
「ふぁら~?」
「あ、メネス! 聞いてよ、ジェダが酷いんだよ!」
今日は必要睡眠時間より早く来ちゃったけど、良いタイミングだ。さすが友達。以心伝心ってやつかな。
「ふぁら、ぉふぁ~」
うっ、この前以上に羨ましそうな目で見てくる。代わってあげたいけど……ん、待てよ? そうか、その方法もあるのか。
僕ってば文字通りオーラメイダーの寝首を掻くことしか考えてなかったけど、別のヒトの使い魔になるのもありなのか。はたしてオーラメイダーが大人しく従魔契約を破棄してくれるかは謎だけど……。
ちょっと冷静さを欠いてたかもしれない。睡眠不足のせいかな。
「ジェダ、さっきのだけどメネスも一緒でいいなら行ってもいいよ」
メネスと相性が良いヒトがいるかもしれない。そしたら主変更をもちかけるんだ。
「本当か!? ならすぐに行こう。オーラメイダーの使い魔というのは気になるが、メネスは大人しいから問題ないだろう」
ふむ。メネス以外のオーラメイダーの使い魔は大人しくない、っと。空き瓶を用意しとかなきゃかな。
「ふぁ~ら~?」
「なんかね、ジェダが自主練の前に友達と朝っぱらからお茶会するんだって。メネスも一緒に行かない?」
「ふぁ、ふぁらぁ……」
「大丈夫だよ。オーラメイダーがいなくたって誰もメネスを蔑んだりしないって。もしだけど、万が一そんなやつがいたら、僕が目ん玉ぶっ潰してやるさ」
目ん玉ぶっ潰す、は尻尾四角錐の中で鉄板ネタなんだ。メネスも爆笑してくれてる。
一方、ジェダは「物騒なこと言うもんじゃない」って真顔で言ってたけどね。恥ずかしいね、教養がないって。
「あら、いらっしゃったわ」
「朝早くからありがとね!」
「オーラメイダーの使い魔……?」
お茶会の会場は使い魔の塔へ行く途中にある庭園だった。そこにはやたら気合いの入ったドレス姿の女の子二人とばっちり正装した見習い騎士がいた。
普段着の僕とジェダはとてもじゃないけど、同じテーブルに座って良いとは思えない。
「ドレスコード間違えてるじゃん」
「い、いや、軽装で集まろという話だったはず……」
なら、やっぱりジェダは嫌われてるんじゃないのかな。こんな明らさまやり方、逆に清々しいよ。メネスをまかせられそうなヒトはいなさそうだね。
「さ、ジェダ様もおかけになって」
「実家からとびきりのお茶を取り寄せたんだよ」
「俺の隣を確保しておいたぞ。ジェダはここに座るとい」
困惑しながらもジェダは嬉しそうに席に着いた。僕とメネスはどんな嫌がらせされるのか警戒しながら着席する。
あれ? 一席空いてる……。
「ジュリエットは体調を崩したのか?」
空席を見るジェダは残念そうだ。
それにしてもジュリエット……なんともゴージャスな名前だね。歴史上最も美しい女性とされる悲劇に花散した亡国のお姫様と同じ名前。
「ああ、ジュリエットならおめかしに時間がかかるから先に始めててって言ってたよ」
「そうか。来てくれるのか」
え、ジェダがはにかんでる……はは~ん、ジュリエットが好きなんだな。
「では、先に初めてしまいましょう。改めまして、私タリアーノ王国侯爵家が長女、コクーヌ・サラ・ネッスンドルマと申します。以後お見知りおきを」
「わたしはクロエだよ。このギルゼサセッタ王国一の商会、スタブロー商会の次女なんだ」
「俺はライデン・トリフクリム。トリフクリム男爵家の四男だ」
白髪、白眼でおしとやかそうなのがコクーヌ。不眠症。茶髪、灰眼で元気溌剌なクロエは痔瘻一歩手前。そして黒髪、紫眼のライデンは水虫……まあ騎士を目指してるならそうなるよね。
ちなみにトリフクリム家はギルゼサセッタ王国の貴族らしいよ。最近、騎士爵から男爵に陞爵したんだってさ。
「ほら、皆イコルアに自己紹介しているんだぞ」
「え、ああごめん。僕はイコルアだよ。超が何個もつく優秀なゴーレムのイコルア。こっちは友達のメネス。よろしくね」
「ふぁら~」
想像と違ってお茶会はずっと和やかだった。でもそれは表面上の話。僕、気付いちゃったよね。皆ジェダ狙いの狩人だって。
ジェダ本人は対人経験が足りてなさすぎて、何もかも言葉どおりに受けとるからまったく気付いてない。
しびれを切らしたライデンが、同性なのをいいことにやたらボディタッチをし始めて、その度に女性陣がチクリと牽制……怖いったらないよ。
思うにこの三人は昨日行われただろう、熾烈なお茶会の参加バトルの勝者だ。そりゃ強者だよ。
メネスも怯えてるし、新しい主探しは失敗だね。
「僕たちそろそろ自主練に行くから。楽しかったよ。じゃあね」
さっさと逃げよう。
「イコルアが行くなら私も」
空気の読めないジェダまで席を立つ。
ジェダは残っててよ。三人の視線が怖いじゃないか。なんて目で訴えても不思議そうにするだけで、何も通じない。
「皆、今日はありがとう。ではまた同じ授業のときに」
あ~あ。皆にこやかだけど、確実に恨みを買った気がする。暗闇と背後には気を付けておかなくちゃだ。




