第24話 三体のドラゴン
▼26.06.18誤字修正
▼26.06.18加筆訂正
▼26.06.19教員使い魔の数を追記
▼26.07.08後書き追記
僕がドラゴンたちの所へ行くと、あのリーダードラゴンがスッと手を前に出して制止を促してきた。
「お前はここへ来る許可がないはずでは?」
立ち止まった僕にリーダードラゴンが冷たい雰囲気で声をかけてくる。
「そうだよ。だから管理者の使い魔に認めてもらいに来たんだ」
「……それは上級ラウンジまでの話だ。ここ特級ラウンジは年間表彰者のみ立ち入りが許可されている」
ええ~!? そんな馬鹿な……いや待てよ。もう一回ヒーラたちとの会話を思い出してみよう。
「ああ!!」
そうだ。特級は別みたいなこと言ってた。この僕としたことがなんでこんなうっかりを……はっ、あれだ! あのバッド効果付き元ご主人の劣化版スキル! くっそぅ、恥かかせやがって……。
「確か新入りだったな。今回は誘惑の階段をすべて踏破したことに免じて見逃してやる。一般ラウンジからここまでキツかっただろう。昇降樹を動かしてやるからそこへ戻れ」
「ちょ、いいのかよ!?」
「レグルスたちのこといい、甘過ぎるのではなくて?」
別のドラゴン二体、チャラドラゴンと無表情ドラゴンが僕を罰せよと詰め寄ってる。それにリーダードラゴンは勘違いをしてる。優しくしてくれたから嘘つくのは失礼だよね。正直に言っておこう。
「僕、上級ラウンジからしか階段使ってないよ」
「はあ!?」
「あなた新入りでしたわよね。寝惚けてらっしゃるの?」
チャラドラゴンと無表情ドラゴンが会員証を出せと言ってくる。
「これだけど……」
「うげっ、本当に上級まで許可されてるぜ!」
「あり得ませんわ。あなたどのような汚い手を使ったのかしら」
汚い手。まったくもってそのとおりだけど、でもその内容は秘密厳守だからね。ヒーラたちと口裏を合わせた理由を使わせてもらうよ。
「ヒーラたちと戦って引き分けたからだよ。僕は今日喚ばれたんだけど、もう前期の試験が終わってるからって、特別に実力試験をしてくれたんだ」
ドラゴンたちは一様に驚愕した。なんでもヒーラたちは約三百体いる教員使い魔の中でも十指に入る強さらしい。
「特試か。そういう規則があるのは知っていたが、ここ何百年となかったことだ」
リーダードラゴンが「ふむ」みたいな感じ顎に手を置く。そして僕に視線を戻した。
「在学生で使い魔がいなかったのは……お前、ジェダ使い魔か?」
「ていうか――あ、そうだよ」
危ない危ない。使い魔の振りをする約束だったんだ。
「マジかよ!? あのジェダの使い魔が上級!?」
「……手合わせ願えないかしら」
おっと、無表情ドラゴンは意外と好戦的なのかも。でも僕、無意味な戦いって好きじゃないんだよね。
「面白い。やってみろ。断るなら罰を与える」
「ええっ!?」
お断りしようと思ったらリーダードラゴンが許可しちゃった。ニヤリと笑うリーダードラゴンは陰湿な罰を考えてそうだ。
「罰は嫌だから、じゃあ。気は進まないけど……」
「ポーション飲むか? 連戦てことだろ?」
チャラドラゴンの申し出をありがたく受けた振りをして、無表情ドラゴンと向き合う。
「十メートル離れろ。でないとホーリアはつまらないだろう?」
「そうね。それに瞬殺してしまっては実力を計るもなにもありませんもの」
へぇ、無表情ドラゴンはホーリアっていうのか。この三体はドラゴンだけあって、魔力を使わない解析だと種族名くらいしかわからない。さっき会ったときは特に興味もなかったから、そこまでしなかったんだよね。
まあ今も解析しなくたって余裕だろうけど。瞬殺とか言われてちょっとプライドが刺激されたから、瞬殺のお返しをしてやるんだ。
言われたとおり十メートル離れると、少し間を置いてからチャラドラゴンが戦闘開始の合図を出した。
「フォグミストヘイズ」
ホーリアが飛び出すより先に、強制連結じゃないもう一つの固有スキルを発動させる。魔力を使って任意のものを霧にするスキルだ。
「ぐっ――!?」
ホーリアが苦し気な表情になった。
うへぇ、さすがドラゴンだ。耐えてる。でも残念。もう下半身が霧になって立ってられなくなっちゃったね。
「く――」
く? 苦しい、参った、かな?
「くそがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
うわっ! ついさっきまでの無表情が嘘みたいに激昂してるや。あ、やばっ!
どんどん霧化していく上半身だけでブレスを放ってきた。だけどそれで精一杯だったようで魔力がすっからかんになってブレスは僕に届く前に消失した。まあギリギリ避けきれる感じではあったけどね。
あとは霧状のホーリアを操作して、さっき飲み干した空っぽのポーション瓶に詰めて……はい、ミストドラゴンの瓶詰め完成! なんてね。
「う、嘘だろ!?」
「様子見だったとはいえ、あのホーリアがこうも容易く……」
驚くチャラドラゴンとリーダードラゴンにどやぁっとしてみせる。あ、よくないよくない。勝者は謙虚であるべきだもんね。お腹か減ってて精神力が減り始めてるのかも。
「これでいいよね?」
リーダードラゴンのとこまで歩いて行って、ドラゴン入りのポ瓶を手渡す。
「あ、ああ……ところでホーリアは死んだのか?」
リーダードラゴンが心配そうにポ瓶を見ている。仲間がこんななっちゃったらそりゃ当然だよね。
「ううん。栓を開けて魔力を振りかければ元に戻るよ」
「そうか……」
まあ、あのまま霧散させてたらそうなっちゃってたけどね。
「じゃあもう行ってもいい? 罰も無しだよね?」
「ちょっと待て! 俺ともやろうぜ!!」
わくわくした様子でチャラドラゴンが僕を見てくる。
え~? 寛げもしないのに、こんな所早くおさらばしたいんだけどなぁ。
「止めておけ。おそらくナスラルもヒト化したままでは同じ結果になる」
「げっ、そんなにかよこいつ」
チャラドラゴンの名前はナスラル……っと。一応覚えておこう。
「お前、名前は? 私はセダムだ」
あんれぇ~? 向こうから名乗ってきたぞ……じゃあやっぱりレグルスたちがマナー知らずってことなのかな。まあそれはもういいや。相手がどうであれ僕がマナーを守ればいいんだもんね。
「僕はイコルア。超が何個もつく優秀なゴーレムのイコルアだよ」
「そうか、イコルアだな。覚えた。後期試験を楽しみにしているぞ。では約束どおり昇降樹を動かしてやる」
「ありがとう。じゃあ僕、行くね」
本当はあの階段の何がそんなに大変なのかわからなかったけど、楽させてくれるって言うんだから甘えておこう。あっ!
「その前にお菓子くれないかな? 実は僕お腹ぺこぺこで……特級ラウンジって特別なお菓子が食べ放題なんだよね? ちょっとわけて欲しいなぁ、なんて……」
「はあ?」
ナスラルは何言ってんだみたいな顔になったけど、セダムは大笑いして腰に付けた袋からでっかいお肉を出してきた。
お肉、お肉かぁ……しかも冷たい生肉。これが特級ラウンジの特別なお菓子なんだろうか。だとしたらがっかりだ。
「いやいやセダム。こいつゴーレムなんだから肉よりこっちだろ」
僕の様子で察してくれたっぽいナスラルが腰袋に手を突っ込んだ。がさごそまさぐってから取り出したのは黄緑の魔石だった。
「む、そうか……イエローブリザードホークの肉だったのだかな」
「ラプラヴィハが肉食ってるの見たことあんのかよ」
なんか残念そうなセダムには悪いけど、僕は魔石の方が断然嬉しい。しかも大粒の魔石だもん。
「わぁ、ありがとう」
ナスラルから受け取って匂いを嗅ぐ。風属性の爽やかな香りが食欲をそそる。
「それじゃあ今度こそバイバイ」
セダムが動かしてくれた木の幹に飛び乗って手を振る。でも二体の姿が見えなくなりそうになったとき、大切なことを思い出した。
「次はあのスフィアゴーレムを紹介してね~!」
声が届いたかどうかはわからない。だけど、なんとなくセダムが頷いてくれたような気がした。
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