第22話 とっても危険な超大木
▼26.06.17誤字修正
▼26.06 18誤字修正,加筆修正
▼26.06.20誤字修正
特級の使い魔と上級のレグルスたちの後ろをついて歩くこと数分、二本の大木が二重螺旋状に絡まりながら湾曲して聳える超大木の前で皆が立ち止まった。
うわぁ天辺が見えない。まるで空に溶けていってるみたいだ。
「隠蔽の魔法がかかってるのかなぁ……」
天辺もそうだけど、この大木はさっきまで全然見えなかった。
「ちょっと、ちょっとイコルア。あなたなにやってるのよ」
超大木を解析してたらパールがスッと近寄ってきて内緒話みたく声をかけてきた。
実は僕の前を歩いてたパールは、こっちをチラチラ見てきてたんだよね。言いたいことがあるのかなって思ってたんだけど、やっぱりそうだったみたいだ。解析は一時中断して返事しよう。相手が嫌なやつだろうと無視は良くないからね。
「中級ラウンジへ行こうと思って」
「馬鹿言わないで。新入りは一般ラウンジしか使えないのよ。お兄様方に見つかる前に早くここからから離れなさい」
おや? さっきはとっても感じが悪かったのに、今はそうでもないぞ。いったいどうして……何か企んでるのかな。てことは言われたとおりにしない方がいいってことだよね。
「僕、離れないなよ」
「……見た目の割に知能が低いのかしら」
うわっ、すんごい悪口言うじゃん。やっぱり感じ悪いやこのゴーレム。
「いいこと? 許可もなく昇降樹に近付くなんて、殴られても文句言えないわ」
皆がラウンジって言うからゆったりできる場所だと思ってたのに、想像してたのとだいぶ違う。木に近付いただけで殴られるなんて酷いよ。
それになんか差別的だしさ。規模の小さな貴族社会みたいだ。
「殴られるのは嫌だなぁ」
「ならさっさと下がりなさい。悪いこと言わないか――」
「貴様! 何をやっている!!」
パールに何か言おうとして振り返ったレグルスが僕を見つけて、ものすごい形相で掴みかかってきた。でも声は限りなく小さく出してる。焦った様子であのドラゴンたちの方に視線をやってるから、バレたくないのかな。
にしてもパールのときもそうだったけど、やっぱりちゃんとヒト種に見えるや。動きも滑らかだし、感情の表現時に妙な間もない。二体のコアは市販品の魔石だし、外皮だってヒト種の死体から剥ぎ取っただろう、どこでも入手できそうなものなのに。
ただちょっと残念なのは口臭が気になることかな。二体のコンセプトは嫌味なエレガント風ゴーレムってことだろうから口臭はいただけない……いや、あえてか?
一目見てあからさまに性格が悪いってわかるくらいだもん、こういう品のない臭いを出すようにプログラム|《設定》されてるのかも。だとしたら芸が細かい。
僕、レグルスにもパールにも興味ないけど、製作者には会ってみたいかも。
『ち、違いますお兄様! 私がエスコートさせていましたの! この木偶の坊、知能は低めですが見た目だけは一級品ですから、つい……』
あれ? パールが庇ってくれてる……?
『先ほどは反抗的でしたのに、ほらこのとおり。お兄様に掴まれても無抵抗ではありませんか。道中、私がお兄様の恐ろしさをたっぷり言い聞かせた結果ですわ』
え? なんの話? と、思ってたらパールが目に力を込めて僕を見てきた。
ああ、そういう呈にしてくれてるのか。でもどうしてパールは急に優しさを見せ始めたんだろう。バグかな。製作者に会ったらちゃんと教えてあげなくちゃ。
『だからって級なしをここまで連れてきちゃだめじゃないか。パールが罰を受けることになるんだぞ』
『も、申し訳ありません……』
『まったく、仕方のないやつだ。たぶん特級の皆様は異物がいることに気付いてる。だから先へ進まないんだ』
『そ、そんなっ……』
『大丈夫。その木偶の坊はパールの世話係として召し抱えたことにしてあげるから、きちんと教育するんだよ』
てなことをレグルスとパールは二体間専用回路を使って魔法通信していた。これも製作者に報告だね。こんなあっさりハッキングできちゃ不味いよ。
ていうか待って。世話係ってなに? それって働かなきゃいけないってことじゃない? 絶対やだよ!
「話は済んだか?」
拒否しようとしたら、例のリーダーっぽいドラゴンがレグルスに声をかけた。いつの間にか特級の使い魔全員がこっちを見てたらしい。たぶんレグルスたちの秘密通信はバレてるね。
「は、はい……ありがとうございます」
「私からもお礼と謝罪を申し上げます。寛大な御対応ありがとうございます。そして皆様の貴重なお時間をいただいてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
レグルスとパールがペコペコするのを見てたら、パールにガシッと頭を掴まれて僕も頭を下げさせられた。
「同族同士で庇い合うのは微笑ましけどよぉ、ルールはルールだろ~?」
「ペナルティを与えるべきだわ」
他のドラゴン二体が異を唱えたけどリーダードラゴンは必要ないって言って、耳飾り型にした会員証を揺らした。
すると二重螺旋の超大樹がずずずって上に伸び始めたんだ。特級の使い魔たちはその動く幹に乗って上へと運ばれていった。
動きが止まるまで、これ以上成長したらどうなるんだろう。とか考えてた僕は馬鹿だったよ。中断してた解析を再開したら、これが円環砂糖楓だってわかったからね。根っこがなくて円環状になってる特別伐採指定樹木のスーパー災害樹木だって。
これさ、樹木自体が魔法陣になってて、周囲に快適空間を作り出すんだ。誘い込まれた獲物はたいていそこに棲みついちゃって仲間を呼んだりする。
円環砂糖楓はそれを待って、空間が獲物でいっぱいになった瞬間にそれごと獲物を消化するんだよ。
やっかいなのは、快適空間がなかなか円環砂糖楓のお陰だって気付けないこと。だからそこに村や町ができたりしちゃうんだよね。
ちなみにこれ、元ご主人が約一万年前に作り出した植物なんだ……それだけでも燃やしてやろうかなって気になる。
にしてもこんなに大きなの初めて見たよ。ここ本当に安全なのかな。えと、樹齢は……六百年くらいか。あ、へぇ~、あの絡まってる樹木が制御用の植物魔法なんだ。結構な力の精霊が協力してるっぽいね。うっかり魔法を壊さないように気を付けなくちゃだ。食べられたくないもん。
パールは円環砂糖楓を昇降樹って勘違いしてるのかな。昇降樹はちゃんと昇降樹って別の樹木が存在してるんだけど……。
「ボクらも行こう」
「はい。お兄様。イコルアもついてきなさい」
特級たちがいなくなったとはいえ庇った手前、僕を放置できないようで、パールが僕を上級ラウンジへ連れて行こうとする。このままついていくと絶対お世話させられる。断固拒否だ。
「僕、行かない」
「なっ、貴様、助けられた分際で何を言ってやがる!」
「止めてお兄様! 今回は私が悪かったの! だから……だからお願いします。今日だけは大目にみてください」
ふむ。パールのバグは未だ継続中か。
可哀想に。プログラムに反して優しいことなんかしてたら、いつかぶっ壊れちゃうよ。早くバグが解消されて元の嫌~な性格に戻るといいね。
「はぁ。そんなにそれが気に入ったのかい? パールは面食いだな」
「そんなこと……」
呆れ顔のレグルスに言われてパールはプイッと顔を反らした。
移動のやり方は理解した。だから二体が上級ラウンジへ行ったあとに僕も上へ行こう。
なんか一件落着的な雰囲気の今のうちに、こっそり離れようっと。




