第27話 早朝の出来事
▼26.06.21誤字修正
僕は早朝から叩き起こされた。
「ふぁ~、報告しまぅ。今日もダン――」
「起きたかイコルア! さあ朝の自主練に行こうじゃないか!!」
「はわっ、ジェダ!?」
……ああ、そうか。ここダンジョンじゃなかった。大学寮の寝室だったよ。まだ脱走して三日目だから癖が抜けないや。
思えば毎日毎日虚しい報告だったよなぁ。元ご主人の部屋の誰もいない寝室で、空のベッドに乗せた誰も再生しない録音の魔道具に向かって報告するの……基本的に元ご主人たちは、ダンジョンの外で寝泊まりしてやがったからね。帰ってきても遊んでるだけだったし。
あの部屋での報告を義務付けられた意味はなんだったのか、なんて考えは千年くらいで跡形もなく消え去ったよね。考えても無駄だもん。なのに粛々と報告してた僕って偉いよ。
そういえば三万年間ずっと年一であの魔道具を作ってくれてた生き人形にサヨナラ言えなかったな。千と一年目からはお願いどおり爆弾入りの録音機にしてくれてさ。結局、一回も再生されなかったけど、毎年どんな爆弾を仕込むか一緒に考えるあの数分だけは楽しかったなぁ。
「どうした!? 何を朝から死んだ魚のような目でぶつぶつ言っているのだ!?」
現実逃避してたんだよ。
僕の正確な睡眠時間計測によるとまだ五十九分しか寝てないよ。一分足りない。深刻な睡眠不足だ。なんてことしてくれたんだ。
ジェダが隣のベッドでぐ~すか寝てる間にも、僕はこの学生寮の各寝室に忍び込みまくってたんだからね。結局、オーラメイダーは見付けられなかったけどさ。
「まだ眠い」
「そ、それはすまない。だが朝の自主練はほとんどの同期が集まるんだ。イコルアを紹介したいんだよ!」
知らねぇ~。とは言えないか。使い魔の振りをする約束だもんね。
「ふぁ~あ、めんどくさっ……」
「っ!?」
うわ、ジェダが傷つきましたって顔で見てくる。卑怯な顔だ。謎に協力してあげたくなるんだもん。
「行くよ。行くけどその前に朝ごはん食べさせて」
「残念だが朝食は最初の落雷の後だ」
落雷……そういえば罰掃除の後の話し合いでそんな話を聞いたな。この国は時間のお知らせが激しい落雷で告げられるって話を。フルマトリローナ時代からそうだって言ってたけど、あれ嘘だと思うんだよね。
そんな頭おかしい国なんか、ヒト魔物関係なくあっという間に話が広まるでしょ。産まれてから約三万年、僕一回も聞いたことないもん。
他にもなんか色々面倒臭いこと言ってたけど、仕事っぽいのは全部無視することにしたよ。お使い実習とか研究補助実習とか、ジェダの成績がどうなろうと僕知ったこっちゃないからね。
「……チッ」
「な、なんて態度だ。昨日の尻尾四角錐に対するものとはえらい違いではないか」
「そりゃそうだよ。メネスは友達だもん。ジェダは出会って二日目の厚かましい知り合いの自己満足のために早朝から叩き起こされてご機嫌になるの? 変わってるね。気が合いそうにないや」
だいたい、ご飯と睡眠は満足させてくれるって約束したじゃないか。昨晩のことだよ。いきなり約束破りですか。へ~、そうですか。僕はちゃんと絶対にレギスじゃなくてジェダって呼ぶようにっていう昨晩の約束を守ってるのに、ああ、そうなんですか。
「ふぁら~?」
「あ、メネス! おはよう!」
プイッと顔を背けたら、メネスが窓の外でふわふわ浮かんでいるのに気付いた。ちょうど今、来たっぽい。ここは二階だけどぎりぎり届いたんだね。ふふっ、頑張って落っこちないようにしてて可愛いな。
メネスが落っこちる前に窓を開けて中に入れてあげる。
「ふぁらら。ふぁ。ふぁら~?」
「うん、うんうん。そうなんだ。じゃあ僕も行こっかな」
「お、おい、どこへ行くんだ?」
メネスを肩に乗せて窓から飛び降りようとしたら、ジェダに服を掴まれた。
「どこって、朝の自主練だよ。メネスが毎朝やってるからよかったら一緒にどうかって誘ってくれたんだ。優しいよね」
「私と何が違うんだ……」
「さっきも言ったでしょ。メネスは友達。ジェダは厚かましい知り合い。それにメネスは僕が寝てから六三分後に来てくれたんだよ。これも言ったよね? 僕、毎日絶対に一時間寝なきゃいけないって。ジェダいいよって言ったよね? なんで五十九分で起こしたの? 酷いよ」
「いや、同じタイミングでベッドに入ったではないか」
「ジェダはすぐ寝たけど、僕はずっと起きてたんだよ」
なんでかは言わない。メネスがいるからね。ロイたちと出会う前なら言ってたかもだけど、友達にも秘密は必要だって力説されらからね……ロイたち、ちゃんと船に乗れたかなぁ。
連結対象にしっかり名前があるから死んではないんだろうけど……怪我とかしてないかな。心配だなぁ。
「ふぁら?」
「あ、うん。行く行く」
ジェダが「何故だ?」とか「もしや私はイビキをかいてるのか!?」って言ってたけど無視でいいね。着地した僕らを見て部屋からダッシュで出て行ったっぽいし。
「あ、そうだメネス。食べかけでよかったらだけど、おやつ半分こしない? 昨日、特級ラウンジのドラゴンにもらったんだ。すっごく美味しいよ」
「ふぁ~ら~?」
「いいに決まってるよ。メネスは僕の大事な友達だもん。嬉しいことも悲しいことも、何もかもぜ~んぶ半分こだよ」
「ふぁ~らら~!」
ああ、なんて可愛いんだろう。笑顔いっぱいに喜んでる。なんでかロイとユックは怖がってけど、やっぱりこれが普通の反応だよね。ヒト種と魔物の違いなのかな。再会したときに話し合ってみよっと。
「うわ~、すごいヒトだね」
「ふぁら~」
連れて来てもらった自主練の場所は、魔法実践場っていう防御結界に囲まれた闘技場みたいな場所だった。半径三キロはありそうな所なのに、数えきれないほどヒトと使い魔がいる。
「お、追い付いた……」
肩で息をするジェダがやって来た。苦しそうなのにとても嬉しそうなワクワクした不思議な顔をしてる。と思ってたら、とんでもない大声を出し始めた。
「皆、見てくれ! 私が召喚した使い魔のイコルアだ! 人語を理解し話すこともできる高等種族なのだ!!」
可哀想。これがいたたまれないって感情なのかな。
所々チラ見してるヒトはいるけど、他は誰も何も反応しない。ここまで嫌われるってレギス……じゃないや、ジェダは何したんだ? 相当だよこれ。
あ、カエルかな。関わるとカエルになっちゃうから……いやでもそれなら男も反応がないの変だよね。僕が知らないだけで、男にもカエル化現象が起きるのかな。
「ジェダ、泣かなくてもいいじゃん。きっといつものことなんでしょ? しょうがないから僕が驚いてあげるよ」
「……は?」
「うわぁ、凄い!! なんて優秀なゴーレムなんだ!! こんな優秀なゴーレム、世界中のどこを探したって見つからないぞ~!!」
「ふぁら~、ふぁふぁふぁら~!」
メネスがものすごく賛同してくれる。
けど、メネスだけだった。ジェダのとき以上に皆は無視してる。絶対に関わるな、みたいな空気がヒシヒシ伝わってくるよ。
「ジェダ嫌われすぎじゃない? これまで何人カエルにしてきたの?」
ジェダを見たらポカンとしてた。
「何の話だ……?」
「ふぁら~?」
「んん~?」
ジェダもメネスも僕もコテン、と首を傾げた。




